第201話 初対面
ドサッ
人が崩れ落ちる音がして宝物庫らしき部屋の前にいた見張りが倒れた。
何のことはない邪魔法で五感を全て閉ざさせてもらっただけのこと。
倒れた見張りの近くに立ち空間魔法の透空間を解除すると、見張りの腰にぶら下げていた鍵を奪いドアを開けた。
相手から見えなくなる透空間だけど、厄介なことにこちらから物に触れなくなるというデメリットがある。魔法は届くんだけどね。
なので一度解除してからじゃないと鍵を奪えなかったというわけ。
「あった」
…なんとかこじ開けようとした跡がついてるけど腰ベルト自体につけた魔石のおかげでなんとか大丈夫だったみたいね。
今度もう少し頑丈になるように付与魔法の内容を考えておこうかな。勿論今回みたいなことがあったらいけないから、今と同じで位置探査の付与は確定で。
自分の腰にいつもの感覚が戻ってきてちょっと気分が良い。やっぱり私にはこれがないとね。
宝物庫の中をぐるりと見回すと、乱雑に積まれた金銀財宝の中に気になるものを見つけた。
それは他の宝物で見えにくくしてあるけど、一度気付いてしまえば嫌でも目についてしまうような隠し方をしてある。ちょっとした目の錯覚や思い込みで下手に隠すよりも見つけにくくなるものというのは確かにあるけど、これはいくらなんでもお粗末かな。
ガチャガチャ
大量の金貨や銀貨、装飾品や調度品を退かしていくと金と銀で装飾された一抱えほどの箱が出てきた。
それを徐に開くと中に入っていたのは何枚かの紙。
なんだろ?
…重要な書類はこんな風に乱雑に扱ったらいけないのにねぇ…特にこんな風に誰かに見られたら困るような物はさ…。
はぁ…見るんじゃなかった。
とは言え、見なかったことにするわけにもいかないので箱ごと腰ベルトに収納するとついでと言わんばかりに宝物庫の中身は空間魔法の亜空間に全て回収させてもらうことにした。
特に書類の方はギルドに提出するだけじゃなくてリードにも報告した方がいいかな。
財宝に関してはお金に困ってるわけじゃないけど、盗賊を退治したら賊が持っていた金品は全て退治した者の物になる。これが他の盗賊団とかに渡ったりしたら困るしさっきの町の町長に渡っても面倒なので私が貰ってしまうのが一番ということになる。
決して宝石がたくさん詰まった箱を見つけたからではない。
何故ならそれは最初から私の物だからだ。私の宝石は私の物、盗賊の宝石も私の物。ね?
「さてと…それじゃ本格的に殲滅していこうかな」
この中にいる人はほとんどが雑魚だし大して時間はかからないと思う。
およそ三十分くらい経っただろうか。
洞窟の中にいた人、悪党達は全て動けない状態で広間に転がっている。
数は全部で八十四人もいた。
ちょっと大変だったけど、探知で居場所を確認しながらだったのでただの作業でしかなかった。
あとはこの悪党達をどうするか考えなきゃいけないのと、奥で捕らわれたままになっている女性達を無事に外に連れ出さないといけない。
どっちもとっても大変なんだけどね。
ドガアァッ
私がこの後のことを考えていると入り口側の通路で爆音が響いた。
さっき私の地魔法でしっかり塞いだはずだけど、それを砕いて入ってきたということになる。
そして入ってきた何者かは急ぎ足でこちらへと向かってきている。
「あぁぁ? なんだこりゃ?」
入り口方向の通路から現れたのは身長が私の倍はありそうな大男。髭や髪を生やし放題にしていて身なりは控えめに言って山賊、あえて言うなら獣にしか見えない。
彼の背中には巨大な斧が担がれており、あれを持ったまま移動出来るというだけでかなりの身体能力があるのだと思う。
「おい、これはお前がやったのか?」
大男が私を見るなり威圧を込めた言葉を発してきた。
「『そうだ』って言ったらどうするの?」
折角大男の方から問答してきてくれているのでこの隙に彼のステータスを確認してみようと思う。
???
年齢:49歳
種族:人間/男
LV:97
HP:71,577
MP:10,396
スキル
言語理解 4
気配察知 6
魔力感知 6
魔力循環 2
魔力操作 5
魔力自動回復 2
火魔法 3
土魔法 6
身体強化 8
威圧 6
片手剣 2
大剣 MAX
槍術 9
戦斧 MAX
格闘 8
魔闘術 4
異常耐性 6
野草知識 2
ユニークスキル
武具操作 3
戦闘マニア MAX
知覚限界 1
隠蔽 4
レジェンドスキル
暴君 -
タレント
暴君
途閉ザス者
立チ向カウ者
私が人物鑑定のボードを見ている間に大男は背中に担いだ斧とそれに添えてあったハルバードのような長槍を構えた。
所謂「口で言わなくてもわかるだろ?」の典型だろう。
それにしても…この人滅茶苦茶強いね!
レベルで言えばアドロノトス先生に近いくらいあるし、HPもかなり高い。
戦闘系のスキルはMAXかそれに近いし魔法も二属性だけどそこそこ使える。
何より魔法系以外のユニークスキル四個も持ってる人は初めて出会うし、レジェンドスキルを持った人なんて私やアイカ達以外じゃ見たこともない。
しかもeggと同じでスキルレベルが無い。
「お前がやったにしろ、やってないにしろ、もうどっちでもいいか。俺様今最っ高に腹が立ってんだ! いいから殺されろ!」
そういうと大男は手にした斧を振りかぶって私に向かってきた。
巨大な武器を持ってる以上動きは遅いかと思ったけど、予想に反して速い。
ドゴンッ
私が避けたところに斧が当たると地面が大きく窪んで十メテルくらいのクレーターになる。
その威力に驚いていると彼が左手に持っていたハルバードが振られてきて私の脇腹に当たった。
「おっと」
刃の部分が当たったけど、私の体どころか服にすら傷をつけることなく受け止めた。
もちろん後ろに飛ばされるなんてこともない。
そのまま着地してバックステップで後ろに下がると、ここでようやく私も短剣を構えた。
対して大男は地面に刺さった斧を軽く引き抜くと肩に担いで私へと振り返った。
「お前、何モンだ? 俺様の攻撃受けて無傷ってのはどういう身体してやがる」
質問は一つずつにしてもらいたい。
「それを言うなら貴方こそ何者よ。そんなでっかい斧を軽く振り回すとか」
「俺様か? 俺様はここの連中のボスやってるゴランガだ。名も無ぇ盗賊団のボスってとこだな」
「ゴランガ…? どこかで聞いたことあるような…?」
「おいっ、今度は俺様の質問に答えやがれ! お前は何モンだって聞いてんだっ!」
思い出す時間さえ寄越さないの?
短気だなぁ。
「私はセシル。Bランク冒険者だよ。王都のギルドマスターに言われてここの調査に来た」
「王都のギルドマスター? あぁ…レイアーノのガキか。あのクソガキ余計なことしやがって…」
あのギルドマスターを「クソガキ」って。
見た目は確かに若いけどあれでも三十代半ばくらいだったはず。
「盗賊団のボスにしては随分冒険者ギルドのことに詳しいのね」
「あ? 当然だ。俺様も冒険者だからな」
そういうとゴランガは右手に持った斧を地面に突き刺し、懐から一枚のカードを取り出した。
カードは金色でその光沢は虹色に輝いている。
「それは…オリハルコンの…Sランク冒険者っ?!」
「おぉよ! 俺様はSランク冒険者、潰滅のゴランガだ!」
思い出した!
ベオファウムにいた時に受付のリコリスさんから話を聞いたことがある。
Sランク冒険者はそれぞれが一騎当千の強さを持っていて、各国が囲い込みをしている。
けれどどの国にも所属しない人も数人いて、中でも潰滅のゴランガは冒険者としての功績はさることながら、残虐で気に入らない相手は依頼主でさえその斧を血で染めるとか。
結局、どこかの国の貴族を殺してしまい指名手配されてるって話だった。
それがなんでこんなところで盗賊団なんかやってるんだか…。
「それで…その潰滅のゴランガさんはなんでこんなことしてるの?」
「はっ! そんなのおもしれぇからに決まってら。好きなように金を集めて、好きなように殺して、好きなように犯す、最高じゃねぇか」
清々しいほどの悪党だった。
でもそれ嘘だよね。
「それにしては宝物の扱いが雑だったね」
「…お前、宝の部屋に入ったのか?」
「まぁね。ついでにこんなものも見つけちゃったよ」
私はさっき宝物庫で見つけた書類の入った箱を腰ベルトから出してゴランガに見せつけた。
するとさっきまで悪党を気取っていた彼から表情が抜け落ちて、目に暗い光が灯る。
威圧スキルだけではない本物の殺気が私の体へと突き刺さってきた。
「お前をここから帰すわけにゃいかなくなった」
「へぇ…じゃあさっきまでは帰らせてくれるつもりだったの?」
「はっ! どっちにしろ生かしちゃあおけねぇがな!」
ゴランガは地面に刺していた斧を再び手にすると腰を落としてどっしりと構えた。
さっきの攻撃とは違う本気の一撃を繰り出してくるだろう。
現に彼の纏う気配がさっきまでとはまるで違っていて存在そのものの濃度が上がったような、そんな気配すらする。
どうやら魔闘術、身体強化を目いっぱいまで使っているようだ。
「いくぜ」
ドン
洞窟の中なのに地面を踏み抜いたような音がしたと思ったらゴランガの姿は私の目の前に来ていた。
やっぱりさっきより速い。
繰り出される巨大な斧の一撃を短剣で受け流し、ゴランガの横に回る。息をつかせぬままに左手に持ったハルバードが振るわれてくるが、それをしゃがんで避けると彼の左足を軽く斬りつけた。
本気を出せば斬り落とすくらいは出来るけど、出来ればこのくらいで降参してほしい。
「すっごく強いと思うけど、そんなんじゃ私には当たらないよ」
「面白ぇ。じゃあ当たるまで続けるだけよっ!」
足につけられた傷など無かったかのようにまた斧を振り回すゴランガ。
さすがにちょっとワンパターン過ぎる。
これが本当にSランクの実力なのかな?
今日もありがとうございました!




