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第125話 海の大型魔物の定番です

残業で遅くなりました。

「爆発魔法 閃音炸裂(スタンライト)!」


 魔法で作り出した光の玉をそっと海中へと沈めていく。

 これは光と音とで対象をしばらく行動不能にさせる魔法で、園にいた時に兄の一人から教えてもらった閃光手榴弾を参考にしている。

 確かスタングレネード?だったかな?本物がどの程度のものかはわからないけど、私が作ったこの魔法は暗闇で目の前にライトを点けられたくらいの明かりと普通の人は平衡感覚を失うくらいの爆音が鳴るのでただ相手を無力化したい時には役立つだろうと思っていた。

 まさかこんなところで出番が来るとは思わなかった。

 なんでもやってみるものだねぇ。

 この魔物相手にどこまで有効かはわからないけど、行動不能まで持っていくのは無理だと思う。ちなみに一度ベオファウムの森で使ったときはあまりの爆音に目の前にいた魔物は行動不能に、近くの魔物は逃げて、遠くにいた魔物が寄ってくるという結果になったので不用意に使わないでおこうと思ったものだ。

 そして光の玉を沈めていくことしばらく、その魔物のすぐ近くまでは無理だけどその分音はよく伝わると思うのでここで発動させることにした。


「一応大丈夫だと思うけど、耳塞いでおいてくださいね!」


 甲板から乗組員さん達に聞こえるよう大声で伝えると彼等は私の指示に従って両手で耳を塞いでくれた。

 よし、やるか!

 光の玉へ魔力を送り込んでいき、一定量を超えたときに海の中からドォォォォンという低い音がして海面に大きな波が出た。

 あの魔法そのものに攻撃性のものは何もないけど大きな音が振動を伴って海面にまで達したということだ。

 そして、海底にいた例の魔物が動き出した。


「かかった!おじさん達、浮かんでくるから注意して!」


 さすがに海の魔物。

 浮かんでくる速度がとてつもない速さだ。しかも何か細くなった…?今の音で弱ってきちゃったか?

 探知で感じられたものの正体を探ってる間にその細いものが海面から出てきて、私の考えていたようなものではないことがすぐにわかった。

 海から出てきたもの、それは…。


「でっ、出た!クラーケンだあぁっ!」


 出てきたのは本体ではなく、伸ばされた触手のみ。

 イカ?タコ?どちらかはわからないものの伸ばされた触手はうねうねと蠢きながら船へと絡みつこうとしている。


「剣魔法 圧水晶円斬(アクアブレード)!」


 船へと近付いてくる触手へ水の刃を放って切り裂いていく。

 しかし、切った先から触手がどんどん再生してしまい海の中へぼちゃぼちゃと触手の切れ端が落ちていくだけで勢いが全く弱まらない。


「ちょっと!聞いてないんだけど!」

「お嬢ちゃん!クラーケンは触手をいくら切ってもすぐ再生しちまうんだ!」

「見たらわかるよっ!」


 乗組員さんがクラーケンの特徴を言ってくるけど、そんなことは今見てわかってる。


「全くもうっ!」


 甲板を蹴って飛び上がり、海の中から伸びてきている触手の林へと突っ込んでいく。


「…と、飛んだ…?」

「あのお嬢ちゃん、何者だ…?」

「…黒だな…」


 甲板で私を見上げながら何か呟いている乗組員さん達。

 スルーしたかったけど、最後の人!そこは見なくていいよ!

 と、余計なことを考えてる暇もなく触手は私を捕らえようと襲いかかってくる。

 飛行だと瞬発力が出ないので理力魔法の足場を使って避けているものの動きが読みにくく、探知で自分に近付くものから順に避けている。

 しかし、それも長くは続かない。


「あっ!捕まっちまった!」

「あぁぁぁぁっ!お嬢ちゃぁぁぁぁんっ!」


 乗組員さん達が触手に捕まった私を心配して叫んでいる。

 避けてるだけじゃ埒が明かないと触手を掴もうとして捕まってしまった。

 確かにかなりの力で締め付けてきてるものの、このくらいなら私が潰されることもないし肉体的なダメージなんて全くない。

 但し、触手のぬるぬるとした感触が気持ち悪くて精神的なダメージは非常に大きい。

 あまりいつまでもこのままでいたくない。


「なんか、可愛い女の子が触手に捕まってる姿って…いいな…」


 そこの気持ち悪いおっさん!

 ってさっき私のスカートの中見た人かっ?!

 絶対後でとっちめる!

 そうこうしてる内にクラーケンの触手は私を海中に引きずり込もうと引っ張り始めた。

 さすがに水の中じゃ私もまずい。

 息が出来ないんじゃ何も出来ずに死んでしまう。

 いや、イヤイヤイヤイヤ!

 何冷静に考えてんだ私はっ?!


 ドボン


 そして何も対処できないまま水の中へと引きずり込まれてしまい、すごい勢いで引っ張られ続けている。

 ってこのままだとクラーケンのお口へINしてしまうんじゃ?

 生きたまま食べられるとか嫌すぎるでしょっ?!

 私は混乱する頭をなんとか落ち着かせ対処を考える。

 とにかく息ができないと頭も回らない。

 そう思った私はまず自分の頭の回りにだけ天魔法で空気の玉を作り、そこで大きく息を吸い込んだ。

 相変わらず体は触手に掴まれたままでどんどん海底へと引っ張られているものの少しだけ冷静になることができた。


「てか、暗いね。ここまで深くなるともう太陽の光も届かないか」


 聖魔法で光の玉をいくつも作り自分の回りに浮かべるとようやくクラーケンの本体を目で見ることが……ってデカい!

 探知で感じた時には五メテルくらいだと思ったのに明らかに十メテルはある。

 前世でも水族館やスーパーで見たことはあるけど水の中で見るタコは迫力が違う。

 クラーケンは私が作った光の玉を恨めしそうな目で見ており直ぐにでも食べてしまおうと引っ張る勢いそのままに口へと運ぼうとしている。

 でも、ここまで来たらもう十分だね。

 先程頭の回りだけだった空気の玉を更に大きくして自分の体をすっぽりと包み込むようにすると私を締め付けている触手を強く掴んだ。


「電撃魔法 雷槌貫(ライトニング)ぅっ!ぅうぅぁあぶぶぶばぶばばばばっ?!」


 クラーケンの動きを止めようと電撃魔法を使ったら自分に巻き付いていた触手を通して私まで感電してしまった。

 これは…なかなか痺れるねぇ…。

 しかし私の自爆攻撃ともなった電撃でクラーケンもようやく動きが止まり私を締め付けていた触手も離れていく。

 ようやくあの気持ち悪いのから解放されたよ。

 そして探知を使ってクラーケンを見ると、なんと魔力を感じるのでまだ生きてるようだ。

 身体がデカいのは伊達ではないということか。HPも相当に高いのだろう。

 さて、どうしたものか。


「…タコって食べる前に茹でるよね?……でも海の中でそのまま茹でたりなんて…。あ…」


 ふと思い立ってまだ痺れて動けなくなっているクラーケンを理力魔法で水中へ浮かせ、触手もなるべく纏めて一塊にした。


「新奇魔法 絶対領域(アブソリュートエリア)


 更にクラーケンの回りの空間を海水ごと隔離した。

 普通の空間魔法でも出来るだろうけど麻痺から回復する前にトドメも差したかったので今回は使い慣れている新奇魔法を使うことに。

 スキルレベルも上がってるし、どの程度のことが出来るかを調べるのは今後の課題…いや、王都に戻ったら早めに解決しておこう。

 その後隔離した空間に触れてその中へ


「さて…美味しくなってくれるかな?」


 自分の周囲にも常時展開している熱操作を使って空間内の海水をどんどん加熱していく。

 かなり本気でやってる上、MPの上がってる今の私なら海水程度沸騰させたままにすることなど造作もない。

 さすがに鉄を溶かすほどの高温を出すには熱操作では無理だけれど。

 熱操作して数秒もすれば海水は沸騰してところどころ水泡がボコボコと生まれては立ち上っていく。

 広めの空間を隔離したので沸騰させることで徐々に水位が下がってきているものの、これなら十分に加熱処理(調理?)可能だ。どうやらうまく行ってるようでクラーケンがだんだん真っ赤に染まってきている。本当にまるっきりタコだね。

 そうこうしてる間に自分の周りに展開していた天魔法の空気も酸素残量が少なくなってきているようで少しばかり息苦しさを感じ始めていた。

 もういいかな?

 探知ではクラーケンの魔力をさっきから感じ取る事が出来なくなっているので既に息絶えているのは間違いない。

 それをもう一度改めて確認したあと魔法の鞄にクラーケンを収納して私は水面に向かって力操作で浮上していった。

 決して泳げないわけじゃない。

 単純に楽だからだよ。ちゃんと泳げますからっ!

 ざばっと勢いよく水面から飛び出すと辺りを見回して船を探してみる。


「ぷはっ!…あれ?船が…あぁいたいた」


 私が海に潜ってから十分くらいなので近くにいると思ったけど、かなり離れたとこに動いている。

 それとも私が海中でクラーケンに振り回されたせいで大きく離れてしまったのかな?

 仕方ないので船へと泳いで近付いていくことにした。

 今度こそね。

 だから泳げるってば!

 泳ぎながら探知を働かせていると近くに別の魔物の反応が近付いてきていた。

 さっきの閃音炸裂(スタンライト)で遠くから呼び寄せてしまった魔物だと思う。

 仕方なく全力で泳いで船へと急ぐ。バタ足で海面を叩きつけると大きな水柱が上がって私の身体が勢いよく前進していく。

 船の近くまで来たら飛び上がって甲板へと降り立った。


「お、おぉぉぉおぉっ!」

「お嬢ちゃんっ!!無事だったかっ!」


 私の姿を確認した乗組員さん達がわらわらと集まったきたが、今はそれどころじゃない。


「詳しいことは後で!また大きな魔物がこの船に近付いてきてるよっ!」

「…嘘だろ…?」

「冗談ってことでこのまま港に帰ってみる?多分辿り着く前に襲われちゃうけど」

「…まじか…」

「とにかく私もまた出るからおじさん達は船を守ってて!」


 慌てる乗組員さんに檄を飛ばすと私は魔物が近寄ってくる方向へと意識を向けた。

今日もありがとうございました。

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