第132話 お礼をいただきました!
風邪で寝込んでいました。
ふと目が覚めたので投稿します。
針のむしろ状態でお三方に挟まれているため私のメンタルがゴリゴリ削られていく中、話は続いていく。
「しかし見事なものだな。本来脅威度Aと言えばAランク冒険者パーティーが死闘を繰り広げて討伐するものだ。Sランクともなれば話は違うが、セシル殿の戦闘能力は既にSランク相当だろう」
「脅威度Aの魔物とは言えピンからキリまでいるのは確かですが、何体かはほぼ一撃で仕留めているとギルドマスターのレイアーノ・ノミキス準男爵から聞いていますしね」
「加えて、骨折した腕や足をあっと言う間に治療してしまうほどの回復魔法か。本来なら教会に所属している連中にしか…いや、奴らとてここまでの能力はないだろうな」
ゴルドオード侯とベルギリウス公から賞賛されているような言葉が続いているけど、これって暗に説明しろって言われているようなものだよね。
説明しようにも出来ないけど…さて、どうやって切り抜けよう?
「セシル、この二人はこんなことを言ってお前に説明させようとしているようだがそうではない。私達は王国の貴族としてお前の能力を手放したくないのだ。そして万が一にも敵対することは避けねばならん」
「敵対、ですか?」
「あぁ」
クアバーデス侯が珍しく真面目な顔で言っているのに私はそれが理解出来ずに首を傾げた。
私の能力を知って囲い込みたいのはわかるけど、敵対とはどういうことなのだろう?
「ザイオン、そんな言い方では伝わるものも伝わらないぞ。セシル殿、恐らく君の戦闘能力は王国内でも三本の指に入るだろう。だからこそ君が他国に行くようなことや何かしらの要因があって王国に弓引くようなことがあっては困るのだ」
「…それはわかりますけど、私はりょ…クアバーデス侯がちゃんと家族や村の人達を蔑ろにしないと約束してくれてる以上は敵対しようとか思ってませんよ?」
「…そうだな。セシルの両親は私にとっても大事な友だ。今後セシルがどんな決断をしたとしても決して悪いようにはしないと約束出来る」
「なら、私がお三方の敵になるようなことはないと思います。勿論、無理矢理結婚させようとするなら話は別ですけど」
うん、これだけは絶対に釘を刺しておかないといけない。
第一、今のままのリードやババンゴーア様では弱すぎてちっとも魅力を感じないしね。
その言葉にお三方は皆目を丸くしているけど、そんな変なこと言ったかな?
「ふっ……ふははははははっ!そうかっ!リードルディはまだお前を落とせていないのかっ?!」
「ぬはははっ!ババンゴーアもだらしないなっ!今後もっともっと訓練に励むよう厳しく言っておかねばなっ!」
「ふふ…私のところは娘ですからその心配はしてませんがね。セシル殿、これからもミルリファーナと仲良くしてやってほしい」
「え、はいっ。ミルリファーナ様は私にとってもすごく大切な友達ですから!」
「あぁ、ありがとう。だが、君の足を引っ張るようなことがないようにあの子にも訓練に励むように言っておこう」
…どうやら私の能力についての説明は本当に不要のようだし、無理矢理結婚させられるようなことも無さそうだね。
弱い旦那様を私が守るなんて絶対お断りだよっ。
「セシルのその『自分より強い者としか結婚しない』という話は陛下にも伝えてあるからな。今後この国ではお前に勝つ者が出てこない限り結婚は出来ないと思っておけよ?」
「重ね重ねの御配慮感謝致します」
席を立ちカーテシーするとベルギリウス公もゴルドオード侯もただただニヤニヤと笑っている。
「こんな素敵なレディだと言うのに誰も口説き落とせないとはね」
「もう数年もすれば引く手数多だろうにな。無論、我等とて例外ではないだろう」
「あー……出来れば私第二夫人とかは嫌かもしれません…」
すっかりやる気になっていた場を盛り下げるように私が一夫多妻制を拒否すると「フラれてしまいましたね」と楽しそうに笑うベルギリウス公だった。
「さて、それでは次の話だな」
「…まだあるんですか…?」
「おいセシル。そうあからさまに嫌そうな顔をするな。従者失格だぞ?」
「ここは公式の場ではないんですよね?」
「…こいつ…。下手に頭が回るから質が悪いな」
それは腹黒領主の貴方にも言えることですけどね。
「いや、そう構えないでくれ。ただ先日の演習でミルリファーナを守ってくれたことに対する礼なのだから」
「うむ。ババンゴーアの不甲斐なさはこの際置いておくとしても、よく息子を死なせずに守ってくれた。改めて父親として礼を言わせてくれ。ありがとう、セシル殿」
「え、あ…。勿体ないお言葉です。身に余る光栄です」
突然の感謝の言葉に戸惑いながらもなんとか返事をして頭を下げるとお二人はソファーの脇に置いていた布に包まれた箱のようなものをテーブルの上に出した。
そしてその包みを解いて中の箱が露わになると私の口から「ふわぁ…」という感嘆が漏れた。
その箱はそれぞれの貴族家の紋章が入った豪華な装飾を施されており、それ一つだけでもかなりの逸品であることがわかる。
なによりも金や銀を細く加工して模様を描き、随所に宝石を散りばめられているのでその箱を私の枕にしたいくらいだ。
「聞けばセシル殿は我が家の御用商人であるヴィンセント商会に足繁く通っているそうだね?」
「…あ、はいっ。ヴィンセント商会のカンファさんにはいつもお世話になっています」
危ない。箱に見とれて答えないところだった。
いくら非公式とは言え、さすがにそれは無礼が過ぎる。
「そのカンファにセシル殿に対する礼をどうするか尋ねて用意させてもらった。受け取ってほしい」
そう言ってベルギリウス公爵は箱を開けて中身を私に見せてくれた。
「…は……ぁ…」
「どうだい?全て一級品であることは間違いない」
そして箱ごと私の方へ押し出してきたので私は震える手でその箱を掴んで中身をしっかりと確認する。
大きく濃い色のアクアマリン。
濃いイエロー…ではなくゴールデントパーズ。いや、僅かに薄いピンクがかったこれはまさかのインペリアルトパーズ?
更にもう一つ。やや小振りではあるもののエメラルドも。しかしエメラルドにしては色が濃いような?…ひょっとして…ツァボライト?グリーンガーネットかっ?!
どれもこれも希少な宝石ばかりで目の前にあること自体信じられない。
しかも、これをいただけると?!
夢じゃないよね?
「私もベルギリウス公爵に話を聞いていたので、王都邸にあるもので用意させてもらった」
ゴルドオード侯爵が箱を開けると今度は透明度が高くややピンクがかったルビーとやや紫がかったサファイアが、それぞれゴルフボール程度の大きさのものが出てきた。
どちらもゴルドオード侯爵領で産出されるもので最高級品であることは間違いないだろう。
しかしこの場で出されるのはまずいかも…ずっと眺めていたいくらい綺麗で私の視線と心を掴んで離してくれない。
このままだとあられもない顔を晒してしまうかもしれない。
そんな弱味を見せるような真似は絶対に避けたい!
「…最高でした。これを本当に戴いてよろしいので?」
「勿論だ。受け取って貰えなかったらカンファには恥をかかされたと言ってしまうだろうね」
「うむ、私も王都邸の者達に厳罰を与えねばならんな」
「そんなことしないで下さい。ありがとうございます、ご馳走様です」
全員が「ご馳走様?」と首を傾げているけど気にしない。
こんなの見せられたら私の宝石鑑賞タイムが捗りすぎて大変だよ。今からうずうずしてくる。
でも今は何とか表情を崩さずにいられた自分を何よりも褒めてあげたい。
よくやった私!
ありがとう私!
「さて、それじゃ私からも礼をしておこう。クラトス」
クアバーデス侯がクラトスさんに声を掛けると彼はドアを開けて一人の女性を招き入れた。
「あ……ファムさん!」
「セシル様!」
ドアから入ってきたのは二年前に別れたまま会っていなかったファムさんだ。
彼女はクアバーデス侯以外にも大貴族がいるというのに走り出し、私に飛びついてきた。
大人の女性としてはちょっとはしたないと思うよ?
…久し振りに会えてすごく嬉しいけど。
「セシルはファムを姉のように慕っていたからな。たまには姉妹水入らずで過ごすのも良かろう?」
「…ありがとうございます」
ファムさんはまだ私にしがみついたままだけど、クアバーデス侯は構わずに話し掛けてくる。
本来なら貴族様の前でやることじゃないけどファムさんもクアバーデス侯の使用人の一人だし、少しくらいのお目こぼしはあるということだろうね。
「ひとまず私達からの話は以上だ。今回はモースも一緒に連れてきている。久し振りに奴の料理を味わうといい」
「何から何まで…。ほらファムさん、そろそろ立って」
「…はい…」
私はファムさんを立たせると自分もソファーから立ち上がり、入ってきた時と同じように膝を折って礼をした。
「では、私はこれで失礼します。今回の件、過分な報酬をいただきまして誠にありがとうございました」
そう挨拶して立ち上がるとクラトスさんが何も言わずにドアを開けて私達を退室させてくれた。
知覚限界で私が退室した後にあのお三方が何を話しているか聞くことも出来るけど、敢えて止めておいた。
下手に藪をつついて蛇どころか竜でも出てきたら大変だしね?
「ではセシル様、王都クアバーデス邸内はご存知無いでしょうから食堂へご案内しますね」
「うん。よろしくね、ファムさん」
以前のように私達は微笑みあうと自然と手を繋いで屋敷の中を歩き始めた。
以前と違うのは屋敷だけではなく、なんとなくファムさんの顔が近い気がすること。
二年という月日の中で私もそれなりに成長しているということだよね。
あと三年。
そうすれば私もかなり自由になる。
もっと成長して今よりずっとたくさんの宝石を集めたいねっ!
今日もありがとうございました。




