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狂鬼の鈴鹿~タイムリープしたらダンジョンがある世界だった~  作者: とらざぶろー
第三章 混成の1層3区

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4話 3区探索

 夏休み探索11日目。今日から3区の探索を行う予定だ。


 3区ともなるとそこにたどり着くだけで一苦労だ。まっすぐ歩いても2時間はかかる。往復にすれば4時間だ。


 今は1日9時間くらいダンジョン探索を行っているが、約半分が移動だけで終わってしまう。荷物も少ないため、探索時間を稼ぐために鈴鹿は3区までランニングで行くことにした。


 鈴鹿のテンションは高い。なぜなら今日はおニューの防具を身にまとっているからだ。


 昨日購入した、鳴鶴めいかくという日本ブランドのジャージ。防刃効果はもちろん、素材に魔力を通しやすい素材が配合されている特殊繊維を使っていることで、魔力を纏うことでさらに防御力を向上させることができるらしい。


 耐久性も学校の指定ジャージとは雲泥の差があるし、見た目もカッコいい鈴鹿のお気に入りだ。


「昨日希凛(きりん)と話せたのは良かったな。やっぱ知らないことが多いよなぁ俺」


 買い物が終わった後、希凛のパーティ御用達のカフェでお茶をした。そこで話したのは他愛もない会話であったが、鈴鹿にとっては探索者高校のことや探索者について知ることができて、とても有意義なものであった。


 希凛は本当に鈴鹿に対して興味があったから話してみただけの様で、潰しに来たわけでも勧誘に来たわけでもなかった。


「一応興味あれば一緒に探索してみないかって言われたけど……まぁないかな」


 話を聞いてみても、探索者高校というものに魅力はなかった。探索者高校以外のよそ者としてパーティに加わることはできるだろうが、探索のペースなど合わせることのデメリットが大きい。


 探索者高校というのは、探索者という職業に就く為の知識や技術を身に着けるための高校だ。探索者高校のダンジョンに対する考え方と鈴鹿が抱くダンジョン探索のモチベでは、大きく乖離かいりがあった。


 鈴鹿にとってダンジョン探索は遊びである。未知な世界を探索して、自身も強く成れるという世界にハマっているのだ。熱中していると言っても良い。遊びというが、決して手を抜いているとか半端な気持ちで探索しているとかそういう話ではない。


 鈴鹿にとっての探索者とは、プロゲーマーのようだと言えば伝わりやすいだろうか。


 プロゲーマーはそのゲームのトップになるために、日夜研究して対策してやりこんでいる。それだけやり続ければゲーム自体嫌いになることもあるかもしれないが、それでもついつい手に取ってやってしまう。その熱量や主体性は内から湧き上がる前向きなものだ。


 一方、この世界での探索者は、確立された職業の一種だ。特に近代の探索者は、ギルドという探索者版の会社に所属して探索をすることが一般的だ。それゆえ、どうしても"雇われ感"が出ているというか、サラリーマン気質を感じてしまう。


 仕事だからダンジョンに行く。デスクワークはしたくないから、働くなら探索者がいい。休みでやることなくて暇だけど、ダンジョンに行くのは仕事だからやりたくない。そんな空気を感じるのだ。


 個人事業主と雇われサラリーマンの違いとでも言えばいいのか。鈴鹿にとってダンジョン探索は楽しいからしているのであって、それで金が稼げているからよりハッピーという感じなのだ。探索者高校に通い探索者高校の生徒と触れ合うことで、探索=仕事という常識を結び付けられることを恐れてもいる。


 仕事が忙しくて残業して帰ろうとも、寝る間を惜しんで睡眠時間を削ろうとも、それでも構わないと熱中して遊び続けたゲーム。FXをする前はそんな生活を鈴鹿は送っていた。だが、いつしか『明日も早いから』とか『う~ん、今日はやらなくていっか』と熱が冷めていってしまった。


 そんな経験をしてきた鈴鹿だからこそ、この熱が有限であり貴重なものだと理解している。その熱が冷めても悔いが残らないよう、今全力でダンジョン探索を行っているのだ。


 そんな話を希凛にしたら、なんと希凛もそう感じているとのことだった。希凛も常々そう感じており、いずれどうにかするつもりらしい。今はまだレベルも低いから動けないため、レベル上げに集中しているのだとか。そのため学校よりもダンジョンを優先していて、学校で指導されるペースには合わせていないと言っていた。


 証拠に、普通であれば2年生で探索する1層2区を希凛のパーティはすでに探索していると言っていた。


「2区探索してるならもしかしたらと思ったけど、まじで希凛様様だよな。揃わないかとちょっと気にしてたんだよね」


 何が揃わないかというと、緑黄狼の防具シリーズだ。疾風兎の防具シリーズは5種類全てコンプリートしているが、緑黄狼の防具は3種類しか揃っていなかった。逆に希凛は疾風兎の防具が揃っておらず、緑黄狼の防具は揃っていた。


 探索者高校の多くの生徒は緑黄狼の防具を揃えることを目標としており、パーティメンバー分揃うことが3区に進む一つの指標なのだとか。逆に疾風兎はその凶悪性から避けるべきモンスターと言われており、防具を持っている者は滅多にいない。


 だが、希凛はデザインが可愛いからという理由で疾風兎の防具を集めていた。疾風兎はそもそも数も少なくエンカウントしにくいうえに倒すのも難しいため、希凛でも防具はまだドロップしておらず一つも持っていなかった。


 そしてちょうど良いことに、鈴鹿は疾風兎の防具を2種類アイテムボックスに持っていた。


 いつもは探索終わりにアイテムを売却するし、持って帰るアイテムも次の探索の邪魔にならないよう部屋に置いている。しかし、前回の兎鬼鉄皮戦では小鬼に荷物を奪われたことで疲労困憊だったため、売却せずにアイテムボックスに入れっぱなしとなっていたのだ。


 ちょうど疾風兎も狩っていて2種類防具を落としていたため、鈴鹿が持っていない緑黄狼の防具2種類と交換してもらえたのだ。


 価値的には疾風兎の方が高いため本当にいいのかと聞かれたが、鈴鹿からしたら揃わないと思っていた防具が揃ったので構わなかった。


「まぁ、揃ったところで着はしないんだけどね」


 ダンジョン産の防具で身に着けているのは疾風兎の靴のみ。そのうち自分の戦闘スタイルに合った防具が出てくることを祈って、駆け足で1区2区と通り過ぎて行く。


 2度目の区画の境界を抜ければ、いよいよ3区だ。


「はぁー。これはまた、2区とは全然違うな。いい景色」


 目の前に広がるのはなだらかな丘と木立。

 3区は丘陵地帯になっていた。


 1区2区はどちらも草原だったが、3区からは地形が変わる。そして、最も探索者高校の死亡事故が起きるエリアでもあった。


 ダンジョンは親切な設計をしており、3区までがチュートリアルだと言われていた。1区ではダンジョンというシステムに慣れ、2区では自分の命を脅かすモンスターとの戦闘に慣れ、3区で地形の変化に慣れる。


 1区でのモンスターはどのダンジョンも殺傷能力が低く、エリアボスにさえ挑まなければ死ぬことはほとんど無い。しかし、2区のモンスターは新緑狼など殺傷能力の高いモンスターもおり、1区とは異なる緊迫感がある。


 2区までは草原のため見通しも良く敵を発見しやすいし、地面が平らなため戦いやすい。だが、3区では丘陵地帯のため斜面も多く、索敵だけでなく戦闘自体の難易度も上がっている。その先である2層からは地形もガラッと変わるため、地形の変化についていけないとすぐに死んでしまうだろう。


 こういったダンジョンに慣れるまでに段階分けされているのが1層3区までなのだ。

 2層1区まで行ければ四級探索者に成れることもあって、1層3区までがチュートリアルと呼ばれる所以ゆえんである。


「出てくるモンスターも強いみたいだし、気を付けないとな」


 3区のモンスターはレベル16~40と幅広い。そのため、挑むモンスターを間違えると事故に繋がりやすいだけでなく、下手にモンスターとの戦闘が長引けば他のモンスターが乱入してくることもあった。


「3区で初めに戦うべきモンスターは球月蛇たまつきへび序ノ口蛙(じょのくち がえる)か。レベル的に種砲栗鼠しゅほうりすも大丈夫そうだから、3つのうちのどれかかな」


 3区には7種類のモンスターと3種類のエリアボスがいる。鈴鹿が挙げた3種類は、最大レベルでも30以下のモンスターだ。鈴鹿はレベル23だが、ステータスは他の探索者よりも高いため、問題ないはずだ。


 丘陵地帯は森や山程視界が悪いわけではないが、草原に比べると索敵の難易度はかなり上がっている。適度にうねった地形のため、見通せないのだ。


 大きくなだらかな丘もあれば、河沿いの堤防の様に高くはないが反対側は見えない丘もある。


 とりあえずモンスターを見つけるために小高い丘を目指しながら、鈴鹿は気配察知をフル稼働する。丘を登った反対側にモンスターがいましたでは目も当てられないからだ。


 丘はそれほど急ではないが、平地と比べると進む速度も遅くなる。足腰への疲労も馬鹿にならなそうだ。


「ふぅ。着いた着いた。ここからだとまぁまぁ見えるな。チラホラいるわ」


 遠くまで見通せるわけではないが、丘に登れば何体かモンスターを見つけることができた。2区に近いからか、見える範囲ではどのモンスターも先ほど挙げた種類しかいない。


「まずは近いやつから倒してくか」


 丘を下ったところに序ノ口蛙と思しきモンスターがいたため、そいつに標的を定める。


 微妙な坂でも走るとなると想像以上に加速するため、調整しながら下っていた時だ。気配察知に何かが引っかかった。


 即座に振り向けば、視界一杯に巨大な顎が広がっていた。


「ッッッ!!!???」


 驚愕と恐怖で声も出ないが、これまで探索者としてモンスターと戦い続けていたおかげで間一髪魔鉄パイプで防御することが間に合った。


「なっんだ、コイツはッ!!!」


 かなり勢いをつけて噛み付き攻撃をしてきたのか、不安定な姿勢では衝撃を受け止めきれなかった。


 鉄パイプを咥えながらも、何とか鈴鹿を噛み付こうと口を大きく開き突進の勢いが増していた。鈴鹿も状況を呑み込めていないが、何とかたたらを踏みながらも身体操作スキルのおかげで体勢を整えることに成功した。


 押し込まれていた状態から止まり、拮抗する。狂ったようにのたうち回りながら力押ししてくるモンスター。だが、鈴鹿の膂力も負けていない。


 身体強化と魔力操作をフル稼働し、モンスターの力押しを真っ向から弾き返すことに成功する。


 狂乱(きょうらん)蛇擬(へびもどき):レベル33


 弾き返したことで、モンスターの全容を視ることができた。


 狂乱蛇擬は最初に戦うことを避けたモンスターの一匹だ。全体的に褐色を帯びたオリーブ色をしており、地を這えば足元の草と同化して見つけることは至難の業だ。そのせいで丘の上からパッと見ただけでは見つけることができなかったのだろう。


 それに地面を滑るように移動するため、音もせず気配察知に引っかかるまで鈴鹿は気づくことができなかった。


 狂乱蛇擬はフシャーフシャーと息を荒げながら、落ち着きなくうねうねと威嚇している。狂乱という名前がぴったりなモンスターだ。


 身を縮めたかと思えば、溜めた力を解き放つかのように再度鈴鹿めがけて噛み付いてくる。牙は鋭く、防刃効果のある防具でも安心できない攻撃だ。


 買ったばかりの服に穴を空けられてはたまらない鈴鹿は、受け止めるでも引くでもなく、踏み込むことで狂乱蛇擬の攻撃を掻い潜る。即座に伸びきった身体目掛け、魔鉄パイプを振り下ろした。


 魔力操作によって強化された魔鉄パイプは、仄かな深緑色の残光を伴い狂乱蛇擬に叩きつけられた。


 確実に折ったであろう手ごたえを感じながらも、振り下ろされた尻尾を回避する。見れば、叩いたところは歪み凹んでいるが、そんなことは関係ないとばかりにのたうちながら狂乱蛇擬は鈴鹿に襲い掛かってくる。


 息つく暇もないほどの攻撃。だが、連撃と呼べるような上等なものではない。ただただ突進するだけの狂った攻撃は、理解しがたいものに対する恐怖こそすれ、危険だとは感じなかった。


 明らかに生物として異質な行動をとる狂乱蛇擬に、さすがの鈴鹿も引きつりながらダメージを与えてゆく。


「アホみたいなサイズってだけで怖いのに勘弁してくれよ!!」


 鈴鹿の言う通り、狂乱蛇擬は自然界では見られないようなサイズの蛇だ。胴体は人の腰回りくらい太く、全長も5メートルは余裕で超えている。


 そんなサイズの蛇が襲い掛かってくるのだ。狼や熊の様な兎鬼鉄皮(ときてっぴ)と戦ってきた鈴鹿だが、これには別種の怖さを感じた。生物が感じる根源的恐怖の様なものを感じるのだ。


 それに加え、痛みを無視しているかのような攻撃。ゾンビと言えばいいのか薬でもキメたと言えばいいのか、狂ったような動きが恐怖を相乗させる。


 実は狂乱蛇擬には相手を恐慌状態にさせる能力があった。狂乱蛇擬に恐怖すればするほどかかりやすい能力なのだが、鈴鹿が抱く程度の恐怖であればかからないで済むようだ。


「さっさと死にやがれッ!!」


 矢継ぎ早に攻撃してくる狂乱蛇擬だが、攻撃パターンはそんなに多くない。というか、だいたい大きく口を開き突っ込んでくるだけ。


 捕まって締め上げられればひとたまりもなさそうだし、尻尾振り回すだけでも強そうだが、狂っているためか攻撃は単調だ。単調だが、延々と突っ込んでくるのは恐怖ではあるのだが。


 さっさと終わりにしようと、先ほど殴りつけたところを追加でぶん殴ろうとしたが、不発に終わった。鈴鹿が攻撃せずに後ろに跳び退ったためだ。


 ドォォオン――――――


 土煙を上げながら、先ほどまで鈴鹿がいた場所に丸々とした何かがいた。


 序ノ口蛙:レベル24


「はは、待ちきれなかったかおデブちゃん」


 鈴鹿は早々に、3区の洗礼を受けていた。

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― 新着の感想 ―
人の胴体ほどの太さで全長5mくらいなら自然界に存在するんじゃ…? 世界最大の蛇が9mくらいあった気がします
つまり主人公はナメクジ枠!w
怯まない敵ほど厄介なものはない 何故ならこちらの体勢が整えられなくなり最悪相手の攻撃は俺のターンばっかりなる 攻撃は最大の防御ってやつだな
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