7話 zoo2
「鈴鹿ちゃんは疾風兎はおろか、エリアボスの新緑大狼も兎鬼鉄皮も倒してる。噂以上の化け物だったよ」
希凛の言葉に理解が追い付かない三人を面白そうに眺めながら、希凛は鈴鹿とお茶をしていた時を思い出していた。
彼女と話していると、自分が常識人だったのだなとまざまざと見せつけられているような気にさせられた。
希凛は両親が一級探索者ギルドに所属している探索者エリートの家系で生まれ育った。優秀な姉は今年から一級探索者ギルドに所属していることもあり、希凛は幼少期から多くの探索者を見てきた。
その中で、両親の様に一級探索者で終わる者と特級探索者にまでたどり着ける者の差が何なのか、自分なりの答えを持っていた。
それは異なる常識で動いているかどうかということ。
探索者の共通認識として、特級探索者を尊敬し憧れるものの、目指すべきは一級探索者というものがある。一級探索者は数が少なく、それゆえ一級探索者が持ち運ぶアイテムの希少価値は高く巨万の富を得られる。
一方特級探索者は巨万の富を得られるのは当然だが、情報の少ない最前線を開拓する責務があり常に死の危険がある。
探索者は職業であり金を稼ぐための仕事なのだから、リスクを下げつつ高いリターンが望める一級探索者を目指す。それが常識。それが探索者の普通。一般的な価値観。
だが、特級探索者たちはそんな考えを持っていない。死ぬかもとか金が欲しいとか、そんな思考でダンジョンに籠っていない。まだ先があるんだから先に進む。そんな風に探索することが当たり前になっているのが特級探索者たちだ。
彼らの考え方は独特で、よくインタビューなどを受けているがうまくかみ合っていないことが多い。他の探索者とはまるで違った考え方で動いているのが、特級探索者だ。
そんな持論を持っている希凛からみて、鈴鹿は特級の素質があった。
ダンジョンでは複数で行動する事という当たり前も、エリアボスは危険なので避けるべきという鉄則も、探索者になるなら探索者高校に通うものという常識も。彼女は持ち合わせていない。
一応、自分のステータスやスキルは隠すものということは知っていたのだろう。エリアボスを倒したか聞いた時は、面白いくらい目を泳がしながら誤魔化していた。彼女は嘘がつけないタイプなのだろう。
その時のことを思い出し思わず笑いそうになるのを堪えた。
「あ! 何笑ってんの? 嘘ってこと?」
「ごめんごめん。さっき言ったことは本当だよ。鈴鹿ちゃんは2区のエリアボスを討伐してる。それもちゃんとソロでね」
「ほ、本当ですか? た、大狼ちゃんはともかく、兎鬼ちゃんを一人で倒すなんてできるんですか?」
小鳥の意見は至極当然で、希凛も同じ意見だ。
そもそも2区の兎鬼鉄皮は、エリアボスとはいえ2区レベルの探索者では倒す難易度が高すぎると言われている。
兎鬼鉄皮はシンプルなモンスターで、身体強化のみのフィジカルに優れているモンスターだ。ただ、身体の外まで魔力が漏れ出すほどの強力な身体強化は、斬撃も、打撃も、魔法も、そのことごとくを弾き返すほどの鉄壁を誇っている。シンプルが故にこれといった弱点もないのだ。
その鉄壁を覆すには、鈴鹿やzooの様な高いステータスだけでは足らない。レアスキルやユニークスキルの様な強力なスキルが必須なのだ。
多くのスキルが発見し解明されてきたことで、兎鬼鉄皮を倒すために必要なスキルもある程度明確になっている。だがそのスキルが無ければ絶望的で、現在の特級探索者でも1層2区を探索していた時に兎鬼鉄皮に歯が立たず撤退した探索者もいるくらいだ。
スキルの発現は運の要素が強く、特に1層2区のような序盤ではスキルが揃っている者などいない。2層に進めるくらいになればある程度スキルは揃ってくるが、こんな序盤でそれもエリアボスにピンポイントで有利なスキルが発現するなど、実力だけではどうしようもない。
「私も気になってね。きっとユニークスキルの恩恵だろうと思って聞いてみたんだよ」
ソロで活動できるほどのスキルだ。そんなスキルはユニークスキル以外思いつかないし、『剣神』とはいかずともユニークスキルの中でも上位に位置するスキルが発現したのだろう。そう希凛は考えた。
スキルの詳細は分からずとも、素直な鈴鹿であればヒントくらいは掴めるかもしれない。そう思い、問いかけてみたのだ。
『兎鬼鉄皮を倒したの? 一人で?』
『い、いや、あれはでかい疾風兎だったかも……』
『実は私たちも兎鬼鉄皮と戦うつもりでね。できればどんな風に倒したか教えてほしいんだ』
『あ、そうなの? あいつ馬鹿堅かったよ。戦うなら気を付けなね』
『そうなんだよ。すごい堅いのは有名でね。鈴鹿ちゃんはどうやって倒したの? 鉄パイプじゃ攻撃効かなかったでしょ?』
『そうそう。どれだけ殴っても死なないし、こっちがガス欠になりそうになったよ。魔力も限界で倒れる寸前くらいに、ようやく魔力感知ってスキル覚えてさ。攻撃が通る場所がなんとなくわかるようになって、それでなんとか倒せたよ』
『ま、魔力感知を覚えた? 覚えてたじゃなくて?』
『うん。あそこで発現しなかったら死んでたわ。もしかしたら斬撃とか魔法なら攻撃通りやすいかもしれないから、希凛も挑むなら打撃以外の武器がいいと思うよ』
そのセリフに、希凛は追及することを止めた。打撃が通らないことも斬撃や魔法に耐性があることも希凛は知っているし、有名な話だ。それをすっとぼけているわけでもなく、善意から教えてくれた鈴鹿に、特級探索者に抱く違和感と同じものを感じていた。
あれが実は演技でユニークスキルを隠蔽するための嘘であれば、鈴鹿は大女優に成れるだろう。
「―――だってさ。凄いだろう? これだけ情報がある兎鬼鉄皮について何も調べずに戦い、スキルを覚えて倒したって言うんだ。それも魔力感知だよ、魔力感知。お手上げだね」
希凛は手のひらを上にして、肩をすくめて見せた。
魔力感知は有力なレアスキルである。魔力の動きを検知することで、魔法の発動を予見したり身体強化が弱いところを見極めたりもできる。
だが、決定的な強さもなければユニークスキルでもない。
魔力感知は兎鬼鉄皮を倒すために必要なスキルとして、名前が上がるスキルではある。しかし、常に動いている魔力の薄いところを攻撃する必要があるだけでなく、素の防御力も高い兎鬼鉄皮にダメージを与えるためには、高いステータスに身体強化や魔力操作のスキルレベルも求められる。
兎鬼鉄皮攻略スキルTier表があれば、CかDに位置する程度のスキルだ。あれば倒せる可能性はあるが、極めて難しいと言わざるを得ない。
つまり、強力なスキルを使ってハメ殺したわけではなく、単純に実力で倒したというのだ。何も参考にはならない。
そして、2区でソロ活動してあまつさえエリアボスに挑んだ鈴鹿は、少なくともエリアボスにも有効になりえる稀有なユニークスキルを所持している訳ではない、ということでもあった。
「化け物じゃん……」
「そうだよワン子。鈴鹿ちゃんは正真正銘、天然の化け物だった」
思わずといった様子で声にした犬落瀬に、希凛が同意する。彼女たちも特級探索者の異質さは理解していたものの、同世代で同じダンジョンを攻略している者の話は身近過ぎて衝撃が大きかったようだ。
「パ、パーティに誘わなかったんですか? す、鈴鹿なのに」
「そうなんだよ! 鹿だよ、鹿! ぜひお誘いしたかった! ……が、さすがに歩調が合わなすぎる。あれは異質だよ。デメリットの方が大きいと判断した」
話していて鈴鹿からソロに対する拘りは感じなかったが、同時にパーティの必要性も感じなかった。下手に固執して関係が悪くなるよりかは、顔を繋げたことで良しとした。
「はぇえ、鉄パイプの姫ってやばいんだね。キリンが誘わないレベルって」
「含みのある言い方だね、ワン子。けど、やばいってのはその通り。私たちも常識に囚われていたと気づかされたよ」
1年生なら1区の探索にとどめておくべき。基礎を鍛えて勉学に励み、3年間で2層まで行ければいい。探索者は職業なのだから安全にお金を稼げる方が良い。エリアボスは危ないから戦わない。兎鬼鉄皮は戦うべき相手ではない。
そんな数々の探索者に纏わる常識があり、希凛は意図して常識を無視するように活動してきた。
希凛が目指しているのは一級探索者でもましてや二級探索者でもない。特級探索者。最前線を征く者を目指している。
特級探索者になるには常識に囚われては成れない。だが、鈴鹿の話を聞いていて、自分が如何に常識に染まっていたことかと反省した。
「そ、それで、どうしてキリンちゃんは鉄パイプさんに兎ちゃんの防具をもらったんですか?」
「ああ、なんでも緑黄狼の防具が揃っていなかったみたいで、私の手持ちの緑黄狼の防具と交換したんだよ」
「噓でしょ? 鉄パイプの姫って常識なさすぎじゃない?」
緑黄狼と疾風兎の防具では価値が違いすぎる。探索者高校の生徒の多くが緑黄狼を狩るため、防具は割と市場に流れており購入することも可能だ。
だが、疾風兎の防具は滅多に市場に流通しない。疾風兎は1層2区のモンスターのため、探索者高校の生徒しかアイテムを得ることができない。四級探索者などに依頼しても、レベル差があるためモンスターからドロップする確率がほとんどなくなってしまうからだ。
そんな中、生徒に対して疾風兎を狩ることを強要することはできない。例え疾風兎を狩ったとしても、確定でドロップすることがないアイテム。緑黄狼の様に群れて戦うこともなく、数を狩ることも難しい。
そんなアイテムが緑黄狼の防具と等価な訳が無い。
探索者協会の買取所では安く買いたたかれるが、オークションに出せばその数十倍の値段で落札されるようなアイテムだ。
「私もさすがに悪いと思って何度か聞いたんだが、何故か向こうから感謝されてしまったよ」
「本当? 騙されたって鉄パイプの姫に襲われたりしない?」
「だ、大丈夫ですよ。き、キリンちゃんは性格悪いけど、そんなセコイことはしないです」
「小鳥。それ、フォローになってないんじゃないかな?」
きょとんとしながらもオドオドしている小鳥に、希凛はうちにも天然がいたなと笑って流す。
「てか、緑黄狼ならその辺にいっぱいいるし、ドロップ率渋いけどそのうち出るでしょ。なんで交換?」
「ああ、鈴鹿ちゃんは今日から3区探索するって言ってたよ」
3区をソロ。探索者高校の生徒の死亡率が最も高い3区をソロ。
「は、はは。もう何でもありね」
「ああ。噂話が出回った時期から考えても、彼女、2区には10日ちょっとしかいなかったんじゃないかな」
「す、すごいですね鉄パイプさん」
凄いと言えばいいのかイカれていると言えばよいのか難しいラインだ。
「……ねぇ。じゃあスケジュール変えんの?」
「ん? 変えないよにゃあ子。鈴鹿ちゃんと私たちは違う。予定通り、夏休み中に2区の完全制覇を目指す」
先ほどまでずっと黙っていた猫屋敷が問いかける。
zooは夏休み中に2区の完全制覇、つまりエリアボス2種の討伐を掲げていた。鈴鹿に触発されてそのスケジュールを前倒すのか気になったようだ。
「ふーん。じゃあさっさと移動しよ。このままじゃノルマ終わんないよ」
「そ、そうですね。移動しますか」
猫屋敷のその態度に、希凛が嬉しそうに眼を細めた。
◇
「いた」
犬落瀬の短い掛け声に、即座に全員が戦闘態勢を整える。前方。まだほんの点くらいの距離に疾風兎がいた。
鈴鹿であれば即座に駆け出していく場面だが、zooは歩く速度はそのままに陣形を整えていく。モンスターが逃げることはまずない。慌てる必要はないのだ。
犬落瀬を先頭に、小鳥と猫屋敷が真ん中に控え、最後尾を希凛が固める。ダイヤの様な形の陣形がzooの基本だ。
疾風兎がしっかりと視認できる距離まで近づけば、犬落瀬が盾を構えながらわずかに速度を落とす。犬落瀬は半身が隠れる大きめのカイト・シールドと長剣を装備している。
男であっても片手で持つのは厳しそうな長剣を、身長が大きいとはいえ犬落瀬は難なく構えている。レベルアップでのステータスの恩恵を受け、この程度は造作もない。この世界では女性だから力が弱いとか、男性だから女性を守るものという概念はダンジョンができてから崩壊した。
「僕が前出るから」
そろそろ疾風兎の取り巻きである一角兎が動き出しそうな距離で、猫屋敷が宣言した。
「珍し」
「だ、誰が倒してもドロップ率は変わりませんよ」
「二人とも静かに。いいよ。にゃあ子の補佐は私がしよう」
犬落瀬と小鳥を窘め、希凛が猫屋敷の提案を受け入れる。希凛にとってその展開は予期していたものであり、望んでいたものでもあった。
zooは犬落瀬が敵を引きつけ、小鳥がアタッカーとして敵を削り、希凛が全体のフォローに入り、猫屋敷が魔法で支援するのが基本的な戦略だ。
小鳥は双剣を巧みに扱う火力枠で、放っておいてもモンスターを始末してくる。希凛は槍を得意とし、武器の特性上距離を空けて攻撃できることから、犬落瀬のフォローや回り込んできたモンスターの相手を行う。
猫屋敷は毒魔法と回復魔法の二つのレアスキルを発現しており、回復役兼毒魔法で相手のデバフを行う魔法職だ。しかし、近接がからっきしということは無い。
ステータスのおかげで攻撃力も俊敏も上がっているため、普通に戦える。装備は片手剣に小さめのラウンド・シールドだ。何が起こるかわからないダンジョンでは、魔法にのみ専念できるのは大人数のパーティくらいだろう。
そんないつもは矢面に出ない猫屋敷が、率先して前に出る。犬落瀬が珍しというのもしょうがないだろう。
「そろそろ来るよ。ワン子はいつも通り挑発で一角兎を釣って。3匹ならワン子、ニャア子、小鳥で1匹ずつ。4匹ならワン子が2匹ね」
手早く指示を出せば、一番前にいる犬落瀬がスキルを発動させた。
「【挑発】」
まだスキルレベルが高くないため、声に出すことで意識的にスキルを発動させる。挑発は敵のヘイトを集めるスキルで、タンク役必須のスキルだ。
草むらから一斉に一角兎が飛び出し、犬落瀬に迫りくる。数は4匹。1匹が迂回しながら盾の死角を狙って突撃してくる。
だが、犬落瀬は慌てない。回り込んでくる一角兎も視線誘導に過ぎない。本命は視認しにくい空気でできた弾。疾風兎が使う魔法だ。
「んッ!!」
先に着弾した風弾を盾で受け止め、偏差で攻撃してくる一角兎も器用に盾を使って攻撃を受け止める。風弾が無ければシールドバッシュも狙うのだが、風弾を受けて踏ん張るだけで精一杯のため、そこまで余力がない。
キィイイン
回り込んでいた一角兎は、小鳥が器用に双剣を一角兎の角に合わせ弾き返していた。
4人もいれば死角もカバーし合える。まだパーティを組んで数か月だが、お互い信頼するには十分すぎるほど濃い数か月を過ごしてきた。
「……毒魔法」
猫屋敷が犬落瀬の盾に毒魔法による付与をかけなおす。一角兎が盾に衝突したことで、付与されていた毒魔法が一角兎にデバフをかけていた。
毒魔法とは相手を毒状態にするだけの魔法ではない。その本質は状態異常を誘発させる魔法だ。
体力を削る毒状態の様な強い状態異常はレジストされることも多いが、足を鈍らせるような麻痺に近い毒であればかけやすい。猫屋敷が仲間の武器に毒魔法を付与することで、掠らせるだけで相手の機動力を削ぐことができた。
猫屋敷の動きに合わせるように、小鳥も駆け出した。
「【挑発】っ!」
犬落瀬は再度スキルを発動し、ヘイトが分散しないよう調整する。特に疾風兎の風弾が他に行かないように注意する。
初撃が失敗に終わり攻撃の機会を狙って駆け回っている一角兎に、猫屋敷が近づいてゆく。
「……ああ、もうウザ過ぎる。ほんと何なんだよ。クソクソクソクソクソ」
ぶつぶつ呟く猫屋敷の脳裏には、まだ見たことすらない鉄パイプの姫がいた。
そいつは一人でダンジョンを探索している。僕では届きさえしない疾風兎も一人で倒すし、僕たちが綿密に作戦を練ってそれでも届くかどうかのエリアボスすら一人で倒す。
なんなんだそいつは。僕なんて一角兎1匹倒すのですらキリンが背後でフォローしている。仲間に護られなければこんなモンスターすら一人で倒せない。
……弱すぎる。ふざけるな。僕は弱くない。強いんだ。僕の前をちらつくなッ!!
(おや? スキルレベルが上がったかな。これは僥倖)
ふらつくように一角兎へと迫る猫屋敷を見ながら、希凛は笑みを深める。
猫屋敷からは毒々しい魔力が漏れ出しており、その魔力にあてられた一角兎があからさまに動きが鈍くなっている。恐らく麻痺だけでなく毒状態にもなっているだろう。
先ほどまでとは違う毒魔法の変化に、スキルレベルが上がったことを察した。
希凛が鈴鹿の話をしたのは、情報共有のためなどではない。猫屋敷を煽るためだ。
犬落瀬も小鳥も、同世代の優秀な探索者を見ても何も思わない。『すごい人がいるんですねぇ』くらいにしか受け止めない。
だが、猫屋敷は違う。すべてを自分と比較し、足りないものに激しく嫉妬する。その嫉妬こそが猫屋敷の強さであり、成長の鍵となるのだ。
zooが兎鬼鉄皮を倒すためには、猫屋敷の毒魔法が必要不可欠だ。鈴鹿と話をした時、想像以上のイカれ具合に使えると確信した。
(鈴鹿ちゃんには感謝しないとね)
猫屋敷の毒にやられ動きの鈍い一角兎。疾風兎のバフが乗っているとは思えない様子だ。
(それにしても、鈴鹿ちゃんは異質だね。特殊なスキルがあるような感じもしなかったし、どうやって生き残っているのか)
希凛の眼には、疾風兎に迫る小鳥が映っていた。暴雨のように降り注ぐ風の弾を、踊るように全て避けている。
小鳥は『曲芸師』というユニークスキルを持っている。身体操作、身体強化に大幅に補正が入るこのスキルがある小鳥は、どのような攻撃も当たることなく回避することが可能だ。
反則じみた動きをしている小鳥を見ていると、ソロでも活動できるだろうと思えた。だが、それはスキルがあってこそそう思えるのだ。
探索の様子やスキルについても話してみたが、戦闘に役立つような特殊なスキルがあるようには思えなかった。それなのに、生き残って探索を続けている。自分たちよりも早く2区を完全制覇し。3区の探索へ進んでいる。
スキルの恩恵が大きいダンジョンでそんなことが可能なのだろうか。希凛は違和感を抱いていた。
だが、鈴鹿の様子では遅かれ早かれ詰むだろう。ダンジョンとは一つに特化するだけでやっていけるような場所ではない。彼女の歩みが止まった時、改めてzooに勧誘してみればいいだろう。
「キリンッ!」
犬落瀬が上手くシールドバッシュしたことで、一角兎が宙を舞っている。それに合わせ、希凛が一角兎の腹を槍で突けば、体力の低い一角兎は煙へと変わった。
「一角兎はこれで片付いた。小鳥のフォローに行こうか」
これなら予定よりも早く3区へ行けるかな。そう希凛は思いながら、危なげなく回避し続ける小鳥の下へ向かうのだった。




