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狂鬼の鈴鹿~タイムリープしたらダンジョンがある世界だった~  作者: とらざぶろー
第四章 試練のダンジョン

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1話 1層4区探索

 夏の残暑も終わりを見せ始めた9月最後の日曜日。現在時刻は18時過ぎだが、まだまだ空は明るく茜色の夕焼けが街を照らしている。


 そんな中、探索者協会から姿を見せた鈴鹿の顔は沈んでいた。


「いや~、しょっぱいなぁ。まさかもう壁にぶち当たるとは」


 充実していた夏休み探索とは一転、9月の探索は遅々として進まず、ダンジョン探索を始めてからの快進撃はかげりを見せていた。


 夏休みが終わった時の鈴鹿のレベルは46。最後に水刃鼬と戦えたことでレベルアップしていた。そして、現在の鈴鹿のレベルは48。1ヶ月でたった2レベルしか上がらなかったのだ。夏休みの間は多い時で一日3レベル上がったこともあったというのに、1ヶ月でたったの2レベルだ。失速し過ぎだろう。


 このレベル上げが遅い理由は二つあった。


 一つは時間の無さ。1ヶ月といっても、平日は学校があるからダンジョン探索ができるのは毎週末の土日のみ。夏休みの間はほとんどダンジョン探索ができていたし、連続して探索できれば勘も鈍らず翌日も同じように探索することができた。


 しかし、平日を挟むことでそこがリセットされる。土曜日は最初慎重にならざるをえず、一度二度弱い敵を探して戦う必要があった。格ゲーにしてもFPSなどのシューティングゲームにしても、対人戦等の前には練習モードで準備体操のように自分の状態を確認するのと一緒だ。


 それでも今日を合わせて8回は探索できたが、そもそもの1日に行える探索時間が少なかった。


 今鈴鹿が探索しているエリアは1層4区。既に2層に渡れる階段は見つけているが、1層にはまだ4区と5区が残っているのだ。それを放置して先に進むのはナンセンスだろう。


 さらに、普通の探索者が4区を探索することが滅多にないというのも後押しとなった。探索者がいないのならば、見つけたモンスターを狩り放題ということでもある。


 3区までは探索者高校の生徒がいたため、せっかくモンスターを見つけても他の探索者が戦っていたら戦うことはできない。探索者同士の揉め事は起こすと大変面倒とどの資料にも書かれているため、周囲の探索者に配慮しながら探索する必要があったのだ。


 その点4区なら探索者がいないのでそんな必要はない。実にフリーダムな環境だった。


 しかし、2層もそうだが、1層4区は入り口から遠い。普通に歩けば片道だけで3時間は優にかかる。3区同様ジョギングしているが、それでも4区にたどり着くには1時間ちょっとかかってしまう。


 さらに、4区の環境も悪い。3区は丘陵地帯だったが、4区と5区は森林地帯となっていた。厳密にいえば、4区は林、5区は森というよりも樹海と調べたら出てきた。4区はまだ木々の合間から光が差し込み、ところどころ空き地になっている場所もあるため、5区よりはましな環境なのだろう。それでもマップのスキルを覚えていなければ、簡単に遭難してしまうような環境である。


 それに見通しが絶望的に悪い。今まで草原だったり丘陵だったりで戦っていたため、先が見通せないエリアはモンスターを見つけることも難しく、不意打ちを警戒する必要もあるため思うように探索することができないエリアであった。


 そして探索が進まない二つ目の理由。それはモンスターが強いことだ。


 ステータス爆盛ばくもり街道一直線の鈴鹿をもってして、強いと感じるのが4区のモンスターであった。


 4区のモンスターは昆虫型のモンスターなのだが、非常に硬く速く力も強い。3区の通常モンスターと戦った時は相手が弱くて適正ステータスを超えていると感じたのに、4区のモンスターは適正と思える強さであった。まるで初めて酩酊めいてい羊と戦った時のような強さを感じる。


 モンスターが強いので1日に何匹も倒すことはできないし、数の多い群れがいれば避けることもあった。モンスターが強いので1回の戦闘時間が長くなってしまうため、時間をかけすぎると他のモンスターも寄ってきてしまう。そのため、時間をかけてでも適正の数のモンスターと戦う必要があった。


 探索者高校の生徒が3区で行っているような探索の仕方を、4区では鈴鹿が行っている。3区ではエリアボスラッシュすらこなしていた鈴鹿がである。それだけ、4区のモンスターは強かった。3区と4区のモンスターでは、ゲームバランスが崩れる程度には強さに差があった。


 鈴鹿が体感した4区のモンスターの強さは探索者の共通認識で、これが一般の探索者が4区に近づかない理由でもあった。


 1層3区の探索を終えた探索者が進める道は、1層4区か2層1区の2つの選択肢がある。だが、ほとんど、いや全てと言っていいほどの探索者は2層1区へ進む。


 理由はいくつもあるが、最も多い理由が4区・5区に出現するモンスターの強さだ。1層4区に出現するレベル50のモンスターと、2層1区に出現するレベル50のモンスターでは圧倒的に1層4区のモンスターの方が強い。


 それこそ、3区のモンスターに物足りなさを感じる鈴鹿やzooのような、ステータスを盛れている探索者に向けた強さが4区5区のモンスターと言われていた。だが、たとえステータスが盛れている探索者であっても、4区5区は避けて上の階層へ進む者が多い。


 探索者ランクを上げるためには、より上の層を攻略する必要があるというのも理由の一つだが、それだけではない。


 4区や5区はイレギュラーな事態が起こりやすいからだ。


 4区5区に出現するモンスターのレベルは幅が広く、4区では40~70のレベルのモンスターが出現する。鈴鹿のようにまだ3区寄りのエリアで探索を行う分には、出現するモンスターは高くてもレベル60未満だ。

 しかし、レベル60を超えるモンスターが出ないわけではない。


 せっかく強いステータスを維持しているというのに、レベル幅が広いためにイレギュラーで高レベル帯のモンスターが浅いエリアに出現してしまえば、それだけで死ぬリスクが圧倒的に高くなる4区5区を探索する意味があるのだろうか。それならば、2層1区のエリアボスを連戦した方がイレギュラーが無く、安全にレベル上げができてエリアボスの素材で儲けも多いこちらを選ぶ方が賢い。


 これが4区5区が不人気な理由だ。


 鈴鹿の探索が進んでいないことをまとめると、探索できる日は土日のみで、できても入り口から遠いから探索に充てられる時間が少なく、4区は地形的にも探索し辛いので進まない。さらに出てくる敵も強いから手ごろなモンスターを探す必要もあれば、1日に何匹も倒すことができないため経験値も溜まりにくい。これが今の現状だった。


「ダンジョンもなかなか酷だよな。誰だって、なろうムーブができるならそっちに流れるよなぁ、そりゃあ」


 自転車を漕ぎながら、鈴鹿はため息を吐く。


 ダンジョンは何故1層を5つのエリアに分けているにも関わらず、2層へ続く階段が3区に現れるのか。いろいろな見解がある中で、鈴鹿は確信めいた結論を持っていた。


 ダンジョンはリスクを負う程成長することができる場所だ。1層4区探索と2層1区のエリアボスラッシュ。どちらがリスクがあるかと言えば、圧倒的に1層4区なのだ。だからこそ、強くなりたいのなら1層4区を探索した方がいいはずだ。


 しかし、現実問題そうではなかった。近年ではダンジョン探索もデータが蓄積されており、4区5区探索派とエリアボスラッシュ派のステータス情報などもトップギルドの間では集まっている。その結論として、エリアボスラッシュ派が良いと結論付けられていた。


 もちろん4区5区派もいるのだが、トップギルドではまず採用されない方法だ。というのも、死亡率が圧倒的に高いのが4区5区探索なのだ。エリアボスラッシュ派は、基本エリアボスしか脅威ではないのでイレギュラーなことは起きにくい。さらに、エリアボスは数も少ないので十分な対策を事前に取ることができる。例えば、双毒大蛇が相手であれば、解毒剤である『擬態の血清』を十分量持ち込んで戦うことが挙げられる。


 さらに、4区5区ではリスクを取るとはいえ、敵が強いために取れるリスクが限られるのだ。簡単に言えば、2層以降であっても1~3区では無双できる探索者も1層の4区5区では普通の探索者のような探索を行う必要がある。つまり安全な探索が必要になるということだ。


 4区5区の探索というリスクを負いつつも、安全な探索が必要なためリスクが軽減される。これにより、4区5区を探索したところで十分なリスクが取れず成長が阻害されてしまうのだ。


 さらに、安全な探索を行うために探索のスピードも遅く、レベル上げもしづらい。一方、エリアボスラッシュであれば効率的に高レベルのエリアボスと戦えるため、レベルもガンガン上がってゆく。


 結果、1層4区5区でがんばってレベル上げを行う場合でも、2層1~3区のエリアボスラッシュでレベル上げを行う場合でも、最終的な成長結果は似たり寄ったりなケースがほとんどであった。理論値としては4区5区の方が成長するはずなのだが、成長するためにリスクを取った者は死んでしまい、逆に安全を取った者は2層1~3区のエリアボスラッシュと変わらない結果なのだ。


 ならば、難易度が高く成功確率の低い理論値を狙うよりも、リスクも少なく成長効率も圧倒的に良いエリアボスラッシュが採用されるのは当然の結果と言えた。もちろん、エリアボスラッシュであっても相当リスクは高いため、楽な道ではないのだが。


 こうして、トップ探索者ギルドの育成方法として、各層の1~3区のエリアボスラッシュが確立されるに至ったのだ。


 だが、鈴鹿は違った。これには穴があるのだ。1~3区の通常モンスターに安全マージンを設けて戦うのが下であれば、安全なエリアボスラッシュや安全マージンを設けた4区5区探索は中と言える。では、4区5区でリスクを負って戦えれば、それは上であり最も良いと言えるだろう、と。鈴鹿は理論値こそ叩き出せれば最強なのだから、理論値を叩き出せばよいだけだと思っていた。


 だが、それを企業であるギルドが行うにははるかにリスクが高い。せっかくの有望な探索者が、少しのミスで死んでしまうというのだから避けたい気持ちもわかるだろう。


 それに、エリアボスラッシュであれば安全でありながら派手に華々しく活躍することができる。通常モンスターであれば、鈴鹿が水刃鼬戦で通常モンスター相手に無双していたように、2層3層程度であれば無双できるだろう。エリアボスのアイテムは高価だから稼げもするし、それを続ければトップ探索者に成長することもできる。


 そんなの誰だってそっちに流されてしまう。


「モンスターの束を蹴散らすとか爽快感あるもんな。俺もこの前のモンスタートレインの時、ちょっとドヤ顔入ってたしな」


 水刃鼬と戦えたことの喜びもあったが、大勢の前で無双できる高揚感があったことは認めざるをえない。


 だからこそ、みんな楽なほうに流されてしまう。なまじエリアボスラッシュの道も険しい道であるからこそ、自分の中に言い訳ができてしまうのも悪質だ。


 最強を目指すなら4区5区でのリスクある探索。これ一択しかない。


「そもそも、俺ソロで戦ってる時点で安全もクソもないからな」


 4区探索で2レベル上がっているが、そのどちらも今まで通り平均9越えの最高水準のステータス上昇量だった。一日に戦えるモンスターの数は減っているし戦う相手も選んでいるが、そんなものは安全マージンに入らないようだ。


「やっぱりダンジョンに泊まり込みで探索したいよな」


 泊って探索できれば移動時間が無くダンジョン探索が行えるため、メリットが大きい。しかし、母親が絶対NGを出すことがわかっているため言い出せずにいた。


「はぁ、なんかいい案ないかなぁ」


 結局良案は浮かばず、ため息交じりに帰宅するのであった。

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― 新着の感想 ―
 各層、一~三区はステータスを上げるのに適していて、四・五区は……ここでスキルを磨きなさい、と言うことでしょうか。  それでないと、いずれ頭打ちになってしまうとか。
ダンジョン行くって言ったときみたいに決定事項、異論反論は認めないじゃダメなん?
この手の世界観の作品を見るとよく思うのですがスキルに関して質問があります。 『毒魔法』『魔力察知』のような魔法や超感覚のようなスキルはそういう能力を獲得したのだとイメージできますが、『剣術』等の技巧的…
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