閑話 初掘削
セシルの宝石好きの一面がちょっとだけ見れます。
さて、というべきか。
ようやく、ようやくだよ。イルーナから単独での魔物退治の許可が出た。
ハウルやキャリー達はまだだ。そもそも本来四歳児だけで森へ入って狩りをすること自体おかしいのだからした当たり前といえば当たり前だよね。
そして許可の下りた私は早速独りで森の中へ入っている。
ここは家の近くでもなければ、訓練している丘の近くの森でもない。
そう、先日子どもだけでブーボウを狩り、ゴブリンを退治したあの森。
何故この森を復帰初回に選んだかというと当然理由があるのだけど、今はとりあえず置いておこう。ただお昼ご飯を食べるよりも優先してやってきたほど私の中での優先度、重要度は高かった。
しばらく森を進みながら地面をよくよく観察していた。
基本的に森の中なので粘土質だったり、腐葉土でふかふかになったりなのだが前にここで土魔法で石英だけを取り出したことがある。なのでひょっとしたらひょっとするのでは?と思っている。
別に何が何でも手に入れてみせる、と思っているわけでもないのでこの辺りかな?と思う場所で土魔法を使い地面に直径、深さともに一メテルくらいの穴を掘ってみる。
ところどころ大きめの石があるものの見つからない。
そう簡単にはいかないね。
私の宝石に囲まれたキラキラした生活を送る夢はまだまだ実現するのは遠い未来になりそうだ。
しかし少し離れたところにさしかかった際に地面の表面に石英がキラキラと露出している地点を発見した私は慎重に魔法で穴を空けた。
「……あっ、た…。あったーーーーっ!!」
穴の中には大きさがまちまちな煙水晶がいくつか露出している。黒水晶とは言えない、表面や先端が透明で濃い灰色から濃い茶色、黒っぽい色が全体の七割を占めている。
思わず大声を出してしまったけど、それを我慢できないほど嬉しい発見だった。
これで魔物が寄ってきてしまっても仕方ないと思えるほどに嬉しい!というか今私の邪魔したら全力で始末する!この村周辺で私より強い魔物はもういないとイルーナとランドールからお墨付きももらっているので、遠慮なくできるというもの。
「あぁ…いいね、煙水晶ぉ…。あ、こっちルチル!しかもかなりはっきりしてる!」
どうしよう?!すごい楽しい!
転生してからこんなに楽しいの初めてだよ!!
煙水晶は水晶を構成する二酸化ケイ素のうちケイ素イオンが置換され放射線を受けたもの。受けた放射線が多ければ多いほどに濃い煙水晶となる。なので前世では人工的に作り出すことが可能で、紫水晶…つまりアメジストに放射線を当てて煙水晶を作り出していた。
もちろん!ここにあるのは純粋に天然ものの煙水晶!
そしてもう一つルチルクォーツも発見した。
ルチルクォーツは水晶の中に二酸化チタンの針状結晶が入り込んだもの。今回見つかったのは煙水晶に入り込んでいるので表面近くのものが見えるだけだが、透明度の高い水晶ならルチルの形がよくわかる。
パワーストーンのお店にもよく置いてあり、水晶自体が強いパワーストーンとして扱われるため人気のある石だった。
また今回は見つかっていないものの、別のイオンが入り込んで草のように見えるもの、水が入り込んでいるもの、水晶の中に水晶の結晶が入り込んだものなど、水晶一つ取っても様々な種類がある。
残念なのは今私の目の前にあるものはどれも透明度が低く、煙水晶としては良いものだけど宝石と思えるほどではないことだ。
「でもでもでも!やっぱり綺麗ぇ…。このひんやりした感触、滑らかな表面、そしてこの六角柱の形。…いいね!すごいいいよ!」
興奮醒めやらぬまま私は集められるだけの水晶を集めて地面に並べて置いた。
空けた穴も閉じて本来なら袋にでも入れて持ち帰るだけなんだけど。
「いきなりこんなの持ち帰ったらまた大騒ぎになるよね」
一つ一つの結晶はそこまで大きなものではないが何せ量が量だ。
私は魔法を使って結晶を全てくっつけてどこかに埋めておくことにした。
ルチルクォーツと煙水晶それぞれに分けて全て魔法で結合させると一つの大きなクラスターになる。これだけでも部屋に置いて一日中眺めていられるけど、持ち帰ったらまた何を言われるかわからない。
余計なトラブルを自分から引き込むこともないし、家の庭にでも埋めておくことにしよう。
大きめの袋にその塊を入れて肩に担ぐと私は家に帰ることにした。
結局家に着いても埋めるまでに何度も見とれてしまい、ランドールが帰ってくる直前までうっとりしていたらしい。
泣く泣く諦めて庭に埋めた直後に外に出てきたイルーナと鉢合わせして冷や汗をかいたのは言うまでもない。
今後もこんな閑話などたまに入れていこうと思います。




