30話 旅立ち
それから数日後、俺は旅の準備を終えこれから家を出るところであった。
それまでの数日は挨拶とか準備に忙しかったのである。特に大変だったのがルースとリナのゴーレムの対処であった。
だが、これはどうにか誤魔化して家に雇われるメイドという扱いになった。
その上で師匠はいるが、師匠がいないときに何かが起こってはいけないと思ってルースとリナを含めて10人までゴーレムを増やした。
無金無休で働く彼女達は今まで金銭面で貧しかった領主の家のメイドたちも大喜びであった。
俺は旅に出るにあたって、新たな服も新調し、買ってもらったローブは黒がベースで白で縁取られ半袖のシンプルなローブであった。
その他にも、旅の必需品をそろえたりしたのだが、そのほとんどは師匠のお下がりであった。
「それでは…行って来るよ…」
と屋敷の玄関の扉に手をかける。
「お気をつけて…ご主人様…」
「ご主人様、気をつけてねー!」
とルースとリナを筆頭にお見送りしてくれていると…
「フリード!」
と呼ばれ振り返ると、今にも泣きそうで震えている母親の姿があった。
「気をつけてね…」
そして俺はゆっくりと戻って、母さんをそっと抱きしめる。
「あぁ…心配しなくても大丈夫だよ…」
と抱きしめる俺も若干泣きそうになってくる。
「ここは君の帰るべき家だ…いつでも帰ってくるといい」
「はい…ありがとうございます。伯父さん」
こちらを暖かく見守っている伯父にも感謝を述べる。
「イリス…ミリスも元気でな…喧嘩して、母さんに迷惑かけるんじゃないぞ?」
と言って2人をそっと抱きしめる。
「うん…イリス、もう喧嘩しない…だから早く帰ってきてね」
「ミリスもしない…だからお願いね…おにーちゃん」
二人の声はともに震えていて今にも泣き出しそうだが、これ以上泣いて俺に迷惑を掛けたくないという気持ちで必死に堪えているようだった。
「じゃあ…行ってきます」
そして俺は家の使用人にも見送られながら、家をあとにする。
家を出ると、師匠が待ち構えていた。
「おっしゃ、行くか」
と師匠はゆっくりと俺に歩調を合わせて隣を歩く。師匠は見送りをしてくれているのだ。
改めて見る村は平凡で人々は一生懸命に生きている。あの日本の生活を知る俺にとっては退屈でつまらない村だったがいざ旅立つと思うと寂しい思いになる。
「そうだ…これ坊主にやるよ…」
と言って渡されたのは銀色に輝く指輪であった。
「それはな、古代遺跡の遺産なんだが、それをつけていると外に出る魔力を魔力結晶に置き換えてくれるんだぜ…剣士の俺にとっては不要だし、お前はなにかと魔力が多いから狙われるかもしれないからな、それで魔力の気配を隠せ」
と説明された指輪を装着してみると、確かに外に出るはずの魔力が指輪に集まっていった。
「ありがとうございます師匠…」
とお礼を述べると師匠は恥ずかしそうに頬をぽりぽりと掻く。
「まぁそんなもんはいいんだ…あとこれもやる…」
と渡されたのは鞘に収まった剣だが、抜いてみると無骨だが、なかなかの逸品であった。柄にはベルクリッド・フォールマと刻まれてあった。
「師匠…これって…」
「俺が昔冒険者時代に使ってたやつだ…まぁ、俺の名前が刻まれてあることについては勘弁な…ま、男なら剣の一本や二本もっとかないとな!」
「ありがとうございます!師匠…俺大事にします!」
と余りの嬉しさに声も気分も上がってくる。
父親の剣はあるが、俺は剣士タイプなので父さんの剣は扱いづらかったのである。
そして師匠は何かを思い出したような顔をする。
「もし、王都に行って困ったらアリアを尋ねろ…ロベルトの息子って言ったら多少は助けてくれると思うぜ…」
と師匠が助言してくれたので率直に頷く。
「わかりました。困ったときはそうします」
まぁできるかぎりは自分でしてみようとは思っている。
「あと…そうだな…もし、裏の組織を相手にするときは顔を隠せよ。ああいうやつらは反撃がしつこいからなぁ…」
「ふふ…なんだか実体験のように語りますね…」
その師匠の言葉にはどこか教訓じみた真剣な声音だった。
「まぁな…昔、可愛い娘を助けるために組織に乗り込んだら、その後しつこく追われてなぁ…」
「そ、それでその娘さんとはどうなったんですか?」
今にも笑いそうな気持ちを抑えて尋ねる。
「まぁ…お礼を言われただけで終わりだったぞ…婚約者がいるって言ってたしな…」
俺はとうとう我慢できなくなった。
「ぷっ…あはははは!師匠がかわいそすぎでしょ!そして意外にもロマンチストだったんですね!!」
俺は腹を抱えて笑うと師匠は顔を赤くする。
「う、うるせえ!男はロマンと夢に生きる生き物なんだよ!」
「ぷっ…た、確かにそうですね…」
師匠の開き直りにまた笑いそうになるが、どうにか堪える。
「まぁ…でも師匠のそういうとこ、割と尊敬してますよ」
「お、おぅ…そうか」
と突然照れてしまう様子に乙女か!と突っ込みを入れたくなる。
「まぁ…師匠の下で学べて俺は楽しかったですよ…」
「なに言ってんだ、そういうのは俺に勝ってから言え。まだまだお前は俺の弟子だ」
「これは手厳しい…」
とお互い微笑む。
そして、俺たちは村の出口まで来ていた。
「じゃ、俺が見送り出来るのはここまでだ…」
「では、師匠…行ってきます」
と俺は育った村を後にして、旅に出た。
なんだかんだ言ってもう一話続いちゃいました…ちゃんと、次からは冒険者編ですよ!!
誤字脱字等ありましたらおねがいします。




