第133話 今後の目的
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今後もよろしくお願いします!
二年振りに再会したファムさんと一緒に王都クアバーデス邸の使用人用食堂にやってきた私達はあまり多くないテーブルの中でも端の方へと座った。
場所に意味は無いけど、他の人の目を気にせず彼女と話したかった。
席に着いてすぐ私達はお互いの近況を話し合った。
貴族院での講義や訓練のこと、リードのこと、新しい友達のこと、冒険者としての活動のこと。
そしてファムさんからもクアバーデス侯爵領のことや領主館での出来事を教えてもらった。
食事はまだ摂らず、私達はお茶だけ飲みながらしばらく話し込んでいると突然ファムさんは私をじっと見つめてきた。
「セシル様…大きくなられましたね…」
「二年経ったからね。あと三年で成人だよ」
この国では十五歳で成人となる。
貴族様達の間では成人の儀式があるようだけど、私のような平民はただお祝いをするだけだ。
でも貴族院にいれば卒業式という儀式はあるのでそれを代わりにしてしまえばいいかもね。
「最初にお会いした時はまだ八歳でしたね。小さいのにしっかりしてて、リードルディ様の武術の家庭教師で、見たこともないような料理を作って、ナージュ様のお手伝いも出来て、新しいこともどんどん学んでいって…」
「…ファムさん?」
「なんだか毎日同じ事の繰り返しをしている私からはとても遠いところにいるような気がしてしまいます」
言いたいことはわかるけど考え過ぎでしかないよね。
でもそのことをただ口にしたところで何の意味も無いこともわかっている。
すっかり暗くなった外の景色を眺めても何も見えないのに、彼女はどこか一点を見つめるようにその視線を外さなかった。
「私が成長して大人になっても、絶対変わらないことが最低でも一つはあるよ」
私の言葉にファムさんはようやく視線をこちらに戻してきた。
既に食堂内に他の人の姿は無く静まり返っている。
そこでお茶を一口飲んでカップを置くとその音がやたら大きく響いた気がした。
「私が大人になっても、ファムさんのことはお姉さんだと思い続けることだけは変わらないよ。私甘えん坊だから覚悟してね?」
「……ふふっ。セシル様が甘えてきたことなんてほとんど無いじゃないですか」
「私からしたらファムさんには相当甘えてるよ。今もぎゅってされたいし、歩くときはいつも手を繋いでいたいし、毎日一緒にお風呂に入りたいよ」
「お風呂は私も毎日セシル様と入りたいです!」
お風呂の話題を出したことで今まで落ち着いていたファムさんがぐわっと身を乗り出して食いついてきた。
その仕草にびっくりして私も固まってしまったけど、ファムさん自身も驚いた様子で顔を真っ赤にしてしまった。
「…ぷ。あはははっ!ファムさんは相変わらずお風呂好きなんだね」
「もぉぉ…ふふ、あははは。セシル様笑わないで下さいよぉ」
「だってぇ…あははは」
「ふふ。じゃあご飯を食べたら一緒にお風呂に入ってくれますか?」
「勿論いいよ。私も髪洗ってほしいな…お姉ちゃんに」
「……はふぅ……」
「お姉ちゃん」という言葉に過剰に反応したファムさんはさっきよりももっと顔を赤くしてしまった。
所謂「ぼんっ」という音が聞こえてきたような気がするほど、一気に真っ赤になった。
「セシル様………も、もう一回お願いします…」
「…お姉ちゃん?」
「…最高です…。お姉ちゃんこれからも毎日頑張れそうです…」
溶け落ちてしまいそうな表情をした後、何やらボソボソと決意をしているような言葉が聞こえたけどスルーしてあげるのが妹としての役目よね?
ひとまずこのままではいつまでも食堂で姉妹ごっこを続けてしまいそうなので私達はようやくモースさんの作った食事を運んできてもらうことにした。
モースさんの料理を堪能した私達はそのまま浴場へと向かった。
ちなみに料理は私が提供したレシピばっかりだったので特に目新しいものがあるわけでもなく普通に美味しかった。美味しかったけど、私がいるってわかってるならもう少し変えてくれてもいいのにね。
メニューはキノコとベーコンのクリームパスタとパンケーキだった。
パスタは久々に食べたので満足は満足だけどね。
「セシル様、石鹸やシャンプーなどはお持ちですか?」
「うん、ちゃんと持ってるよ」
ファムさんは飛び跳ねそうな足取りで着替えを持ったまま歩いている。
浴場はそう遠いわけではないからすぐ着くのに、その短い道のりですら楽しみを隠しきれていない。
実にお風呂好きのファムさんらしい。
石鹸とシャンプー、コンディショナーは私の腰ベルトに入っている予備のものだけど使ってしまうことに問題はないし、そのままファムさんに渡す予定だ。
たまには作らないと私も作り方を忘れてしまいそうだし、このあたりで在庫を吐き出してしまおう。
「あぁ…久し振りのセシル様との入浴!」
「そんなに楽しみなの?」
「はいっ。セシル様がいらっしゃらなくなってから領主館の浴場はまた汚れが出てきましたし、温いお湯に浸かっても幸せな気分にはなれませんもの」
「気持ちはわかるけどね。あ、ここだね」
話しながら歩いていれば王都クアバーデス邸の浴場は私達にあてがわれた客室からはすぐだ。
浴場は既に誰も入っていないようで私達の貸切状態。
脱衣場で腰ベルトから石鹸などを取り出し、貴族院の制服を脱いでいく。
最近はようやく身体が女らしくなってきたので、そろそろ女の子の日を迎える事になるだろうね。
それだけはちょっと面倒臭い。
前世ではもう慣れてしまっていたけど、あれから十年以上無かったから楽で良かったのに…。
「…セシル様…少し胸が出てきました?」
「うん、ちょっとだけね。ファムさんのようにはいかないけど」
「ふふ…きっともうすぐですよ。でも私は今のセシル様くらいが羨ましいです」
もうすぐ、かねぇ…?
というか、「今の」ってどういう意味?
……この胸かっ。
相変わらず巨大なメロンを抱えているファムさんには持たざる者の気持ちはわかるまいっ。
でもなぁ…イルーナも大きくなかったし…はぁ。
少しは成長して嬉しく思っていたのにその気分も急降下してしまい、溜め息をつきながら笑顔のファムさんと並んで浴場へと足を踏み入れた。
王都クアバーデス邸の浴場は領主館の浴場ほどの広さはないものの、同じように数人は入れそうな広い浴槽と二人は並んで体を洗えるスペースがあった。
掃除も行き届いており水垢が気になるようなことはない。
けど折角久し振りにファムさんと入浴するのだし、もっと綺麗なお風呂に入るのも良いよね?
「聖浄化」
洗浄よりも強力な浄化作用まである新奇魔法を使うと浴場全体の汚れがあっという間に綺麗になっていき、角にあった黒ずみや僅かな水垢のザラザラした感触すら無くなってしまった。
「…相変わらずセシル様と一緒だと普通の生活に戻るのが億劫になってしまいそうです」
「うん?…久し振りにファムさんとお風呂入れるからと思って頑張ってみたんだけど…余計だった?」
「まさかっ。そんなことあるわけありません。さぁ、早く入りましょう」
ファムさんは自分と私に掛け湯をすると、先に自分が浴槽に入ってから私の手を引いて自分のすぐ近くに招いてくれた。
彼女の隣に腰掛けると以前と同じように熱操作でお風呂の温くなってしまったお湯を少しずつ温めていく。同時に力操作で水流も作ってかき混ぜていけばどんどんお湯は温かくなっていき、少し熱いくらいのちょうどいい湯加減になる。
「このくらいでいいかな?」
「はい…あぁ…とっても良い気持ちですぅ…」
蕩けそうな表情のファムさんを微笑ましく眺めながら私も久しぶりの広いお風呂を堪能する。
貴族院の寮にももちろん湯船はあるのだけど、あそこはどうしても狭く作られているのでこんな風に両手両足を伸ばして入れるようなお風呂はやっぱり嬉しい。
「そういえば…セシル様。リードルディ様はその後いかがですか?」
「リード?うーん…相変わらずかな。私が本気を出すところにすら到達してないから、このままだと卒業までに私に一撃入れるのは難しいんじゃないかなぁ」
「…相変わらず剣で語るセシル様なのですね…」
「え?」
「いえ、なんでも。でしたら貴族院卒業後はどうなさるのですか?」
卒業後、か。
今のところは冒険者としてやっていくだろうことは確定してるものの、これと言って目的があるわけじゃない。
大まかなものとしては、一つ私のステータスに出ている転生ポイントとは何なのか調べたいということ。
二つ、世界中の宝石を見てみたいということと出来れば手に入れたい、それもたくさん。
三つ、その宝石をいつでも堪能出来るような本拠地のようなものを手に入れたい。
四つ、ユーニャとお店をやる。
あれ?思ったよりも目的あったね?
他にもeggのこととか気になるけど別にそれは解明することを目的にすることじゃないし、冒険者を続けていればそのうちまた遭遇することは絶対にあるだろうからね。
「とりあえず、冒険者としていろんなところに行ってみるよ。気になることもあるしね。でも、クアバーデス侯爵領には家族も友だちもいるからちょくちょく帰ってくるつもりだよ」
「…そうですか…」
「心配しなくてもちゃんとファムさんにも会いに来るよ」
「…そう、ですね。楽しみにしています」
「あ、そうだ。ファムさんこそナージュさんとはどうなの?」
「えっ?!あ…いえ、私はこれと言って報告するようなことはなく…」
私が問いかけるとファムさんはお風呂に入って火照った頬とはまた違う染め方をした…気がする。
明かに動揺しているし、これは嘘だな。
絶対何か隠している。
「ふーん…。ナージュさんに昼食を運ぶのはファムさんの役目のはずなのに?」
「なっ?!なんでそれをっ?!」
「私がそうしてってクラトスさんに言ったから」
「~~~~~~~っ!」
ファムさんの疑問に私が間髪容れずに答えると、彼女は胸についた二つのたわわな実りをぶるんぶるん震わせながら両手でぽこぽこと私を叩き出した。
そんなに照れなくてもいいのに。
「痛い痛いってば。ファムさん、やめてぇ」
「もー!もーもーもーっ!私毎日ナージュ様の執務室に入る度におかしなところがないか確認してすっごく緊張してお会いしてるんですよっ?!」
「あはははははっ。いいじゃない。ナージュさんだって毎日ファムさんに会えて嬉しいと思ってるはずだよ」
「…そう、なのでしょうか?」
「当たり前でしょ。毎日こんな綺麗で可愛い女性が自分の食事を持ってきてくれて嬉しく思わない男なんていないよ。ていうか、感謝してなかったら私がナージュさんを殴りに行く」
「やっ、やめてくださいっ」
必死になってナージュさんを庇おうとするファムさんを見てるのは面白いけど、あまりからかうのも可哀相だ。
笑いながら立ち上がると私は持ってきた石鹸を用意して、洗い場へ行くとファムさんも呼んで体を洗い始めた。
お風呂から上がって二人で客室のベッドに入ってからもその話は後を引き、何とか聞き出したのは最近はナージュさんと一緒に自分の食事も用意して二人で食べるようになってるんだとか。
なかなかの進展具合です。ご馳走様!
今日もありがとうございました。




