表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/582

第154話 王都管理ダンジョン 5

 蟻のボスを倒した私達は一晩休んでから次の八十一層へと足を踏み入れた。

 今度は岩石地帯。岩山があったり、私の身長より十倍はありそうな岩がゴロゴロと転がっている荒野だったり。

 出てくる魔物は獣系。十階層も獣系だったけど、今度は強さの格が違う。

 アイカの魔法を受けても怯まず突進してくる魔物。

 怯まないだけでかなり致命傷であるけど。

 クドーの剣でも傷をつける程度にしかならない魔物。

 これまた腕だったら切断寸前、胴体なら内臓にまで達する傷なのでこれも致命傷。

 私も戦帝化を使わなければ二人と同じ程度にしか傷を付けられないけど、ボスでもないのに使うつもりはない。なので実は今まで一度も使ってなかったりする。

 それでも何とか魔物を倒しながら進み、ギルド公式記録である八十四層まで到達した。


「すごいね」

「何がや?」


 それと気付かず、思ったことが口から出ていたようでアイカが私の独り言に返事をしてきた。


「だって八十四層ってギルドに残ってる公式記録と同じなんだよ?確か四十年くらい前って言ってたかな」

「あー…。それウチらや」

「……なんか最近驚くのが馬鹿馬鹿しくなってきたよ」

「あっひゃひゃひゃっ!いい傾向やんな!それウチらが今まで他人にされてたことや!」


 言われてみれば確かにそうかも?

 リードなんかは特にその傾向が強い。

 以前クアバーデス侯爵領にいた時よりも遥か強くなっているのに、最近ではリードもあまり驚かなくなってきた。

 ユーニャも「セシルだもんね」の一言で片付ける始末。

 なるほど、みんなこんな気持ちだったんだ。

 ともかく、それは置いておいて。


「四十年前にクドーと二人で?その時は冒険者だったの?」

「せやで。というか今もなんやけど…年齢が年齢やろ?同じギルドカード使ったら大変なことになるやん?」


 確かに普通の人間なら九十歳にもなれば動くこともままならないのに、アイカもクドーも外見は若いままだ。

 仮に登録の時点で十代だったとしても四十年も経てば五十歳。

 若い外見では流石におかしい。

 下手をすればギルドカードの窃盗や貸し出しをしたとしてギルドから処罰される。


「あの時二人でなんとかここまで来てダンジョンの壁を破壊したのだが魔物の大群に襲われた。かろうじて逃げ切ることが出来たものの、二人で採取しながら魔物と戦うのは無理だと判断したんだ」


 二日前に二人から聞いた話と同じだ。

 確かにこの階層の魔物の大群となれば二人だとかなり厳しいものになる。

 せめて自分達と同等以上の仲間が出来るまで無理に挑戦することは止めたらしい。


「で、ようやくセシルと出会えたっちゅうわけや」

「そっか。それなら二人の期待には応えないとね。でもこの階層でいいの?」

「…可能であれば深層ほど良い『迷宮金』が精製出来るから下を目指したい所だな。だが無理はさせられない」


 クドーの言葉にアイカも申し訳無さそうな顔をしながらも頷いている。

 二人の私への心遣いは本物だと思う。

 折角会えた転移転生者の仲間と、ずっと言ってくれている。

 それはここ一年ずっと変わってない。

 もしも二人が私を囮にして迷宮金だけ採取して逃げることになっても私は二人を恨んだりしない、と思う。だって。


「剣魔法 光剣繊(レーザーブレード)


 かなり強めに魔力を込めた紫色の光線を放つと遠くから近寄ってきていたダチョウのような魔物の首がボトリとその場に落ち、頭を失った胴体はそのまま少し走り続けた後、慣性に従って前方へと滑るように倒れた。

 この辺りに来てからよく出会う魔物で胴体から首が二本出ている。動きも速く、体毛による防御力も高いので二人は苦戦していた。


「私なら大丈夫。クドーに貰った剣もあるしさ。何よりもっといっぱい宝石欲しいから下に行こうよ!」

「…この戦闘力は恐れ入るな」

「あひゃひゃ!ええね、セシルらしくて!クドー、こうなったら行けるとこまで行こうやないか!」

「そう、だな」


 アイカはいつもの底抜けに明るい笑顔で、クドーはいつもの呆けた顔だけど少しだけ微笑んで。

 私達はこのまま進んで更に下層を目指すことにした。


「そういえばさ、このダンジョンって何階まであるんだろ?」

「ん?言ってなかったなぁ…全部で百一階層みたいやで」

「百『一』なの?」


 なんか妙に中途半端な気がしてもやもやする。


「多分百層の迷宮層の先がダンジョンマスターの部屋なんやないか?」

「あぁ、ダンジョンを管理してるっていう?それってどういう人なの?というかそもそも人なの?」


 以前クレアさんから聞いた話を思い出してみると確かにそんなことを言っていた気がする。

 どういう「モノ」なのかまでは聞いてなかったけど。


「ダンジョンマスターはどんな生物とも意志の疎通が出来、またダンジョン内を好きなように改変することも出来る。魔力とは違う力でそれらを管理していて階層の数や配置される魔物も自由なのだそうだ」

「ちなみに人型を取ってることが多いらしいで。どっかでゴーレムみたいなんもいたって聞いたことあるなぁ」

「ふぅん…。じゃあ百層のボスを倒したらダンジョンマスターと連戦ってこと?」

「ちゃうちゃう。ダンジョンマスターの戦闘力は無いようなもんらしい。その代わり強い魔物を使って自分を守らせてるんや」


 とりあえず聞いた感じでは百層のボスを倒せば終わりみたいだ。折角だしそこまで辿り着いてみたいね。




 九十層のボスはドラゴンだった。

 雑魚が蜥蜴とか蛇とか爬虫類ばっかりだったから嫌な予感はしてたけど、まさか異世界名物ドラゴンと本当に対面することになるとは思いもよらなかった。


「うん…なぁセシル?これ逃げてもええんとちゃうか?」

「却下します。絶対倒す!」


 ドラゴンから出る魔石は他の魔物の魔石よりも大きい物が多く、何よりも綺麗な物が多い。

 一般的には込められている魔力も大きいので非常に価値が高いとされているけど、私にとっては宝石の一つでしかない。

 アイカは逃げ腰だけど、この感じならegg持ちの魔王種と同じくらいかやや劣るくらい。

 勝てない相手じゃない。

 しかしいつまでも観察させてくれるような相手でもなかった。

 私達がいつまでも動かないことに痺れを切らせたドラゴンは大きく息を吸い込み始めた。

 これってアレですか?


「アカン!ブレス攻撃が来る!」

「やっぱり?!くっ!」


 こちらはアイカとクドーもいるので私一人だけ回避するわけにはいかない。クドーは間に合ったとしてもアイカの瞬発力ではブレスが届くより早く安全域に退避する事は出来ないだろう。

 大慌てで氷魔法の魔力を放出しながら前面に広げたところでそれはきた。


ゴオオォォォォォォォッ


 まるで飛行機のエンジンのような轟音が駆け抜け、同時に炎ではなく超高温のガスバーナーのようなものを浴びせられた。

 氷魔法の魔力を盾のように広げているとは言え、そのブレスは指向性のある炎のレーザー。放射状に広がる炎のブレスを使う魔物はこのダンジョンにもいたけどこんなに凶悪な性能のブレスは初めて。

 防いでいても徐々に押されて私の魔力を突き破って熱が手に伝わってくる。

 ここで諦めたら全員仲良く黒焦げ、なんてかわいいものでは済まない。あっという間に炭にされてしまうだろう。

 しかしドラゴンの肺活量は非常に多く一分以上経ってからようやく収まった。


「あっぶなぁ…セシルがおらんかったらヤバかったなぁ…」

「つっ…ちちちぃ……逆に私一人だったら避けてたと思うよ」


 さすがの私も今のブレス攻撃は完全に防ぎきることが出来ず魔力を放出していた両手に火傷を負ってしまった。

 手首の近くまで皮膚が捲れ上がってズキンズキンと痛みが脳に突き刺さる。

 戦帝化を使っていないので自己修復では時間が掛かりすぎるため回復魔法を使って傷を癒やす。このくらいの傷なら瞬時に元通りになる。

 それにしてもあんなの連発されたら近寄ることも出来ない。

 なのにドラゴンはそれをすることもなく、私達が動き出すのを待っているようだ。


「…なんでブレスを連発してこないんだろ?」

「あんなん流石のドラゴンかて連発なんて出来へん。あのブレス攻撃かて魔法に似たようなもんやからな」

「あれ魔法なの?!」

「似たようなもんや。せやけど並みのドラゴンならせいぜい一日一発でもこの竜王種のレッドドラゴンなら十分に一発くらいは撃ってくるかもしれん」


 竜王種って…。

 魔王種以外にもそんなのがいるんだね。

 さて、それはそうとやられた分はきっちり仕返ししなきゃ。

 私は右手でミスリル銀合金の短剣を抜いてレッドドラゴンに向かって走り出した。


「あ!こらセシル!」


 後ろでアイカが叫んでいたけど気にせずに駆け続ける。

 レッドドラゴンの真下まで辿り着くと魔闘術で短剣に魔力を流す。以前使っていたものとは違い、クドーが本気で作ってくれたこの短剣はかなりの魔力を流したとしても破損することはない。

 さすがに全力で魔力を込めてしまうと破損してしまうこともあるらしいので、せいぜい七割くらい。それでも以前使っていたクドー曰く失敗作の短剣に比べれば倍以上。

 そしてそれは攻撃力に加算どころか乗算される。

 だが。


ザグンッ


 私の振り上げた短剣はレッドドラゴンの表皮に食い込んだところで止められた。

 多大な魔力を込められた短剣は魔力によって刃が肥大化していたため、止められた後魔力の光が消えて表皮に刀身が捕らわれることなく開放されたのは僥倖だ。


「ちぇ…。さすがに硬いなぁ」

「バカセシル!はよ戻ってこんかい!」


 後ろからアイカの怒鳴り声が聞こえてきたのでレッドドラゴンの振り上げた前足が私を押しつぶすより早くバク転を繰り返して先ほどの位置まで戻った。


バガン


 アイカの隣へと並び立ったのと同時にレッドドラゴンの前足がさっきまで私がいたところへと振り下ろされ、ボス部屋の床に長い罅が走った。

 このボス部屋はegg同士の戦闘領域と同じように周辺保護が効いてるらしく、ほとんど壊れることはない。

 だというのにこんな風に床に罅を入れるなんて。

 現に私ですら精霊の舞踏会(エレメンタルダンス)でも床の一部を破損させた程度だった。

 つまり防御力も攻撃力も今までのボスとは比較にならないほど強力だってことになる。

 これはちょっと気を引き締め直さないといけないね!

今日もありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ここでeggを思い出させるって事は、100階のボスはegg持ちなのでしょうかね? [一言] 連投? 失礼します わーいレッドラさんだー。 ブレス時に口を狙うとか、ノドをつまらせる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ