第395話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》4
「まあ、クリスのする事をいちいち気にしてても仕方ないし疲れるだけだし……! どうぞ、行っちゃって!」
「うんラニ……! 行って来る!」
イングリスは船首を軽く蹴って前へと飛び出す。
本気で反動をつけるならば、霊素殻も併用して思い切り踏み締めるべきだが、それをすると星のお姫様号を墜落させかねない。
だから踏み出しはそっと柔らかく。
だがそれだけでは、失速して逆に星のお姫様号に追い抜かれてしまうだろう。
となれば、これだ――!
イングリスはくるりと後方を振り向き、掌を水平線の先に翳す。
「霊素弾!」
ズゴオオオオオオオオォォォォォッ!
噴出する霊素の光が、イングリスの体に圧倒的な推進力を与える。
星のお姫様号を引き離し、一気に魔石獣の群れの頭上に出る。
「ガアアアアァァァッ!」
活きの良い魔石獣が一体、早速反応して水上に飛び上がり、大口を開けてイングリスを飲み込もうとする。
「ありがとうございます……!」
鋭い牙の生え揃った顎が閉じる瞬間、イングリスは身を翻してそれを避ける。
「ちょうど足場が欲しかった所です!」
閉じた口を足場にし、群れの前面に出る位置に跳躍。
そこは無論、底が見えない程に深い洋上である。
そのままであればイングリスは水に沈むはずだが、そうはならなかった。
ピキイィィィィンッ!
音を立てて瞬間的に、足元の海水が凍り付いて足場になる。
竜氷の鎧の元々は魔術の氷であり、竜理力の源となってくれた神竜フフェイルベインも、至高の凍気の力を持つ氷の竜だった。
必然的に、それらを組み合わせた竜氷の鎧も強力な凍気を帯びている。
少し足元を意識して力を込めると、具足の部分から滲み出る凍気がこうして、足元を凍らせてくれる。
イングリスは真っすぐ直線的に走るだけならば水上走行も出来るが、急に止まったり細かな方向転換をしたりという戦いの足運びには対応していない。
こうして踏み出す足元を即座に凍り付かせて足場にしてくれるのならば、地上で戦うのと大差ない感覚で戦うことが出来る。
非常に局所的だが、本来の機能とは違う副次的な効果としては十分だ。
「うん、これは戦いやすい……! では、行きます!」
ちょうど前方左右から、二体の魔石獣が高く跳ねて急襲をかけて来る。
イングリスは足元に氷の回廊を作りながら、右手の魔石獣へと突っ込む。
「はああぁぁぁっ!」
跳躍し、高く跳ねた魔石獣へと逆に迫る。
あちらはイングリスの動きに反応できず、迎撃の動きも取ることが出来ない。
一応目標を見定めて飛び掛かったはいいが、目標がその場から動いてしまうと、動きの修正のしようもないのだ。
これが鳥か何かであれば翼で動きを制御できるだろうが、魚が飛び上がってしまえばなかなか難しいだろう。
イングリスは容赦なく、魔石獣の横腹に回し蹴りを突き刺す。
ドゴオオオォォォンッ!
轟音と共に魔石獣が真横に吹き飛び、もう一方から迫っていた一体に激突した。
お互いの勢いがぶつかり、絡まり合うように落下する魔石獣。
イングリスはそれを追いかけて、落下地点に先回りする。
「ラニ! レオーネ!」
名を呼びながら、魔石獣を高く、遠くに蹴り飛ばした。
魔石獣は自分たちで飛び跳ねるよりも遥か高く遠く、追いかけて来る星のお姫様号に目がけて飛んで行った。
と、更に足元から鋭い角と大きな口が急に姿を見せる。
足元からイングリスを丸呑みする動きだが、それにも反応し軽く真上に跳躍。
紙一重で攻撃を避けつつ、長い角を掴んで水上に引き摺り上げた。
「これはリーゼロッテに!」
そして掬い上げるように拳を一閃。
魔石獣はビチビチと身をくねらせながら、先程の二体を追って飛んで行く。
魔石獣には物理的な攻撃は効果がない。
殴り飛ばす事は可能だが、それでは致命傷を与えられない。
止めはラフィニア達に任せる方が効率的だ。
「きゃああああぁぁっ!? 何か飛んで来た! 魚臭ーい!」
「落としたらまた潜られるわ! 確実に迎撃しないと……!」
「少し離れているのは、わたくしが!」
「機甲鳥は私が操縦するわ! あなた達は迎撃に専念して!」
エリスが星のお姫様号の操縦桿を握り、ラフィニア達が吹き飛んでくる魔石獣達への迎撃姿勢を取る。
光の雨の光の矢。
長く伸長した黒い大剣の刀身と、そこから発せられる幻影竜。
竜の咢の形に変形をした、斧槍の先端から発せられる吹雪。
騒がしいながらも、一体も漏らさず魔石獣達を撃破してくれる。
「いいね……! じゃあどんどん行くね!」
更に追加で次々と、魔石獣をラフィニア達のほうに弾き飛ばして行く。
「ちょっとクリスううぅぅぅぅっ! 早過ぎるから! ちょっとは自分で倒してよ!」
連続で七、八体を蹴り飛ばすと、ラフィニアから文句を言われた。
「ん。そうだね……」
足元を見る。
これまでの立ち回りで、凍った足場は結構な数が残されている。
「じゃあ、こっちで!」
イングリスは竜氷の鎧を解除する。
そして両手を握り拳に、腰の剣を抜き放つような姿勢で左右の拳を合わせる。
その姿勢から、剣を抜き放つ動きに竜理力を完全に重ねつつ、氷の剣を生む魔術を発動。
魔素と竜理力を意図的に混ぜ合わせる位置で発動する事により、変異が起こる。
グオオオォォォ……ッ!
竜の咆哮と共に、竜を象った意匠の蒼い剣が出現する。
もう一つの竜魔術、竜氷剣だ。
竜氷の鎧との同時発動は出来ないが、今は動き回るための足場も十分。
こちらはすでに武公ジルドグリーヴァとの実戦で使った事があるが、更に試しておく。
ちょうど目の前に飛び出して来た魔石獣の体に埋もれる魔石の色は氷の青。
耐性があるであろう相手にあえてぶつけて見るのも一興である。
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