1話 キャンプ
3月。鈴鹿は無事に中学を卒業した。
普段は鈴鹿を遠くで見つめているだけだったクラスメイトや後輩たちも、卒業のタイミングではここぞとばかりに声をかけてきてくれた。制服のボタンというボタンは無くなり、連絡先や卒業祝いとしてもらった品々で両手はふさがり、帰るのも一苦労なほどだった。
多くの人からそんなにチヤホヤされた経験がなかった鈴鹿は戸惑い、終始照れながらコミュ障を発症して上手く話せないボロボロの対応しかできなかったのが悔やまれる。基本クラスメイトから遠巻きに拝まれてばかりだったため、久しぶりに話すとなるとてんぱってしまうのはしょうがないだろう。
後輩たちも最後だからと勇気を振り絞って声をかけてくれたのは嬉しかった。男子の後輩たちの視線が怖かったことを除けば、人生で一番充実した卒業式だったと断言できる。
担任の子安先生からは就職に良さそうな探索者ギルドをまとめた資料まで作ってくれていて、『いつでも来ていいが、困ったら必ず来なさい』と背中を押してもらった。鈴鹿の前の記憶ではうっとおしいおじさん先生という印象だったが、ただただいい先生だった。
そんな晴れて自由の身となった鈴鹿は、今キャンプに来ていた。
「すっげーいい眺めじゃん!! めっちゃ綺麗じゃね!?」
「だろ!! それに空いてる! あと10年もすれば激込みでこんないい場所にテントも立てられないから、最高のタイミングに来れたよ!!」
卒業記念として、鈴鹿はヤスを誘ってキャンプへ来ていた。場所は山梨県本栖湖のほとり。某キャンプ漫画で一躍有名になった、富士山と本栖湖を一緒に望める最高のロケーションのキャンプ地だ。
ここまではヤスのお姉ちゃんに連れてきてもらった。ヤスのお姉ちゃんが大学の友達と河口湖のロッジでBBQすると言うので、ついでに車に乗せてほしいと頼んだら快く了承してもらったのだ。
ヤスのお姉ちゃんは酒豪で酒好きなのを知っていたため、お礼の品として1層3区のエリアボス双毒大蛇の『うわばみの酒』をあげたら滅茶苦茶挙動不審になったのは面白かった。なんでも吞兵衛の間で伝説として語られているのが『うわばみの酒』なんだとか。お酒のドロップ品は他のモンスターもドロップすることがあるが、その中でも『うわばみの酒』はトップクラスに貴重らしい。
エリアボスからしかドロップしない酒ということもあって、そもそも市場に出回らない。そして、エリアボスが出現するエリアがまたこの酒の希少性を上げていた。双毒大蛇が出現するのは1層3区であり、この区画は探索者高校の生徒が活動しているエリアだ。探索者高校ではエリアボスとの戦いを非推奨としており、希凛のパーティであるzooのような実力のあるパーティしか挑むことができない。
そして、彼らはギルドに所属しているわけではないため、探索活動にノルマを設けられていない。貴重な酒だから十両蛙や水刃鼬と戦わずに双毒大蛇を何匹も狩ってこい!なんて指令を受けることがないのだ。
ただでさえ貴重なエリアボスアイテムであり、探索者自身も貴重なアイテムのため手放すことが滅多に無い。そのうえ消耗品ということもあって、装備の様にお古を使いまわすこともできない。幻と言われるだけのことはある大変貴重な酒である。と、ヤスのお姉ちゃんが熱く語ってくれた。
そんな貴重なアイテムを前に、ヤスのお姉ちゃんは震えあがり速攻で自分の収納にしまうと、何度も何度も鈴鹿に本当にもらっていいのか確認をとっていた。収納にしまった時点でやっぱ返してと言っても返ってはこなそうであったが、そこまで喜んでもらえるならあげてよかった。
お礼なんてしなくても車に乗せてくれたのだろうが、今日の車でもまるで社長にでもなったかのような接待を受けてここまで運んでもらった。同乗していたヤスのお姉ちゃんの友達もなんだなんだと驚いていたが、なにやら耳打ちされた後はヤスのお姉ちゃん同様に恭しく鈴鹿を拝んでいた。
「やっぱキャンプと言ったら焚火だよなぁ。まだ少し冷えるし、この時期の焚火は最高だよ」
「お、その手袋カッコいいな」
「ああ、これいいよね。菅生に貰ったんだ」
菅生がレベル上げしてくれたお礼と言って、焚火で使える手袋をプレゼントしてくれたのだ。鮮やかな黄色に染色された手袋は、なんと鈴鹿お気に入りのジャージと同じ鳴鶴製の物だった。
鈴鹿も菅生が大学に無事受かったため、何かお祝いでもプレゼントしようかと考えている。
「菅生君が?」
「そうそう。あと炎の色変える粉みたいなのも貰った」
「なにそれ。炎色反応?」
「多分。夜やってみよ」
謎に変な粉もプレゼントとして貰ったため、ありがたく今日使わせてもらおう。
◇
七色に燃える焚火を囲いながら、のんびりした時間を過ごす。遠くには月明りに照らされた雄大な富士山を望むことができた。
「意外に色づいてるの長いな」
「な」
七色に燃える不思議な炎が予想以上に続く中、火が消えないように薪を追加する。ダンジョンでは多くの薪を持ち込めないが、ここではいくらでも手に入るから気楽に燃やせて楽しい。
「まさかもう存在進化するとはな」
「あれ、気づいてた?」
「当たり前だろ。目の色全然違うじゃん」
クラスメイトもヤスも全然触れてこないので、案外気づかれないもんだなぁと思っていた。
「馬鹿かお前。存在進化した探索者にそんな気軽に聞けるかよ」
とのことだった。
理由は探索者にとって存在進化は地雷の可能性があるためだ。
鈴鹿は鬼種であり本人も喜んでいた。鬼を望んでいたわけではなかったが、逆に蟲は止めてくれと願ってはいた。これで存在進化が蟲であり、かつ常に蟲の特徴が身体に出ていたら引き籠っていたかもしれない。
このように、探索者によっては存在進化が望まぬ形のパターンもあり、存在進化の話をすると怒る探索者もいるのだとか。存在進化までレベルが上がった探索者が怒るなんて、一般人からしたら恐怖以外の何物でもない。そのため、よほど親しくもなければ存在進化の話はしないんだとか。
「はぁ、勉強になるわ」
「未だにそんな調子なの逆にすごいよな」
呆れかえるヤス。ヤスはダンチューバーとか好きなので、鈴鹿よりダンジョンに詳しかったりする。
「で、鈴鹿は何だったの?」
「俺は鬼だった。ほらこんな感じ」
そう言って鈴鹿は存在進化を開放する。見た目的には大きな変化はなく、黄金の瞳の瞳孔が爬虫類の様に縦長になり、額から一本の角が生える程度だ。
「おお……、すごいな」
「何引いてんだよ。なんか変?」
「いや、圧がすごくてさすがにビビる」
レベル10のヤスにとってレベル100越えの存在進化が発するオーラは、生物としての根源的恐怖を刺激される。文字通りヒト種から存在進化したことで、蛇に睨まれた蛙よろしく鬼に睨まれた人になってしまうようだ。
「それにしても鬼か! めっちゃ当たりじゃん! 見た目もいい感じだしよかったな!」
「ほんとに。蟲だけは嫌だったからほんと良かったよ。見た目も角くらいしか変わらないしね」
「眼も結構変わったぞ。なぁその角どうなってんの?」
「わかる。気になるよな。触るか? ほれっ」
鈴鹿が頭を差し出すと、ヤスはおっかなびっくり角に触れる。感触は艶やかでいて温かみのある金属だ。硬質だけど、血が通っているのか人肌くらいの温かさがある不思議な感じというのが鈴鹿の感想である。
「はぁ~、存在進化の角触っちゃったよ。自慢しよ」
「誰にだよw やめろよ気持ち悪いw」
「おまっ、まじ貴重な経験なんだからな!」
存在進化はプロの探索者でも出来る者と出来ない者がいる。ヤスの好きなダンチューバーであるミリマニは三級探索者のため、存在進化はできない。多くの探索者がレベル100前後で成長限界を迎えるため、探索者の道に進んでも半分は存在進化を迎えられずに終わるのだ。
存在進化ができるプロの探索者が知り合いにいるなんてことは、ほんとに稀な縁である。有名人が友人にいるようなものだろうか。
「それで、存在進化まで行ったなら探索者ランクも上げるのか?」
「そのつもり。とりあえず今度四級の試験受けるよ」
「は? なんで四級? 存在進化したなら二級昇格できるだろ。あ、それも知らない?」
四級の探索者ライセンスは2層1区のモンスターを倒すことができれば取得できる。一方、二級探索者ライセンスは存在進化ができるかどうかで取得できるため、鈴鹿ならば鬼になった姿を見せれば二級ライセンスを取得できることになる。
「それは知ってる。でも15歳で存在進化とか目立つじゃん」
「いや、まじ凄いことだからな? 目立ってなんぼだろ」
ヤスの言葉はもっともだ。鈴鹿が存在進化できると知られれば、各ギルドからスカウトが押し寄せメディアが鈴鹿を放っておかないだろう。15歳で存在進化した探索者なんてキャッチーな話題に加え、鈴鹿の美の化身と言っても過言ではない容姿が合わされば一躍大スターに成れるはずだ。
だが、当の鈴鹿がそれを望んでいなかった。むしろ忌避しているくらいだ。
一躍大スター? そんなものはクソくらえだ。勝手にメディアが祭り上げて有名人にさせられるのだ。たまったものではない。
たしかに日本中から注目を受けてちやほやされるのはさぞ楽しかろう。美味い物を食べ、美女を侍らせ、よいしょよいしょされる人生はなんと魅力的なことか。だが、それに伴う責務が嫌すぎる。
どこに行っても有名人だと騒がれ気を使い、メディア関係の仕事が入ればダンジョンへの探索スケジュールだって左右される。本当にそうなる確証はなく鈴鹿の妄想でしかないが、少なくとも自由気ままな今の生活は終わりを告げることだろう。
それに探索者である鈴鹿相手に馬鹿なことをしてくる者は少ないだろうが、ゼロではないはずだ。有名人ならプライバシーなんて存在しないとばかりに、記者だけでなく一般人までもが盗撮してくるのだ。鬱陶しすぎてカメラを向けた連中の何人かを殺してしまうかもしれない。こんなのんびりキャンプもできなくなってしまうだろう。
そんなのは嫌だし、本気で各メディアを脅しに行かなければいけなくなってしまう気がするので避けたい。
「だから、俺は四級探索者のランクで抑えとくんだよ」
「えぇ~、もったいないな。てか、それなら四級のライセンスも止めといた方がいいんじゃね? 二級までじゃなくても目立つだろ」
「はぁ、これだから探索者のイロハもわからん学生は」
小馬鹿にしたように鈴鹿は首を振る。
「いいか? 世間から見てプロの探索者と呼ばれるのは四級探索者からだ。知ってるか?」
「常識だろ」
「で、だ。五級探索者の今の俺は、世間から見てどう映る?」
「中学卒業したから中学生でもないし、高校も行かないから高校生でもないよな。五級はプロの探索者でもないから……え、まさかお前」
「そうなんだよ。俺、今無職のプー太郎なんだよ」
例えダンジョンで多くの稼ぎがあろうとも、例え存在進化を経ていようとも、世間から見たら『自称プロ探索者の五級探索者鈴鹿ちゃん(笑)』でしかないのだ。犯罪を犯せばニュースでは自称探索者の定禅寺容疑者なのだ。
世間体があまりにも悪すぎる。
「やばw お前無職かよww」
「そうなんだよ。まじヤバい。さすがにご近所様の目が痛い」
ひとしきりヤスは爆笑した後、あることに気が付いた。
「いやいや。お前ならどこのギルドでも入れるだろ。就職しないの?」
「しない。今のところメリット一切感じないし。とりあえず四級探索者になって、そのあとはまたその時考える」
1層の完全攻略とレベル100が鈴鹿の当面の目標であった。その目標が達成された今、鈴鹿は燃え尽き症候群に近い状態になっていた。一応四級探索者になるなんて掲げてはいるが、2層1区に出現するモンスターは最大レベルでも50。四級探索者に成れない方が難しいレベルの弱さだ。
順当に2層3層と攻略するつもりではいるのだが、真新しさがない。次の目標については、腰を据えてじっくりと考える必要があった。
「相変わらずぶっ飛んでんな。まだソロで活動してるんだろ? パーティとか組まないの?」
「それこそ、ギルドに所属でもしない限り無理だろ」
パーティを組んでみたいと考えたことはあるが、探索者高校の生徒では鈴鹿と釣り合わないし、存在進化を終えている探索者となるとギルド所属の探索者ばかりだ。
一応ギルドに所属しなくてもパーティを組むことはできる。臨時のパーティや助っ人要員として採用されるケースだ。だが、そんなの伝手やギルド間の人材の貸し借りがメインであり、鈴鹿のような野良の探索者が入る余地はないだろう。
それに焔熊羆戦で思ったが、パーティがいると成長できる機会が減ってしまう。鈴鹿は焔熊羆と戦った際、複数のスキルを使用して圧倒した。パーティがいれば同じように、焔熊羆の攻撃に合わせてそれぞれ役割分担された探索者が対処して戦うことができてしまう。
そうなると、自分に課された役割の範囲でしか成長することができず、スキルを極められる幅が格段に狭くなってしまうだろう。タンクならばいかに相手のヘイトを集め攻撃を受け続けられるか、アタッカーならいかに相手に攻撃を加えてダメージを蓄積できるかといった具合だ。
鈴鹿も和気あいあいとパーティで探索することに憧れもあるが、それ以上に自分の成長できる幅が狭まることが耐えられない。強くなれることを知ってしまったが故に、鈴鹿の身体はソロでしか探索できない身体になってしまっていた。
「大変だなお前も」
「大変よ。ヤスも俺が存在進化したって言いふらすなよ」
「そんなことしないけど、その眼でバレるだろ。俺もそれで気づいたし」
黄金に染まる瞳は、存在進化しなくても常にその眼の色をしている。髪の毛であれば魔力の影響で色が変わったと言えるが、さすがに眼の色は特徴的過ぎてすぐにばれてしまうだろう。
「カラコンで通すから大丈夫」
「随分出来がいいカラコンだな」
「日本製だからな」
逆にカラコンを付けて黒眼に戻すこともできるが、そんなのは手間なのでそこまではしない。知らない人に突っ込まれたらカラコンで通すと決めていた。
話題もいったん落ち着いたからか、のんびりとした空気が流れる。弱まってきた焚火に追加の薪を入れ、湖畔と富士山の絶景をぼうっと眺める。
「なぁ、相談があるんだけど」
ぱちぱちという焚火の爆ぜる音と風によって寄せる湖の波の音に、ヤスの緊張した声が響いた。
「なんだよ改まって」
「鈴鹿ってさ、去年の秋ごろ菅生君のレベル上げ手伝ってるって言ってたじゃん?」
「うん。大変だったわ」
嫌だ嫌だと駄々をこねる菅生の首根っこをひっつかんでモンスターと戦わせるのは骨が折れた。なんだかんだで感謝してるのかこうして手袋なんてくれたけど、当時からその気持ちをもってレベル上げに勤しんでほしかった。
「あ~、それでさ。俺も……その~なんだ。塾の友達のレベル上げすることになってさ」
言いにくそうに歯切れ悪くヤスは言った。
「なんだ、無理やりか? 俺が一喝してやろうか?」
「いや、そうじゃない。そこは大丈夫」
話を聞くと、どうやらヤスが気を利かせてその役を買って出たという感じだった。
ヤスの塾の生徒で偏差値の高い高尾山高校に受かったのは、ヤス含め4人だったそうだ。そのメンバーの一人が、ヤスに倣ってダンジョン探索すると言い出したそうだ。そしたら他の二人も同調し、三人でレベル上げをしようとなったらしい。
「いや、危ないだろ」
「お前が言うなって感じだけど、俺も止めたんだよ。危ないし。けど言い出した本人の言い分も納得できてさ。ほら、夏休みにうちの塾の生徒が探索者高校の生徒に絡まれてたことあっただろ? 斎藤さんって言うんだけど、その子がダンジョン行くって言ってるんだよ」
なんでも、探索者高校の生徒に絡まれて何もできなかったのが悔しかったらしい。『探索者嫌い』、『探索者高校潰れろ』と文句言うだけじゃなくて、自分も強くなって返り討ちにできるようになりたいと息巻いてるらしい。
「いい根性だな。気に入ったわ」
「簡単に言ってくれるなよ……。それで他の二人もそうだそうだって盛り上がっちゃってさ」
ヤスは既にレベル10のため、他の三人で探索頑張ってレベル10になったら一緒に探索しようと誘われたのだとか。
「で、お人よしのヤスが最初からレベル上げに付き合うよって、自分から首を突っ込んだと」
「そうなんだよ。さすがに三人でダンジョンなんて危ないだろ? それも二人は女の子だし」
「俺ら二人だったけどな」
まぁ、ヤスが言わんとしていることもわかる。強くなりたいという意見も尤もだし、三人だけでの探索は不安を覚えるだろう。
ヤスは回復魔法も使えるし、傍にいれば不慮の事故が起きても被害を最小限にできるはずだ。それなのに、自分が付いていかないばかりに友達が大怪我して後遺症が残りました、なんてなったら後悔してもしきれないだろう。
「それで、その三人ってどんな子なの?」
「一人はさっき話した斎藤さんっていう鈴鹿が助けた女の子で、もう一人が銀杏かえでちゃん。最初は斎藤さんが一人でもダンジョン行くって言ってたのに、気づけばかえでちゃんが一番ノリノリで見てて危なっかしいんだよね」
銀杏かえで? それって前の世界のヤスの奥さんじゃん。そういえば同じ塾だったとかなんとか言ってた気がするな。確かに前の世界でもアクティブだった気がするし、ダンジョン行くって言うかも。
ヤスの雰囲気から今はまだ恋愛感情は無さそうであるが、今後はどうなるかわからない。今も目離すと何しでかすかわからなくて怖いとか言ってるが、思わず目で追ってしまうということでもある。そのうち付き合いだすかもしれん。
これには俄然興味が湧いてきた鈴鹿。
「それで、最後の一人は?」
「最後は陣馬って男。めっちゃガタイ良くて、ラガーマンみたい。女の子だけじゃ危ないだろ、って参加してくれることになった」
「え、待って待って。陣馬って下の名前何?」
「陣馬勇蔵だったはず。何? 知り合い?」
「い、いや、知らないわ」
嘘だ。俺は知っている。陣馬勇蔵。そんな昭和の男みたいな名前間違えるわけがない。
陣馬は鈴鹿の大学での友人だ。同じ八王子出身で意気投合し、確かにヤスも同じ塾だったと話した記憶があった。ただ、陣馬とヤスは全然絡みがなかったから、いつも別々で会っていたのでその繋がりを忘れていた。
陣馬は筋トレが趣味のいい奴で、大学時代一番仲が良かった友人だった。この世界ではもう会えないかと思っていた男が、まさかここで登場するとは。巡り合わせとはこのことか。この縁は大事にしたい。
「わかった。俺もそのレベル上げ付き合うよ」
「え、まじ? いいの? 来てくれるなら助かるけど」
銀杏さんに陣馬もいるなら話は別だ。二人のためなら喜んで力を貸そう。
「ただ、俺も暇じゃないから参加するのは初日だけね」
「無職のくせに? 暇じゃないと?」
「ぶっとばすぞw 次会う時は四級探索者、プロになっとるわw」
ヤスの言う通り時間はあるが、鈴鹿が参加してしまうとステータスに影響を与えてしまうかもしれない。レベル10のヤスなら常に近くにいても大した影響はないかもしれないが、レベル100越えの鈴鹿では影響ありまくりだろう。
ソロで戦ったはずの菅生でも、鈴鹿やヤス程ステータスを伸ばすことはできなかった。三人がどれくらいのステータスを期待しているのかは知らないが、ヤスと一緒に探索するのであれば相応に高いステータスを取得してもらいたい。
初日に参加して、簡単な手ほどきと装備を整えてあげれば十分だろう。その旨をヤスに説明し、初回チュートリアルとして鈴鹿が同行することが決まった。日付は春休み中。鈴鹿の四級探索者昇格試験が終わってからになりそうだ。
その後もヤスの予備校での話や鈴鹿のダンジョンでの話で盛り上がり、キャンプ場の就寝時間である夜22時まで二人は話し込むのであった。




