第17話 OJT
修行というか訓練シーンて地味ですよね。
でも私は龍玉の修行する回が一番好きでした。
7/29 題名追加
イルーナと魔法の訓練をした翌日。再び前日と同じ平原に二人で来ている。
昨日と違う点は目の前に森があることか。すぐ近くに昨日私が放り投げたアクアブレードによって薙ぎ倒された木がある。穴だらけにしてしまった地形はイルーナがついさっきまで魔法で整地していたが、この木は私の植物操作でも元通りとはいかなかった。
せめてもの、と思って成長促進は切り株に掛けておいたけど…あんまり考え無しに魔法を変なところに撃ったらダメって教訓だよね。
「ところで今朝も聞いたけど、本当に魔力は大丈夫ー?」
「うん、昨日ばっちり寝たし今日はもう満タン!元気もいっぱいだよ」
昨日少なくなったMP…いや、相対的に少なくなったように見えるMPを全快させるには私のMP自動回復だけでは間に合わなかった。朝までMPを全く使わなかったとしてもせいぜい7割程度しか回復しない計算。さすがにそれでは今日の訓練に支障が出るかもと思ってスキル瞑想を使ってMPの回復を促進させた。
結果としてMPは朝には全快したが瞑想はスキルレベルがMAXに。MP自動回復も9まで上がっている。MP回復量が増えるのは喜ばしいことだけど、「人」の枠の中に納まる範囲であってほしいものだね。
「さて、それじゃ昨日で魔法の訓練は一通り出来ちゃったから今日は森に入るよー」
イルーナは右手の拳を高々と突き上げて誰とも無しに宣言した。
自分と私を鼓舞するためにしているのかな?それにやっぱりそのポーズなんだね。
「実はこの森、大型の動物はほぼいないの。なので中型くらいの生き物を見かけたらほぼ魔物だと思ってね」
「…うん、わかった」
「セシルちゃんはここで魔物を討伐する際にどんな戦い方をしても良いよー。但し危ない方法は取らないこと。ここに出てくる魔物でセシルちゃんより強い魔物はいないけど、軽い怪我以上の攻撃を受けるようなら私が魔物を殺すからね」
イルーナからごく自然に「殺す」という言葉が出てきてぎょっとした。
目の前にいるのはいつもののんびりとした今世での私の母親だ。なのに普段の様子とはかけ離れた言葉に驚き以上に戦慄する。
聞きたいと思っているイルーナの過去により興味が湧いてくる。
でも多分興味本位なんかで聞いていいことじゃないんだろうなぁ。
頭に過ぎる考えを振り払って気を引き締め直すと左手に弓を持ち森へ一歩踏み出した。後ろからイルーナがついてきているのがわかる。
さて、かと言ってむやみやたらに森の中を歩いて時間を無駄にすることもないよね。
気配察知のスキルを使い森の中で気配を放つものを感じ取ってみる。
---スキル「気配察知」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---
スキル「気配察知」4→7
スキルレベルが上がったことでより強く気配を探れるようになったためか、肉眼では見えないのにあちこちに何かの気配を感じる。今わかるのは強弱だけで魔物か動物かもわからないけども。
とりあえず一番近いところでここから右前方へ少し行ったところに5体ほどの反応がある。群れているからゴブリンか、それともウルフということも?
怯えていても仕方ないのでその方向へ足を進めることにした。こっちは向こうの気配を感じてはいるが、こっちの気配は極力悟らせないよう気配を忍ばせて向かう。
---ユニークスキル「隠蔽」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---
スキル「隠蔽」4→5
慎重に進むため、普段の歩く速度よりかなり遅い。
その甲斐あってなんとか気付かれることなくその群に近くに到着した。
人間の子どもくらいの体躯で緑色の肌。粗末な防具を身に纏いボロボロの短剣と棍棒を手にしている。数日前に見かけた、ゴブリンだ。
気配を殺したまま弓に矢をつがえると後方のゴブリンに狙いを合わせる。命中補正のおかげでしっかり狙わなくても高確率で当てることができるのですぐに矢を放った。
「ッ!」
頭を貫かれたゴブリンは歩こうとしていた体勢のまま前のめりに倒れた。その間にも次の矢をつがえて狙い、放つ。
仲間が倒れたことに気付いたときにはもう一体の頭にも刺さり、横向きに倒れた。さすがに彼らも警戒して周囲を見回すが、気配を殺している私を見つけることはできないようだ。
3本目の矢を放ってもう一体始末したが、流石に私の居場所を気付かれてしまった。残る2体が走って向かってきた。
---スキル「弓」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---
スキル「弓」7→9
もう一回矢を放つほどの時間は無さそうだった為、すぐに立ち上がって弓を手放すと無手のまま腰を落として構えた。残る2体とも棍棒を振りかぶったまま近寄ってくる。
「そんな大きく構えてたら当たらないよっ!」
身体強化を使って先頭の個体に肉薄するとその勢いのまま胸の中心に肘を撃つ。ゴブリンのあまり強くない骨がポキポキと折れる感触が伝わってくるが、心臓まで穿つつもりで突き出した肘はゴブリンの身体に大きくめり込んで次の瞬間には後ろに大きく吹っ飛んだ。
続いてもう1体に近寄り、振り上げた棍棒が下ろされるより早く右足で浴びせ蹴りを食らわせた。再度骨を簡単にへし折る感覚を覚えるが、そのままの勢いで地面に強く叩きつけた。
これで起き上がってまた襲いかかってくるとは思えないので、私はゆっくり立ち上がって先ほど手放した弓を拾った。
---スキル「身体強化」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---
スキル「身体強化」1→4
---スキル「格闘」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---
スキル「格闘」9→MAX
やっぱり魔物と戦うと経験値が多く貰える気がする。スキルレベルの上がり方が著しい。
拳を握ったり開いたりして感覚を掴んでいると背後からイルーナが近付いてくるのがわかったので首だけで振り返った。
パチパチと手を叩きながらニコニコしながらゆっくり歩いてきた。
「すごいすごい!セシルちゃんこんなに戦えたんだね!」
「一生懸命訓練したんだよ」
「うんうん、これなら私が何かすることはないかもねー」
「そんなことないよ。母さんが近くにいてくれるだけで思い切ったこともできるし、守らずに戦うだけなら難しいことじゃないから」
イルーナは私の言葉に神妙な顔で苦笑いを浮かべた。
言いたいことを飲み込んだような、そんな表情。
「…もー。危ないことはしちゃダメって言っておいたでしょ。私がいても思い切りの良すぎることはダメだからね?」
「はーい」
「もー…仕方ないなぁ。それじゃ続けよっか」
納得してないのはお互い様って空気を感じるけど、仕方ないよね?
そうそう、この森の中での魔物討伐に限定してだけど魔法を使うつもりはない。魔法の訓練は昨日イルーナとしたし、私としてはレベル上げと直接叩くようなスキルを上げておきたいから。
まず何よりも戦うことに慣れないといけないと思う。イルーナに従って近くの気配を探る。どうやら今のゴブリンとの一戦のせいか、すぐ近くまで別の群が近付いていた。
「こっちに向かってきてる群が一つ。今度は3体かな?」
「…うん、私の魔力感知でもわかったよー。この反応からするとホブゴブリンかな?普通のゴブリンより力の強い魔物だから気を付けてね」
そう助言を残してイルーナは再び近くの茂みに身を隠した。
が。それよりも!魔力感知でそこまでわかるものなの?
気配察知から魔力感知に切り替えると確かに近寄ってくる魔物の気配を魔力の大きさで感知できた。
---スキル「魔力感知」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---
スキル「魔力感知」8→9
3体のうち、1体はイルーナの言う通り魔力も高く力強い感じがする。残り2体に関してはさっき倒したゴブリンと一緒かな。
投擲で先制攻撃をしよう思い、さっきのゴブリンが持っていた棍棒を2本拾って両手に持った。重さはそれほどではないけど今の私の体格で使うには少し長いかもしれない。ゴブリンの知性なら使いにくいから短くしようとは思わないのかもしれない。
ガサガサと茂みの向こうからこっちへやってくる3体を待ち受けながら私の投擲の届く距離まで近寄ってくるのを少し緊張した気持ちを冷静にさせようとしていた。
先制攻撃と思っていても外れてしまえば居場所までバレるし、逆にこっちが危なくなってしまう。だからこそ失敗は許されない。
そんなことを思ってる内に茂みを揺らす音は大きくなってくる。
気配察知を使って向こうとの距離を測る。もう射程内には入っているものの射線上にいくつもの茂みがあるため今投げても威力が殺されて倒すことはできないかもしれない。なので、ここに顔を出す直前に投げることにする。
すぐに投げられるように棍棒を構え、数秒後に始まる戦闘を前にドキドキと胸が高鳴る。
やがて一際大きなガサッと音がしたかと思うと目の前が茂みが揺れてゴブリン達の手が見えた。
「そこっ!」
狙い澄まして両手の棍棒を投げつけ、ゴブリン2体に綺麗に当たるとパキャッと音がしてゴブリンの頭蓋骨が凹んでそのまま後ろに倒れた。
突然飛んできた棍棒に驚く様子もなく、ホブゴブリンは茂みから現れた。通常のゴブリンよりも二回りは大きな体で筋肉も大分発達している。
前世で弟たちがやってたゲームで見たオーガっていうのに近いんじゃないかな?
とはいえ普通の人間の大人程度のサイズだし、実際そこまでではないのかもしれないが今の私よりはずっと大きい。イルーナはここに私より強い魔物はいないって言ってたし倒せるのは倒せるのだろう。
折角少し強い魔物なんだし、ちょっと試してみようかな?
私はテストと称して自分の戦闘力向上と戦術の幅を広げるための試みをするのだった。
今日もありがとうございました。




