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第200話 囮捜査みたい

 洞窟内にある盗賊団らしきものの塒にわざと捕らえられた私は同じ牢にいたリーアという女性から話を聞いてほんの少しだけ情報を仕入れることが出来た。

 けど基本的にはわからないことばかりなので、あとは臨機応変に対応することで覚悟を決めた。

 あとは私を呼びにくるのを待つだけなんだけど、さすがに同じ牢の中にいる女性たちをそのままにしておくことが出来ないので身体を綺麗にし臭いも取ってあげた後、制服のポケットに入れておいたアイカが作ったポーションをみんなに飲ませることにした。

 これで多少の傷や疲労は回復出来る。さすがに壊れかかっている心まで癒すことは出来ないけど、これ以上酷い目に合わないよう今からここは壊滅させないといけない。

 最終的に彼女達が今後どう生きていくかは私が関知するべきところではない。


「セシルは不思議な子ね」

「不思議?」

「えぇ、貴女と話しているととても安心するの。なんだかもう助かったような、これ以上悪いことにならないような、そんな気がしてくるのよ」

「んー…そうなるようにこれから頑張るつもりだよ」

「だから、不思議な子って思ったのよ」

「…そっか。ありがと、褒め言葉として受け取っておくね」


 ここに連れてこられてからまだ少ししか時間は経っていないけど、彼女達には既にいくつか私の手の内を晒している。

 なのに私を理不尽とは言わずにいてくれる。

 これって両親やアイカ、クドー以外だと実は初めてじゃないかな?

 ユーニャやリードですら私のことを未だに理不尽だの規格外だのと言うしさ。

 あれ? 結構嬉しいかも。


ざっざっ


 薄暗い中で私がこっそり頬を染めていたところに外から足音が聞こえてきた。

 音からするに三人。

 そしてその音は私達が入っている部屋の前で止まると「ガチャン」と大きな音を立てて鍵が外された。

 軋む音を立ててドアが開くと部屋の中から「ひっ」と息を飲む声が聞こえた。

 見ると壁際で蹲っている女性がぶつぶつと何かを言いながらガクガク震え出していた。

 耳を澄ますと彼女は「私じゃありませんように。私じゃありませんように」と唱えている。

 別に声を出して言うようなことじゃないけど、安心してほしい。多分彼らの目的は私だろうから。


「おい、さっき連れてこられた新入り、出ろ」


 ほらね?

 私は一人立ち上がるとドアの外に向けて歩き出した。

 リーアは一人だけ心配そうに私を見てきたけど、他の子達は明らかに安堵の表情を浮かべている。この子達だけを先に逃がしてあげることも出来たんだけど、下手に騒ぎを大きくするとこの後動き辛くなりそうなので今はまだ何もしない。

 私が無表情でドアから外に出ると腕を背中側で手錠のようなもので拘束された。ちょっと力を入れるだけで壊せそうな代物なので、なるべく刺激しないようにそっとしておかないといけない。

 外に出て三人の男達と歩き始めると来るときはほとんど見られなかった内部の観察を始めた。

 どう見ても人工的に作られたものだろう。土魔法で穴を掘って壁や天井を整えている。細部は雑だけど、構造的にはかなりしっかりしていると思う。だからこそ女性を捕らえておくための部屋に鍵付きのドアなんて設置出来てるんだろうけどね。

 折角近くに男達がいるのだし、いろいろ聞いてみようかな? 多分答えてくれないと思うけど、何か一つでもわかれば儲けものだし。


「ねぇ、どこに行くの?」

「…黙ってついてくりゃいい」

「何も知らんガキじゃあるまいし、想像くらいつくだろうよ」


 先頭を歩いてる男は何も話そうとしなかったけど、私の後ろについてる男は口が軽そうだ。

 それならもうちょっと聞いてみよう。


「そりゃ私だって、もうすぐ成人だもん…。ねえこの中にいるとなんか魔法が阻害されるの?」

「あぁ? なんだ助けでも期待してんのか? 無理無理、諦めな」

「おいっ」


 先頭の男が口の軽い男に注意をするけど、私はそれより先に言葉を被せていく。


「そんなことないもんっ。私の仲間がきっと私を見つけてくれるよっ」


 勿論大嘘です。

 仲間と呼べるのはアイカとクドーくらいだけど、彼らが私を助けるためだけにここに来る?

 無いな。無い無い。

 アイカだったら「そんなん捕まる前に山ごと吹っ飛ばして仕舞いやろ?」で片付けるに違いない。

 私もさっきの女性たちが捕まってるのを知らなかったらそうしても良かったんだけど、今回の依頼はあくまで調査が目的だからね。


「へっ、ここにはな気配やら魔力やらを感じさせなくなる魔道具が置いてあんだよ。お前さんの仲間がいくら探したところで見つかるわけねぇのさ」

「ノズ! 余計なことを言うなと言ってるだろ!」

「あぁっ?! 俺に指図すんじゃねぇよ! だいたい見つかりっこねぇしボスがいりゃどんな奴が来ても怖かねぇだろがよ!」

「ノズ!」


 ちょっと聞いてみただけなのに思ったよりも多くのことがわかった。後ろの男、ノズが馬鹿で良かった。

 今も二人は醜く言い争いをしているので、その興奮してるところに追い討ちをかけておいた方が良さそうだね。


「あぁ…じゃ、じゃあ私はこ、これから…ど、どうな、なるの?」


 怯えた振りをしながら前に進むのを拒むような芝居をすると二人も言い争いをやめて私を逃がさないように腕や肩を掴んだ。


「へへっ…そりゃここにいる全員でまずは味見さ。ちっと色気が足りねぇが、まぁ女であることにゃ変わりねぇからな」

「…まずはボスのところへ行く。それからは早く終わることを祈っていろ」


 うん、ノズは間違いなく下衆だ。

 前にいる男はそこまででは無さそうだけど、こんな奴らの仲間なんだし情状酌量の余地は無いと見ていいかな。


「…ぃや、やだ…行きたくない…い、行かない…」

「おぉっ…いいねぇ。そういう怯えた感じがたまんねぇっ! バンザ、早く連れていこうぜ!」

「や、やだやだっ! 行かない!」

「そいつは無理な話だ。ボスがお前さんを呼んでるんだ。連れてかねぇと俺達がボスに殺されちまう」

「……せ、せめて少しでもおそ、遅くして…。遠回りしてよ…」


 さすがにこれは無理かな?

 というか私そんなにお芝居得意じゃないんだからこれ以上はバレちゃいそう。もうちょっと諦めの表情浮かべた方がいいかな?

 でもなんか囮捜査してるみたいでちょっと面白くなってきたかも?


「…少しだけだ」

「え?」

「真っ直ぐ広間へ向かわずに少しだけ遠回りしてやる」


 お?

 バンザと呼ばれた前を歩いていた男は私の話を聞き入れてくれるようだ。

 これで少しでも内部をマッピング出来れば得られるものがあるかもしれない。

 後ろでノズがやかましく喚いているけど、バンザは聞く耳持たずスタスタを私の腕を掴んだまま歩き出した。

 ノズも渋々それについてきている。

 内部を歩き出してしばらくするとただの通路なのに少しだけ開けているところに出た。

 さすがにここまで近寄ればいかに探知が阻害されていてもわかる。

 通路の壁の上の方に突き出した部分があり、なんとなく前世の神棚のように見えた。

 そこには小さな像のような物が置かれており、その像から魔力が漏れ出しているのだ。


 隠形のシンボル:半径千メテル内における気配、魔力の察知を妨害するアーティファクト。人や獣の身では欺くことは不可能。


 道具鑑定を使ってみたところ、こんな説明文が出てきた。

 なるほどアーティファクトか。

 それなら確かに私の探知が効かなかったのも頷ける。

 でも多分だけど、アイカの神の眼だったら無意味だったんじゃないかな。あれは眼だけは人じゃなくなるわけだしね?

 さて、これで探知が使えないカラクリはわかったしもう演技する必要もないね。


 バキン


 後ろ手につけられた手錠らしき枷を力任せに引っ張ると簡単に壊れて私の腕は自由になった。


「なっ、何しやがった?!」

「ノズ!早く押さぐぼっ!」

「バンがぶっ!」


 叫ばれるよりも早く私の拳が彼等の鳩尾へと吸い込まれ、二人は膝から崩れ落ちた。

 当然手加減はしているので二人とも死んではいないけど、しばらくは何も食べる気になれないくらい痛みに悶えることになるだろうね。

 地面に伏せる二人をそのままにして私は神棚のようなところに設置してあるアーティファクトを回収してジャケットのポケットではなく、空間魔法で作った亜空間へと放り込んだ。

 空間自体が断絶されたせいかその効力はすぐに無くなり、私の探知スキルで洞窟内を全て網羅出来るようになった。

 やっぱりこれが原因だったみたい。

 さて…この後はここにいる盗賊だか冒険者だかを一掃するために動き回ってもいいんだけど、まずは逃げ道だけは潰した方が良さそうだ。けどここに入ってくる時の通路へ行くには誰にも会わずに済む道が無い。洞窟内のあちこちに反応があるし、それぞれ一人ずつでもない。思ったよりも頭の回る人がボスをやってるのかもしれないね。


透空間(ステルス)


 あちこちで出会うのは面倒なのでやはりここは魔法を頼ることにする。

 ほとんど使ったことのない空間魔法ではあるが、使えるようになったのは結構前だったはず。

 私の存在する空間と周りの空間に僅かな断層を設けることで認識出来なくすることが出来る。当然魔力も感知出来ないし気配もないのだけど、感覚の鋭い相手やレベルが高い相手には何となく居場所がバレてしまう上に発動しても私を認識出来なくなるまでに五秒くらいタイムラグがあるので戦闘には全く向いてない。

 いつだったかすごくレアな動物を捕獲する依頼を受けた時には大活躍だったけどね。当然だけどドラゴンとかには一切無効でした。

 姿が見えなくなった…と同義の私はそのまま歩いて入り口まで向かう。入り口と言っても洞窟の入り口ではなく、ここの塒に入ってくる為の通路へ。

 入り口へ着くと見張りが二人いた。

 さっき担がれたまま私が通った時と同じ二人だ。


痺倒響(ビリーズ)感剥奪(シーズセンス)


 遠慮する必要はないので彼等に対し邪魔法を放ち行動不能にしておく。

 相手を麻痺させる魔法と感覚を奪う魔法。私の感剥奪(シーズセンス)は触覚以外を遮断するので麻痺させてしまえばそれはもう立派な廃人の出来上がり。

 異常耐性スキルでもあれば少しはマシになるだろうけど、彼等にそんなものがあるわけもない。

 一応回復魔法やポーションで解除は出来るけど、そのまま放置しておいても一日もあれば回復するのでとても人道的(?)な魔法だと思う。

 見張りの目も無くなったので、入り口から少し離れたところを指定して地魔法を使い、通路を完全に塞いでおく。

 土の壁の厚さは十メテルくらいにしたので、それこそ脅威度Sの魔物くらいじゃないとぶち破ることは出来ないと思う。

 ちなみに私が本気を出せばここから洞窟の入り口まで完全に塞ぐことも出来るけど、後で自分が出るときに面倒だからやらないだけ。

 さ、今度は自分の荷物を回収しておかないとね。

今日もありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 反撃?活動?開始。 問題はボスの強さかな? セシルのスキルを妨害できる道具を手に入れられる力量が、どの程度か。 運とか財力なら良いけど。 ……大穴でその辺全部取っ払って、ギルドで見た・会…
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