第120話 二年次実地演習 9
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新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!
---egg所有者同士の戦闘を確認しました---
「はっ?!」
突然の脳内アナウンスに動きが止まる。
え?何?このオーガキングもegg持ってるの?
てことは…魔王種?!!
---能力解放、周辺部保護、所有権移譲戦闘へと移行します---
しかもなんか聞いたことのない言葉が続けてアナウンスされてるんだけどっ?!
「セシル、どうした?」
「……まずい。まずいまずいまずいまずい!!リード!カイザック!逃げて!」
「うん?どうしたというのだ?その魔物はもう動けないのだろう?」
「馬鹿!いいから逃げて!」
首を傾げて私を見ている二人にイライラしながら追加で指示を出しているが、二人は全くその場から動こうとしない。
もしこのオーガキングがケツァルコアトルと同じだとすれば馬鹿みたいな再生能力を持ってるかもしれないし、一度倒してもまた蘇る可能性がある。
ひょっとしたら私もそうかもしれないけど、一度死んで確認しなきゃいけないので試す気にはなれない。
って、そんなことはどうでもいい。
とにかく以前のケツァルコアトルもそうだったけど、一度倒れて復活してからパワーアップしたみたいに強くなった。
ケツァルコアトルはその代わりに状態異常攻撃みたいなのはしてこなくなったけど、死に物狂いで襲い掛かってきたから私もあの時初めてこの世界に来てから死ぬかと思ったくらいだ。
対してこのオーガキング。
元々が特殊な攻撃をしてこない上に素の攻撃ですら魔人化を使った私の身体にダメージを与えてきたトップオブ脳筋。
そんなのがパワーアップなんてしたら…。
「ぐがあああああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁぁっ!!」
「ぐっ?!」
地面から頭を抜いたオーガキングは勢いよく起き上がると力一杯咆哮を放った。
その大音量の咆哮は空気を震わせビリビリと肌を震わせるほど。
そして相対してるだけでわかる、明らかにさっきとは様子が違う。全身で感じる気迫、圧迫感、戦闘意欲、そして狂気と怒り。それらがぐちゃぐちゃにミックスされて周囲に恐怖を散蒔いていく。
「あ……あぁ……」
「ば、か…な……。な、なんだ、こ、このまままも、魔物は…」
リードもカイザックも完全に放心してしまっており、その場から逃げ出すどころか立ち上がることすら出来ないでいる。
でも私もあの二人を守りながら戦うほど余裕があるわけじゃない。
こうして立っているだけでも逃げたい思いを押さえ込むのがやっとだ。
「があぁぁっ!」
私が自分やリード達のことを考えている間にオーガキングは動き出した。
相手の準備が整うまで待ってくれなんて魔物相手には通用しない。
オーガキングの左拳が唸りを上げて私に迫ってくるのは見えている。
でも。
「さっきとは比べものにならないじゃないっ?!」
かろうじて身体を捻りながら後退して避けることができたものの、その凄まじい拳速の衝撃が遅れて突風のように私の身体を襲う。
今更こんなことで体勢を崩すことはないけど、いちいち鬱陶しい。
「うぅぅ…うぐぅぅあぁぁぁっ!」
「っつっ!っと…今度はこっちの番でしょうが!」
振り抜かれた拳が裏拳となってもう一度私の前を掠めていったが、それを屈んでかわすと先程トドメを刺す為に抜いていた短剣に魔力を通して斬り掛かった。
ザシュ
「…かったぁぁいぃぃっ…?!何よもう!」
なんとか腹の辺りを斬りつけることができたものの傷は非常に浅い。血は流れているものの、本当に皮一枚切り裂いた程度でしかない。
ったく、どれだけパワーアップしてるのよ。
「もう少しくらい深く斬れると思ったのに、こんなんじゃ埒が明かないよ!って、ぎゃっ?!がっ…」
斬った場所を確認しようとして振り向いていたせいもあり探知でわかった時には私はオーガキングの右手で虫のように叩き落とされた。
魔人化は使ってあるのにそんなのお構いなしに私の体に激痛が走る。
地面に勢いよく落とされたせいで口の中に土が入ってじゃりじゃりする。
顔も服と泥だらけにされた。
少しは女の子に対する扱いを勉強しなさいよねっ!
あぁ…もう痛い痛い痛い…いたいよぉ…。
「くっ……っ?!」
地面で体を起こそうと上を見上げたところ、大きな影が私の全身を覆った。
その影の正体がわかった瞬間に私は地面を転がってその場から離脱し、直後に轟音が響き渡る。
ドゴォォォォン
オーガキングの足がさっきまで私が倒れていたところに思いっきり振り下ろされたのだ。
あの巨体であれだけの力があるのに地面にあまり足が陥没していない。
そういえばさっきアナウンスで周辺部保護って言ってたっけ…。じゃあその前の能力解放ってのがこいつの極端なパワーアップの原因ってこと?
…それなら私もパワーアップさせてくれないかな。
…そんな甘くないよね。知ってたよ!!
「このっ……いい加減にしてっ!新奇魔法 精霊の舞踏会」
前回魔王種…ケツァルコアトルと戦った時に火力不足を感じて作った魔法。
試験のときにカイザックに使ったときのような手加減は一切しない全力の精霊の舞踏会は生み出される魔法球の数、威力、速度、その全てが魔王種を倒すためだけに私が編み出した凶悪な魔法。
威力は十倍以上。炎魔法なら鉄を溶かすほどの高温になるし、氷魔法なら瞬間的にドライアイスを作り出せるほどの低温になる。
速度も普通には見ることすら出来ない亜音速の領域だし、射出される数も私のMPからすれば一万発は可能だろう。
考えてる間にも私とオーガキングの周りに強力な魔法球が浮かんでいく。
一つ一つがオーガロードを一撃で葬るほどの威力がある上にその数は現在千発。さすがに一度に一万発も出してしまうにはここは障害物の多い森の中なので狭すぎる。
「いっっ……けえぇぇぇぇぇぇっ!」
ドドドドドドド
打ち出した魔法球がそれぞれ着弾と同時に爆音を轟かせてオーガキングへと降り注いでいく。
これを食らって生きてたら脅威度Aの魔物どころではない。
脅威度S。
一国の全騎士団総出で討伐に当たるような大災害クラスの魔物ということになる。
最初に打ち出した千発もの魔法球が少なくなるとたちどころに追加され、既に三千発以上を打ち出している。
魔人化も使いっぱなしなので私のMPは半分まで減っていた。
「これでっ!トドメ!!」
精霊の舞踏会で作り出した火水風土光闇の魔法球を一つずつ近くに集めて更に魔力を注いでいくと融合して超高威力の魔力砲撃になると初めて作ったときに発見していたので迷わずに発動させた。
一度しか使ったことがないけど、その威力たるや山一つを完全に崩壊させてしまうほどだった。
とてもじゃないけどそこらの魔物相手に使っていたらあちこちで地形が変わってしまうのでずっと封印していたほどの魔法。
でも今は使う。
ここでこいつを倒さないと、町に行ったら…どれほどの被害になるかわからない。
そして、こいつを倒せるだけの人がいるかすらわからないんだから。
私の魔法が発射されると同時に音が消え去る。
あまりの音量のせいかそれを音として認識できなかったらしい。
「はぁはぁはぁはぁ……ぁくっ…」
音が戻ってきて、木が倒れる音や草が擦れるような音、そして舞い上がった土や石が地面に落ちる音が聞こえる。
目の前は舞い上がった土煙で視界はゼロに等しい。
急激にMPを消耗したことによる魔渇卒倒に近い症状が出て頭がぼーっとする。
さすがにやりすぎたかな…?
いや、あのオーガキングに対してはやり過ぎなんてことは決してない、と思う。
思考がクリアになってくるに従って私が常時発動させているスキルも徐々に起動されていく。
「はぁ…これで生きてたら…どれだけ化け物なのよ…」
精神再生のおかげでMPもさっきに比べてかなり回復したので自分に回復魔法を使いながら改めて探知スキルを使ってみる。
オーガキングの反応は…ある。あるけど…だいぶ弱っているようでさっきのとんでもない威圧感を出せるほどではなさそう…だと思う。
土煙が晴れてくるに従ってオーガキングの様子がようやく見えてきた。
どうやら…まだ生きてるようだけど、身体のあちこちが私の攻撃で吹き飛ばされていて両腕と右足、左側のお腹から肩にかけてごっそりと欠損している。
「…うが………が…」
「…あれだけの攻撃受けて生きてるって…ほんと化け物ね…」
尤も、その化け物を相手にして瀕死まで追い詰めた私も大概か。
でもこういう魔王種を倒すために作ったとっておきの魔法なんだからちゃんと成果が出てくれてほっとした。
「さて、じゃあ今度こそ終わらせるよ。炎焦殺」
炎魔法でオーガキングの体に火を放つと断末魔の声を上げながら炎に包まれていく。
この魔法でここまで炎が上がれば相手が炭になるまで火が消えることはない。正しく火葬のための魔法だ。
オーガキングから声が上がらなくなって安心したところで私は戦闘中ずっと放置していたリードとカイザックを探し始めた。
私も手加減無く魔法を使ってしまったので巻き込まれて怪我とかしてないといいんだけど。
探知スキルで自分以外の反応を探ると百メテルくらい離れたところに二人の反応がある。どうやら問題なく生きてるみたいだね。
そちらへと足を向けて歩いていくと二人は巨木の影から顔を出して私の様子を窺っていた。
「…何してるの?二人とも?」
「…セシル…相変わらず理不尽な強さだな…あれは脅威度Aの魔物だろう?」
「そもそも脅威度Aなら一つの騎士団でなんとか討伐できるかどうかの魔物だろう?それを…一人の女の子が…」
「まぁ…言いたいことはわかったけど他の人には余計なこと言わないでね」
私の今後のためにもいろんな柵を抱えたくはないからね?
多少脅しの意味も込めてニッコリと微笑むと、突然二人の表情が青ざめた。
意味も分からず首を傾げたところ、私の視界は大きく揺れて真っ暗になった。
今日もありがとうございました。




