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第117話 二年次実地演習 6

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 リードを先導にしていては時間が掛かりすぎる。

 そうは思っていても私はリードに先導させていた。

 結局のところ私がいないと何も出来ないと思ってしまっては意味が無い。

 まだギリギリだけど大丈夫。探知スキルを使って状況を確認していた私は焦る気持ちを表に出さないようにリードの後をついていった。

 ひょっとしたらリードは気付いていたかもしれない。私は表情に出やすいって言ってたからね。

 さて。


「リードは左側のオーガの相手をして。私はオーガロードと右側のオーガとやるから」

「わかった。気をつけろよ!」

「誰に言ってるのよ!」


 私達が来たことに気付いたミルルの表情が絶望一色だったところから少しだけ希望の色をつけはじめた。

 カイザックはそれでも絶望的な状況だと思っているのかこちらを一瞥しただけで目の前のオーガへと向き直っている。


「セシル!」

「ミルル!これ!」


 私はポケットから取り出した道具をミルルに投げ渡した。

 そう、制服のポケットはリードやミルルがいつでもお茶を飲めるようにと私は一年次の時点で魔法の鞄へと改造していた。

 本来なら茶道具しか入っていないはずなのだが、一種類だけ私のチート能力を駆使して作ったアイテムを入れておいた。

 木で作ったコースターでミルルも何度か使ったことがあるものだ。私が魔法で冷たい紅茶を入れることが出来るため結露予防のためにと持ち歩いている。

 パッと見た感じは彫刻の入った丸い木の皿のように見えるだろうけど、実は表面にシトリンで作った魔石を四つ埋め込んであるのだ。

 その魔石に付与したものは「HP継続回復」「MP自動回復」「異常耐性」「身体強化」をそれぞれ最大レベルのものを。自重抜きの御守りと呼ぶのも高性能すぎるだろうけどリードに何かあったときに持たせておけば多少は安心できる。

 問題があるとすればそれぞれが高い性能を持つものの、内包魔力を馬鹿みたいに消費するので私が魔力を補充しなければ三十分で効果が切れてしまうこと。

 今のミルルに渡しておけばMP回復の手助けにはなる。


「それ持ってじっとしてて!」


 ミルルにそう叫ぶとカイザックの周りにいるオーガに向かっていく。

 ひとまずアレを持たせておけばミルルのHPとMPはどんどん回復していく。

 他の倒れてる生徒には申し訳ないけど、ミルルが回復魔法を使えるようになるまで待っててもらうしかない。


「カイザック!」

「セシル…助太刀感謝する…と言いたいところだが、絶望的な状況なのは変わらん」

「…試験の時に私に挑戦してきたくせにやけに弱気なの、ねっ!」


 カイザックの隣に並び立つことなく、地面を蹴ってオーガに肉薄していく。

 今はまだ魔人化を使っていない。

 魔人化(そんなもの)使わなくたってオーガくらいなら問題ない。


「剣魔法 圧水晶円斬(アクアブレード)


 私の右手から浮かんだ七つもの水色の円盤は放たれると同時に回転数を上げてオーガへと襲い掛かる。


ぐるああぁぁぁぁあぁぁぁああっ!


 大音量の断末魔を上げてオーガの一体が地面に倒れた。

 その身体は私の魔法で切り裂かれ首と右腕、右脚、更にはパックリと開いた腹からどろりとした内臓が零れ出ている。


「これでも絶望的だって?」

「…さすがだ。…半分、頼めるか?」

「全部でも」

「欲張りすぎだぞ」


 カイザックは私の答えを聞く前にオーガへと盾を前に突っ込んでいく。そしてその盾を彼の得意武器であるショートスピアを使ってゴンゴンと音を立てて叩いている。

 カイザックがよく使う挑発スキルだ。

 あれでヘイトを稼ぐことで攻撃がカイザックへと集中することになる。

 多分ミルルを守ったのもあのスキルを上手く使った戦い方のお陰かもね。

 カイザックにオーガ達が集中した一瞬でリードの方を確認すると彼もまたオーガの強力な一撃をかわしながら的確に攻撃を重ねている。

 しかし攻撃力不足のためオーガの分厚く強靭な肌に阻まれほとんどダメージを与えられていない。

 リードにオーガは早すぎたかな…。だとすれば早めにこっちを片付けて加勢しないと…。

 リードのことは気にかけつつも私はカイザックの方へと向き直る。

 いくらカイザックの防御が優れていてもオーガの攻撃は非常に強力なのでそう何度も耐えられるものではない。


「カイザック!伏せて!」


 カイザックは私の声に反応して、目の前のオーガを盾で押し返すとその場で身を低くした。


「爆発魔法 衝爆砲(イクスプロージョン)!」


ドドォォォォォ!ドォン!ドォン!ドォン!


 あまりに強い爆発を使うとカイザック諸共肉塊に変えてしまいかねないのでそこまでの威力はないが、それでも立て続けに起こる爆発に目の前のオーガは全て巻き込まれた。

 威力はないと言っても、それは最大威力の爆発魔法と比べての話。オーガとは言えこの爆発なら…。


ぐ、ぐが…


「な、んて魔法だ…」


 カイザックも驚くほど、爆発に巻き込まれたオーガ達は頭や腕だけでなく身体を何ヶ所も吹き飛ばされ物言わぬ肉塊となって果てた。

 その様子を唖然と見ていたのはカイザックだけではなく、リードと、リードと戦っていたオーガも振り返り動きを止めていた。


「リード!」

「…っ!でえぇぇぇりゃぁぁっ!」


 私の呼び声に反応したリードはオーガの隙をついて火魔法の魔法剣を発動。

 渾身の一撃でオーガの左足を斬りとばした。

 オーガは身長が私の倍ほどもある巨体なのでリードの渾身の剣を振っても肩にすら届かない。

 でも片足を失えば当然身体は倒れてくる。

 前のめりに倒れてきたオーガの首目掛けてリードは再度剣を振るった。


ザンッ  ドン


「いいね!今の一撃は良かったよ!」


 リードの剣がオーガの首をはね飛ばしたところで私はリードの方を向いて褒めた。

 あの子は褒めてあげないと全く伸びないからね。

 でも、今の一撃は速度も重さも込められた魔力も全て完璧な攻撃だった。

 あの何も考えずにただ闇雲に剣を振るうことしか出来なかったリードがここまで…。

 戦闘中だと言うのに息子の成長をまざまざと見せ付けられたら母親の気分になってしまった。

 いや前世も含めて子どもなんていたことないけどさ。

 ほんと頑張ったね、リード。


「リードルディ様もさすがですね」

「ま、私が鍛えてるからね」

「……それだったらもっと理不尽な騎士になっていそうなものだが…」


 カイザックの呟きは聞かなかったことにして、私は少し奥に下がったオーガロード二体を睨み付けた。

 目下残る敵はあと二体だ。

 私達がこの場に駆けつけてきてからまだ数分くらいしか経っていないにも関わらずこの成果。しかしのんびりしてはいられないのも事実。

 私は二体のオーガロードに注意を払いながらもカイザックの隣に並び小声で話し掛けた。


「カイザック、落ち着いて聞いてね」

「…なんだ、戦闘中だぞ」


 形勢逆転とも言える状況になったにも関わらずカイザックはオーガロードへと集中している。そこへ私が声を掛けたものだから少しばかり苛立ちを覚えているようだ。


「今ここにこのオーガロードよりもかなり強い魔物が近付いてきてる」

「……それは、なんの冗談だ?」

「冗談ならよかったんだけどね。このままだとあと三十分も掛からない」

「くそ…ただでさえオーガロードなんて化け物と戦っているというのに…」


 そう、一般的にはオーガロードは十分に化け物と呼ばれる強さを誇る。

 単独で脅威度Bであり、十体以上のオーガを率いている場合は脅威度Aに分類される。

 今回はオーガが七体であったので脅威度Bではあるがオーガロード自体が二体である。特例として脅威度Aに認定されてもおかしくはないのだが…それを王都の冒険者ギルドまで知らせることはできない。なので普通の冒険者ならばここで絶望の中死んでいく。

 それこそ倒れたまま未だ立ち上がれていない人達のように。

 でも、それはやっぱり普通の冒険者なら、ってことだけどね。


「ミルル!そろそろ回復魔法使えそう?」

「え…?あ…魔力が……はいっ、いつでも使えます!」

「じゃあ倒れてる人達を回復させてから叩き起こして!それでここから全力で避難して!」

「……はいっ!わかりました!」


 一瞬の間があったのは私はどうするのか?カイザックはどうするのか?それを聞きたかったのかもしれない。

 私はこいつらを倒す。それから迫ってきてる強い魔物も倒す。

 カイザックはミルルの騎士だ。彼女を逃がすために全力で戦う。

 聞くまでもない。

 そういうものだから。


「リードも一緒に避難!」

「僕は残るぞ!」

「馬鹿!リードがいてもどうしようもないでしょ!」

「戦ってる者達がいて、それに任せて逃げ出すなど僕にはできない!護衛とか従者とかどうでもいい!僕はお前を残して行けない!」


 この…分からず屋めっ!

 感情のまま私が再度怒鳴ろうとしたところでカイザックがショートスピアを突き出して私を制止してきた。


「ちょっ?!あぶな…」

「御立派です、リードルディ様。であれば私も命の限り戦いましょう」


 …なんだろ?これ男の子にしかわからないようなやつ?

 騎士の英雄物語的な何かなの?

 駄目だ、私には理解出来ない。

 そもそもリードに何かあったら領主様に怒られるなんてものじゃ済まないんだけど?!本当にクビが飛ぶよ、物理的にさ。多分、一族諸共。

 だから、そんなわけにはいかないから。


「…絶対、無茶も無理もしない。とにかく攻撃は全部避けること。いいね?!」

「あぁっ!」


 ったくもう…格好つけちゃってさ。

 危なくないように、とにかく早く倒さなきゃだね!

今日もありがとうございました。

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