第320話 15歳のイングリス・王子と王子11
ウィンゼルはいつの間にか姿を消した炎馬を、脚甲を打ち鳴らして再び具現化する。
「なるほど流石大国カーラリアは人材豊富だな――手練れの上級騎士で俺を疲労させ、最後は特級印を持つ聖騎士が控えるというわけか」
「生憎、俺はカーラリアの聖騎士じゃねえよ。元聖騎士なのは確かだがね――今は血鉄鎖旅団の一員さ。一切カーラリアとは関係ないね」
「血鉄鎖旅団だと……? あれは反天上領のゲリラどものはず。それが何故、この戦いに首を突っ込もうとする――?」
「ま、これに関しちゃ旅団の方針も関係ないんでな――全く個人的な事情だよ。妹の喧嘩に兄貴が出る……それだけさ」
「妹離れが出来ん兄だという事か――貴様の妹は、十分一人前の騎士だと思うが?」
「そいつはどうも――まあ、色々迷惑かけ通しだからな……取り返すってわけじゃねえけどさ、妹の前でいいカッコさせて貰うぜ……!」
複数のレオンが、一斉にウィンゼルの周りを動き回り始める。
どれが本物なのかは、レオーネとリーゼロッテの目には全く分からない。
「出来るものならな――!」
見分けが付き辛いのは、ウィンゼルにとっても同じだったのだろう。
左右の馬上槍の後端同士を接続し、一本の双身槍の形状にする。
更にそこから、それぞれの馬上槍がグンと伸びて長さを増す。
レオーネの黒い大剣のような変化だ。
こちらは伸びただけなので、太さまで変わるかは分からないが――
「そらあああぁぁぁっ!」
そして、長大になった双身槍をぐるぐると、高速で旋回させる。
それぞれの馬上槍からは雷と炎が撒き散らされ、まるで竜巻のように、ウィンゼルの周囲の空間全てを覆い尽くす勢いだ。
「す、すごい――!」
「あれでは近づくのは至難の業ですわ……!」
擬態したレオンを近づけてしまうと、自爆されて被害を避けられない。
ならば広範囲高密度の攻撃で、近づけさせずに全て巻き込んでしまおうという事だ。
どれが本物か、擬態の偽物かという駆け引きの土俵に乗ることを拒否した戦法である。
「なるほど――賑やかなもんだねえ……!」
複数のレオン達は、それでも俊敏な動きでウィンゼルへと迫って行く。
途中で何人もウィンゼルの攻撃に引っかかって爆発をするが――
その度にまた新しくレオンが出現し、ウィンゼルへと迫る。
時折その間近まで肉薄しそうになるレオンもいたが、それはウィンゼルの脚となる炎馬が大きく跳躍して距離を取ってしまう。
一進一退。
ウィンゼルの馬上槍が放つ雷と炎の竜巻の轟音。
それに巻き込まれたレオンの擬態が弾ける、これも轟音。
それらが連続して重なり合って、壮絶な音と光景だ。
レオンもウィンゼルも決定打が出ないまま、お互いの奇蹟の鬩ぎ合いが続く。
どちらかが力尽きて奇蹟が維持できなくなるまで、続きかねない。
「このままでは、手が出せませんわね……!」
その真隣のリーゼロッテの声も聞き取り辛い程に、二人の攻防は激しい。
「――!」
そこで、レオーネは思い出す。
レオンが助けに入ってくれる前に思いついていた突破口を。
それは恐らく、今でも通用する――
レオーネは後方を振り返り、そちらに近づいていく。
「レオーネ……!? どうなさいましたの――?」
「手は出せないけど、口を出すわ……! プラム――!」
戦いの様子を見守っている味方の中では前の方にいたプラムの名を呼んだ。
「は、はい……! どうかしましたか――!?」
「あなたの力を貸して! 奇蹟でレオンお兄様の魔印武具を強化するの! そうすれば――」
そのレオーネの提案に、リーゼロッテが異を唱える。
「待って下さい、レオーネ……! プラムさんの竪琴の音色は全ての魔印武具を強化しますわよ? どちらもの魔印武具が強くなってしまいますわ……! いえ、むしろあちらの方が数が多い分――」
「ええ……! 音が届けばね――! 見て、あれだけの音を立てる攻撃の中心にいれば、竪琴の音なんて届かないわ――! だからお兄様だけ強化できるはずよ……!」
レオーネは雷と炎の嵐の中心にいるウィンゼルを指差す。
その指摘に、リーゼロッテもはっとして頷く。
「た、確かにそうかも知れません……! レオーネの言う通りかも――!」
「ね、そうでしょう――!? お願いよ、プラム――!」
「でもレオーネ、本物のお兄様は、どちらに……?」
「う――!? で、でも呼びかければ――!」
「いや、その必要はねえよ」
プラムはにっこり笑顔で言うのだが――それはレオンの声だった。
「「!?」」
その姿が見る見るプラムからレオンに戻って行く。
「この新型の便利な所は、自分自身も偽装できるところでな。ま、俺達みたいな奴等には相応しいぜ……! おい聞こえたか、プラムちゃん! いっちょ宜しく頼むぜ……!」
レオンの呼びかけに応じて、本物のプラムが進み出る。
「はい、聞こえました――! じゃあ行きます――!」
プラムの竪琴が美しい旋律を奏で――レオンの魔印武具の輝きが格段に増した。
「ほう……こいつは――! なら、これでどうだっ!? うおおおぉぉぉぉッ!」
レオンの雄叫びと共に、更に大量のレオンの姿をした擬態が生み出される。
全て合わせれば、その数は数十にも及ぶ程だ。
「こうなったら数の暴力で行くぜ――! 全員で行けええぇぇ!」
「「「よっしゃああああぁぁっ!」」」
大量のレオン達が一斉にウィンゼルに群がる。
先程までは捌き切れていたが、ウィンゼルに到達しそうなレオンの数があっという間に増える。
それを避けて動いても、密度を増したレオンの誰かがすぐ近くにいて飛び掛かる。
段々、ウィンゼルの動きが追い付かなくなって行き――
とうとう一人のレオンが、ウィンゼルに組み付いた。
「ようし……! 俺に続けっ!」
にやりと笑みを残してそのまま爆発。
一度決壊すると、後続を止める術は無い。
それが収まらぬ間に、あっという間にレオン達が群がる。
「うおおおおおぉぉぉぉっ!? 離せ――ッ!」
ウィンゼルの声をかき消すように――
レオン達が折り重なって、人の山のようなものが出来て――
ドガアアアアアアアアアァァァァァァンッ!
特大の閃光と轟音を残し、一斉に弾け飛んだ。
「やれやれ……俺が爆死してるみたいで気持ちよかあねえが――ま、さすが新装備ってやつかな?」
レオンが静かにそう呟いて――
「兄貴……! ウィンゼル兄貴――! 大丈夫か……!?」
「ウィンゼル様――!」
ラティとプラムが、爆発の煙が収まり切らない中を、ウィンゼルの身を案じて近づいていく。
「あ、ラティ――! まだ……!」
「プラムさんも――危険があるかも知れませんわよ……!」
レオーネもリーゼロッテも、慌ててそれを追う。
幸いレオーネ達が想像した最悪の事は起きず、ウィンゼルは体のあちこちから煙を上げながら、倒れ伏していた。
「う……ぐっ……ぬかったわ――まだ力を隠していたとは……!」
広範囲に攻撃を撒き散らしていたウィンゼルには、こちらの行動の詳細は分からなかったようだ。
「隠してたわけじゃねえよ――ま、力を合わせた結果ってやつだ。ありがとさん」
レオンはそう言って、レオーネ達に向けて笑みを見せる。
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