第148話 待望の物とステータス
目の前にあるものに絶句している。
人は本当に欲しかったものを手にした時、言葉を無くすものだと知った。
どんなにお金を積んでも手に入らない。
諦めるしかないと思っていたものが手には入った喜びも言葉では言い表せられない。
まさか、自分の手で触れることが可能になるとは思っていなかった。
この日のために用意した真っ白な手袋を用意した。
まるで新雪が太陽に照らされて煌めいているような美しさ。
そう、これだ。
これを私は求めていたんだ。
零れる涙を止めることも出来ず、また拭うことも忘れ、ただ見入る。
「ダイヤモンド…」
芸術としか言えない完璧なラウンドブリリアントカットが施されたダイヤモンドが、私の手の平の上で輝いている。
「…セシルは宝石が大好きなんだな」
「…うん。こんなキラキラしたもの、ずっと私には無縁だと…前世ではそう思っていたから」
テーブルを挟んで反対側に座るクドーは私の様子にそれだけを言うと後はただ黙って見守ってくれている。
しかしあまりにずっと眺めていたらさすがに申し訳無いと思い、ようやく我に返ることが出来た。
「最高の出来だよ。ありがとうクドー」
「いい。そこまで喜んでもらえたなら職人冥利に尽きる」
一年と少し前、クドーに宝石のカットをお願いして練習用にと水晶やアメジスト、サファイア、それとダイヤモンドをいくつか渡しておいたものを今日受け取りに来たのだ。
元々今日はただ少し寄るだけのつもりだったけど、クドーからいきなり渡されたものだからびっくりしてしまった。
でも完成度は高いどころか完璧。
やっぱりダイヤモンドはブリリアントカットが一番似合う。
これを再現するまで頑張ってくれたクドーには感謝してもし足りないくらいだ。
最初テーブルカットから始めて僅か数ヶ月でここまで技術を習得してくれたわけなので、その努力は本当に頭が下がる。
この世界で主に流通されている宝石に施されているのはせいぜいがカボションカットまで。これは前世で言えば紀元前まで遡るほど古代の技術。
現代では精密な機械も発達したためにいくつもの面を作ることが出来るブリリアントカットが可能になったわけだ。
ダイヤモンドが美しく輝くためにいくつもの面が必要になるけど、ただ面があれば良いわけではなく内部に入り込んだ光が複雑に反射することによって産まれる。ダイヤモンドとは宝石そのものも一つの芸術品ではあるけど、カットによって現れる光の芸術品でもあるのだ。
紀元前のカボションカットやこの世界のカットではこのような芸術品に到達していない。
だからか、この世界ではあまりダイヤモンドの流通量は多くない。魔石としては非常に優秀ではあるものの、採掘量が少ないことや魔物からも魔石は採集出来るためだと思われる。
多少の流通はあるものの、ダイヤモンドの価値は低く水晶より高いけど一般的なアクアマリンやトルマリンよりも安い。
この光の芸術を未だ見ることも叶わないなんて寂しすぎる。
それにしても…素敵だ…。
はぁ…このダイヤモンドの光に抱きしめられたいくらいだよ。
「…何やら欲望丸出しの顔になっているところ申し訳無いが…」
「ふぇっ?!」
「…俺からも揃えてもらいたい素材がいくつかあるとこれを引き受けるときに話したのは覚えているか?」
「うん、勿論だよ。任せて!どんなことをしても手に入れてくるよ!」
「…いや、セシルだけに任せるつもりはない」
少しだけ考える素振りをしたクドーは徐に立ち上がってお店の奥へと入っていった。
しばらくして出てきたクドーはいつもの作業服ではなく、動きやすい服にいくつか急所を守るような防具を身につけていた。
「俺も行く」
「…え?クドーが私と一緒に?」
「あぁ。俺が欲しい物は俺だけでもセシルだけでも手に入れるのは難しい」
「…何を取ってこさせるつもりなの…」
「ちゃうで。クドーが欲しいんはそないに変な物やあらへん。ただ手に入れるんが難しいだけや」
「アイカ……いたの?」
クドーが店の奥から出てきたと思ったらそのすぐ後ろからアイカも動きやすい服装の上にローブを羽織って出てきた。
荷物は無いけどまるっきり旅装にしか見えない。
薄暗い店内に数個しか置かれていないランプでは二人の表情は見えにくいけど、声からは楽しそうな雰囲気を感じる。
場所自体はそんなに難しい場所では無さそうだ。
「クドーがな、『ようやく手に入れられる』言うからウチかて行かなアカンやろ」
そう言われても私は今からどこに行くかもわかっていない。
一体どこに向かうのだろう?
「今から行くんは王都管理のダンジョンや。ウチらだけでも行けるんやけど、クドーが欲しい物はウチらだけやったら無理やねん」
「…どういうこと?」
「俺が欲しいのは『迷宮金』だ。ダンジョン下層の壁に使われている素材でその場で採集しようとするとダンジョンが攻撃されたと勘違いして大量の魔物が襲い掛かってくる」
「……大量ってどのくらい?」
「さぁなぁ…?ずっと前にウチとクドーだけで試した時は数十匹くらいやったで」
数十匹くらい、か。それなら何とでもなりそうだけど?
私が首を傾げたことにアイカは少しだけムッとして声を大きくした。
「あぁっ?!その顔は『なんで数十匹くらい』思うてるやろ?!ダンジョン下層の魔物はほとんどが脅威度Aの化け物ばっかなんやで?しかもウチとクドーの二人で作業せなアカンからどうにもならんのや」
「なるほど…それじゃ確かに無理だね。つまりその『迷宮金』を二人が採集してる間の護衛をすればいいんだね?」
「そういうことだ。俺達だけならセシルも遠慮せずに全力でやれるだろう?」
「全力って……」
クドーの言葉にさすがに少し躊躇した。
オーガキングと戦った時だって全力を出したのは間違いない。
けど他の人に見られているからと最初から全力を出していたわけじゃない。
一人でギルドマスターの依頼をやっている時に脅威度Aの魔物を狩る時は最初から全力だから何も気にせずにいられたけれど…。
そうして私が戸惑っていることを察したアイカはツカツカとすぐ近くまで歩いてきて顔を覗き込んできた。
「なんや?まだウチらが仲間や言うんを信じられてないんか?」
「…そうじゃないけど……」
「俺もアイカもセシルのことは信じるに足ると思ってる」
そこはもう少し言葉を加えてくれた方がフォローになると思うけど、これがクドーなりのフォローなんだろうね。
「しゃーないなぁ…。ホンマはクドーの欲しい物が手に入ったらと思ってたんやけど…クドー」
アイカはローブを一度脱ぐと近くの椅子にふわりと掛け、そのまま私の右手を取った。
最近になってようやく背が伸び始めてきたので、今ではアイカの鼻くらいまで達している。まだまだ成長期だからアイカと同じくらいにはなりたいところ。
そんなアイカに手を繋がれると前世で園にいた頃、年上の姉達に同じようにしてもらった気分になってくる。
そしてアイカに呼ばれたクドーも近付いてきて私の左手を取るとアイカとクドーも手を繋いだ。三人で輪になって手を繋ぎ合ってる状態になるとアイカが満面の笑みを浮かべた。
「今からおもろいもん見せたるからな。勿論ウチらもおもろいもんが見れると思うてるからな」
「…え?なに?」
「行くで、クドー」
「あぁ。『情報共有』」
クドーがスキルらしきものを使ったと同時に三人を繋ぐ薄い緑色の靄が生まれた。
その靄に包まれていると何だか三人の間の境界が曖昧になってくるような変な感じがする。
「今からやで?『神の眼』発動!」
「…は?え?えぇぇぇぇっ?!』
アイカもスキルのようなものを使ったと同時に彼女の瞳が銀色へと変わる。すると私の前にいつもの人物鑑定をした時の白い半透明のボードが現れた。
私は人物鑑定を使っていない。勝手に現れたのだ。
そこには当然私のステータスやスキルが記載されており、最近見ていなかった自分の人外具合が二人に露見してしまった瞬間だった。
セシル
年齢:13歳
種族:人間/女(管理者の資格)
LV:306
HP:71,961
MP:642,580k
転生ポイント:897,226
スキル
言語理解 8
補助魔法 MAX
付与魔法 MAX
威圧 MAX
投擲 MAX
弓 MAX
片手剣 MAX ⇒ユニークスキル超剣技へ融合進化
大剣 MAX ⇒ユニークスキル超剣技へ融合進化
二剣術 MAX ⇒ユニークスキル超剣技へ融合進化
槍術 8
短剣 MAX ⇒ユニークスキル超剣技へ融合進化
小剣 MAX ⇒ユニークスキル超剣技へ融合進化
棒術 7
格闘 MAX
魔闘術 MAX
人物鑑定 9
道具鑑定 9
スキル鑑定 MAX
宮廷作法 9
料理 6
ユニークスキル
炎魔法 MAX
氷魔法 MAX
天魔法 MAX
地魔法 MAX
理力魔法 9
空間魔法 MAX
超剣技 1 new
魔人化 MAX ⇒レジェンドスキル戦帝化へ進化
隠蔽 MAX
探知 7
異常無効 7
四則魔法(下級) MAX ⇒レジェンドスキル四則魔法(上級)へ進化
錬金術 7
魔道具作成 9
レジェンドスキル
魔力闊達 6
聖魔法 4
邪魔法 4
四則魔法(上級) 1 new
新奇魔法作成 8
戦帝化 1 new
egg -
神の祝福
経験値1000倍
タレント
転移者
転生者
剣闘マスタリー
格闘マスタリー
魔ヲ極メル者
理ヲ修メル者
狙撃手
錬金術士
魔工技師
蛮勇
突撃者
鉄壁
残虐
憤怒
ほらぁ…最近また妙に強くなったなって気がしてたんだよっ?!
四則魔法(上級)とか戦帝化とかは試してなかったけど、明らかに前より強力になってそうじゃない?
…四則魔法の鉱物操作がどうなったかは気になるけど。
超剣技とかも名前がストレート過ぎ。なんなのもう…。
eggも後二つで何か起こるんだろうけど最近は遭遇していないのでこれは変わらず。
タレントの理ヲ修メル者はこういうことらしい。
理ヲ修メル者:万物の変化を知る者。成長加速、反応加速、想像具現化。
…いや、すみません。よくわかりません。
これは四則魔法(上級)を獲得した時に得たタレントで本当につい最近だったから未だにどういう効果があるのかはわかっていない。
自分のステータスを確認するだけでかなり精神を消耗してしまったけど、ふとステータスボードから視線をズラすとアイカとクドーも私のボードをガン見していた。
というか、目が見開いてるよ?
今日もありがとうございました。




