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第313話 15歳のイングリス・王子と王子4

 全軍が林の中に移動し、野営の準備に取り掛かる中――ウィンゼルは周囲に告げる。


魔印武具(アーティファクト)を所持する騎士達は、設営は他の者に任せこちらに集合せよ! 進路を塞ぐあの魔石獣の対応策を練る!」


 とは言え、方針はほぼ自分の中で決まってはいるが――

 魔石獣への攻撃に魔印武具(アーティファクト)を持たない兵を差し向ける意味は無い。ならば、少数精鋭――である。


 小一時間が過ぎ――


「――では、選抜した精鋭たる諸君らに、あの魔石獣どもへの威力偵察を命じる。近づいて様子を窺い、あちらが動き出し攻撃してきたら反撃せよ。だが決して深入りはするなよ。敵わぬと見たらすぐ引き返せ。最優先は、誰も死傷者が出ん事だ」

「「「ははっ!」」」


 ウィンゼルの命に、選抜された騎士達が応じる。


「では行け! 出撃――!」


 騎士達の乗る機甲鳥(フライギア)が飛び立って行く。

 ウィンゼルの部隊には数少ない機甲鳥(フライギア)だが、少数の作戦行動にならその存在を十分に活かせる。


 が――飛び立って行く機甲鳥(フライギア)の機影を見送りつつ、ウィンゼルは人知れず一つため息をつく。


 はじめから自分が出張れば済むものを――

 だが、総大将が未知の敵相手に突入など、必ず反対する者が出る。


 それを避けるため、一度は部下に任せる姿勢を見せねばならない。

 そしてそれが難しかった時、自分が自ら出る――と。

 自分が動くことを想定していたため、先行する部下達には何よりも自分の身を守ることを命じたのだ。


 まだまだ、自分が最前線に出張っても、必ず大丈夫という部下からの信頼が得られていない。アルカードは比較的平和で、実戦の機会の少ない国だったことは否めないが――

 これからもっと、自分自身も兵達の信頼も鍛え育てて行きたい所だが、自分が王になってしまえば、そんな機会も失われてしまうだろうか――


「……性に合わんが、この国のためとあらば、やって見せるさ――それが恩を返すという事だ」


 ウィンゼルはそう呟いた。


 飛び立った機甲鳥(フライギア)に乗る騎士達は、橋の向こう側の林にたむろする魔石獣へと近づいて行った。


 グオオオオォォッ! グオオオオオォォォォンッ!


 魔石獣達から上がる咆哮が、俄かに活発になる。

 巨大な尾の動きもますます大きくなる。


「……!」

「こ。こっちに気が付いたか――!?」


 騎士達はいったん、機甲鳥(フライギア)の動きを制止する。

 魔石獣の咆哮は激しいものの、雪に埋もれた体が起き上がったり、何か攻撃を仕掛けてくるわけではなかった。


「――気づかれたかも知れんが、攻撃はないな……」

「もう少し、近づいてみよう……!」

「慎重にな――! ウィンゼル王子もそうお命じだ!」

「よし、行くぞ……!」


 更に近づいていく。

 慎重に、少しずつ、少しずつ――


「近づいて見れば見る程、こいつはデカいな――」

「ああ、とんでもないな……!」

「こんなのが起きて襲ってきたら――」


 更に距離が詰まって行く。


「もう魔印武具(アーティファクト)による遠隔攻撃が届くんじゃないか……!?」

「よし、撃って反応を確かめてみよう――!」

「分かった、行くぞ――!」


 騎士達は装備した魔印武具(アーティファクト)から炎の弾や風の刃を発して攻撃を行う。

 それは巨大な尾の表面を撃ち――あえなく弾けて消えてしまった。

 傷をつける事は叶わず、全く効いていないように見える。


「……効かんか――!?」

「接近して、直接攻撃してみるしかないか――?」

「だが危険だぞ……!?」

「いや、見ろ――攻撃してもあいつの様子は変わらないぞ……もっと接近してもいいんじゃないか?」

「そうだな。ひょっとしたらあいつ、体が雪に嵌って動けなかったりするのかな――」

「ははは、まさか――」

「だが、近づいて見るのは試してみるべきだ。ひょっとして接近しても攻撃してこないならば、わざわざ倒さずとも、無視して横を通り抜ければいいんだからな」


 その意見には、騎士達の賛同が集まった。


「そうだな、その通りだ」

「よし、行ってみよう――」

「油断をするなよ……!」


 そうして、機甲鳥(フライギア)は巨大な尾のすぐ近くに降りて行き――

 騎士達の目の前と周囲の光景が、突如として真っ暗になった。


「「「……っ!?」」」

「「「な、何だ……っ!?」」」


 目の前に見えていた白い景色も、雪が舞う風音も、全てが無くなり真っ黒な景色に。

 機甲鳥(フライギア)で浮いているはずだが、全てが真っ黒であるためどこが地面かも分からない――!


  ◆◇◆


「今よ! リーゼロッテ!」


 奇蹟(ギフト)を発動したレオーネは、即座にリーゼロッテに呼びかける。

 この黒い空間は、レオーネの黒い大剣の魔印武具(アーティファクト)の力。

 異空間を生み出し、周囲の人間を隔離や退避させるものだ。


 元々はセオドア特使が、リップルが呼び寄せてしまう魔石獣を周囲に被害を出さずに倒すために用意したものだが――またここで役に立った。


 これが、イングリスの残して行ってくれた作戦の肝だ。

 部隊の進軍上避けられない地形に、フフェイルベインの尾を使った偽装を施す。

 竜など一般的な存在ではないから、それを見た者はまず魔石獣だと判断する。

 相手が魔石獣となると、通常の部隊は戦力にならない。

 魔印武具(アーティファクト)を持つ騎士で対応を行おうとするはず――


 そして、アルカードの部隊の魔印武具(アーティファクト)の所有数は多くない。

 ゆえに少数精鋭が接近する事になるはず――

 そこを、レオーネの魔印武具(アーティファクト)奇蹟(ギフト)で異空間に引き摺りこんで無力化するのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 毎日更新ウレシイ…ウレシイ… [一言] リップルの時は深く考えてなかったけど強制的に異空間に引き摺り込むの強すぎて笑ってしまう
[一言] ラティさんへの評価が高くないけど、この王子ウィンゼル自身も別にそれほどの覚悟をしていなかったようですね。だからイングリスさんに上手く読まれたかも。 イングリスさんの智謀の基いてレオーネさんと…
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