第348話 15歳のイングリス・虹の王会戦26
「リ、リップル――!? あなた、戻って来るのは明日じゃ――」
「ちょっと早く終わってね~。思ったより被害少なかったから――みんなここにいるって聞いたから、来てみたんだけど……っておおぉぉぉっ!? ど、どうしちゃったのエリス……!? エリスがドレス着てるなんて――!?」
「ま、まあ――この子達に勧められて……ね」
「お~! いいじゃんいいじゃん、似合ってるよ、エリス!」
リップルはニコニコとエリスに近づいて、ぺたぺたと色々な所を触り出す。
「たまにはこういうのもいいよね、何せ初めてだもん虹の王を倒してちゃんと喜べるのって……! まあ、ボクより先にエリスがハメ外してるのは予想外だったけどね~? 普段のエリスだったら怒るよね? 浮かれてる場合じゃないって――」
「い、いいでしょ……! 今回は特別――! 本当に特別な事が起きたんだから……!」
「ま、そうだね。でもマジメなボクはきっちりこの服で参加するからね~。あー、ボクもカワイイ格好してはしゃいで楽しみたかったなあ、祝勝パーティ」
リップルがそう言って肩をすくめると――にやりとエリスが笑った。
「言ったわね……! じゃあ望み通りにしてあげてっ!」
「はいっ!」
ラフィニアがニコニコ笑って、リップルを捕まえた。
「はい、リップルさん! こっちに来て下さい……! 着替え、手伝いますから!」
「え、え……? 何、ラフィニアちゃん――!?」
「こんな事もあろうかと、あなたの分も用意しておいたわよ――!」
「ラニに全部任せましょう、リップルさん? 着飾るのは楽しいですよ?」
「尻尾もリボンで飾っていいですか? きっと可愛いから……!」
「へ……ひゃんっ!? く、くすぐったいよぉ、ラフィニアちゃん……!」
「お洒落ですから! お洒落には我慢も必要なんです!」
そして――
「わ~♪ リップルさん、可愛い~♪」
こちらは淡い橙色のドレスと、可愛らしいリボンで耳や尻尾まで飾られたリップルがそこにいた。
エリスは美しさの際立つ大人の魅力と言う感じだが、リップルは愛嬌たっぷりで、快活な可愛らしさが際立っている。どちらもそれぞれに、魅力的だ。
「そ、そう……? どこもおかしくないかなあ――? あんまりこんな格好しないから、新鮮だけどなんか不安だよ……?」
「心配はいりません。よくお似合いですよ」
「イングリスの言う通りです!」
「そうですわ!」
イングリスがリップルを勇気づけると、レオーネもリーゼロッテも頷いて同意する。
「そ、そう……?」
「似合っていると思うわよ、リップル。まあ、こうなってしまったんだから、今日は覚悟を決めて楽しみましょう――?」
「はははっ。エリスがそんな事言えるようになるなんてねー」
と、リップルは愛嬌たっぷりに笑みを見せ――
ぎゅっとイングリスの腕を取った。
「ありがとね、イングリスちゃん。キミのおかげで、今日は楽しんでいいんだって思えるよ――!」
「本当にリップルの言う通りね――こんな時間がくるなんて、思わなかったわ。ありがとう……じゃあ、行きましょう?」
「はい――! 一緒に食べて食べて――食べまくって楽しみましょう……!」
イングリスの目がキラリと光る。
「いや、私達はそんなに食べられないから……!」
「そ、それはラフィニアちゃんと二人でやってもらえると――」
エリスとリップルに左右を付き添われて、イングリスは支度室の外へと向かった。
◆◇◆
それから一月程経ったある日――
イングリスとラフィニアの姿は、星のお姫様号の機上にあった。透けるような青空と草原とが、何とも心地よい景色と空気を彩っている。
そんな中で見えて来たのは、城塞都市ユミルの防壁と、その中の街並みだった。
「うわああ~~! 見えて来た、見えて来たよ、クリス……! なんかすっごい懐かしいね~~♪」
「そうだね、ラニ。でもこんな空からユミルを見るのも初めてだから、何だか新鮮だね」
「うんうん、そうよね! あ~! 何か月かしか経ってないはずなのに、何年かぶりって感じ!」
「色々あったからね? 虹の王とも戦えたし、いい体験だったね?」
「いや、あれはもう思い出したくないわよ……! でも何か、ユミルに帰ってきたらもう安心って感じ! これぞ実家のような安心感ってやつね!」
「ははは、まあ本当に実家だし、たまにはゆっくりしようかな。最近ちょっと騒がしかったし」
イングリスとラフィニアがユミルに帰って来たのは、騎士アカデミーが休暇に入ったからである。要するに里帰りだ。
本来の予定通りの休暇なのだが、その前は身の回りが色々と騒がしかった。
虹の王の撃破という歴史的慶事の立役者とされたイングリスやラフィニアは、すっかり王都では有名人になってしまっていたのだ。
恐らく国中に、その名声が鳴り響いてしまった事だろう。
ラファエルや聖騎士団の名誉を潰さないためにも、そうする事を判断したものだが、仕方がないとは言えこの先少々不安である。
近衛騎士団長の役目は非常勤だと最初に強く断っていたため、政治や軍事の表舞台に引き上げられるようなことはなく、騎士アカデミーの一生徒のままでいられそうだが――
それもイングリスに理解のある、カーリアス国王や本来の近衛騎士団長レダスのおかげであり、今後はどう転ぶか分からない面もある。
「そうね、じゃあ早くゆっくりするために急ぐわよ! 加速モード!」
「はいはい、じゃあ、行くね!」
星のお姫様号は一段と加速し、程無くビルフォード侯爵家の城へと辿り着く。
庭に着陸すると、空を飛ぶ星のお姫様号を見つけた母セレーナと伯母イリーナが既に待っていてくれた。
「クリスちゃん!」
「ラフィニア!」
「母上!」
「お母様っ!」
と、全員が満面の笑顔で久しぶりの対面に喜んで――
「母上……」
「お母様……」
イングリスもラフィニアも、同時に気になって尋ねていた。
「何を持っていらっしゃるのですか?」
「なあに、それ?」
母セレーナと伯母イリーナも、何束もの冊子のようなものを持っているのだった。
「ああ……」
「これね――」
母と伯母は満面の笑みを浮かべて、こう言うのだった。
「「お見合いの申し込みよ! こんなに沢山!」」
「はぁ……!?」
「わぁ――どんな人どんな人!?」
顔を歪ませるイングリスと輝かせるラフィニアの反応は、まるで正反対だった。
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