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第155話 王都管理ダンジョン 6

 レッドドラゴンの威圧感は凄まじく、私達のいる場所にまでその圧力は届く。

 アイカはその威圧感に中てられてしまい及び腰になっている。そこまでビビらなくてもいいと思うんだけどね。アイカだって全力を出せばレッドドラゴンに通る攻撃くらいあるだろうに。


「でも、思ったより硬いよ」

「当たり前やろ。ドラゴンって言えば異世界モノの定番でめっちゃ強くてそのウロコで作った防具は最強とかなったりするもんやろ」

「…ドラゴンのウロコで作った防具が最強というのは言い過ぎだな。良い素材の塊ではあるが…ここがダンジョンでなければな」


 クドーは興味無さそうにレッドドラゴンを見つめている。

 確かにここで倒しても魔物は光の粒となって消えてしまう。よってその素材を得ることも出来ない。倒した後に出てくる宝箱の中に入っていればいいけど、そううまくはいかないだろうしね。


「確かにドラゴンの血もいい薬の材料になるんやけどな。ひょっとしたら九十階層はドラゴンが出るかもしれんのやし、そしたらそこで拾えるかもなぁ」

「私はドラゴンの魔石が手に入るしね!」

「俺もドラゴンのウロコや牙、爪は欲しいな。最強ではなくても良い素材であることは間違いない」


 結局みんなドラゴンの素材が欲しいということだよね。

 ダンジョンの魔物は基本的に倒すと消えてしまうけど生きてる間に回収して魔法の鞄に入れてしまうと消えずに残る。

 これはアイカ達も知らなかったようで、ここに至るまでの魔獣達の素材をいくつか手に入れることが出来ていた。

 となるとやっぱりなんとしてでもここを突破して宝箱も確認したいし、次の階層にドラゴンが出ることを期待したい。


「それじゃ頑張って倒しちゃわないとね。全力出せば倒せると思うけど…」

「いや、セシルの全力は待て。ここは俺が何とかする」


 そう言うとクドーは持っていた武器を魔法の鞄へ入れると代わりの武器を取り出した。

 それは武器と言うにはあまりに、そうあまりに異形であまりに、巨大。


「うへぇあ…。クドーのそれ久々に見たわ」

「それ…何?」

「大槌斧『バルドル』だ」


 クドーの取り出した巨大な武器は全長四メテルはある。クドーの身長の倍以上。そしてその先端には巨大なハンマーのようなもので片方は槌の先に刃物がついている。

 見るからに重そうな武器だけど、クドーはそれを何でもないかのように持っている。

 どう考えてもバランスが悪いし、重量だって普通自動車くらいあるんじゃないだろうか。

 私が怪訝な顔をしているとクドーは心配いらないと言わんばかりに首を振った。

 クドーがそう言うなら問題ないのだろう。

 それを信じて私も彼から渡された短剣をもう一本左手で引き抜いた。

 ミスリルとチタン、それとタングステンを使った短剣だ。

 芯にミスリルを使うことで魔力の流れがよくなりチタンで包む。さらに刃にはタングステンを使うことで切れ味も良くなると言ってたけど、なんだかんだで魔力頼みになっているのは仕方ないのかな。


「じゃあ、行くよ!」


 私はレッドドラゴンに向かって構えるとそのまま全身に魔力を行き渡らせるように魔闘術を使用。

 身体が急加速してレッドドラゴンの間合いに入っていく。

 さっき見た腕の振り下ろしからして半径五メテルが向こうの間合いになると思い、それよりも更に内側へ素早く侵入した。


「アイシクルランサー!」


 勿論それを許すようなレッドドラゴンではないが、そこへアイカの魔法がレッドドラゴンの顔に直撃する。

 いくら氷魔法と相性が悪いと言ってもこの体格だ。

 多少の煩わしさは感じさせることが出来たとしてもダメージは全く期待出来ない。

 それでもアイカへと注意が逸れたことで私はその巨体の真下へと辿り着くことが出来た。


「これならっ!亢閃…」


バガッ


 私が技を出そうとしたところに何かが横からぶつかってきた。

 並みの攻撃ならびくともしない私がその勢いでボス部屋の壁まで叩きつけられた。


「いたたたた…なに?」


 見るとレッドドラゴンの尻尾が私を薙ぎ払った正体だったようで、さっきまで後ろにあったそれは今は大きな顎の真下にある。

 あそこからこの壁際まで百メテルはあるのに途中で地面に着くことなく壁まで真っ直ぐ叩きつけるってどれだけの力だったんだろ。

 少なくともアイカがこの攻撃を受けたら一撃で戦闘不能になりかねない。

 そしてそのアイカにレッドドラゴンの標的が移る。


「くっ!」


 息を飲み込み三度レッドドラゴンへと向かうと今度も私には目もくれずアイカに対し前足の爪先に魔力を集中しているのが見えた。


「だぁぁぁぁりゃっ!」


 その前足を蹴り上げると同時に爪先から放たれた魔力は先程のブレスほどではないものの、高温の光線となって天井へと向かっていった。 


ドォォォォォン


 天井に当たった光線は破壊こそしなかったものの、この部屋を大きく揺るがすほどの威力だったようで、その衝撃で大気がビリビリと私達の肌を撫でていく。


「…どれもこれも受けたらアカンような攻撃ばっかりやないか…」

「仕方ないでしょ。クドーの準備が出来るまで私達で何とかしなきゃ」


 アイカの横に並び立って短剣を構えるが、レッドドラゴンは相変わらず余裕の表情で目の前に鎮座している。

 顔の区別がつくわけじゃないけどね。


グワァァァァァオォォォォォォッ


 しかしいつまでも大人しくしてくれているレッドドラゴンでもないらしく、大きく口を開き咆哮を轟かせた。

 すると空中に赤い光を放つ魔法陣がいくつも浮かび出す。

 その数は二十ほどだろうか。

 嫌な予感しかしない。

 その予感を正しいものとするかのように魔法陣に炎魔法の魔力がどんどんと集まっているのが見えた。


「あんなん使われたらこの部屋全部火の海になるやんかっ!」

「アイカ!何とか出来るような魔法ないの?!」

「あったらもう使うてるわっ!」


 あーもうっ!

 じゃあ今すぐ何か氷っぽい新奇魔法作らないといけないじゃんかっ!

 何か…強い氷…氷河…地下…地獄?


ドドドドドドドッ


 私が考えている間にレッドドラゴンの魔法は完成してしまい、魔法陣から放たれた炎の光線が私達へと迫る。


「…しゃあない!魔力全開で…」

「アイカどいて!新奇魔法 『極獄凍流波(コキュートス)』!」


 行き当たりばったりで作り出した魔法なのでMPの消費を何も考えずに両手から魔力を放出した。

 地獄の最下層を流れる川と言われるコキュートス。

 冷たい地の底から放たれる氷地獄の流れを受けてみろ!


グワァァァァァ……ァ……ァ……ァァ……


 絶対零度とまではいかないものの、強い流れのある冷たい魔力を自分の放った魔法共々全身で受け止めることになったレッドドラゴンは全身を凍り付かせて固まりだした。

 私のMPを実に五千万も持って行った超高威力の氷魔法を受けたレッドドラゴンは既に燃えるような体表からくすんだオレンジ色に変わっている。

 そして咆哮は最早悲鳴にしか聞こえない。

 とは言え、完全に氷漬けにすることは出来なかったのでトドメは必要だ。

 ということで。


「クドー!」

「あぁ、もう十分だ」


 クドーはさっき取り出した巨大な戦斧を両手で持つとそのまま走り出した。

 先端が地面ついてないけど、あの重量武器持ってそんなこと可能な方がおかしい。

 いい加減驚き飽きてきたけど、その理不尽極まりない攻撃スタイルに目を奪われた隙に彼は私達の横を走り抜けて大きく飛び上がった。


「くたばれ。『断』っ!」


 レッドドラゴンよりも高い位置から振り下ろされた巨大戦斧はほとんどしなることもなく真っ直ぐにその首へと叩きつけられた。


ドゴンッ


 そして大きな音がしたかと思ったら、戦斧がレッドドラゴンの首を一撃のもとに切断していた。

 その首が落ち、レッドドラゴンの巨体が地面に倒れ込むと同時に光の粒になって消えていった。




「ねぇ、あの『断』って技の名前なの?」

「…技ではないな。強力な一撃を出すときの掛け声のようなものだ」

「…技だよね?」


 クドーに問い掛けても無駄な気がしたのでアイカへと質問の矛先を変えてみたけど、アイカ自身も首を振るだけだった。

 …本人がそう言うならいいか。

 …私の亢閃剣とか金閃迅もそういうのが良かったなぁ…。

 友人達に勝手につけられた技の名前を思い、ちょっとだけ羨ましくなる私だった。


「しかしよくあんな土壇場で新しい魔法作れるなぁ」

「前世でいろんな本読んでたおかげかも。アイカがいろんなアニメ観てたのと同じだよ」

「ほぉぉぉ?そしたらウチも負けんようにいろんな魔法開発せなアカンな」

「うん。私ももっと強い魔法を覚えたい」


 そういえばかなり前に領主様の家で家庭教師をしていた頃、同僚?だったアドロノトス先生から渡された魔法書の写本が今も私の腰ベルトに入っている。

 確かもう一冊と合わせるとすごい威力の魔法が使えるようになるけど、どこかに封印してるという話だったはずだ。

 このダンジョンを出たら一度彼に会いに行ってみるのもいいかもしれない。居場所は領主様なら知ってるだろうしね。


「それより、宝箱が現れたぞ?」


 クドーの言葉に私達は部屋の真ん中を見つめた。そこにはすっかり忘れていた宝箱が「気付いてよ!」と言わんばかりに置かれており、その横にはレッドドラゴンが落としたと思われる魔石もある。

 まるっきり上質のルビーのような輝きにあっという間に目を奪われて宝箱を無視してその魔石を急いで回収した。


「はぁはぁはぁ…。いい、いいね!この赤い輝き!燃え尽きる前の炎みたい。あのレッドドラゴンの命の輝きそのものだよ!」


 透き通り不純物は見当たらない。

 中に浮かぶ竜の紋章は今まで見てきたドラゴンの魔石とは比較にならないくらい雄々しい姿をしている。燃えるようなデザインで竜の頭を模したそれは炎の竜王の姿そのものと言っても過言じゃない。


「あ……なぁ、セシル?独り言はもうちょっと小さい声で言った方がえぇで?」

「やめとけ。どうせ聞こえていない」


 あぁ…頬ずりしても皮脂が移ることもない。

 まるでこの輝きを汚させるものかと抵抗しているように赤い魔石は強い魔力を持ったままその存在を私に主張してくる。

 それはお互いに命を掛けて戦い、勝利を得た私達を賞賛してくれているようにも思える。


「聞いてるこっちが恥ずかしいわ…」

「気にするな。それより…あったな、竜王の牙だ」

「こっちもや!竜王の血!他には…ドラゴンの鱗を使った盾やな」

「それはそれで面白い。俺が貰おう」

「この三つやな。セシルの取り分が無くなって……ないわな」


 魔石を堪能したところで私は立ち上がって先に二人が確認していた宝箱の中を覗き込んだ。

 しかし宝箱は空っぽだった。


「あれ?今回は二人とも持ってくの?いいのあったの?」

「あぁ。なかなか良い素材と盾だったのでな」

「ウチもやな。これでまたえらいもんが作れるで!」


 クドーなら武具を作るだろうと思うけど、アイカが作るすごい物ってなんだろう?

 彼女のスキルからすると錬金術か調合なんだろうけど、ちょっと興味ある。

 でもまぁ私達は自分の欲しいもののためにここまで来たんだし。今回手に入れた竜王の血がアイカにとっての必要なものならそれでいいよね。

今日もありがとうございました。

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