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狂鬼の鈴鹿~タイムリープしたらダンジョンがある世界だった~  作者: とらざぶろー
第二章 独りぼっちの1層2区

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7話 草原の暗殺者

 小鬼や鬼と戦闘を行った鈴鹿は、次なるモンスターを求めて彷徨っていた。ダンジョンの中は広大で、鈴鹿が探索している1層の大きさは東京都23区より一回り大きい程度と言われている。


 それくらい大きいため、他の探索者と出会うのも稀だ。特に1層2区からの探索は育成所の人間もいないため、探索者高校の生徒くらいしか活動していない。そのため、のびのび狩りができる。


 今日は二組探索者パーティを見かけたが、それ以降見かけていない。夏休みで探索している人が多いだろうに、鉢合わせる機会がないのは気持ちが楽だ。


 他の探索者に会いたくない一番の理由は、鈴鹿がソロで活動しているため絡まれる恐れがあるからだ。


 探索者高校の生徒ならば教育もされているだろうが、中には弱い者いじめが好きな性格が大変よろしい者もいるだろう。変に突っかかられても鈴鹿は一人のため、多勢に無勢になる恐れがある。


 実際に探索者同士のいざこざは多く、ダンジョン内では証拠も残しにくいために泣き寝入りするパターンも多い。そんな奴らにイチャモンでも付けられたらたまらない。


 その対策としてドローンを飛ばして映像を記録することが推奨されているのだが、鈴鹿のお財布では高価なドローンは購入は厳しい。せめてもの対策として、GoPr〇のような探索の邪魔にならないカメラを購入するべきだろうか。


 聞きかじった情報で過剰に他の探索者を警戒しているだけかもしれないが、警戒しなくて失敗するよりはいいだろう。探索者の知り合いがいるわけでもないため、そこのところを詳しく知ることができないのも歯がゆい。


 そんな背景もあり、当面の目標であるレベル100までは慎重に活動していく方針だ。レベル100には明確な壁があると言われており、その壁を越えられるかどうかで探索者としての価値が変わってくる。


 というのも、レベル100を超えると『存在進化』という特殊なスキルを覚えることができるのだ。『存在進化』は存在を1ランク上に押し上げるスキルであり、『存在進化』を覚えていない者は『存在進化』できる者には決して勝てないと言われているのだ。


 そんな目標を達成するために、鈴鹿は1層2区でさらなるモンスターを求め彷徨っていた。


「もうお前らはいいんだけどなぁ」


 嘆息しながらも、向かってきた小鬼の群れを難なく蹴散らす。


 2区には3系統のモンスターがいるのだが、その中で鬼が一番出現する割合が多い。荷物を奪おうとする小鬼や、魔鉄パイプにしがみ付こうとする小鬼など鬱陶し気に煙へと変えていった。


 そんな戦闘が何度か続いた時、ようやく別のモンスターと遭遇した。


 一角兎:レベル8


 ひざ丈くらいの大きさの立派な1本角を持つ兎だ。座っていてこの大きさであれば、走っていれば茶釜狸よりも小さくなるだろう。俊敏なモンスターらしいので、油断せずに行こう。


 まだ鈴鹿に気づいていないのか、もぐもぐと草をんでいる。兎は人間が近づいたら逃げ出すような気もするが、モンスターなら大丈夫だろうと近づいてゆく。


 一角兎が逃走しても追いかけられるよう、気は張ったままだ。


 一歩一歩と近づいてゆく。一角兎はまだ気づかない。そろそろこちらに気づくかなと思った時、嫌な予感がした。


 そう思った時には動いていた。何かが高速で近づいてくる気配を感じる。前転するように回転しながら飛び跳ねれば、近くの草むらからもう一匹の一角兎が飛び出して来るところが見えた。


 殺意でギラついた真っ赤な瞳をした一角兎は、先ほどまで鈴鹿の足があった場所目掛け、立派な角で貫くように突撃していた。ゾーンに入っているようにその様子をスローモーションで捉える鈴鹿。思考加速のスキルが働いているのだろう。


 跳び上がった鈴鹿の真下を通り抜ける瞬間に合わせ、魔鉄パイプを一角兎の側面へと叩きつける。顔を狙ったつもりが、一角兎のはやさが上回り胴体への攻撃となってしまった。


 一瞬の出来事。交差した瞬間に攻撃を叩き込めた自分に感動しつつ一角兎を見れば、土煙を上げながら転がって煙へと変わっていった。


「あっぶねぇ! られるとこだったぞ!!」


 小さいから足を狙ったのかもしれないが、足をやられれば機動力を奪われてじわじわ嬲り殺されるところだった。


 何とか回避することができたから良かったものの、予想外の攻撃に鈴鹿の心臓はバクバクと暴れていた。


「落ち着け落ち着け。それよりも一撃で倒せたってことは、紙装甲の素早さ全振りパターンか?」


 攻撃した時の手応えから、防御力が低いだろうと結論付ける。


 初めに発見した一角兎は鈴鹿を恨むように眼をギラつかせて睨んでいた。初めから二匹態勢で相方が殺されたから怒っているのか、不意を突いた作戦が失敗して怒っているのか、はたまた単純に人間が嫌いなのか。


 その顔は愛らしい兎とはかけ離れたモンスターの顔をしていた。


 にらみ合いも束の間。一角兎は地面を滑るように高速で移動を始める。酩酊めいてい羊のような猪突猛進ではない。不規則に鈴鹿の周りを駆け回り、鈴鹿の索敵を逃れるように時折草むらで姿を消して動き続ける。


 その様子を見失わないように注視する鈴鹿。思考を加速させ、集中する。深く深く集中し、全方位どこから来てもいいように身体は脱力させその時に備える。


 一角兎が後ろへと回り込むと同時に、軌道を変え鈴鹿へと狙いを定めた。完璧に背後の死角からの攻撃。一角兎はったと確信した。


 しかし、一角兎が方向を変えた瞬間には、鈴鹿は一角兎の方へ向いていた。鈴鹿は一角兎の動き、リズム、タイミング。それらを加味し、直感的にここで来るとヤマを張っていた。


 まるで未来予知のような動きを持って一角兎へ振り向くと同時に、魔鉄パイプを地面と平行に横なぎに振う。


 一角兎はどんぴしゃのタイミングで振られた魔鉄パイプを避けることはできず、側面を強打され煙となって鈴鹿へと吸い込まれていった。


 二匹目を仕留めた鈴鹿だが、油断はしない。他にもいるかもしれないため油断なくあたりを見回すが、視界にも気配的にも一角兎はいない。


 これ以上の追撃はないだろう。そう判断し、一息つくために水筒のお茶を飲み、ようやく落ち着けた。


「ふぅ……。ビビったぁ~」


 先ほどの戦闘を振り返る。一匹の一角兎を見つけたと思ったら、近くの草むらに潜んでいた別の一角兎が突撃をかましてきた。


 たまたま近くに隠れていたのか、作戦なのかはわからない。だが、一角兎は初心者キラーとして名を馳せているし、たまたまの線は薄いかもしれない。


「あれが草原の暗殺者か。すばしっこいし的は小さくて攻撃しにくいし、避けるのもわかるかも」


 1層2区では3系統のモンスターがいる。鬼と兎と狼だ。だが、ほとんどの探索者は兎をスルーするという。その理由を垣間見た気がした。


「よく見てみれば、この辺一帯は背の高い草が多く生えてるな。やつらの縄張りってことか」


 一角兎を避けるのは容易で、今鈴鹿がいるように背の高い草が多いエリアを避ければ済む。下手に進めば、先ほどのように草陰に潜む一角兎に足を貫かれ嬲り殺されてしまう。


 人数がいれば背中も任せられるため対処はしやすいが、後衛職が足手まといになってしまう。レベルを上げて防御のステータスが一角兎の攻撃力を上回るまでは、避けるべき相手と言われている。


 だが、鈴鹿は違う。


「さっきの戦闘でレベル上がったけど、剣術のスキルは上がらなかったか。なんか掴めそうだったんだけど」


 的が小さい分魔鉄パイプの攻撃にも精密さが求められる。一匹目をアクロバティックに倒せた時も、二匹目を一撃で倒せた時も、いつも以上に攻撃の軌道やタイミングに意識を傾けられた。


 あと何回か戦闘できれば、剣術のスキルが上昇しそうだという手ごたえが感じられた。


「うし! 最初は兎から攻略するか!」


 2区のエリアボスは二匹いる。兎系と狼系のエリアボスだ。鈴鹿にとって一角兎を避ける選択肢はないため、まずは剣術を鍛えるべく兎に集中して攻略を進めていくことにした。


 もともと鈴鹿は楽観的な考え方の持ち主だ。たった今起きた一角兎との戦闘でも少し間違えれば致命傷を負ったというのに、負っていない(・・・・・・)から気に留めることはなかった。


 その楽観的な考え故に一人でダンジョンの探索を行っているのだが、はたしてその考えはどこまで通用するのか。鈴鹿の探索はまだ始まったばかりである。

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