3話 詰め込み勉強法
さて、ヤス案件に続き受験対策と大幅な変更が必要だな
早速ダンジョンに挑みたいところであるが、勉強も大事だ。だが、ヤス同様知力が上がっている今ならばそこまで時間をかけることもないだろう。
最長1週間。頑張って3日で終わらせよう。できるだろ。多分。
鈴鹿は理系だったため、数学と理科についてはそこまで心配がいらない。改めて内容や公式を理解すれば、時間をかけなくて済むはずだ。
英語も苦手ではあったが、中学生レベルなら問題ないはずだ。知力のおかげで記憶力がどれだけ上昇したかにかかっているが、中学範囲の単語を覚えられればいけるはず。
社会なんて暗記ゲーもいいところだ。これも知力次第にはなってしまうが、過去に覚えたこともあるので頑張ればなんとかなるだろう。
問題は国語だ。鈴鹿は作者の意図というのが理解できない。作者がどう思っているかではなく、鈴鹿はどう思うかで回答してしまうのだ。そのせいで良く塾の講師に注意されていたが、果たして今は直っているだろうか……。
それに、この機会に一度探索者高校についても調べてみるか。あんまり魅力は感じてないけど、すごくいいところならほんとに受験するのもありだしな。
探索者高校の鉄則など少しは調べてみたが、勉強の息抜きに改めて調べることにした。
問題集なんかは明日買いに行くとして、とりあえず教科書見直すか。
こうして、鈴鹿の受験勉強が始まった。
◇
「……あんた凄いわね。ここまでできるなら進学した方がいいんじゃない?」
そう言うのは、鈴鹿の答案用紙を採点していた母さんだ。母さんが持っている答案用紙はヤスが目指している高尾山高校の過去問。母さんが丸付けをしたため文章問題などの採点はできていないが、それ以外の正答率は9割超え。文句なしの合格点だ。
「レベルアップして頭も良くなってるからね。こんなもんよ」
ここ数日本気で勉強したかいがあったというものだ。ステータスの恩恵は想像以上で、すんなりと単語や歴史など覚えることができた。前の世界で覚えていた内容でもあったし受験の傾向などは理解できていたため、数日の勉強で受験範囲をカバーすることができたのだ。
「とりあえず、これで受験は大丈夫だし明日からダンジョン行ってくるね」
「ほんとに探索者になるの? 止めるつもりは無いんだけど、こんなに頭良くなったならいい学校目指してもいいんじゃない?」
「入れるだろうけど、今やりたいことはダンジョン探索だからね。ま、応援しててよ」
テストの結果が良かったからか、母さんからの圧は無くなった。はぁ、凄いわねぇ、うちの子天才じゃないかしらなんて声も聞こえてくる。
鈴鹿は自室に戻ると、早速今後の探索者活動について決めたことを整理した。この数日間、受験勉強の合間に今後のダンジョン探索方針を考えられたのもいい機会だった。細かな目標があったほうが身が入るというものだ。
まず、今後の探索を行う上で一番重要なのが、ソロで活動するかパーティで活動するかだ。
パーティで活動することのメリットとしては、探索できる幅が広がることが一番だろう。
ヤスのように回復魔法が使えるメンバーがいれば、多少怪我をしても撤退する必要がなくなる。タンク役のメンバーがいれば強力な敵を相手にしても隙をついて攻撃しやすくなるし、魔法を使えるメンバーがいれば遠距離から援護してもらうこともできる。
それだけでなく、パーティメンバーがいれば敵のヘイトも分散されるため、より多くのモンスターを相手にすることだってできる。それになにより、人数が多ければお互いカバーし合えるため、生存確率が大幅に上がるのも重要だろう。
だが、パーティ活動には問題があった。それは、一緒に探索するメンバーを揃える必要があることだ。
ヤス以外の同級生となると、目星がつかないんだよなぁ。
中学を卒業しても付き合いが続いたのはヤスだけであったため、他の奴らがどんな性格だったかうろ覚えだ。それに、この時期はヤスと同じくみんな夏期講習で受験勉強をしているため、誘うことも難しい。
探索者高校に行く池崎の様な奴なら誘いやすいんだが、鈴鹿の顔が整いすぎてしまったために気持ち悪い視線を投げてくることがあるため却下だ。ヤンキーたちも誘えば来てくれるかもしれないが、いい印象もないため一緒に探索したいとはならない。
パーティメンバーの他の候補としてはまだ二つある。探索者高校の生徒か、パーティマッチングシステムの利用だ。
探索者高校の場合はすでにパーティが出来上がっているため、探索者高校の生徒に声をかけてパーティに加えてもらうことができるだろう。ただこちらも問題があって、探索者高校の方針と鈴鹿の探索方針が噛み合わないのだ。
民主主義らしく、パーティの方針もメンバーの数が多いほうが優先される。当然、後から加入の年下である中学三年生の意見など通る訳がないだろう。自由に探索したいのに縛られるのは本意ではない。
それになにより、他校の知らない生徒に声をかけてパーティに入れてもらうなどハードルが高すぎる。そこまでする労力をかけるならば、一人でいいと思うのが鈴鹿だ。
また、最後のパーティマッチングシステムとは、広く探索者たちに知られているパーティー募集のシステムのことだ。
各探索者協会に設置してある端末で確認することができ、いちからパーティメンバーを募集することも、臨時のメンバーを募集することもできる。他の協会の情報も見れるため、臨時で遠征したり、拠点変更をする際などにも便利だ。
探索者は不慮の事故で亡くなることもあれば、手堅く稼ぎたい者や上を目指したい者など、考え方の違いでパーティを解散することも多い。このシステムのおかげで、一緒に探索するパーティメンバーを見つける者は多くいた。
しかし、このシステムには致命的な問題があった。それは、募集要項の一つにある探索者ランクについてだ。
このシステムでメンバーを募集する者は、基本四級以上が対象になっている。探索者ランクが五級の鈴鹿はお呼びではないのだ。
それもそのはずで、探索者高校の卒業要件が探索者ランク四級への昇級があるためだ。
探索者になる者のほぼ全てが探索者高校の卒業生なのだ。全員が四級以上であるのに、わざわざ五級を募集する者などいない。そんな応募があったとしたら、そんなものはきな臭い案件だ。近寄るべきではない。
それに、鈴鹿のように五級探索者というのは誰でも成れるランクである。ダンジョンに入るためにはライセンスが必要で、日本国籍があれば登録することで誰でも五級探索者となるのだ。育成所に通っている者たちも、ダンジョンの祝福を受けるために一回だけダンジョンに入る者も、全員が五級だ。
そのため、探索者と言われるのは四級以上を指していたりもする。
結果、鈴鹿がパーティメンバーを探すならば探索者高校に通う生徒しか選択肢は無く、探索者高校の方針とは合わないためその選択肢も実質無し。
やっぱソロしかないよな。もともとヤスと合流する前もソロでやろうとしてたし、初志貫徹ってやつだよ。
ハーレムパーティならば組んでみたいとは思うものの、現状はソロで頑張っていくことにした。
それに、親分狐と戦ってた時は楽しかったしな。ヤスには悪いけど、1対1で戦えるソロが俺には合ってるのかもしれない。
1層1区のエリアボスである親分狐戦では、ヤスが舎弟狐を引き付けてくれたおかげで親分狐と1対1で戦うことができた。あの時の高揚感は今でも思い出せるほどだ。
それに、ソロ活動は楽しいだけではない。ちゃんと実利もあった。
鈴鹿はレベル10に至るまでステータスの上昇値の平均が最高値である10に近い9越えばかりであったが、一度だけ7と低かったことがあった。
探索者の上昇値の平均が5と言われているため7でも高い部類ではあるのだが、それでも今までの鈴鹿の上昇値から比べると低い。
ステータスの平均値が7しか上がらなかった時は、ヤスに合わせて大して脅威にも感じなくなっていた土瓶亀などと戦ってレベルアップした時だった。
恐らくダンジョンとはリスクを負うことでステータスの伸び率が変わってくるのではと鈴鹿は仮説を立てていた。その仮説をもとに図書館でダンジョンに関する資料を調べてみると、すぐにその仮説が正しかったことが分かった。
というか、よくよく考えてみたら調べるまでもなくわかりきっていたことであった。例えば、育成所でのステータスアップは平均が2と限りなく低い。理由は教官による過度な保護と重火器による過剰な火力によるためと言われていた。
つまり、安全な状態で楽してレベルを上げるとステータスが伸びないのだ。それはつまり、リスクを取れば取るほどステータスの上昇値が良くなるということでもあった。
だからこそ銃を使わなければ良いということではなく、5人組で酩酊羊を倒すのと、ソロで酩酊羊を討伐するのでは同じステータスの伸びな訳がないことがわかる。
ソロはリスクも多いが、トップの探索者を目指すならばこれ以上ない最適解ではと思っている。
さて、ソロで活動することは決めたから、次は夏休みの目標と今年度の目標だな。
まず夏休みの目標は2層へのゲートを見つけること。ダンジョンでは、下の階層へ続くゲートが各層の3区に存在している。八王子ダンジョンの2層へと続くゲートがどこにあるかは調べればすぐ出てくるが、どうせなら自分で見つけたい。
つまり、夏休みの目標は1層3区をソロで活動できるレベルまで成長することだ。1層3区はレベル40のモンスターまで出現するため、この夏休み期間でレベル40まで上げることが目標となる。
この世界の常識的に考えれば、このレベル上げのスケジュールは異常である。探索者高校の場合、1年でのレベル上げの平均は10~15程度だ。つまり、鈴鹿は探索者高校の生徒でいえば2年分となるレベル上げを30日程度で終わらせようとしているのだ。
鈴鹿と比較すると探索者高校のレベル上げに要する時間が長いと感じると思うが、それは当然である。そもそも探索者高校とは職業学校とはいえ高校なのだ。ダンジョンについてだけ学べばいいと言うものではない。最低限の教養として普通に数学や英語なども勉強する。
もちろん通常の授業に加え、ダンジョンについての授業の方が多い。基礎体力を向上させる基礎トレーニング特化の体育もあれば、前衛や後衛など各々の職業に分かれて戦闘技能を行う訓練もある。
ダンジョンについての授業にはもちろん座学もある。ダンジョンの各層各区でのフィールドの違いや立ち回り方、様々なモンスターの特徴や対処の仕方、ダンジョン探索での注意点や他のパーティとのダンジョン内での距離の取り方など、ダンジョンに入らずとも覚えるべきこと、やるべきことが山積みにある。
それに加え、長期休暇では各探索者ギルドへのインターンなどもあり、常にダンジョンに入れるような環境ではないのだ。
育成所の様に、銃の基本的な扱い方やダンジョンでの行動についての簡単なレクチャーが終わった後は、ずっとダンジョン探索を行うものと思っていたが、探索者高校はちゃんと高等学校であった。
また探索者高校では、レベルが上がったから強い敵に挑みに行く!なんてことは無く、モンスターとの戦闘に慣れるために何度も何度も酩酊羊や舎弟狐と戦うのだ。
レベルマージンを設けた戦闘訓練を行い、安全にレベルを上げていく。それが探索者高校であり、今の探索者達の根底を支えている教育であった。
だが、鈴鹿の環境は違う。学力が問題ないことを母親に認めてもらえたことで、ダンジョンに籠り続け、探索に集中することができる環境を手に入れた。それを咎める仲間も教師もいない。故に、ひと夏でレベル40まであげる目標だって掲げることができるのだ。
探索者高校は探索者ランクを四級に上げないと卒業できないんだよな。四級への昇格試験って2層1区の魔物の討伐だし、入学する前に卒業できちゃうよなこれ。
2層へ続く階段を下れば2層1区となる。そこのモンスターを安定して倒せるようになれば、探索者ランク四級の昇格試験も合格できる。鈴鹿が順調通り進めば、秋になるころには探索者ランクが四級になっているのではないだろうか。
ただ、それだと目立ちすぎる。普通は探索者高校の生徒が受ける四級昇格試験を、中学生が受けるのは目立つはずだ。
目立つのは何も悪いことではない。青田買いとしてトップの探索者ギルドから声がかかるかもしれないし、注目が集まれば承認欲求も満たされるだろう。だが、鈴鹿はどれも興味がなかった。特に承認欲求についてはできるだけ避けたいとすら考えていた。
ああいうのは麻薬と一緒で、一度味わうと抜け出せないからな。承認欲求に固執して振り回されたくないし、最初から関わらない方が良い気がする。
鈴鹿がタイムリープする前の時代では、SNSの普及によって一般人でも承認欲求を満たすことが容易な時代であった。そして、承認欲求に溺れていく人も多くいる時代でもあった。
鈴鹿は別に天才ではない。ダンジョン探索と承認欲求を満たすことの二つを追い求めては、大成することはないと思っている。今は純粋にダンジョン探索を追求したいからこそ、惑わされないように周りと距離を置くべきだと鈴鹿は考えていた。
本音を言えばチヤホヤされたいとも思うが、そうなれば周囲から期待され、その期待に応えようとして自分が本当にしたいことを見失うと容易に想像できた。
それにユニークスキルの件もあるし、まずは自衛できる力が欲しい。レベルアップのために2層の攻略を進めれば目立つ。だから、今年度の目標は1層の完全攻略。これしかない。
ダンジョンの各層は5つの地区に分かれている。そして、下の層に進む階段は3区にある。つまり、3区で2層への階段を見つけても、1層にはまだ探索できる4区と5区が残っているのだ。
4区と5区は特殊で、どの層も魔境と言われており近づく者は滅多にいない。と言うのも、探索者ランクを上げるには上の層のモンスターを討伐する力が求められているからだ。
なので、探索者ランクを上げるためには階段を見つけたらさっさと次の層へ行ってしまうため、そもそも4区と5区を探索する者がいない。
それに加え、4区と5区は魔物のレベルが急激に高まるのだ。各区で出現するモンスターは、エリアボスを除けばレベルの上限が決まっている。
1層1区はレベル10まで。
1層2区はレベル20まで。
1層3区はレベル40まで。
1層4区はレベル70まで。
1層5区はレベル100まで。
3区から4区に変わるだけで、レベルが倍も違うモンスターが出現しだす。そのため、探索者学校では絶対に入るなと言われるエリアが4区と5区なのだ。
ちなみにだが、他の層の1区のモンスターの上限レベルがこのとおりだ。
2層1区はレベル50まで。
3層1区はレベル80まで。
4層1区はレベル110まで。
つまり、1層5区を探索できるということは、4層1区でも活動できると言うことでもある。レベル100にもなれば中堅探索者である二級にも届くレベルであり、ここまでレベルを上げられればユニークスキルを所持していても多少の揉め事だって対応できる。
今年度という目標はかなり厳しい目標でもあるが、鈴鹿が目指すのは探索者の頂点。目標を決める時点で日和っている場合ではない。
さ、目標も決まったし、明日から頑張るぞ!!
気合を入れた鈴鹿は、明日のために早めに眠りにつくのであった。




