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戦い終わって③

「私とアルティナの関係?」


 ルフィーナは声には戸惑いの感情が込められている。


「ああ、お前は兄さんとアルティナが一緒にいるところを見て、突然兄さんに襲いかかったし、アルティナも俺とルフィーナが恋人同士と勘違いしたときに襲いかかってきただろ、いくら何でもあり得ない行動だ」

「う……あれは確かに悪かったわよ。頭に血が上って……」


 シオンの言葉にルフィーナはしどろもどろになりながら返答する。当然だが、シオンはルフィーナを責めているわけではない。単純に重度のシスコンであってもそれはそれで構わないと思っている。


「ルフィーナが単に重度のシスコンというのならそれはそれで構わないんだがな。もしそれ以外の理由があるなら教えて欲しい」


 シオンはそう言うとルフィーナの目をまっすぐに見つめた。シオンにまっすぐに見つめられたルフィーナは徐々に頬を赤くしていく。美の化身と呼んでも差し支え無いほど容姿の整っているルフィーナだが異性との対処には初心であるのだ。


「あ~もう分かったわよ!!」


 ルフィーナは音を上げる。その表情には羞恥の感情がありありと浮かんでいた。


(しかし、ルフィーナって本当に初心だよな。俺と少しばかり目が合ったぐらいであっさりと限界を迎えるんだからな)


 シオンはルフィーナの初心さについて笑いを噛み殺しつつ思う。シオンの表情を見てルフィーナの表情が憮然としたものに変わるのだがそれすらもルフィーナの美しさを損なう事は無く、むしろ気取った感じがないので魅力を増しているとシオンは思っていた。


「私はエルメキルスの出身というのは話したでしょ?」

「ああ」

「エルメキルスは王家が神族というのは知ってるわよね?」

「結構有名な話だよな」

「うん、エルメキルスの支配者階級はみな神族で貴族は王家の分家にあたるわ」


 ルフィーナの言葉は淡々としている。それはシオンには神族に対する反発であるように思われた。


「ひょっとして……ルフィーナの実家は貴族か?」


 シオンの言葉にルフィーナは静かに頷く。


「うん、私の家はエルメキルスの十家の一つであるエルックベルム家よ。ちなみに爵位は侯爵」

「なんとまぁ……ルフィーナってそんな良いとこの令嬢だったんだな」


 シオンの驚きの言葉にルフィーナは苦笑を浮かべる。


「そうでもないわよ。貴族なんて自由に振る舞えないし、常に気を張ってなきゃならない。それが貴族としての誇りという人もいるのだけど……私は性に合わないわ」

「まぁ確かに豪華な食事、煌びやかな生活をイメージするけどそういうのって息が詰まるな」

「よくよく考えたら私に【暗殺者】の祝福(ギフト)が発動したというのは運が良かったのかもしれないわね」

「まぁそう言えなくも無いな」


 シオンの返答にルフィーナは少しばかり笑みを浮かべるがすぐに思い出したかのような表情に変わった。


「ああ、ごめん話が逸れたわね。今の話で分かったと思うけど私は神族なのよ」

「そうか。神族と言っても人間とほとんど変わらないな」

「うん。貴族の中にも最近は混血が進んでてね。人間、エルフ、ドワーフとの混血も進んでいるわ」

「へぇ~そんな風になってんだ」

「ちなみに私の家は純血の神族なの」

「逆に言えば血統を維持し続けたというわけか。あと混血の必要が無いほど財政的に豊かだったというわけだな」


 シオンがそう言うとルフィーナは苦笑を浮かべた。シオンの言わんとした事を正確に察したのだ。


「そういう事、エルメキルスの貴族はこの数世代で他の種族と婚姻を結ぶ事が多くなったのよ。シオンのお察しの通り、経済的な困窮を理由に他種族と結びつくようになっているわけ。そして私の実家はその必要が今まで無かったのよ」

「と言う事はルフィーナやアルティナのあの行動は純血の神族の特性というわけか?」


 ルフィーナは静かに頷いた。


「うん。正確に言えばエルメキルスの貴族の中でも上位貴族に見られる特性ね。純血を守るために神族以外の者と婚姻を結ばないように他種族に特別な感情が芽生えると嫌悪感を抱くようになるのよ」

「おいおい……」

「その特性は洗脳によって植え付けられるわ。そしてそれは自分だけでなく近親者にそのような事がおきれば親類でそれを排除しようとするのよ」

「なんとまぁ……」


 シオンの声は呆れたという感想そのものである。いくら純血を保つためとはいえ、洗脳という手段を使うとは常軌を逸していると思わざるを得ない。


「でも、ちょっと待ってくれ。さっきの話だと現在(・・)は上位貴族だけの話のようだけど、過去(・・)は上位貴族以外の貴族も普通にその洗脳をしていたわけだろ?」


 シオンの問いかけにルフィーナは頷く。


「でも最近は経済的に困窮した貴族が、他種族と婚姻すると言ったろう? その貴族達はその洗脳を受けていてどうやって他種族と婚姻を結ぶ事が出来たんだ?」

「ああ、簡単に言えば洗脳を解いたのよ。そして、それから代々、洗脳は弱いものへと変化していったのよ。それこそ一定期間かけなければ自然に消えるレベルのものにね」

「と言う事はルフィーナも?」

「うん、家を出てそれなりの期間が経つからかなり弱くなってるのよ。でも、自分が一定レベルで大切に思っている者に対してはまだ残っていたみたい」

「それでアルティナと一緒にいた兄さんに襲いかかったのか」


 シオンがそう言うとルフィーナはバツの悪そうな表情を浮かべた。


「なるほど事情はわかったよ。完全に消えるのはあとどれくらいだ?」

「そうね……あと一ヶ月と言った所かしら?」


 ルフィーナの言葉にシオンはにっこりと笑って頷いていう。


「そうか、それなら安心だな」

「う……迷惑かけて悪かったわよ」

「気にすんな。事情が分かればスッキリするもんさ」


 シオンはそう言うとこの話は終わりとばかりに前を見やった。そこからテクテクと歩いているとある考えがシオンに浮かんだ。


(あれ……ルフィーナは俺に対して嫌悪感を持っているようなそぶりはほとんど見せてなかったな……と言う事は俺はルフィーナの恋愛対象外と言う事か……)


 シオンは心の中でその考えに行きつくと少しだけズキリとした感覚を味わった。それが何の痛みなのかシオンは察していたがぶんぶんと首を横に振ることで誤魔化した。


「どうしたの?」


 突如首を横に振ったシオンにルフィーナが驚いて声をかける。


「いや、気にするな」

「うん」


 シオンの返答にルフィーナは何やら釈然としない感じを持ったが深く尋ねるのを避けた。


(思えば不思議よね。シオンに対しては嫌悪感を上回る信頼感があったわ)


 ルフィーナはすでに自分の中で洗脳が解けていたと思っていたのだが、アルティナの側にいたアルムを見た時の激情は自分で押さえきれないものであった。そのために洗脳が今だ自分の中に残っている事を思い知らされたのだ。

 だがそれならばシオンに対しても嫌悪感を持つはず(・・・・・・・・)なのに、そうならなかったのは不思議な事である。


(まさか……洗脳を上回るほど……?)


 ルフィーナはその考えに至ったときに自然と頬が熱くなるのを感じた。突如、真っ赤になったルフィーナにシオンが声をかけた。


「ど、どうしたんだ?」

「にゃ、にゃんでもにゃい!!」


 シオンが心配してルフィーナに声をかけると、明らかにあたふたと動揺した返答が発せられた。シオンはそれに驚いたのだが、これまた深く追求するのは避ける事にする。


「お、おう……」


 シオンの言葉にルフィーナはややぎこちない笑顔を浮かべた。

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