第335話 15歳のイングリス・虹の王会戦13
「――霊素穿!」
イングリスは虹の王ではなく光の檻に向け、霊素穿を放つ。
壁面に当たった霊素穿は音もなく反射し、地面を撃って消えた。
一方の光の檻の方には、何の影響もない。
かなり強固。
小技とはいえ霊素の戦技を弾いて揺るぎもしない。
一方、単に攻撃を弾くだけで、攻撃性のようなものは無い。
つまり、足場には利用できる――といった所か。
「では――!」
イングリスは背負っていた竜鱗の剣を体の横に構えつつ、虹の王へと突進する。
虹の王はそれを迎え撃つべく身構え――
た瞬間、イングリスは地を蹴って跳躍していた。
右方向に、一気に虹の王の視界の外へ。
強く速く跳んだ分、壁にぶつかりそうになるが、むしろ好都合。
これが足場にできるのは先程確認済みだ。
身を翻して壁を蹴って上方向へ。
弾丸のような勢いで、丁度虹の王の頭上の壁際に到達。
虹の王はまだ、イングリスが最初に飛んだ右方向を見ている。
壁の反射を使えることもあり、こちらの動きは相手の反応速度を一歩上回っていた。
――今回は、先手を打たせて貰う!
イングリスはさらに壁を蹴り、眼下の虹の王へと飛び込んで行く。
竜鱗の剣を振り上げつつ、霊素を魔素に落とし込む。
「氷ッ!」
ピキィィン!
竜鱗の剣の刀身を、蒼く冷たい氷が覆った。
イングリスが良く使っている氷の剣の魔術の応用だ。
と言うよりも、刀身に纏わせるだけなら剣の形を固定して形成する必要がないため、こちらの方がより簡単である。
「はあぁぁっ!」
飛び込みざまに虹の王の首元を斬りつける。
ガッ!
硬い手触り。剣が弾かれたような感覚だ。
虹の王の表皮に残った傷跡は、引っ掻き傷程度だ。
だがこの攻撃は、それは構わない。初撃の傷の深さは問題ではない。
着地したイングリスは即座に刃を返し、引っ掻き傷のあたりを狙って斬り上げる。
また虹の王の表皮に刻まれた引っ掻き傷は、最初の半分程度だった。
キュオオォッ!
そこでイングリスの動きに反応した虹の王が、槍のように鋭い嘴を突き下ろして来る。
だがイングリスは剣を振り上げた勢いを殺さず、身を捻りつつ飛び上がる。
虹の王の嘴は狙いを外して、地面に突き刺さった。
その時、既にイングリスは身を回転しつつ剣を叩き下ろす態勢を整えている。
低くなった虹の王の首元を、氷に包まれた竜鱗の剣が捉える。
――今度は全く傷がつかない。
エリスの言う通り、同じ攻撃でも加速度的に効き目が弱くなっている様子だ。
更に返す刀で横薙ぎ。
今度は傷がつかないどころか、一撃目二撃目の僅かな傷跡が完全に消失した。
「なるほど……!」
二撃目で半減、三撃目で無効化、四撃目で威力を吸収してしまった。
確かに、極めて高い学習能力だ。
「ですが――まだです……っ!」
相手の強みを受け止めて、それを上回って勝つのがイングリス・ユークスの戦い方だ。
この虹の王の強み――極度の学習能力をもっと見せて貰う。
そのために、今回は先手を打って攻撃に出たのだ。
「炎っ!」
ボウゥゥゥッ!
今度は竜鱗の剣の刀身が炎に包まれる。
単体で炎の剣を生み出すような魔素の制御は、まだ身に着けていない。
そういった魔術は真にした事がないので、再現の方法は分からない。
氷の剣は実際に見た魔術なので覚えたが――
が、このように、元々ある実体に炎を纏わせるだけなら可能だ。
単に炎を飛ばすような低級魔印武具の動作を真似れば出来る。
「これはどうです――!?」
虹の王の攻撃を掻い潜りつつ、イングリスは炎を纏った剣を叩きこんで行く。
光の檻を足場に、多角的に飛び回りながら動ける事が幸いした。
イングリスの動きの速さと複雑さに虹の王は振り回される一方だ。
だが炎の剣を四回結果は先程と同じだった。
二撃目で半減、三撃目で無効化、四撃目で威力を吸収、である。
「では、雷っ!」
バヂバヂバヂッ!
今度は迸る雷を纏う刀身。
――これも結果は同じ。
「真空――! 岩石――! 毒物――! 酸の水――!」
あちらの攻撃を貰わず、イングリスの剣だけが虹の王を確実に捉えて行く。
光の檻の外で戦う騎士達には、全く視認できないような動きだった。
「な、何だあの動きは――!? は、速い……!? 速過ぎるぞ――!?」
「あ、あれがイングリス殿……!? まるで動きが見えん――!」
見えない程の速度で動き回る何かが、執拗に虹の王に纏わり付いているようにしか見えないのである。
「いいぞ――! あいつは狼狽えている……!」
「これならやれるかも知れん――! よし、俺達も耐えて踏ん張るぞ――!」
虹の王はイングリスを鬱陶しがり、叩き落そうとしている。
が、明らかに捉え切れていなかった。
その様相は騎士達を勇気づけ、士気を奮い立たせる。
が――イングリスが繰り出したどの種類の斬撃も、氷や炎の時と結果は同じだった。
そして――
「氷ッ!」
イングリスは地面に踏ん張り腰を落とし、虹の王の胸元に突きを放っていた。
竜鱗の剣の刀身は、最初の氷に戻っている。
――一度目から虹の王には効かなかった。
「――なるほど……厄介ですね」
七つの魔術を剣に纏わらせて攻撃を試みたが、そのどれもが効かなくなった。
ただ、どれも最初は少しながら傷跡は残していたので、別物と認識されているようだ。
そして七種類の後にまた最初の氷の魔術に戻した所、最初から攻撃は通じない。
つまり七種類全部を覚え続けている。
これがまた最初の氷が通じるようになっていれば話は簡単だった。
霊素の戦技や竜理力で攻撃した後、今のように複数種類の軽い魔術で攻撃を行い、虹の王の記憶状態を戻して再び霊素や竜理力で攻撃すれば良い。
だがそれは出来ないようだ。少なくとも七種類の属性の攻撃では――
これ以上種類を増やそうとすれば霊素や竜理力になる。
これを使うのは危険だ。全て学習されてしまった場合、手の打ちようがなくなる。
既に霊素は、挨拶代わりに弾き飛ばした剣の攻撃で一度使っている。
無駄撃ちは出来ない。
となると、多種類の攻撃で学習能力を上回る方向は諦めざるを得ない。
ならば、時間を置けば少しずつ記憶した耐性が薄れる可能性はどうか――?
それもあり得るかもしれない。
「……少し、剣のお稽古と行きましょうか――」
イングリスは剣に宿らせた魔術を解き、何もない状態に戻す。
これで暫く、時間を稼がせて貰うとしよう。
その間に、他の味方の地下坑道への避難も進み、より安全になるだろう。
イングリスが大威力の戦技を繰り出した時に、味方を巻き込む危険性も減る。
決して悪い方向には転がらないはずだ。
だが、そんなイングリスの考えを知ってか知らずか――
ルゥオオオオオオオォッ!
虹の王がそれまでより一段高い鳴き声を上げる。
同時に大きく強く翼を広げると、凄まじい暴風が巻き起こる。
「――ッ!」
咄嗟に剣を体の前に構え、盾にしつつ軽く跳躍。
暴風に無理に抗うのではなく、それを利用して距離を取った。
重い竜鱗の剣を持っていても、イングリスの体は大きく後方へ運ばれる。
それだけ勢いが強烈だという事だ。
だがそれも、虹の王が本来意図したであろう行動の、副産物でしかなかった。
暴風が巻き起こした土煙で一瞬視界が塞がれた直後、前が妙に明るい。
今は夜なのに、真昼のようだ。
完全に視界が戻ると、その正体は一目瞭然だった。
「おぉ……!?」
虹の王の体から無数の虹色の羽が舞い散り、空中に漂っているのだ。
本体より強く光り輝き、その数は百や二百では効かない。
千、いや数千――虹色の羽が舞い踊る光景は、単に見る分には非常に美しい。
幻想的だとすら言えるだろう。だが――
「単に女性を喜ばせるため、ではないですよね? どうせなら力でもてなして下さい!」
その返答代わりと言わんばかりに、虹色の羽が動きを変える。
尾を引くような跡を残しつつ、一斉にイングリスに向かって降り注ぎ始めるのだ。
捉えられないなら、逃げ場の無い程の密度の攻撃で制圧し、捻じ伏せる。
その意図が如実に感じられる、圧倒的な密度の攻撃である。
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