第194話 リッチ討伐報告
気付けばブクマも500件超えてました!
今後もセシル共々よろしくお願いします。
ワンバの冒険者ギルドのギルドマスターであるボーゲンさんからヴォルガロンデが冒険者であったことを聞いた私はそのまま彼の肩を掴んで問い質していた。
彼は私があまりに本気の様相をしていたためかすっかり脅えてしまっているけど、私にとっては大事なことなのでちゃんと話すまで解放するつもりはない。
「セ、セシル! 落ち着け! なっ?! ちゃ、ちゃんとはな、話すから! 手、手を離してくれ! かっ肩が壊れる!」
「…あ」
興奮してかなり力を入れてしまっていたようで私の指はボーゲンさんの肩に食い込みもうちょっと力を入れれば完全に肩の骨を砕いてしまうところだった。
私は小さくなりながら手を離すと彼に対して小治癒を使った。ひとまず痛みだけは引くはずだ。
「ふぅ…やれやれ…」
「すす、すみません…」
「あ、あぁ…けど次はもう勘弁してくれ…。元Aランクの俺がこんな簡単にしてやられるなんてな」
彼の呟きは決して私を責めているものではなかったけど、私の態度を委縮させるには十分だった。
「まぁ大人しくなったし、約束だからちゃんと話してやるけどな」
そう言うとボーゲンさんは本棚から一冊の本を取り出してきた。
そして徐にパラパラとページを捲っていくと、私の方へ広げて見せてくれた。
「ここだ。デリューザクスの名前があるだろう?」
「うん。…今から大体七百年くらい前?」
「そうだ。デリューザクスほどの冒険者にもなるとこうして彼の功績を書き出した物が存在するんだ。最終的に彼は当時北の森に大量発生したアンデッドを討伐に向かい帰ってこなかったと言われている」
「それがさっきのカードの持ち主ってこと?」
「そうだ。そして無事アンデッドは討伐された為、町が襲われることはなかったがいつまでも戻らず、町を守った彼の功績を称えて冒険者ギルドはデリューザクスにSSランク冒険者として登録することにした。…それがまさか本人がアンデッドに…それもエルダーリッチになっているとは皮肉なものだ…」
なるほど…とても勇敢な人だったんだね。
大量発生したアンデッドは普通に焼いてしまえばいいんだけど、それこそ記述にはワンバ北部の草原を埋め尽くしたと書いてあるから多分そこまでのMPはなかったんだろうね。
私のように新奇魔法で焼き尽くすのだとしてもやはり草原を埋め尽くすほどとなれば一回や二回の使用では済まないからね。
でも、ヴォルガロンデの記述はどこにも見当たらない。
「それで?」
「肝心のヴォルガロンデだが…実は功績を書き出した物は存在しない、と言われている」
ボーゲンさんの言葉に私はつい「は?」と声を漏らしてしまった。
しかもそこへ無意識のうちに威圧が乗ってしまい、彼の表情が一瞬で真っ青になってしまった。
「ちょ、ちょっと待て! 今から説明するから!」
慌てたボーゲンさんだけど、私が威圧を解除すると大きく息を吐いた後話してくれた。
ヴォルガロンデは特に危険な依頼に赴いた訳ではないため死亡確認がされていない。強力な魔法の使い手だったけどAランク止まりだったため功績を書き出すに値しなかったらしい。
ただ当時の記録から魔法一発で山を吹き飛ばしたとか、ドラゴンを魔力を込めた威圧だけで退かせたとか逸話だけは残っている。
「更に問題なのがヴォルガロンデが最後にダンジョンの踏破をしたのが今から二百年前と言われている。そしていつギルドへ登録したのかは記録すら残っていない」
「…えっと、ギルドカードを誰かが使っているとか?」
「その可能性もある。しかし当時対応した者の記録も曖昧なため確実な確認が出来ていないんだ」
むぅ…新しい手掛かりかと思ったけど結局また行き詰まっちゃったな…。
でもここワンバの冒険者ギルドでは、という前置きがつく。
王都のギルドならまた違った情報があるかもしれない。
「管理者」について私は今もユアちゃんに頼んで調べてもらってるけど、未だに答えに辿り着けそうな情報はない。ダンジョンマスターとしての能力を使ってもらっているのに、だ。
そうなるとやっぱり私自身が辿り着くしかない。
「代理を任せられる者が現れるまで死ねない」と言ったヴォルガロンデに。
それにしても以前図書館で調べてた結果千二百年前から歴史にちょくちょく現れてくる彼だけど、アドロノトス先生が師事していた時期も考えれば百年くらい前までは存在が確認されているのであれば多分今も生きてるのだろう。
私の進化先である英人種とも関係しているかもしれない上に管理者についても知ることが出来るのであればやっぱり会いに行くしかない。
少なくとも、私が「管理者の資格」を持っている意味を教えてもらいたい。
この世界に転生した理由を知りたい。
「さて…それじゃ話は以上でいいかな? エルダーリッチの魔石も魔道具も本物だと確認した。デリューザクスの件は…ギルド内での秘匿事項となるだろうが…」
「あ、はい」
考え事に没頭しすぎてすっかり黙ってしまっていた私はボーゲンさんからの問いかけに軽い返事をしてしまった。
でも彼にこれ以上聞くことが無いのも事実なので私はテーブルの上に出しておいた魔石や魔道具を腰ベルトに収納しようと手を伸ばした。
「え…それはギルドに買い取らせてくれるんじゃないのかい?」
「それは私の自由ですよね?」
「…お願い出来ないか? ワンバではここ最近のリッチ騒ぎでかなり成績が悪くてね」
あぁ…確かに普通の冒険者にリッチを討伐することは出来ないだろうからね。
それにここのリッチは倒したところでエルダーリッチがいた以上、倒すだけ無駄だっただろうし。
さて。あのエルダーリッチ…デリューザクスから託された以上魔石は渡すわけにはいかない。
残りの魔道具を道具鑑定でざっと見回してみると、それなりに効果の高い物が揃っていてちょっとだけびっくりした。
あくまで一般的にはだけど。
例えば、MP自動回復レベル9の効果がある指輪。魔力闊達のある私には不要だし、このくらいではMPをほぼ使い切るまで使った場合完全回復するのに何日かかることか。
火魔法レベル4、水魔法レベル4、風魔法レベル4、土魔法レベル4、闇魔法レベル8というかなり魔法使い向けに作られた短杖。五つもの魔石が埋め込まれた杖だけど私の戦闘スタイルに合わないし、魔法レベルも今より低ければ消費MP削減くらいでしか効果がない。
他にも魔法に対する抵抗力を高めるネックレスやボロボロのローブ、瞬発力を生むブーツもあるけどどれも私にとっては不要なものばかり。この程度なら理力魔法で全て事足りてしまう。
もっとぶっ飛んだ性能の魔道具、アーティファクトと呼ばれているような神話級の魔道具なら手元に置いておきたいところだけどね。
「じゃあこの魔道具に関しては全てギルドに売却します。魔石に関してはデリューザクスに託された以上お渡しするわけにはいきません」
「で、出来ればその魔石も…」
「お・わ・た・し・で・き・ま・せ・んっ!」
再び威圧を込めて強く区切りながら言うことでようやくボーゲンさんは諦めてくれたようで大きく溜め息をついてソファに体をもたれかけさせた。
それを確認すると腰ベルトにエルダーリッチの魔石を収納してソファから立ち上がった。
「今日はもう遅いので、また明日買い取り金額は受け取りにきますね」
ギルドマスターの執務室から出ると私はそのまま冒険者ギルドの出口へと向かった。
執務室で話していた時に私の威圧がホールまで漏れていたようで私の一挙手一投足をその場にいた冒険者達が固唾を飲んで見守っていたけど、何事もなく私が出ていったことで彼等は大きく安堵の息を漏らしていた。
「なんだったんだあのお嬢ちゃんは」「脅威度Sの魔物でも出たかと思ったぜ」とかなんとか聞こえてきたけど、とりあえず気にせず私は門の近くにあった宿へと足を向けた。
宿では素泊まりにしてとっとと部屋へ入ると自分の体に洗浄を掛け、制服を脱いで肌着だけになるとベッドへと倒れこんだ。
「ユアちゃんのダンジョンや魔王種以外でここまで消耗したのは初めてだったな…」
この世界には知られていないだけでもっと強力な魔物だっているかもしれないし、今のまま強くなるだけでは限界がある気がする。
そろそろ真面目に英人種へと進化することも考慮した方が良いのかもしれない。
そんなことを考えてる内にあっという間に瞼がお互いに吸い寄せられて眠りについてしまった。
翌朝二の鐘が鳴ってすぐくらいに起きた。
かなり遅くまで起きていたのだけど、毎日の習慣になっているためこの時間になると自然と目が覚める。でも正直かなり眠い。
しかしあまりのんびりしているわけにもいかないので起きてすぐ制服を着て泊まっていた宿を後にした。
「おはようございます。セシルと言いますが、昨日の買い取り金額についてギルドマスターへ取り次いでもらえますか?」
朝一番に冒険者ギルドへと向かうと依頼探しでごった返すホールの人混みを押しのけてカウンターまでやってきた私は有無を言わさずにそう告げた。
受付嬢が慌てた様子で奥へ駆け込んだところを見るとどうやらちゃんと連絡は行き届いているようだ。
その後受付嬢から買い取り金額ですと渡されたのは白金貨十枚だった。
多分こんなものだと思う。
それを無造作に掴んで腰ベルトへ放り込むと「ありがとうございました」と礼を述べてギルドを後にした。
ホールにいた冒険者達は何が起こったのかよくわからない様子で私がカウンターで声を上げたところから出ていくまで固まって動けないでいた。昨夜私の威圧を受けた人がいたのだとしても噂広まるの早すぎじゃない?
この町に来ることが早々あるとは思えないので別にいいんだけど。
さて、いい加減ワンバに滞在していないでとっとと次の目的地を目指さないとなぁ…。
町を出ようと大通りを歩いているといくつものお店が開店の準備をしており、昨夜は暗くて全然わからなかったけど中には宝飾専門の店もあるようだ。
「…交易都市っていうくらいだもんね。やっぱりこういうのは旅の醍醐味だもんね。旅の散財は思い出の一つだもんね。ちょっとくらいなら平気だよね」
誰に聞かせるでもない言い訳を自分に聞かせるように呟いていた。
いや! これは大事なこと。どこにどんな宝石があるかわからないんだしね。
うん、そうと決まれば早速市場調査だよ!
今日もありがとうございました。




