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狂鬼の鈴鹿~タイムリープしたらダンジョンがある世界だった~  作者: とらざぶろー
第五章 不死なる者の下剋上

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8話 ダンチューブ

『同胞よ。私が教えられることは限られるが、少しでも多く学び取り、ぜひ糧にしてほしい。この動画はこれで終わりだ。次の動画で、スキルレベル1から順に確認してゆこう。それでは』


 その締めくくりの言葉とともに、動画は停止した。画面には次の動画の案内が表示されている。


 鈴鹿はすぐに次の動画を開くことはせず、思わず感想を呟いた。


「……思ってたんとちゃう」


 それはいい意味で裏切られたという感想だ。


 猫屋敷ねこやしきに紹介されたダンチューバーを見てみたら、鈴鹿が想像していたダンチューバーとは全然違っていた。蠱毒の翁は激渋俳優のようなイケオジで、短編映画を見ているような引き込まれる映像だった。


「ダンチューバーって言うから、『はい! 今日はね、こちら! 毒魔法について解説していきたいと思います!ドンドンパフパフ~』みたいなのと思うじゃん!!」


 鈴鹿もゲーム実況者の動画は、好きでよく見ていた。実況者の多くを知っているわけではないが、それでもなんとなくは配信のイメージを持っていた。


 だが、蠱毒の翁は鈴鹿の持つ配信者のイメージからかけ離れた存在だった。


「まだダンチューバーとして慣れてないからこんなカッコいい感じなの? 最新の動画とか見たら、蠱毒の翁が妙に高いテンションで『毒魔法でね、相手の装備だけ溶かす毒を作ってみたいと思います! 男の夢ですね!』とか言ってたりしない? しないよね?」


 怖いもの見たさに見たい気もするが、せっかく尊敬さえ覚えそうな相手のそんな姿は見たくない。


「ええ~、ダンチューバーってこんな感じの人もいるのか。ヤスに紹介されたミリマニさんとは全然毛色が違うな」


 ヤス一押しのダンチューバー『ミリマニ』は、配信をメインで行う三級探索者だ。初心者への探索の手助けとなる動画を中心に、視聴者が楽しめる企画も多く行っている。探索者と言うよりは、配信者が本業なイメージだ。鈴鹿がイメージする配信者そのものであり、蠱毒の翁の雰囲気とは全く異なる。


 同じ探索者でも、仕事として配信を行っている者と、その道を探究している者の差がありありと伝わってくる。ゲーム実況者とプロゲーマーの違いといった方がわかりやすいだろうか。


 鈴鹿も勧められたのでミリマニの動画を少し見たが、あまり参考になることは無く、逆にダンジョンの先を見せられるのでネタバレをされている気分になり継続して見ることはなかった。


 同じ理由で、二級や準一級のような探索者たちの動画も、鈴鹿は見ないようにしていた。ダンジョンで新しいエリアに踏み入れた時の感動、美しい自然に圧倒される光景、初めて見るモンスターに感じる脅威や恐怖。


 それらを鈴鹿は感じたい。だが、配信で見てしまえば、その感動も薄れてしまう。RPGを自分がプレイする前に配信で見てしまうようなものだ。それではつまらない。


 だが、蠱毒の翁はそんな些細なことを忘れさせるほど引き込まれた。出てきたモンスターよりも、カメラに映った美しい景色よりも、何よりも毒魔法を知りたいと思えた。


「にゃあ子が勧めるからもっとサブカルよりなダンチューバーかと思ったら、いやはや人を見た目で判断したら駄目だな」


 猫屋敷は黒紫色の長い髪をツインテールに結び、この時代では珍しい地雷系のファッションをしている。探索者として頑張っている真面目な学生なのは知っていたが、彼女のおすすめとして出てきたのが蠱毒の翁というのはギャップが凄かった。


 後で蠱毒の翁の動画が良かったとメールしておこう。


「ダンチューブか……。俺もやってみようかなぁ」


 ヤスと別れてソロで探索を始めた時、ダンチューバーも面白そうだなと少し考えたことがあった。ダンチューブにもいろいろとジャンルがあり、企画した配信をする者や、淡々と探索の様子を上げている者、教材としての動画をアップする者など様々だ。


 だが、当たり前のことだが身元がばれる。現在の鈴鹿は同年代で比べれば突出した強さを持っている。それこそ、最大手ギルドの不撓不屈ふとうふくつから声がかかってもおかしくない程に。


 鈴鹿が今やりたいことはダンジョンの探索であり、どこまで自分が強く成れるのか全力で追い求めることだ。自分の限界がくれば配信することもいいかもしれないが、それをするにはまだ早いだろう。


「うし。とりあえず、蠱毒の翁だけでも見てみるか。かなり勉強になりそうだし」


 鈴鹿もダンチューブに魔法について解説してくれている動画や、スキルや戦い方について説明している動画があるのは知っていた。鈴鹿自身、社会人になってから観葉植物にハマった時は、動画で植物の種類や育て方を勉強していたし、動画で学ぶことの有用性も理解していた。


 だが、ダンチューブは意図的に遠ざけていた。ネタバレうんぬんも当然あるのだが、一番の理由はこの世界の常識に染まりたくなかったからだ。


 奇しくも、蠱毒の翁が言っていた通り、『常識という名の鎖で縛りつける』ということを避けたかったのだ。


 鈴鹿はタイムリープしてこの世界に来た。元の世界の常識が鈴鹿の根底にある。


 だが、この世界の人間、例えばヤスは産まれた時からダンジョンがあることが当たり前の常識だ。身体強化を使えば車よりも速く走れることも、剣から水の刃が出ることも、傷を回復魔法で癒すことも、全てが常識。


 身体強化のスキルが発現したのだから、使えて当然。剣の効果なんだから、使えないとおかしい。回復魔法が使えるのだから、治せるのが普通。


 それがこの世界の探索者のベースだ。


 飛行機は飛ぶ原理をよく知らないけど飛ぶもの。なんで無線でネットがつながるのかよく知らないけどそういうもの。そもそもインターネットって何かよくわからないけど便利だから使っているもの。


 鈴鹿自体よくわからないが、それを当然として文明の利器を利用している。探索者たちも同じだ。それが常識であり当たり前だから、何も疑問を抱かず素直に受け入れる。


 それ故に、彼らは鈴鹿では発想できないスキルの使い方ができるだろう。ヤスが穴を掘って酩酊羊をめた様に、常識として定着し、動画を見て学習し、攻略本のような裏技を知り、そういうものだと当たり前の様に認識していくのだろう。これまで先人が蓄積した知識を、効率よく扱っていくのだ。


 だが、鈴鹿は違う。

 何もかもが新鮮だ。


 人が本来持ち合わせる以上の身体能力を発揮することも、剣から水の刃が飛ばせることも、魔法で眼に見えて傷が塞がっていくことも。全てが新しく、鈴鹿の常識とはかけ離れていた。


 だからこそ、鈴鹿はこの世界の常識から逸脱することができた。


 一人で探索するなんてありえない。エリアボスに挑むなんて自殺行為だ。4区5区なんて攻略するだけ無駄。


 そんなこの世界の常識からずれているからこそ、今の鈴鹿の強さがあった。翁の言う常識がこれに当てはまるのなら、常識の無い鈴鹿は逆に有利になるはずだ。


 それは実際にそうなのだろう。翁がモンスターにそれぞれ使った毒、鈴鹿は見当がついていた。


「魔法は自由か。超常現象の魔法が存在する世界。そんな魔法で毒を創造することができる。なら、どんなことだってできても不思議じゃない」


 翁は言っていた。地球の常識で考えるなと。探索者はダンジョンという摩訶不思議な世界にいるのだ。今までの尺度で物事を考えるものではない。


 人間が毒を生み出している。それだけで意味不明な現象なのだから、生み出せる毒の性質を地球上に存在する毒に限定するのは、あまりにももったいないことだ。


 恐らく翁は、地球上に存在しない毒を生み出した。身動きが取れなくなる毒、体の内側から燃える毒、身体が膨らみ弾ける毒、身体が風化する毒。


 そんな毒は存在しないし、言葉にすれば馬鹿みたいな毒だ。そんな毒があるのなら、言った者勝ちのような毒じゃないか。


 だが、自分で毒を生み出せるということは、そういうことなのだろう。常識を捨て、自身のイメージを具体化し、実行に移すことができれば、確かに毒魔法は他の魔法と一線を画すことができるかもしれない。新たな毒を創造できるのだから。


 それには明確なイメージが必要だ。できるという確信に迫るイメージが。鈴鹿がスキルを鍛えるために漫画を取り入れた様に、毒魔法においても確固たるイメージが持てればそれは現実のものとなる。


「なんだよ。やっぱ大事なことは漫画で学べるんだな」


 自分がやってきたことは間違っていなかったという安堵を抱き、鈴鹿は次の動画を見始めた。


 そして、その週末。いつものように東京ダンジョンから帰るころには、毒魔法のスキルレベルが6にまで成長していた。

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― 新着の感想 ―
 蠱毒の翁、ファンになりました。
念能力みたいなもんだなあ。マンガとかもこの世界だと元の世界に比べて流行りも着想も変わりそう。
とりあえずトリコとワンピ思い出せば大体毒は何とかなるべ(ココ&マゼラン
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