第115話 二年次実地演習 4
気付けば50万文字超えてました。
まだまだ完結まで遠いですが、これからもセシルにお付き合いください。
リードに怒られた後、私達四人は気まずいながらも時間が限られていることもありすぐに出発した。
結局目的地に違いはあるものの、方向は同じということでひとまずは一緒に行動することにしたのだ。
とは言え、私達の目的地はノイマーン様達よりも半日は先に設定されているため彼女達に合わせていたら期限に間に合わないのでかなりきついだろうけど私達に合わせてもらうことにした。
但し、半日も先に設定されているということはそれなりの移動速度でないといけないということで。それだけ負担がかかるということで。
つまり。
「はぁはぁはぁはぁ…」
「はあっはあっはあっ…くっ」
ノイマーン様とジンク殿はかなりきつそうでさっきから話をする余裕もないほどに息を切らせている。
休ませてあげたいところだけど、私達にとってはこのくらいで移動しないと間に合わない。
とは言え、そろそろ昼食を取ってもいい頃合いだ。
「リードルディ様」
「…なんだ?」
「そろそろ昼食の時間です。食料を確保しませんと」
「……トラブルで時間を食ったからな。昼食の時間を削って先を急ごう」
はぁ…ダメだ。
リードの言葉を聞いてノイマーン様とジンク殿は絶望的な表情を浮かべている。
このままだと二人は間もなく脱落してしまうだろう。
仕方ない…主人に逆らう従者とか言われないように後でノイマーン様達には口止めしておこう。
「リード!」
「っ!な、なんだセシル。…っと、従者が僕に…」
「いいから休みなさい!無理な行軍して倒れたり、魔物との戦いで後れを取ることもあるのよ?!」
「…ゴブリン如きに僕が…」
「『ゴブリン如き』?リードも随分言うようになったね?そもそも、この森にゴブリンしか出ないなんて決まってないんだからね」
私がかなりきつめに言うと、リードは近くの草むらを剣で薙払い荷物から布を出して刈った草の上に敷いた。
そこへ荷物を下ろすと、剣を近くに置いたまま自分も腰を下ろした。
その様子を見て、ノイマーン様とジンク殿もその場に座り込んだ。休む場所を整えるほどの体力すら残っていないのかもしれない。
私は彼女達の代わりに休憩場所を整えると二人をそこで休むように促した。
ここに来るまでに獲物を狩ってる余裕も無かったし、教官から渡された食事も私達はまだ残っているもののノイマーン様達は既に残っていないとのことだったので、仕方なく私は探知スキルを使い周辺に何か獲物がいないかと探ることにした。
「出来ました。リードルディ様、どうぞ」
「あぁ」
「ノイマーン様もどうぞ」
「ありがとうセシル殿」
私は貴族である二人へと先に捕ってきた鳥を焼いたものを渡すとジンク殿と自分の分を持って少し離れたところへと腰掛けた。
「ジンク殿」
「ありがとうセシル殿」
途中で摘んでおいたハーブや鉱物操作で見つけておいた岩塩を使って味付けをした鳥肉だ。
疲れた身体には塩分が必要だろうと思いちょっと奮発してみたよ。
三人は黙々と食事を続けており、私はその様子を見て自分の分の肉にかぶりついた。
食事が終わりお茶を飲んでいるとノイマーン様がリードに話し掛けた。
「リードルディ卿はすごいのですね」
「…そんなことはない。僕とてセシルがいなければここまで出来なかっただろう」
「いいえ、先程の話。領民のことを考え、悪を許さないというその考え、とても感銘を受けました」
「…そ、そうか…」
…うん?なんか、リードってちょっと照れてる?
それにさっき私にあんなきついこと言った割にはちゃんと私のことは持ち上げるんだね?
「セシル殿は上級クラスですよね」
こっそりリードとノイマーン様を盗み見してたら横にいたジンク殿から声を掛けられた。
「はい。戦闘能力には自信がありますから」
「…主人と同じくらいの歳の方にそう言われては私の立つ背がございません…」
「…大丈夫ですよ。上級クラスでも戦闘能力が本当に突出しているのは数人くらいしかいませんから。これからの訓練次第でまだまだ変われますよ」
「だと、いいのですが…」
落ち込むジンク殿に掛ける言葉を私は持っていない。
神の祝福というチート能力を有する私の言葉は必死に努力している人達全員を嘲笑うようなものだ。
薄っぺらい慰めより、私は彼の行動こそ評価したいと思う。
「それに、どんなに強くなくてもさっきのように自分の主人を庇って立ち塞がることができるならジンク殿は従者の鑑だと私は思います」
「…そう、かな」
「そうですよ」
そこまで言って、私達の会話は途切れた。
後は私がお茶を啜る音だけが響いている。
みんなが休んでる間にも私は探知と知覚限界で広範囲を探っておくことにしよう。
感覚をどんどん広げていくと、前回広範囲を探知した時にはいなかった気配が現れていた。
これは盗賊達ではない。
存在そのものに魔力を感じるし、その強さもかなりのものだ。
ここまでの存在になるとミオラのような高ランク冒険者、しかもソロではなくパーティーを組んだ者達を連れてこないといけないかもしれない。
とは言え、まだまだ距離は離れている。
このままなら遭遇することなく演習も終わるかもしれないので必要以上に神経質になることはないだろう。
再度出発してしばらく、途中休憩を二度ほど挟んでノイマーン達の目的地との分かれ道に着いた。
ジンク殿にくれぐれも注意するように伝えて私達はそれぞれの目的地に向けて歩き出した。
「リード、わかってると思うけど」
「あぁ、思った以上に時間が掛かった。ここからは少し急いで向かわねばならんだろう」
「合格。ここからは私が先導するから頑張ってついてきてね」
リードの返事を待たずに速度を上げて前に出るとどうしても避けなければならない大木を除いたルートを探知スキルで把握、その後天魔法で風のトンネルを作る。
これなら多少の茂みは風に煽られて進路上から退かされる。後は足を取られそうな小さな木を私が薙ぎ払っていけばかなりの速度で森を走破できる。
「いくよ!」
「あぁ!」
その日の夜営。
私もリードがついてこれるくらいの速度で走ったとは言え、彼にとっては全力に近い長距離走をしていたことになる。
でもリードの頑張りもあってなんとか他のAクラスのペアにかなり追いつくことが出来たと言えるだろう。
例えば私が探知したことがある人に限定されるけど、ミルルとカイザックのペアとババンゴーア様があと二千メテルほどのところにいる。ババンゴーア様は目的地が少し違うのかミルル達からも二千メテルは離れている。
私達の目的地はミルル達と同じ方向なので、同一の場所と思って良さそうだね。
そして、それだけの全力疾走をしたリードはさすがに疲れ果てて今は焚火の向こうで眠っている。
今夜くらいは交代で見張りをすることになっていた当番をさせないでおこうかと思う。
魔法の鞄のような反則じゃないんだし、少しくらいなら私の能力使ってもいいよね?
「新奇魔法 絶対領域」
私が魔法を使うとキィンと乾いた音がして周囲に少し景色が歪んだように透明の結界が展開された。
この半球状の結界は遮音結界よりも広い範囲で覆われる分、その能力は完全に名前負けの代物である。
半径十メテル以内に私に対し害意ある者が侵入すると私へと警告音が鳴る。つまりは鳴子のようなものだね。加えて僅かに物理的な防御が施されているので虫や小さな動物くらいではこの結界の中には入れないこと。魔法を使った時点で中にいた虫や動物は解放されないが、そのくらいならごく弱い天魔法一つでなんとでもできる。
本当はアラートとして作って、防御用の魔法はまた別にと思っていたもののそういう魔法は既に補助魔法として存在するそうなので新奇魔法作成の登録数を圧迫することもないかと思いあっさり諦めた。
さて、リードも寝ているし警戒もしておいたので私も少し横になって休んでおこうかな。
明日の昼までに目的地へ到着しないといけないが、ここまでくれば今日みたいな無茶をすることもなく到着できる。
突発的なトラブルに見舞われた場合はまた無茶をすればいいだけの話だしね?
私は短剣を枕元に置き、頭の後ろで手を組んで布の上にゴロンと横になった。
リードよりはかなり体力があるものの、私だって疲れているし休める時にはちゃんと休んでおくのも冒険者として大事なことだ。
念のためにと探知エリア内にいた魔物らしき反応を探ろうとしたが、重く圧し掛かってくる瞼に逆らえず目を閉じると私も眠りの闇に沈んでいった。
結局何事もなく朝を迎えることが出来た。
魔物らしき反応が近くにないか探ってみるが、私達の近くにはいない。
ミルル達から少し離れたところにいるペアの近くに移動しているが、魔物もまだ活動前なのか今いる位置からは動こうとしない。
リードもまだ起きないので、私は絶対領域をそのままにして食料の確保に動くことにした。
食べられる植物の実と小さな動物、蜥蜴のような爬虫類でもいいが何かしらタンパク質を摂取したいところよね。
しばらく動いていると木の上に鳥の巣があったので小さいながらも卵が手に入ったのは僥倖。他に土ネズミという土の中に潜る性質があるネズミを捕まえた。小さいので捌くのが大変で普段はあまり捕獲しないけど今日は仕方ない。食べやすいように頭と内臓の処理をして毛皮をその場で剥がしておく。
廃棄する部分を土に埋めようとして掘っていると土の中からカブトムシの幼虫のような芋虫が出てきた。
…さすがに食べないよ?
元日本人として昆虫食はやはり抵抗がある。
そりゃ食べる人は食べるのかもしれないけどそこまで飢えてるわけじゃないからね?
後処理を終えると私は来た道を戻ってリードと合流することにした。
今日もありがとうございました。




