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第103話 やりすぎだったようです

ブクマ200件達成です!

ありがとうございます!

「じゃあまずはこれね」


 私は高原で採集したバルムング草を一束取り出した。

 それなりに探してみたものの、結局十本一束しか見つからなかったのだ。


「バルムング草ね。一本だけでよかったのによくこんな採ってこれたわねぇ」

「あれ?そうだったの?」

「セシルちゃん、依頼内容はしっかり確認しなきゃ駄目よ?」


 むー。でも依頼書の写しにも本数は書いてなかったしてっきり他の薬草とかと同じだと思っちゃったよ。


「もちろん多い分依頼主からの評判もよくなるしギルドからもセシルちゃんのこと売り込んでおくわ」

「ありがとう姉さん。次はこれ」


 続いて取り出したのはワイバーンの巣で回収した金鉱石だ。岩山にそこそこ含まれていたので羊羹サイズのインゴットが四本作れた。

 今取り出したのはそのうちの半分だけ。残りは自分用にとっておきたいからね。

 エメラルドなんて金の台座に乗せてあげればとても映えるから是非実現したい。


「まぁ…すごいわね。こんな純度の高い金のインゴットなんて。これをそのまま売るだけでもかなりのお金になるのよ?」

「あはは…姉さん、そんな事言ったらギルドの仕事にならないでしょ」

「そうだけど…本当のことよ?」

「わかってるけど、私はギルドの仕事をしてるだけだから。それで正規の報酬が貰えれば問題ないよ」

「セシルちゃん……貴女、天使のような子ね…」


 そうしてギルドに対して貢献すればランクも上がりやすくなる。今の私は護衛依頼を完遂することがランクアップの条件になっているのでBランクからは上がっていない。しかし、その間に受けた依頼を達成したらその分の貢献度はずっと累積していくのでAランクに上がった後もしっかり反映される。

 つまりは将来を見越した活動をしてるわけだね。

 学生の間に履歴書を良く見せるためにやったボランティア活動みたいなものだ。


「じゃあこのインゴットも預かるわね。バルムング草も金鉱石もかなり前から出ていた依頼なのになかなかやってくれる冒険者がいなかったから助かるわ」

「そうなの?そこまで難しいものじゃないと思うけど」

「バルムング草は見分けるのが難しいし、金鉱石はさっき言った通りそのまま売った方がお金になるでしょ?この二つの依頼主は期限も切らないし支払いもいいのだけど難しい依頼が多いのよねぇ…。直接雇いたいのか、達成した冒険者に会わせてほしいなんて言うし」


 ん?なんかどこかで聞いたことがあるような話だね。どこだっけ?


「じゃあこの二つの清算でいいのね?」

「え?…あー…まだあるんだけどここじゃ狭くて」

「あらぁ?何か討伐してきたのかしら?いいわ、ついてらっしゃい」


 姉さんはカウンターの一部を跳ね上げると私を中に招き入れた。

 そのまま歩き出す彼女についていくとサッカー場二面くらいの広さの運動場に出た。


「ここは王都の冒険者ギルドで加入審査したり、訓練するために貸し出しているところよ。たまに大物を持ってくる冒険者はここに出してもらうことにしてるのよ」

「へぇ…すごく広いね」


 うん、これなら問題ないかな。正直かなり張り切っちゃったからベオファウムのギルドと同じくらいの広さだったらどうしようかって思うところだったよ。


「じゃあ出すね」


 魔物素材を入れている腰ベルトに手をかけるとまずは依頼書にあったブラッディエイプを取り出していく。

 ブラッディエイプは直接空間魔法で収納したので鞄に手を掛けているのはフェイクで実際は鞄の少し上に空間の出口を作って放出している。

 正確な数は数えていないけど百体近く収納したはず。

 どんどん目の前に積まれていくブラッディエイプの死体を姉さんも最初は頷きながら見ていたものの、三十を超えたあたりから完全に動きが止まっている。

 最終的にボスの死体だけ近くに置くと、今度こそ腰ベルトの中身を取り出し始めた。

 次に出したのはこれも依頼書にあったキングレイクロブスターだ。全長一メテル以上もある巨大なザリガニでハサミなんか私の胴体よりも太く大きい。

 電撃魔法で湖の生き物ほとんどを仮死状態にさせて回収するだけの楽なお仕事だったので調子に乗ってかなりの数を収納したはず。三十から先は数えてないけど、これも山のように積まれていく。

 その他王都近郊で私の魔力感知に反応した強力な個体を適当に狩っては回収したのでそれもどんどん出していく。多分四十匹くらいだったはず。

 最後にワイバーンとその卵を出して、残りがないことを確認すると私は姉さんの方へと振り返った。


「姉さん、これで全部だよ。……姉さん?」

「セ、セシルちゃん?これ、いつから貯めてたの…?」

「私王都に来たの一カ月くらい前だけど、これは全部今日狩った魔物だよ」

「きょ、今日一日で?」

「うん。えっと…やりすぎた?ごめんなさい?」

「あぁ、うん、やりすぎだけど…やりすぎね…」


 あぁ、やっぱりやりすぎだったんだ?

 これはちゃんと謝らないといけないかも…。

 そうだよね、よく考えたら私一人がこんなに仕事しちゃったら他の人が仕事出来なくなっちゃうか。今後はそういうところも考えてやらなきゃ。


「とりあえず清算するわ…でもすぐには終わらないわよ?」

「来週の週末にまた来るからその時まででいいよ。あと、もし魔石が出てきたらそれは買い取りじゃなくて私に戻してほしいの」


 ただの魔石なら自分で作った方が内包魔力の多いしっかりしたものが用意できるけど、魔物から出てきたものは昨日ヴィンセント商会で買ったみたいな紋章が浮かんでるのか確認したい。

 そう思って姉さんに交渉すると彼女は二つ返事で了承してくれた。

 この場は彼女に任せて表に出ると再びクレアさんのカウンターへ行き、買い取り清算に時間がかかることを説明して翌週また来ると伝えてギルドを後にした。

 寮に着いたのは六の鐘が鳴る少し前だったので、私は洗浄(ウォッシュ)で身体と服を綺麗にしてからリードと二人で食堂へと向かうのだった。




 そして翌週。

 平日の貴族院での学生生活を終え、例によって冒険者ギルドへとやってきた。

 今日は先週預けたまま帰宅せざるを得なかった報酬の受け取りをしてしまおうと、まずは買い取りカウンターの姉さんの元へと向かった。

 さすがに朝早いということもあって買い取りカウンターは閑古鳥が元気良く鳴いていて、姉さんは先週とは違った紫色のボンテージを着込んで退屈そうに爪の手入れをしていた。

 …でも爪の手入れって普通綺麗に見せる為のものよね?

 なんであんなに鋭利にギラギラと光らせているんだろう?


「姉さん、おはよう」

「あら?まぁまぁセシルちゃん、おはよう。あれからずっと来なかったから気になってたのよぉ?そしたら聞けばセシルちゃんってば貴族院に従者で入ってるっていうじゃない?アタシびっくりしちゃったわぁ」


 えぇ…普通に制服着てたはずなんだけど?

 貴族院にいる間、週末王都に出ること自体は自由だけど制服を着て行くことが校則で決められている。

 つまり実家に戻る時以外はほぼ制服で過ごすことになる。しいて言えば寝間着くらいは自由だけど、そんなもので外出することなんて有り得ないしね。


「制服だったからわかるかなって。それに先週帰るときに『また来週』って言ったはずだよ?」

「あらそうだったかしら?まぁでも国民学校の生徒も制服で外出してるからちゃんと知らないとどっちの子かわかんないのよね」

「そっか。まぁそれはいいよ。それで先週渡したものの清算って終わってるかな?」

「えぇ、勿論よ。一応量が量だったから目録を作っておいたわ」


 私は姉さんから一枚の紙受け取ると斜め読み程度に紙面上で視線を走らせた。

 ブラッディエイプも雄と雌で買い取り金額に差が出ており、個体の強さによっても分けられている。

 他にもキングレイクロブスターのサイズもあちこちで狩りまくった強力な魔物の素材も一覧になっている。そのほとんどが状態「最良」になっているのは倒すときにも気を使った結果だろう。

 一応ベオファウムのヴァリーさんに買い取り金額が高くなるコツみたいなものを聞いていたし、討伐する魔物によってトドメの方法も変えている。


「とりあえず…セシルちゃんのおかげで水の日まで寝不足になっちゃってお肌の調子がイマイチよ」


 それだけの筋肉を誇っておいてお肌の調子も何もないと思うけど…。

 姉さんは本当に心()()は乙女だね。

 そのうち私特製の石鹸やシャンプーを差し入れしてあげようかな?


「それにしてもよくこれだけの魔物をたった一日で狩ってきたものね。こんなこと伝説のSランク冒険者だって無理なんじゃないかしら?」

「ふふ、これでも将来の有望株ですからっ」

「……有望どころか既にトップになってるのわかってないのね…」

「へ?なに?」

「なーんでもないわよぉ」


 最後にボソッと何か言ってた気がする。トップがどうとか?

 領主様にもゼグディナスさんにも王国でもトップクラスとは聞かされていたし、自重するつもりもないのでこのままでいいでしょ。


「じゃあこれ、清算した金額、ねっ!!と」


ガチャン


 姉さんはカウンターから出てきたと思ったら大きな革袋を重そうに抱えて私の足下に置いた。

 お金が入ってると思うんだけど音が明らかに異常だ。というかこんなもの既に鈍器のレベルだし。リードなんてこれで殴られたらそれだけで瀕死になりそうだよ。


「なんかやけに重そうだけど、全部小銭で用意したの?」

「そんなわけないじゃない。全部白金貨よ。あとは魔物から出てきた魔石も全部そこに入れておいたわ。脅威度Aの魔物素材で『最良』ならそれだけで最低でも白金貨二枚になるけど魔石を抜いたからそこまで非常識な金額にはなってないはずよ」


 私は足下の袋を開けて中を確認してみた。

 白金貨は別の小さい革袋に入れられており、その中身はさっき確認した目録通り白金貨百十枚。それと魔石が四十個ほど。

 目録を見て思ったけど驚いたことにワイバーンの卵が一つ白金貨一枚という高額買い取りだった。

 他にも、とある魔物のこ、こう……玉が白金貨四枚とか、額のところの毛皮だけが金貨六枚など、部位によって高いものがあるようだ。


「世の中には変わった物を欲しがる人がいるんだねぇ」

「そういう人達が欲しい物を取ってこれる人がいないからこれだけ高い買い取り金額が付くのよ」

「ふぅん…。でもこれでこないだ散財した分はなんとか補填できたから助かったよ」

「白金貨百枚って…セシルちゃん何買ったのよ…。男爵位くらいなら買える金額よ?」


 姉さんが呆れて色っぽいポーズをしたまま手で自分の肩に掛かった髪をくるくると弄っていた。

 その姿だけは綺麗なお姉さんであることは間違いないのにね…。

今日もありがとうございました。

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