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第159話 王都管理ダンジョン 10

 さすがに魔渇卒倒寸前だ。

 私達は階段の下で折り重なるように倒れ込んでいる。

 ついさっき九十九層の階段前に鎮座していたクリスタルドラゴンを倒して飛び込むように階段へと身を投げたからだ。

 そして文字通り転がり落ちて三人とも地面に這いつくばっている。勿論魔石だけは意地で回収した。ビー玉くらいのサイズでパッと見た感じは水晶玉にしか見えないけど、中にはキラキラと虹色に輝くドラゴンを模した紋章が浮かんでいる。

 それにしてもMPの総量に自信のあった私でさえ残り数千。クドーも全身傷だらけでMPが枯渇して気絶したアイカを抱えて階段に飛び込むのが精一杯だった。


「…なんとか、なったね…」

「あぁ…。だが二度とごめんだな…」


 アイカを地面に寝かせるとクドーも私の上からどいてくれて、ドカリと腰を下ろした。彼が息を切らせているのを初めて見た気がするけど無理もない。私も全く同じ状況だった。

 上に乗っていた二人が下りたので私も体を起こすと半分近くまで戻ったMPを使ってクドーに回復魔法を施した。

 彼の体から傷が消えたところでアイカ、自分の順にも使ってなんとかHPだけは全快することが出来た。あとはMPが全快するのを待てばいいだけだ。


「さて、あとはアイカだけど…」

「しばらく寝させてやれば起きる。それまでは俺達も下手に動かない方が良さそうだ」


 クドーの提案に全力で賛成なので首肯すると探知でこの百層を探っていく。

 すると不思議なことにここには魔物が一体しかいないことに気付く。


「ねぇ、クドー…ここの魔物って…」

「どうした?」

「…ボスしかいないみたい」

「…考えようによっては幸運かもしれないな。アイカが起きて万全の状態で挑むことが出来る」

「そう、なんだけどね」


 歯切れの悪い私の答えに思うところがあったのか、クドーは視線だけで続きを促してくる。

 しかし考えなくても最後のボス戦だし、直前のクリスタルドラゴンですら雑魚として配置するような頭のおかしいダンジョンマスターなのだからどういう相手かは想像に難くない。

 しかも通路は一本道のようで神殿のような造りの内装をしており、幅は百メテル以上もあり天井もそれに近い高さがある。

 通路の壁や柱は鈍い金色に光っていて荘厳な雰囲気を醸し出している。

 地面は石畳が敷かれているが触った感触からすると金属のようだが天井は暗くなっていてはっきりと見ることが出来ない。

 遠くの方にも金色の壁があり、魔物の反応はその先から感じられる。

 そうしてあちこちをキョロキョロ見回しているとクドーから説明が入った。


「壁は迷宮金だな。これほどの純度のものは俺も見たことがない。地面はアダマンタイトで出来ている。この素材を持ち帰ることが出来れば文句無しだ」


 しかしすぐに手を出すことはせずに眺めているだけに留めている。

 もし手を出してしまえば恐らくこの百層唯一の魔物であるボスがすぐにでも襲い掛かってくるだろうから。

 さすがにこれだけ消耗している状況でボスとの戦闘を迎えたくはない。


「なんかお腹空いたし、腹ごしらえだけでもしておく?」

「あぁ。そうしよう」


 私達は自分の魔法の鞄からそれぞれ携行食を取り出して食べ始めた。

 この携行食は前世の栄養補助食品のように高カロリーで満腹感も得られる万能食品だと調合や錬金術、料理のスキルを駆使して作ったアイカが自慢気に話していた。

 事実味も大きさも、前世でよくスポーツ選手が食べているものに似ているのだが、食べてしばらくすればお腹も膨れてくるので効果はかなり高いのだろう。

 ここに来るまでの料理は私がしていたので今まで出番が無かった。

 ちなみにアイカの料理スキルはレベル自体高いけどあくまで調合や錬金術の副産物と言っていた。そのためか彼女自身は普通に料理することは得意ではない。

 そうして私とクドーがお腹を満たしたところでやっとアイカは起き上がった。


「…アカン…こりゃアカンわ…」


 アイカは自分に言い聞かせるように呟くと自身の魔法の鞄からポーションのような薬瓶を一気に煽っていた。

 すると目に見えてアイカも元気を取り戻し、私達と同じように携行食を食べ始めた。

 一体何の薬を飲んだのかな。

 気になってクドーの方を見たけど話す気はないようで腕を組んだまま眼を閉じて回復に努めていた。


「スマンなぁ。もうちょっとしたら行ける思うとんのやけど、それまで堪忍な」

「無理をしている自覚は私もあるからゆっくりしてて大丈夫。ずっとここにいるけどボスがこっちに向かってくることも無さそうだしね」


 アイカは食事を終えると更に水袋も取り出してこちらにまで音が聞こえるほど豪快に飲み続けた。

 あんまり一気に飲むのも毒だと思うんだけどね?

 アイカが回復するのを黙って待っている間に私のMPも完全に回復した。

 回復速度は私の方が早いけど総MPが多いので結局アイカと同じくらいのタイミングになってしまった。


「よっしゃ! もうえぇで」

「…行くか」

「うん、行こう」


 三人ほぼ同時に立ち上がると揃って通路を歩き始めた。

 探知にずっと引っ掛かっている魔物の反応まではすぐだ。

 そして通路奥の壁に辿り着くと人一人通るくらいの通路があり、そこを抜けると野球場ほどの広さがある大広間に出た。

 大広間の真ん中には不自然に置かれた台座に白地に金縁の見事な鎧が飾られており、醸し出す雰囲気だけで言えば教会のような厳かなものがある。


「あれがラスボスみたいやな」

「リビングアーマーかな?」

「そんな生易しいものではないだろうが、似たようなものだろうな」


 歩みを止めずに鎧に近付いていくと、突然魔力が鎧に集まり始めた。

 周囲の迷宮金で出来た壁から魔力がどんどん流れ込み徐々に気配が濃厚になっていく。そして集まった魔力を吸収した鎧が勝手に動き出すのと同時にその大きさも竜王種のレッドドラゴンに匹敵するほどのサイズへと膨れ上がっていった。


「ホンマ、ここのダンジョンマスターは頭おかしいわ」


 隣からそんな呟きが聞こえてきた時、白いリビングアーマーはその両手に自身の身の丈ほどもある巨大な剣を出現させた。

 膨れ上がる殺気、押し潰されそうなほどの威圧感、溢れ出てくる魔力。どれを取ってもこのダンジョンで今まで出会った魔物の中で間違いなく最強だと言える。


「くるよ!」


 私が叫び、武器を構えたと同時に滑るように向かってくる白いリビングアーマー…暫定的に白鎧王とでも呼ぶ。

 片方の大剣を掲げたかと思えばゴウッという音を立てて振り下ろしてきた。


 ガギィィィィィン


「ぐっ! っうぅぅぅぅぐうぅぅぅあああぁぁぁぁぁっ!!」


 まるでギロチンの刃の如く迫る大剣をクドーが両手に持った剣で受け止めた。

 並みの膂力なら簡単に叩き潰されていただろうけど流石はクドー。真正面から受け止めても体勢を崩すことなく白鎧王の標的になってくれている。

 しかし相当な圧力が掛かっているのだろう、少しずつクドーの膝が折れてきている。

 長くは持たない。


「アイカ!」

「オッケーや!アイシクルランサー!」


 アイカの氷魔法で作られた槍が白鎧王の頭部へと突き刺さる。

 冷やされた空気が冷気となってもうもうと立ち込めて白鎧王の上半身が見えなくなる。

 このくらいでやられてくれるような可愛い相手じゃないはずなので私も追い討ちをかける。


「爆発魔法 衝爆砲(イクスプロージョン)!」


ドオォォォォォン


 魔力の塊が白鎧王へと当たると大きな爆発が起きる。

 クドーは私が魔法を撃ったと同時に白鎧王の大剣を押し返して退避していたため無事だ。

 そのクドーも両手の剣を収納して今まで出していなかった大きな弓を構えると、槍にしか見えない矢をつがえて立て続けに五連射した。

 金属同士が激しくぶつかる音がして白鎧王の体が後ろ向きに倒れていく。


「くらえ。『貫』!」


 最後に魔力を集中させ放った矢は、クドーの弓を離れた直後に巨大化して白鎧王を貫いた。

 その矢は速度を落とすことなく反対側の壁へと突き刺さっていた。矢に貫かれた白鎧王は鎧の膝をつき、持っていた大剣は轟音を立てて地面に落とした。


「…やった…かな?」

「アカンてセシル。そういうのはフラグにしかならへん」

「え?」


 アイカに言われてから気付く。

 三十階層にこういうリビングアーマーやゴーレムといった魔法生物のような魔物が出てきたけど、それらは倒すと魔力反応が無くなる。

 なのに白鎧王の魔力は全く減っている様子がない。


「挨拶程度にしかなっていないようだな」


 クドーも弓を収納すると再び二本の剣を構えた。

 私も油断せずに短剣を構えると範囲を絞った探知で白鎧王の様子を窺う。

 注意していることで私達は全員同じタイミングで見てしまった。

 迷宮金で出来た壁からじわじわと白鎧王へと魔力が注がれ続けていることを。

 そしてそれが白鎧王の力がまだ完全となっていないことを示していた。


「迷宮金から魔力を受けて強くなってる、のか?」

「これ以上強うなったら手に負えんで?!」

「だったらそれより早く倒すしかないでしょ!」


 私とアイカは魔力を供給されて回復し続けている白鎧王へと魔法を撃つ。

 私は剣魔法、アイカは炎魔法とそれぞれが得意な魔法で回復を阻止するべく攻撃する。

 かなり無茶な連射をしているというのにこれでも白鎧王の回復速度とほぼ同じ程度にしかダメージを与えることが出来ない。


「くっ…たあああぁぁぁぁぁぁっ!」


 仕方なく私は魔法を撃つ手を止めて短剣で斬りかかる。

 魔闘術で強化した短剣で斬りつければ魔法よりは一撃の攻撃力は上回るはずだ。


がぎぃぃぃぃぃぃぃん


 手加減なく打ち込んだはずだったけど、白鎧王の大剣によってあっさりと防がれてしまった。

 確かに斬りかかる直前まで普通に構えてただけなのになんであんなでっかい武器をそんなに早く振り回せるのよ!


ぎぎぎぎぎぎぎぎっ


 そのまま魔闘術を使い短剣から伸ばした魔力の刃で斬りかかるもやはり全てあの大剣で防がれてしまう。

 一度着地して違う角度から攻めてみても結果は変わらない。

 どういうことなのよ!

 あっ?!


がごんっ


 一瞬白鎧王の右手が消えたように見えたかと思ったら私の体は大きく吹き飛ばされた。

 何をしたか全くわからないままモロに攻撃を食らってしまい、数十メテル飛ばされた後なんとか体を立て直して地面に手をつきながら着地した。


「…ふふ、はは…。私達以外にここまで理不尽なのは生まれ変わってから初めてかも…」

今日もありがとうございました。

GWは外出自粛だし、毎日更新頑張ってみようかな…ボソッ

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― 新着の感想 ―
[一言] ボソッ(GWだけじゃなくて、今からでも良いんですよ?) よし、ギミックは分かった! 壁を掘れ! 床も剥がし尽くせ! どこかにマイクロウェーブ送電システムか、デュートリオンビーム発信機…
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