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第191話 エルダーリッチ

 片手剣使いの男性の死体の脇でカイトに掴み上げられて暴言を吐かれている状況。

 どうしてこうなったと、私自身が自分に問い詰めてやりたい。

 後悔しても仕方ないけど、こういう世界だから仕方ないとも思う。

 思った以上に動揺はしていないけど、全く何も思わないほど人としての心を無くしたつもりもない。


「おい! 聞いてるのかセシル!」

「…そこまでにしてやんな」


 カイトが未だに私に対し暴言を吐いてるところへ大剣使いの男性が近寄ってきた。


「けど、こいつがもっと早くなんとかしてれば!」

「だからってお嬢さんだけを責めるのはおかしいだろ。こいつを殺したのは俺だし、お前だってもっと強ければ一人でリッチを倒せたはずだ。はっきり言って俺達は何も出来なかった。違うか」

「ち、違わねぇけど…けど…」

「だったらもう言うな。多分あっちに行った坊主とおばさんももう生きてねぇだろ」


 大剣使いの男性が私に視線だけで問いかけてきたので、私が首肯して答えると盛大な溜息をついて自分の頭を力強くガシガシと掻いていた。

 その様子を見て、ようやくカイトも私を下ろしてくれたので離れたところにあるであろうおばさんと青年の亡骸を探して反応があったところへと歩き始めた。

 ほんの一分ほど歩いたところに彼らの死体は無造作に転がされていた。

 しかしその身体は青年やおばさんといった特徴を捉えることが出来ないほど干上がっており、もはや骨に皮がついてるだけのミイラのようになっていた。

 下手に手を掛けると崩れてしまいそうだったので理力魔法でそっと二人を持ち上げると、そのまま片手剣使いの死体の脇へと置いた。そっと置いたつもりだったけど、地面に触れたときに四肢の骨が外れ糸が切れたマリオネットのように崩れてしまった。


「う…う、おえぇぇぇぇぇっ…」


 それを見たカイトはすぐさま後ろを向いて胃の中のものを草原にぶちまけていた。

 私と大剣使いの男性は気にせず向かい合って相談しているというのに、こういうところは本当にまだお子様だね。


「さて、それじゃこれからどうするかだな」

「私は町に戻るのを勧めるよ」

「…アンタはどうするんだ?」


 大剣使いに問われたけど、私は何も答えずに街道の先を睨みつけた。

 その仕草で彼には私がどうするか伝わったようで、何度目かになる大きな溜息をついた。


「じゃあ聞かねぇけどよ。こいつらは埋葬してやりてぇ」

「…そうだね。リッチに悪さされても困るしね」

「…さっきセシルが倒したので全部じゃないのか…?」

「そんな暢気で楽観的なことしか言えないならもう冒険者なんてやめた方がいいよ」


 私はカイトに冷たく言い放つと彼に背中を向けてすぐ近くに地魔法で深さ二メテルくらいの穴を掘って、彼らの服から冒険者カードだけ抜き取って三人の死体をその中に放り込んだ。

 そして炎魔法で火を放ち、完全に炭化して崩れ落ちたことを確認してから再び地魔法で穴を覆った。

 すると大剣使いの男性がどこからか見つけてきた少し大きめの石をその穴の上に置いて、片手剣の男性が使っていた折れた剣を刺した。


「これで、ちっとはマシに見えるだろ」

「そうだね」


 私は腰ベルトからアイカから譲ってもらった酒精の強いお酒を取り出すとその墓へと振りかけた。


「お、おい…なんで酒なんか掛けてるんだ?」

「あー…私の故郷ではお酒は清めの効果があるって言われてるから、こうしてお墓にかけてあげるんだよ」

「ほぉ、そうかい」

「私は飲めないから、おじさん代わりに一献飲んであげてくれない?」

「わかった」


 私は彼に小さ目のカップを渡すと振りかけたお酒の残りを注いでから、仕舞うと自分用には水を入れたカップを手に持った。


「献杯」


 一言呟き、一気に水を煽る。

 せめて安らかに眠ってほしい。


「ぶえぇっほっ?! な、なんだこりゃ! こんな強ぇ酒飲んだことねぇぞ? かぁぁぁっ…喉が焼けそうだ!」


 おじさんはそう言いながらも少しだけ残ったお酒を舐めるように飲んでいた。

 アイカの蒸留酒は特別だしね。これが普通の反応なのに、アイカは平気な顔をして飲んでいる。

 私は舐めただけでやめたけど、ちょっと好きになれそうにない。異常無効スキルのおかげで酔っ払ったりしないけどね。

 そしてずっと黙っていたカイトが戦闘が始まってすぐ放り投げていた荷物を取りに戻ったところで、私も向き直った。


「カイトも町に戻りなよ」

「…あぁ、そうするしかないみたいだ」

「安心しろ、カイトは俺が必ず無事に町まで連れてってやる」

「うん、お願いします」

「だからお嬢さんも…セシルも絶対戻ってこいよ」


 そう言うと彼らは私を残して町の方へと歩を進め出した。

 そんな二人の背中を見送ると私は街道の先を一瞥した後、探知スキルを使い周辺の状況を確認した。

 リッチと思われるような反応は確かにない。

 でも魔力の反応だけに集中していけば…。


「うん。やっぱりこの先にやたらと魔力が集まってるところがある」


 そこに魔物の反応はないものの、不自然なほどに魔力が集中しているのでこのままでは野生の獣が近付いただけで魔物化してしまう恐れすらある。

 幸いなことにこの辺りは野生動物をそこまで見かけないので魔物の集団はいないけど、そういう淀みがあるところからはリッチのような高位のアンデッドや強力な悪魔のような魔物が生まれることがある。

 ということをここ数年のギルドマスターからの依頼で確認している。そういう場所が何か所もあったので、恐らくあのギルドマスターはそれをわかった上で私に依頼してきていると思う。

 全部終わったら徹底的に搾り取ってやる。

 魔人化と理力魔法を使い、その魔力が溜まっている場所へ向かって駆け出した。

 これ以上時間をかけるつもりはない。




 私がそこに辿り着いた時、辺りに立ち込める不穏な魔力を冷気として感じた。

 熱操作で自分の周囲を快適な温度に保っているはずの私が冷気?

 すると魔力とは別に湧き出してくるかのように霧が出てきてどんどん周囲を埋め尽くしていき、気付けば私の周りの視界は既に十メテルほどしか見えなくなってしまった。


「おでましかな?」


 独り言のように呟くと、霧の中に浮かび上がるように数体のリッチが現れた。

 さっき倒したのが九体。そして今ここに八体。全部で十七体というのが現れたリッチの数?

 いいや、そうじゃない。

 リッチほど高位のアンデッドを従えるというならば、それよりも強力な魔物の存在があるはずだから。

 すると、霧の向こうにリッチ以上の存在感と魔力を持った者がぼんやりと浮かび上がってきた。


「…エルダーリッチ…ッ!」


 貴族院の魔物学で習ったのを覚えている。

 姿自体は普通のリッチとほとんど変わらずスケルトンが魔法のローブを着ているような姿だけど、身に着けている装飾品は高級な物だったり魔道具だったりするし、何より身に纏う魔力は桁違いに強い。

 ドラゴンやゴッドフェンリル、デュラハンなどと並び強力な魔物として知られているが、その姿を確認した者は少ないという。

 他にも脅威度Aの魔物がより強くなって名持ちとなったそれは脅威度Sと分類され、通常の依頼には絶対に出てこない。

 今私がやってるみたいにね!


嵐旋柱(グランサイクロン)!」


 エルダーリッチに先制されるよりも早く、私の天魔法が発動すると周囲の霧を巻き込まれて徐々に視界を取り戻していく。

 本来高レベルの魔術師が天魔法をより追求していくことで使うことが出来るようになる魔法。アドロノトス先生の魔法書に載っていた高威力魔法なのでその効果は折り紙付きだ。

 霧が晴れていくことでエルダーリッチの周りに取り巻きとして現れたリッチ達の姿もはっきりしてきた。


「…エルダーリッチ以外は四体。じゃあさっきの霧は氷魔法の『幻霧身(ミラージュ)』? やっぱり高レベルの魔法を使うんだね」

「ホォ、ニんゲンニしテハ魔法ノこコロエガアルヨウだナ」

「え…言葉がわかるの?」

「トウぜンダ。ワタしモモトハニんゲンダッタノダかラ」


 かなり聞き取りにくいけど、間違いなく会話は成立している。野生のドラゴンでも長く生きてる個体は人間と同じ言語で話せることがあるとは講義でも聞いてたけど、まさかエルダーリッチも同じように話せるとは知らなかった。

 それならそれで倒すだけじゃなくてまずは説得を試みてみるのも一つの手だね。


「話せるならちょうどいいや。ここから大人しくいなくなってくれない? ついでにもう人間を襲うのも止めてほしいんだけど」

「フハはハハ。バカナこトヲいウ。アンデッドトなリハてタコノミハツねニセいジャノカラダヲホッすル。ドこニイヨウトカんケイなイ」


 知ってる、というか講義でそれも聞いてる。

 ゾンビやスケルトンなんかの下級アンデッドの行動パターンも同じで生きている者へ執拗に攻撃して自分の仲間にしようとする。リッチみたいな高位のアンデッドになると精気や生命力だけを吸い取ることで死に至らしめるらしい。


「サァ、キさマモワレラノナかマニナルがイイ」


 エルダーリッチは持っていた杖を振り上げたかと思うと、私の周りに黒い靄のようなものが現れ、それが身体を締め付けてくるように私の身体にじわじわとまとわりついてきた。

 これ…多分エルダーリッチの吸精攻撃?

 ちらりと自分を鑑定してMPを確認するとMPは減っていない、ように見える。

 あまりに総MPが多すぎるのと、魔力闊達のMP自動回復量が多いため吸収された瞬間に回復してしまっている。

 しかしHPはそうはいかない。こっちは魔人化を使っていても徐々に減っている。魔人化も再生能力があるので多少HPが減ったところですぐに回復するはずなのにじわじわとHPが吸収されていく。

 さすがにこのままじゃまずいけど、この靄は拘束する役割もあるようでうまく身体を動かせない。


---ユニークスキル「吸収攻撃耐性」を獲得しました---


 お?ちょうどいいスキルが手に入った。


---ユニークスキル「吸収攻撃耐性」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---

ユニークスキル「吸収攻撃耐性」1→2

---ユニークスキル「吸収攻撃耐性」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---

ユニークスキル「吸収攻撃耐性」2→3

---ユニークスキル「吸収攻撃耐性」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---

ユニークスキル「吸収攻撃耐性」3→4


 ってどこまで上がるのよ?!

 ユニークスキルは通常のスキルよりもレベル上がるのが遅いはずなのにすごい勢いで上がっていく。それだけずっと吸収攻撃に晒されているってことだろうけど、こんな勢いで上がるということはそれ自体が非常に強力なせいもあるのだと思う。

 そのまま何とか拘束から逃れようと藻掻いてるうちにスキルレベルは7まで上がり、そこでレベルアップは止まったと同時にHPの減少も止まり徐々に回復し始めた。

 そして試しに聖魔法の魔力を放つと黒い靄は霧散して消え、私は拘束から解放された。


「ナゼだ! ナゼワタしノキュウセいガキカないノだ!」

「教える義理なんてないよ。問答無用で攻撃してきたんだから、こっちも遠慮しないからね!」

今日もありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 重箱の隅をつつくようでごめんなさいね >本来高レベルの魔術師が天魔法をより追及していくことで使うことが出来るようになる魔法 “追及” こっちの追及は主に、言及に近い使い方をします。 …
[良い点] 面白くて一気に最新話まで読んでしまいました これからも応援しています!
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