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第182話 四年次訓練

 エイガン殿というちょっと、いやかなり面倒な人に目をつけられ、それをレンブラント王子に教えてもらったりしても日常はそのまま続いていくわけで。

 日々の講義を一つ二つ受けながら、隙間の時間で調べ物したり、研究室で携帯電話を作るために試行錯誤したり、リード達にせがまれて戦闘訓練をしたり。

 休みの日は冒険者としての活動をするために町に繰り出したりもするけど、すっかりユーニャとはご無沙汰気味だ。次に会ったら王都に来ているはずの幼なじみの一人であるコールのことを尋ねてみるはずだったのに、完全にタイミングを失った格好だ。

 今日は平日なのでどうにもならないからいいんだけど。

 そんなわけで久し振りにババンゴーア様も交えた戦闘訓練をしている。最近二人ともかなり強くなってきたと思う。

 勿論、普通の人の中では、と注釈がつくけれど。

 今も二人からの攻撃をいなし、受け止めながらそれぞれの課題や弱点を指摘しつつも良い攻撃をしてきた時はしっかり褒めて二人の特性に合わせた育成を進めている。


「リードルディ様!攻撃終わった後の動きをもっと考えて!」

「ババンゴーア様!また腕だけで振ってる!身体全体でって言ってるでしょう!」


 右手に大剣、左手に片手剣をそれぞれ握り、二人への指導を行うこの訓練ももう何度行っていることか。

 従者上位クラスでもこの二人に勝てるのは五、六人だけど、まだまだ満足していない様子。それに応じて訓練にも熱が入るというものだ。


ガギィィィン


「ぐがぁっ?!」


 私の突き出した大剣を受けきれずババンゴーア様は自分の武器を弾き飛ばされて倒れ込む。

 そしてその隙にリードが私に迫ってきているが、彼の剣を受けると見せかけて半身ズラしてかわすとその首筋に剣を添えた。


「はい、ここまで」


 私の合図に彼等は地面にへたり込んで大きく肩で息をする。

 実は鐘一つ分もの間、彼等に全力で模擬戦をさせていた。勿論この訓練の前に走り込みや筋力トレーニングをさせているので疲労は相当なものだろう。


「リードルディ様は疲れても瞬発力は維持出来ていました。でも頭まで疲れてしまうと単純な動きが多くなりますので普段の訓練からフェイントや誘い込みを意識してやってみましょう。ババンゴーア様は大分一撃の重さが出てきました。自分が繰り出すのと同じだけの攻撃を簡単に受けられるようにもっと下半身と体幹バランスの訓練をしていくと良いでしょう」

「はぁっはぁっはぁっ…よ、よし。わかった」

「ぐっ、ぜぇっぜぇっ。ま、まだまだ鍛え方が足りぬかっ」


 目の前に二人と同じだけの訓練をして息も切らさない私がいるため素直に話を聞いてくれる。このくらいなら準備運動にすらなっていないとはとても言えない。

 王都管理ダンジョン九十九層でドラゴン数匹相手に半日くらい戦い続ける訓練をしている私と同じに考えたらいけないよね。

 とは言え、二人とも入学した時よりも遥かに強くなっているのは間違いない。そんな彼等を鑑定してみた結果はこうだ。


リードルディ・クアバーデス

年齢:13歳

種族:人間/男

LV:31

HP:735

MP:401


スキル

言語理解 6

魔力感知 5

身体強化 1

片手剣 9

小剣 1

槍術 3

格闘 6

魔闘術 3

火魔法 4

空魔法 7

光魔法 2

算術 1

交渉 2

統括 1

統治 1

馬術 7

礼儀作法 8

宮廷作法 3

詐術 1


タレント

領主

剣士

騎士

大商人

蛮勇


ババンゴーア・ゴルドオード

年齢:13歳

種族:人間/男

LV:24

HP:818

MP:74


スキル

言語理解 5

身体強化 3

片手剣 5

大剣 7

戦斧 4

槍術 3

棒術 1

格闘 8

魔闘術 1

石魔法 3

馬術 9

礼儀作法 7

宮廷作法 3


ユニークスキル

戦闘マニア 2


タレント

戦士

騎士

突撃者


 リードは戦闘系以外のスキルもかなり身に付けてきているし、片手剣はMAX寸前で火魔法もちゃんと上達している。タレントに領主なんてものがついてるので彼が今後クアバーデス侯爵を継ぐことになっても安心出来るというもの。

 ババンゴーア様はそういう内政に役立つスキルはほぼないものの、ゴルドオード家は元々そういう家系だ。彼の補佐をする腹心は必須だろう。そしてリードにはないユニークスキルも一つだけ身に付けている。戦闘マニアは私も欲しいと思っていたけど未だに入手出来ていないのでこれは本人に資質が大きく関わっているのかもしれない。

 二人が息を整えている間、私も退屈なので自分の訓練を行う。

 各属性の魔力で作り出した球を浮かべ、それを徐々に圧縮していく。それぞれが七十階層くらいの魔物なら一撃で倒せるくらいの魔力を込めているけど、圧迫感を感じさせないように隠蔽のスキルも併用しておくと周りから見られた時にただの魔力運用の訓練にしか見えない。

 実際には魔力闊達の訓練なので、ふわふわと浮かせているように見えてその実、高速で回転させているのはよほど魔力の扱いに慣れた人じゃないとわからない。

 でもまぁ暇潰しでしかないのだけどね。


「ほぅ…セシル殿の訓練とは球遊びですか? 優雅なものですね」


 私がのんびり二人の回復を待っていたところへどこかで聞いたことのある声の持ち主が近寄ってきた。

 声がした方を見てみると一番関わり合いになりたくない男が後ろに何人かの男達とやたら不遜な顔をしている丸々とした子どもを連れてやってきた。多分あれがゼッケルン公爵家次男なのだろう。


「エイガン殿。貴方も訓練ですか?」

「ははっ、これは異なことを仰る。私は既に王国最強とも言われておりますればそのようなことをする必要はございません。今日は我が主と私に稽古をつけてほしいと言う彼等のためにやってきたに過ぎません」


 馬鹿なのかな?

 訓練もしないで最強?

 そしてその馬鹿者は茶色の長髪を手櫛で後ろに梳くと周囲にいた女子生徒がほんのり顔を赤らめているのが見て取れる。

 あんなのに心奪われてるくらいじゃこの先いいように男に騙されそうで彼女達の将来が心配になる。

 それはともかく。


「左様ですか。では私達のことは気になさらずに」


 そう言い捨ててエイガン殿に背を向けリード達へと近寄っていく。

 背中で舌打ちが聞こえた気がしたけど気にしない。というか関わっちゃ駄目だ。


「セシル、なんだあいつは?」

「エイガン殿ですか? ゼッケルン公爵家次男キラビーノム様にお仕えの方でらっしゃいます。何でも王国内では既に最強のお声も高いとか」

「ほぉ。それは是非手合わせしてみたいものだな」


 リードよりも一足先に回復したババンゴーア様は前のめりになってエイガン殿へと向かおうとしたが、リードがその体の前に手を翳して制した。

 彼のババンゴーア様を見る目が貴族の目になっているところを見ると私以上に事情を知っているようだ。


「ババン、今日はセシルに訓練を付き合ってもらっているのにそれは彼女に対して失礼だろう。延いては僕の顔を潰すつもりか?」

「む、ぅ。そういうわけではないが…承知した。スマンなリード」

「わかればいいさ。そういうわけでセシル。もうちょっと僕らの訓練に付き合ってもらえないか」

「畏まりました。では…多数の敵との戦闘訓練を行います」


 その言葉に二人は首を傾げたが無理もない。

 目の前には私一人しかいないのにどうやって多数の敵と戦おうというのか。


擬人製作(ゴーレム)


 かなりの量のMPを持っていかれてしまわないよう予め腰ベルトからクズ石で作った魔石を二十個ほどばら撒くと岩を媒体にして擬似生命とも言われるゴーレムが生まれる。その形は私が指定した通りに作られる。

 今回作ったのはあくまで人と同じ形ではあるものの片手剣と盾を持った兵士を想像してみた。この兵士達は私が魔法を解除するか、魔石に込めた内包魔力が尽きるまで活動は止まらないし破壊しても再生する。

 パッと見た感じは岩で出来た人形のようにしか見えないので可愛げはないけど、その分強さは申し分ない。これでも王都管理ダンジョン三十階層の魔物と同程度のはず。それが魔石の数と同じだけ現れたので、リード達だけでなく周囲で訓練をしている他の生徒、そしてエイガン殿達までもがこちらを注目している。

 どうせ今さら注目を集めないようにしたところで無意味なのはわかってるので自身の強さの片鱗さえ見せなければいいと開き直りつつあった。


「さぁ、彼等の活動が止まるまで頑張ってね」


 私がゴーレム達にターゲットを指示すると彼等は一斉に動き出した。

 今回このゴーレム達はリードとババンゴーア様を延々と攻撃し続けるという非常に簡単な命令しかしていない。なので連携を取ったりすることもなければ、ゴーレム同士がぶつかってお互いが攻撃の邪魔になったりもする。アンデッドと戦うときに発生する現象だけど、これも良い訓練にはなる。

 ちなみに私がこの擬人製作(ゴーレム)を使えるようになったのは、アドロノトス先生から貰った魔法書に書いてあったからだ。それを元に何度か使用している内にレジェンドスキル擬似生命創造というこれまたとんでもないスキルを獲得してしまったというわけだ。ダンジョン等で試してみてはいるけど、未だにスキルレベルは一のままだけどね。


「随分変わったスキルを持っているようだ」

「…えぇ、少しばかり」

「しかしアレでは大した力は無さそうだ。まともな訓練をさせねばリードルディ様も成長しないのでは?」

「リードルディ様の訓練については私に一任されています。口出しは無用に願います」


 エイガン殿はいつの間にか隣にやってきて口出しをしてくる。

 何がしたいのかわからないけど、邪魔以外の何ものでもない。


「ふむ…このスキルのおかげで貴族院最強と呼ばれているのか。大したことないな」


 面倒臭い。

 本当にどうでもいいのになんでこんなに話し掛けてくるの?

 そんなに最強の名前が欲しいならいくらでもあげるのに。でもレンブラント王子に言われた通りそれを口に出すと逆効果になるそうなのであえてそれには触れないでおくしかない。


「今はリードルディ様とババンゴーア様の訓練中ですのでエイガン殿とのお話は改めていただけますか」

「ふんっ…ではな」


 エイガン殿は私にあしらわれたのが面白くないのか、靴音荒く自分についてきた者達の方へと去っていった。

 その後、彼と一緒に来た者達がかなりの怪我をして治療に当たることになったことで私の彼に対する印象はより悪くなるのだった。

今日もありがとうございました。

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[気になる点] 最強だと確信できなきゃ、上下をハッキリさせなきゃ、ボクはイヤなんだ? くっだらねぇ……。 状態異常:強迫観念 でも負ってるんですかね? [一言] なんか重い過去でも背負ってて、自分が最…
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