第113話 二年次実地演習 2
年末年始の連休中は頑張って毎日更新してみようかなと思っています。
「たあっ!」
リードの剣がゴブリンの首を刎ね飛ばした。
これでこの森に入ってから彼が倒したゴブリンは七体になる。教官達は生徒が倒せるような魔物は討伐せずに放置したらしいけど、ゴブリンは見かけたら討伐が基本なんだから放置するのは止めてほしいものだね。
私はリードの倒したゴブリンの死体に炎魔法で火を点けると火力を上げて一気に焼き払った。
リードでも時間をかければ可能だろうけど、他の人はみんな倒すだけ倒して放置なので本当ならこのままでもいいのかもしれない。
そこは私の冒険者としての矜持というかルールは守らないとだからね?
「リード、そろそろ夕食の食材も狩っておかないと」
「…食事なら教官から渡されたものがあるだろう?」
「あのねぇ…。あれは万が一狩りをすることすら出来ない状況に陥った時の為の物でしょ。まだ日没までは時間があるんだからちゃんと食事の用意をしなきゃ」
リードは「そういうものか」と目的地の方へと目を向けてから誰へ言うわけでもなく呟いた。
勿論私が用意してもいいのだけど、それだとリードは私がいない時の訓練にならないからね。
その後しばらく進みながら獲物を探していたものの、殆どが仕掛けてから逃げられるか近付いただけで逃げられていた。
「…この分じゃ今夜の夕飯はそのあたりの草か木の皮を齧ることになりそうね…」
「ぐっ…し、仕方ないだろう。いきなり狩りをしろと言われて出来るわけがない!」
「…はいはい。じゃあ明日もまた狩りの練習ね?」
チュイン ドサッ
リードと話しながら周囲を探っていた私は近くを飛んでいた鳥に対して地魔法の弾丸を放って撃ち落とした。
撃とうと思った瞬間には放つことが出来るほど魔法の展開が超速になっている。
強度も高く、それこそライフルの弾丸ほど硬いしライフリングを施した以上の回転もする…けど、そこまでやると獲物を爆散させかねないのでかなり威力は落とした。
とりあえず、落とした鳥を回収して夕飯の準備かな。
「はい、焼けたよー」
「…相変わらずの手際だな」
「どーもっ。ほら、冷めないうちに食べちゃいなよ」
私は大きめの葉っぱに捌いた鳥の胸肉と腿肉の半分を乗せてリードに渡した。
夕飯の支度をしている内に夜の帳も落ちて、森の中はすっかり闇に包まれている。
ここは火を熾しているので当然明るいけど魔物が寄ってこないか常に探知だけは使っている。
探知を使っているから解ることだけど半径千メテル以内に何組か同じように野営をしている生徒がいる。恐らくは後発のAクラスの貴族だろうけど下手に夜間も動かないのはさすがと言えるだろう。
「うん、以前セシルの村でも食べさせてもらったが…やはり美味いな」
「新鮮だしね。それにここに来るまでに途中薬草とかハーブも摘んでおいたおかげだよ」
「…まったく、セシルには敵わないな…」
えぇもうそりゃこれだけチート性能持っていれば当然だけどね?
リードは一心不乱に鳥肉にかぶりついてあっと言う間に食事を平らげてしまった。
最近は食事の量も増えてきたし背もちょっと差がついてきた。
育ち盛りかねぇ。
私は自分の食事を中断して途中で摘んだハーブを使ってお茶を入れるとリードにカップを差し出した。
フレッシュハーブティーなので深みのある味わいは出ないけど、爽やかな後味で個人的には嫌いではないけどリードはあまり口に合わなかったらしく顔を顰めている。
私はその様子に微笑むと自分の食事を再開した。
「セシルは…」
「…うん?」
食事の片付けも終わり、交代で休むための準備をしていたところにリードから話し掛けられた。
厚手の布を敷いて横になるだけの寝床だけど、ほぼ一日中歩き続けた身体を休めるためにはどうしても必要になる。
ちなみにリードにはベオファウムにいた時からこういう野営を経験させているので慣れてはいないものの抵抗はないはずだ。
「セシルは貴族院を卒業したら冒険者になるのか?」
「うん、そのつもりだよ。ってずっと前からそう言ってるでしょう?」
「そう、なのだがな…」
あぁ…また面倒臭いリードになってる。
いくら私がいるからってちょっと気を抜き過ぎじゃないかな?
「卒業まではまだ二年以上あるんだからその時にどうなってるかなんて解らないよ。それよりリードは卒業したらどうするの?」
話をはぐらかし、逆に質問し返すことで完全にその話題を終わらせる。
私の質問にリードは焚き火に照らされた顔を俯かせて絞り出すように言葉を続けた。
「僕は…セシルと一緒にいたい…」
話題を終わらせることに失敗しました!
もう…ほんっとに面倒臭いなぁ…。
私こういうしつこいの嫌いなんだけど!
「じゃあちゃんと訓練して、私に一撃入れなきゃね!ほら、そろそろリードは休んで。じゃないと私が交代で眠れないよ」
「…あぁ、わかった」
なんか、本当にもういいかなって思ってきたよ?
やっぱり、こう…精神的に大人な人じゃないと元々中身が既に合計三十歳なんだし十歳の子ども相手っていうのは無理があるよね。
本当にリードが全力の私に一撃入れる事が出来たら結婚してもいいかなと思うけど、こうやって言葉や情けない態度とかで気を引こうとしてるなら、それはちょっといただけないね。
リードが寝たことを確認すると私は探知と知覚限界を使って周囲を更に深く探っていく。
半径一テロメテル以内に脅威となるような魔物はいない。
休んでいる生徒達も今は動くこともなく、全員がちゃんと野営しているようだ。
でも、森に入ってすぐ掴んだ気配のうち怪しいものを私は忘れてないよ?
その反応は私達貴族院の生徒が演習をしている範囲から少し離れたところにいたはずなのに今は一番近い生徒で五百メテルくらい。しかもそれは闇に包まれた森の中だというのに今も少しずつ動いている。
反応は五つで固まって行動している。これが二つだったら私も範囲から離れてしまった生徒かと誤認したかもしれないけど明らかに怪しいよね?
尤も、それらの反応もどこに生徒がいるかわかっていないようで一番近い生徒へとは向かっていない。
その後も注意深く観察していたが結局一度動きを止めた後は活動を再開することが無かった為、私もリードと交代して休むことにした。
翌朝も朝食を済ませた後すぐに出発する。
昨日は半日しか行動していないけど予定としては順調そのもの。
リードを前に進ませてルートから大きく外れそうになると私が口を出すということを繰り返しているので、このまま一直線に目的地を目指せば明後日の三の鐘には到着するだろう。
何事もなければだけどね。
そしてその「何事」というのは突然起こる。
本人達が望んでいなくても、また気付かなくても。
「リード」
「…ふぅ…どうした?またルートから外れているか?」
「そうじゃなくて…近くに別の組がいるんだけど」
「貴族だけでもかなりの人数がいるのだし、別にいてもおかしくはないだろう?」
足を止めて目的地とは違う方向を向いてる私に近付いてきて私が見ている方向を一緒に見るが、リードの目にはただ鬱蒼としげる森の緑が見えるだけだ。
でも私の探知スキルで見ている反応はここから千メテルくらい離れたところにあり、それは今昨夜不審な動きをしていた五つの反応と同じ場所にいる。
「昨夜からちょっと怪しい人…かどうかはわからないけど、不審な反応があるの。ちょうど近くにいる貴族院の生徒と接触してるみたいなんだけど…どうする?」
「不審?どういうことだ?」
「今この森の中には王国からの指示で貴族院から依頼された冒険者か教官、貴族院に通う貴族の子ども達と従者しかいないはずでしょ」
「あぁ、そうだな」
「貴族と従者は必ず二人一組になっているのに、この不審な反応は五人一組になってるの。どう思う?」
「ふむ……距離は?」
「約千メテル」
「なるべく気配を殺しながら近付いてみることは可能か?」
「私だけなら」
「なら僕は後からゆっくり行く。セシルは先に行って様子を見ていてくれ」
「わかった。周囲にはゴブリンもいないから音を立てないようにゆっくり来てね」
そう言うと私は隠蔽スキルと魔人化を使ってその怪しい五つの反応がいる場所へと急いで向かった。
隠蔽スキルを使ってる間は私の立てた音は非常に聞こえにくくなるようで急いで向かって音を立ててもそれを相手に気付かれる心配はほとんどない。
もちろん、相手も私と同じような探知や気配察知のスキルを持っていれば「何かいるかも?」くらいは感じることができるだろうけどね。
ということを考えている間に到着。
予想通りというかやっぱり生徒じゃない五人組が制服を着た二人に迫っているところだった。
一人はAクラスじゃない貴族の生徒。見た感じだとあまり戦闘は得意ではなさそうな女の子。私のとは違う薄い緑色の制服を着て従者の後ろに隠れている。
もう一人は紺色の制服を着た男性。年齢は…二十代後半くらいかな?左手で主人である女の子を庇いながら右手に持った剣を五人組に突きつけている。
対する五人組は全員男性であまり清潔とはいえない様相だし、服もボロボロで碌に髭も剃らずに気持ち悪い笑みを浮かべている。
多分、いや間違いなく盗賊だろう。
この世界で盗賊といえば身をやつした平民や農民、ギルドから追放された冒険者、もしくは逃亡兵などがその大半を占めている。
なので元農民や平民程度なら貴族院に入るほどの従者だから後れを取ることはないだろうけど、元高ランク冒険者や兵士だったりすると相手の数が多いのでかなり分が悪いということになる。
さて、彼等はどうだろうね?
私は貴族院の生徒達に危害が加えられないか様子を見つつ、盗賊達のステータスを確認していくことにした。
今日もありがとうございました。




