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第262話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)35

「な、何――!?」

「地下に何かがいるの……!?」

「――分からないけど、大きそうだね……!」

「急ぎませんと――」


 しかし――


 グオオオオオォォォッ!


 イングリス達の行く手を阻むように、白い半透明の竜頭の群れ――


「――幻影竜!」

「こんな時に、邪魔ね……!」

「わたくしが、進路をこじ開けますわ! 皆さんは止まらずに先に!」


 リーゼロッテは船体を蹴るようにして反動をつけ、その勢いを利用して前へ突出する。


「やああぁぁぁぁっ!」


 突き出された斧槍(ハルバード)は、仄かに青白い輝きを帯びていて――


 ブオオオオオォォッ!


 冷たく輝く猛烈な吹雪が発生し、それが幻影竜達を飲み込んだ。

 一撃で凍り付いた幻影竜達は、パキパキと音を立てて崩れ落ちて行く。


「な……何ですの――!? これは――!?」


 驚きながらも、リーゼロッテは横を通り抜けていく星のお姫様(スター・プリンセス)の船体の縁をしっかり掴む。


「リーゼロッテも一緒なんだわ……! これも竜理力(ドラゴン・ロア)――! そうよね、イングリス――?」

「うん、そうだね――」


 見ると、リーゼロッテの斧槍(ハルバード)の斧頭も一部が竜の咢のような変形を遂げている。レオーネの黒い大剣の魔印武具(アーティファクト)と同様の変化だ。

 こちらの場合、幻影竜を生むのではなく竜の吐息(ドラゴン・ブレス)に似た現象を引き起こしている様子だが。


「リーゼロッテも私と同じ位、それで竜の肉を切っていたから――!」

「な、なるほど――騎士の誇りである魔印武具(アーティファクト)を肉切り包丁になんて――と思わなくも無かったですが、頑張って良かったですわ……!」


 リーゼロッテは嬉しそうに、新たな力を得た斧槍(ハルバード)魔印武具(アーティファクト)に頬を寄せる。


「二人とも、いいなあ――! あたしの魔印武具(アーティファクト)も強くしたかったなぁ……! 弓じゃお肉なんて切れないんだもん!」

「ラフィニアさんは、セオドア特使が用意して下さった治癒の奇蹟(ギフト)がおありでしょう? どんどん進歩なされていますから――わたくし、置いて行かれないか心配していましたのよ?」

「でも、それ言ったらレオーネはセオドア特使から異空間に渡る奇蹟(ギフト)も貰ってるし、竜のお肉の力も貰ってるし、追加で二つもずるいわよ――!」

「え? い、いや私なんてまだまだ――」

「ふふふっ。大丈夫、みんな頑張ってるし、進歩してるよ?」


 三人は上級印と、それに見合う上級魔印武具(アーティファクト)を持つ騎士の卵達だ。将来は数多くの部隊を率いる、上級騎士になって行く事だろう。

 だが個々の戦闘能力で言うなら、既に上級騎士の中でも上位の水準に至っているのではないかと思う。


 いずれ、天恵武姫(ハイラル・メナス)さえ使わなければ聖騎士にも匹敵する――というような水準にまで至るかも知れない。

 そうなれば素晴らしい事だ。訓練相手として申し分ない。ぜひ頑張って欲しい。


「頑張ってもっと強くなって、一緒に訓練しようね? ふふふ――」

「か、可愛いんだけど可愛くないわね~。どんな恐ろしい訓練をさせるつもりよ――」

「そ、そうね――お手柔らかにね……」

「常人に付いていくのは大変ですからね――機甲鳥(フライギア)を背負って走り込みなんて、出来ませんし……」


 と――


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴ――――ッ!


 一際大きな地鳴りが響き渡る。

 フフェイルベインの側の、ひび割れつつあった地面。

 それが決定的に崩壊をはじめ、中から巨大な影がせり上がって来た。


「……! 何か来る――」

「な、何あれ――!? 大きい――!」


 ラフィニアの言う通り、それはフフェイルベインにも匹敵する程の巨体だった。


「竜に似てる……!? で、でも――あれは……!」


 レオーネの言う通り、それは竜に近いような造形をしており――


「あの虹色の体は――!? ま、まさか……!」


 そう、リーゼロッテの言う通り、その体は虹色の輝きを放っている。


「「「虹の王(プリズマー)……!」」」


 ラフィニアとレオーネとリーゼロッテは、驚愕した様子で口を揃える。


「た、大変だわ――! 何でこんな時に……!?」

「リックレアを滅ぼしたのは虹の王(プリズマー)だって、イアン君が言っていたわよね――? それが、ずっと近くに潜んでいたのかも……!?」

「と、とにかく大変ですわ……! 野営地を守りませんと……! あそこには騎士や兵士でない方々も沢山おられます――!」

「で、でもある意味良かったじゃない? ねえ、クリス。竜さんが戦ってくれなくなった分、あれと戦えるわよ! 思う存分やっていいからね!」

「いや。違うよ、ラニ」

「え? 何が?」

「あれは虹の王(プリズマー)じゃない――」


 虹の王(プリズマー)に特有の、圧倒的な迫力を感じない。

 例えばアールメンの街で見た氷漬けの虹の王(プリズマー)は、分厚い氷の中からも極限まで凝縮されたような、只ならぬ力のうねりを感じさせたものだ。

 イングリスが王都カイラルで撃破した虹の王(プリズマー)の幼生体も、あれ程ではないが、独特の力のうねりは共通していた。

 あの虹の王(プリズマー)らしきものには、それを感じないのだ。

 虹の王(プリズマー)でないどころか、魔石獣でもないだろう。

 感じる力の流れが、魔石獣とも異なるのだ。

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