聖剣①
シオンとルフィーナがアルム達の屋敷に逗留してすでに三日目になっていた。その間にシオンとルフィーナは次の調査のための準備を行っていた。
食糧、傷薬、ポーションなどは言うに及ばず、ロープ、投擲用のナイフなどもそうである。もちろん、木札を作りスキルの偽造も忘れていない。
アルム達はシオン達を王都に連れ出すと色々な所を案内してくれた。シオンとルフィーナにとって王都は初めてであり、大いに休暇を楽しむ事になったのである。
そして楽しい夕食を終えると一頻り歓談したところで、夜も更けたため全員がそれぞれの部屋に引き上げることになった。
「シオン、ちょっと良いか?」
シオンも部屋に引き上げようとした時にアルムに呼び止められた。
「何?」
「シオン、お前の剣を見せてくれ」
「え?」
「かなりくたびれてたからな。気になってたんだ」
「ああ、ちょっと待ってて」
シオンはそう言うと与えられていた部屋に置いてある剣を取りにいった。少ししてシオンは自分の剣を持って戻ってくる。
「はい」
シオンは自分の剣をアルムに渡す。アルムは渡された剣を抜き放つとシオンの剣をじっくりと品定めを始めた。
(ふむ……やはり、ありふれた剣だ。しかも相当にくたびれてる)
アルムはシオンの剣を見て、業物から程遠い量産型の剣である事を確信する。
「この剣でよくあの炎に耐えられたな」
アルムの言葉にシオンは僅かに緊張する。もちろんアルムがシオンに害意を持っているなど一切考えていないのだが、それでも緊張するのは間違いない。
シオンは意を決してアルムに言う。
「兄さんは分かってるんだろう? あの炎の魔剣は俺の能力の産物だと言う事をさ」
「ああ、お前の祝福に関係するんだろう?」
アルムの言葉にシオンは静かに頷く。
「……偽造。言葉は悪いが“複製”と言い換えれば通りは良いと思うんだがな」
「言葉を変えても意味ないさ。その通り、炎の魔剣は俺が偽造した魔剣だよ」
「偽造者……か。シオン凄い能力だな。俺の勇者なんぞよりも遥かに応用が利く」
「兄さんの勇者ほどの希少価値があるわけじゃないさ」
シオンの返答にアルムは静かに首を横に振る。
「いや、俺は勇者としての生き方が定められてしまった。他に応用が利かない。もし巨悪とやらが現れなければ俺はこの世界から排除されるだろうな」
「え?」
アルムの言葉にシオンは驚きの声をあげる。アルムの言った事は唐突すぎてシオンはつい呆けた返答をしてしまったのだ。それを見てアルムは自嘲気味に笑いながら言う。
「事実だ。過ぎた力は多くのものを呼び寄せる。尊敬、嫉妬、悪意、羨望……そして恐怖」
「恐怖?」
「巨悪が現れればそれを斃すために利用されるだろうが、巨悪がなくなれば俺は危険人物として扱われるだろうな」
「兄さん」
「なぁシオン、俺はお前がこの前の試合で“ずっと味方だよね”と言っただろう?」
「え?……うん」
「あれは今にして思えばあの試合で確認する必要な何かがあったんだろうな。でもあの返答は俺の本心でもある」
アルムの言葉にシオンは何も言うことが出来なかった。シオンが返答しない事にアルムはニヤリと笑う。
「まだまだ甘いな。この程度の揺さぶりで返答に窮するなんてな」
アルムはにこやかに笑いながら言う。この時、シオンはアルムの掌で転がされていたことに気づく。
「流石だね。でも、俺は何も恥じることはしてないよ。兄さんに問いかけただけだからね」
シオンはそう言い返した。実際にあの問いかけはシオンは何一つウソを付いたわけではないのだから恥じる必要はないのだ。
「兄さん、兄さんはずっと俺の味方だと言ってくれたね。俺も兄さんの味方だよ。例え世界中が兄さんを排除しようとしても俺だけは最後まで兄さんの味方だ。世界が敵に回るというのなら俺は世界の敵になるよ」
「言うねぇ」
「本心を述べたまでのことさ」
「まその辺の事は上手くやるさ」
アルムはそう言うとまたもニヤリと笑う。シオンもアルムのその笑顔につられて笑顔を浮かべた。
表面上は和やかで冗談めかしているが、お互いにこれはお互いを思いやっている故の空気作りである事を察していた。
「シオン、お前に見せたいものと渡すものがある」
「え?」
アルムはそう言うと立ち上がり歩き出した。シオンはそれをみてアルムの後ろを付いていく。
言葉には出さないがアルムは付いてくるように求めている気がしたのである。
アルムはそのまま一つの部屋に入っていく。
「これは……」
シオンは部屋に入るとそこは数々の武器が収められていた。その中に一際目を引く一本の剣があった。
アルムはまっすぐにその剣を手に取るとシオンに手渡す。
「抜いてみろ」
「う、うん」
シオンはその剣を抜こうとするがビクともしなかった。
(なんだこの剣は?)
シオンが腑に落ちない表情を浮かべた所でアルムがシオンに向けて言う。
「その剣は聖剣“アビスベルム”……俺の愛剣だ」




