勇者との演習⑨
「どういうこと?」
これがシオンの“木を隠すなら森の中”という言葉に対するルフィーナの反応であった。もちろんルフィーナはシオンの言葉の意味が分からなかったのではなく、具体的に自分のスキルをどのように隠すのかが分からなかったのだ。
これは別にルフィーナの発想力が劣ると言うよりもシオンがどのスキルを使用するつもりなのかルフィーナが知っている偽造したスキルの中で思い至らなかったからである。
「兄さんは俺の祝福が何か知っている。バレてはいけないのは俺がスキルを偽造できると言う事だ」
「うん」
「ずっと前に俺がルフィーナに『俺はありとあらゆるモノを偽造できる』と言ったのを覚えてるか?」
シオンの言葉にルフィーナは頷いた。確かにシオンとコンビを組む際にそう言っていたのはルフィーナの記憶にあった。
「俺は剣を偽造したことにする」
「剣を?」
「ああ、この剣は何の変哲も無い剣だが、これを魔剣という事にするつもりだ」
ルフィーナはシオンの言葉をうたがうような事はしない。シオンが出来ると言うのだから変哲のない剣を魔剣に偽造すると言う事も出来るのだろうと考えているのだ。
「……なるほど。あくまで偽造できるのは物というわけね」
「そういう事だ。とりあえずはスキルが偽造出来るという事はそれで隠せると思う」
ルフィーナは顎に手をやり少しばかり思案顔を浮かべた。
「でもシオンの偽造って相手にバレたら効果を無くすと言ってなかった?」
ルフィーナの言葉にシオンはニヤリと笑って言う。
「ああ、その辺の事は考えてるさ。すでにその辺の事は実証してるから大丈夫だ」
「実証?」
「まぁ心配しなくて大丈夫だよ。ところでルフィーナ、これを渡しておく」
シオンはそう言うとルフィーナに木札を渡した。ルフィーナはシオンから木札を受け取ると即座に木札を割った。この辺りルフィーナの行動はシオンの事を信頼している証拠だと言えるだろう。
ルフィーナは目を閉じて自分の中に宿ったスキルを確認する。
「“聖なる癒し?」
ルフィーナの疑問を孕んだ声にシオンは静かに頷く。
「ああ、もしやられた場合にこれを使って治癒してくれ」
「でもこれで傷を癒したところで戦力強化にならないわよ」
「そんな事ないさ。今回の兄さんとの戦いは五分粘れば勝ちという勝利条件だ。そうである以上ルフィーナの戦闘能力を上げるよりもこっちの方が遥かに勝利に近付くさ」
「そんなもんかしら?」
ルフィーナは言葉では疑問形を発しているのだが声には納得の感情が含まれている。どうやらシオンの言わんとする事にある程度は納得しているようであった。
「それじゃあ。行くとするか」
シオンは懐から木札を三枚取り出すとそのまま割った。シオンが今回発動させたのは、“身体能力倍増”、“瞬神”、“炎の魔剣”である。
シオンはルフィーナに視線を移すと二人は互いに頷いた。
シオンとルフィーナはアルム達に向かって歩き出した。
(シオンは凄いわね……アルムさん相手でも冷静に事をすすめようとする。見習わなくちゃね)
ルフィーナは隣を歩くシオンをチラリと視線を移してそう思った。




