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第131話 事情聴取?

 王都クアバーデス邸。

 都会嫌いのクアバーデス侯爵が王都に滞在するためにある屋敷。

 ちなみに領主様が王都に来るのは貴族会議がある時だけと噂されているけど実際その通り。

 その為この王都クアバーデス邸には使用人達が雇われているのに維持管理が主な仕事で、来客対応はかなり不安が残るという。

 これはナージュさんから聞いた話なので間違いはない。

 それはともかく今は貴族会議の時期ではない。

 にもかかわらずここにこうして呼ばれたということは侯爵が王都へと訪れていることは間違いない。

 問題は私が呼ばれた理由だ。クラトスさんからリードに伝えられた言葉はただ私にここに来いというもの。

 特に思い当たる節はないが、先日の演習の際にリードも相応の怪我をしたので護衛としての責務について問われるのか、それとももっと重大に受け止められて解雇となるか。

 とりあえず、こうして屋敷の前で考えていてもわからないので突撃あるのみだね。


ゴンゴン


 ドアノッカーを叩くとしばらくして内側からドアが開いてクラトスさんが出てきてくれた。


「こんばんは、クラトスさん。ご無沙汰しています」

「こんばんは、セシル様。ようこそお越し下さいました。ささっ、旦那様がお待ちしておりますのでこちらへ」


 クラトスさんは私を迎え入れると何も言わずに屋敷の内部へと案内してくれる。

 多分領主様がいる執務室とかに案内されているんだと思う。

 クアバーデス侯爵領にある本邸に比べたら狭い屋敷なのですぐに目的の部屋へと辿り着き、そこでクラトスさんがドアをノックして呼び掛けた。


「旦那様、セシル様がおいでになりました」

「あぁ、入ってくれ」

「どうぞ」


 ドアを開けて案内された場所は執務室ではなく、普通の応接室だった。

 今まで領主様が私と話すときは殆どが仕事の話だったので基本的に執務室で会うことばかりだったが、今回は違うらしい。

 何故違うのか、その理由は多分一緒にいる人達にあるのだと思う。

 向かって右側のソファーに領主様が座り、その対面には黒い短髪の体格の良いおじ様。とっても立派なカイゼル髭を貯え、威厳たっぷりの風貌をしている。鍛えられた肉体から感じ取れる気配からして相当な実力者であることは間違いないだろう。

 そして奥の上座に座っているのが綺麗な銀髪の男性。

 こちらは年齢不詳なところがあるけど、よく見るとほうれい線があるし領主様と同い年くらいなのかなと思う。

 ただ歳不相応の美形なのは間違いない。ちょっと線が細いので私の好みからは外れるけど、このまま歳を重ねても変わらないのではないかと思うほどのイケメンである。

 ちなみにこの中の好みでいえば左側のカイゼル髭のおじ様が私の好みかな?頼りになりそうなところとかとても良いよね?!

 領主様みたいな腹黒い人も嫌いじゃないけど、やっぱり女の子としては守ってくれそうな男性に惹かれます。


「領主様、遅くなりまして申し訳ございません。リードルディ様の従者セシル、参上致しました」

「ご苦労。疲れているところ悪いが明日には貴族院での講義が始まると聞いているのでな」

「ご配慮痛み入ります。ところで…」


 膝を折って領主様への挨拶を済ませると、私は視線を上げて少しだけ彷徨わせた。

 それを察した領主様も「紹介しよう」とまずは対面に座るおじ様を指し示した。


「こちらゴルドオード侯爵。セシルも名前は知っているだろう?」

「クアバーデス侯、貴殿は相変わらず雑な紹介だな」

「そう言うな。ここは公式な場ではないのだぞ?」


 おじ様はソファーに座ったままカイゼル髭を撫でながら私へと向き直った。


「セシル殿、今クアバーデス侯より紹介されたライオドーア・ゴルドオードだ。国王陛下より侯爵の位を賜っておる」

「ゴルドオード侯爵…ではババンゴーア様のお父上であらせられますか」

「あぁ。セシル殿のことは息子からも聞いている」


 …一体何を聞いているのだろうか…。

 思った以上の大物な上、何を言われてるのか気になって額に冷や汗が浮かんできた。

 そしてゴルドオード侯爵の紹介が済んだので次の人になるわけだけど…上座に座ってるということは…?


「それと、こちらはベルギリウス公爵」

「ザイオン…今ゴルドオード侯から言われたばかりだろう?」

「堅苦しいことは言うな。いい大人が女の子相手に形式ばった話し方をしても仕方ないだろう?」


 ベルギリウス公爵はやれやれと口に出して肩を竦めるとその落ち着いた雰囲気を崩さないまま自己紹介する。


「私はウィルフリード・ベルギリウスだ。現国王陛下のはとこに当たる。正確にはまだ公爵ではないが、来年継承することになっている」


 うわぁぉ…やっぱり?

 王族とかでなくて良かったけど、これまたすごい人が来たものだね。


「ベルギリウス公爵…ミルリファーナ様の…」

「あぁ、いつも娘が世話になっているね」

「はっ、私の方こそミルリファーナ様には大変良くしていただいております」


 畏まって挨拶しようとしている横で領主様…クアバーデス侯が手をひらひらとさせながら悪態をつく。


「やめろやめろ。私もセシルからそんな口調で話されたくない。いつも通りで構わん」

「ですが…」


 その言葉に私は視線を左側に走らせ、チラリとゴルドオード侯とベルギリウス公を見るが二人とも悪戯っぽく笑っているだけで助け船を出すつもりはないようだ。

 その真意がどこにあるかはわからないが、私も自分の雇い主からの言葉なので素直に従うことにした。


「では失礼して…。領主様、何の用ですか?突然こんなに偉い貴族様を連れて来られたら私だってびっくりするんですけど」

「あっはははは。セシルでも驚くことがあるのだな!それならこの二人を呼んだ甲斐があったな!」

「むー…」


 私が頬を膨らませて抗議してもクアバーデス侯は面白そうに笑っているだけでちっともこっちを見ようともしない。


「ザイオン、そのままでは話が進まないだろう?セシル殿、とりあえずそちらにかけたまえ」

「…はい。失礼します」

「クアバーデス侯の悪戯好きにも困ったものだな。セシル殿も随分手を焼いているだろう?」

「…それは私の口からは言えません…」

「ふふ、それは肯定としか捉えられないような言い方だな」


 この三人、どうやらそれなりの仲のようだけど一体何の集まりなんだろう?

 そもそもいい加減私が呼ばれた理由を説明してほしい。

 そういうものが顔に出ていたのだろう、ようやく笑いの収まったクアバーデス侯がクラトスさんに指示して全員のお茶を入れ直したところで「それで」と話し始めた。


「先日行われた王都近隣の森での演習の件だ」


 ここにいるメンバーからなんとなく察してはいたものの、いざ言われると私にも緊張が走る。

 それでもクアバーデス侯は楽しそうに笑っているし、他の大貴族二人も笑顔のままだ。

 私は全く楽しくないけどねっ。


「その演習の際にオーガとオーガロードが現れ、ベルギリウス公爵家のミルリファーナ嬢と従者カイザック、ミミット子爵家次男のキャハック卿と従者ギエンが襲われた」


 あぁ、あの時倒れてたのはミミット子爵家の次男だったんだ。誰なのかを確認してる暇も無かったし帰りも私はずっと気を張ってたからそれどころじゃなかったもんね。


「その後リードルディとセシルも合流し、これを撃退。しかしそのすぐ後に脅威度Aの魔物…恐らくオーガキングと思われる個体が出現。一度ミミット子爵家次男と従者、ミルリファーナ嬢は目的地へと向かうことで退避していた。その間に一度はセシルが討伐したと聞いているが復活し、不意打ちを受けてセシルが気絶。その間にゴルドオード侯爵家長男のババンゴーア卿とミルリファーナ嬢が再度参戦」

「本来ならババンゴーアに撃破してもらいたかったところだがな」

「リードルディ、ミルリファーナ嬢、ババンゴーア卿、カイザックの四人ではオーガキングの攻撃を凌ぐこともままならず絶対絶命の状況でセシルが戦線復帰し、これを撃破した。間違いないか?」


 どこからそんな詳しい話を聞いてきたのかクアバーデス侯は私の目をじっと見ながら当時の状況を説明している。

 多分誤りがないか私の表情から読み取ろうとしているのだろうけど、残念ながら間違いはない。


「はい、間違いないです。皆様のご令息、ご令嬢を危険な目に合わせた上に大きな怪我まで負わせてしまいましたことをお詫び致します」

「怪我?先程ババンゴーアに会ってきたがあいつに怪我なんて無かったが?」

「それは戦闘後に私が治療しました。オーガキングの攻撃をババンゴーア様は何度も受けられて左腕と左足が骨折しておりました。ミルリファーナ様も細かな傷を受け、リードルディ様も全身に強い打撲傷があったためその場にて治療させていただきました」


 そこまで説明するとお三方は腕を組んで唸り声を上げた。

 私はゆっくりとカップを持ち上げて紅茶を一口飲んで口内を湿らすと次に掛かる言葉を待っていた。

 やがてベルギリウス公爵が組んでいた腕を解くと大きく息を吐き出した。


「私達はセシル殿を責めるつもりは全くない。こんな状況だから勘違いさせてしまっているかもしれないことは理解しているが、まずはそれをわかってほしい」

「…そう、なのですか?」

「無論だ。息子の命の恩人だぞ?感謝こそすれ責める謂われなどなかろう?」


 ゴルドオード侯はニカッと豪快に微笑むとベルギリウス公爵同様組んでいた腕を解き、膝に手を当てて私へとその鋭い視線を向けてきた。


「しかしこの小さな身体で脅威度Aの魔物をほぼ単独で討伐するとはな」

「えぇ。レイアーノ・ノミキス準男爵の話ではここ最近塩漬け気味になっていた脅威度Aの魔物討伐を立て続けに達成していると聞いています。この歳でリードルディ卿の家庭教師も勤めていたのですから、その実力は疑う必要はないでしょうね」


 「であるな」と渋く頷くとゴルドオード侯から軽く威圧が飛んできたけど、私はそれを軽く流しニコニコと微笑んでみせた。

 この話、まだまだ終わりそうにないね…。

今日もありがとうございました。

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