26話 特級探索者戦2
特級探索者。それはレベル200を超えた探索者であり、存在進化を2回経た者たちである。探索者の上澄みの中の上澄み。多くの探索者が一度は憧れ、すぐに目指すべきではないと見切りをつけるランク。探索者たちの中には、やっかみを多分に含み死に急ぎと呼ぶ者までいるランクだ。
初めての存在進化を得るレベル100を超えるには、ステータスが必要と言われている。レベル1の頃からひたすら安全重視で探索をしていけば、レベル100を超えることはできない。多くの探索者に立ちはだかる壁。それがレベル100である。
レベル100を超えられた探索者は、早い段階で成長限界を迎えることが多い。存在進化することでステータスが増強され存在進化する前とは一段階上の力を手に入れることができるが、出現するモンスターもまた一段階強さのレベルが上がっているためだ。ギリギリで存在進化を経た者は、ほどなくして成長限界を迎えてしまう。
次に現れるレベル150の壁を越えるには、スキルが必要と言われている。ステータスは大前提。レベル6の壁を越えるスキルや強力なスキルが求められるのがレベル150の壁である。
スキルを強化するにはそのスキルが必要とされる環境に身を置かなくてはならない。つまり、安全策ばかりを取っている場合スキルは強化されないのだ。常に強くなるために危険に身を置く覚悟がなければたどり着けぬ領域。それがレベル150の先である。
リスクを取ると一概に言っても、これがなかなか難しいものがある。スキルレベル6もあれば、大概の事ができるようになってしまうからだ。ただステータスを盛ることを重視したエリアボス周回でも、スキルレベル6のスキルを持ち装備が整っていてかつパーティの連携が取れていればできてしまう。安定した探索ができてしまうのだ。
それを止め、ステータスだけでなくスキルも求める探索をするとなると、さらに踏み込んだ探索が必要になる。それは命がけの綱渡りのようなもので、一つのミスが取り返しのつかない重大事故に繋がりかねない戦闘が必須ということでもある。それもスキルが上がるまで延々と。
ステータスが盛れているだけで十分踏み込んだ探索をしているというのに、さらに一歩踏み出す勇気。それが求められるのが一級探索者である。
そして、だからこそギルドが必要だとも言われていた。一回の探索ごとにレベルとステータスとスキルを精査し、どれほど踏み込むべきかをこれまでの経験からはじき出す。探索者が生きて帰ってこれるように。それでいて一級の高みへと手が届くように。スポーツで例えれば監督、ボクシングで言えばセコンド、ゴルフで言えばキャディ。選手だけが良くても、支える者だけが優秀でもいけない。どちらも合わさって初めて探索者は高みへと行けるのだと言われていた。
これまでの歴史とデータから最適化された探索者の育成プランは、さながら名門のクラブチームのようである。
もちろん、スキルではなくアイテムで補うことも可能だ。例えば『双毒の指輪』のようにスキルレベルを上げることができるアイテムもあれば、一級や特級がゲットしてきた強力な武器防具を身に纏うことで力を底上げすることだってできる。
しかしそれは一時的なバフであり、探索者自身の強さには繋がらない。結果、レベルに釣り合わない探索者が誕生するだけに終わる。こういった一級探索者もいるにはいるが、その数は支配的ではない。
ステータスを盛った者がさらに踏み込んだ探索をすることで越えることができるレベル150の壁。その上に位置するレベル200は一体どれだけのリスクを超えなくてはいけないのか。
特級探索者とは、強力なスキルか強力なアイテムが必須の領域。たったひとつでも尖ったスキルが発現したか、高レベルのスキルが一通り揃っているか、特殊なアイテム類に囲まれているか、はたまた豪運を持っているか。どれを得ていればよいかはわからない。だが特級に至れる者はなるべくしてなると言われている。
明確な基準はない。だが、死の淵を笑いながら全力で走れるような、自分の命を簡単に天秤にかけられるような頭のねじが外れた者だけがたどり着ける領域であることは、間違いない。
そんな特級へと至った、蜥蜴と呼ばれる裏社会を統べる大久野が取り出した不気味な面。それが生半可なアイテムな訳がなかった。
不気味なガスマスクのような面の内側から触手が生え大久野の顔に貼り付けば、けたたましい甲高い悲鳴が響き渡る。それは仮面が顔に貼り付いたことによる何らかの痛みを受けた大久野の発狂した声か、ようやく現世に顕現できる仮面の喜びの産声か。
「おお? なんだこれ」
仮面が取りついた衝撃で上を向いていた大久野が正面を向いた瞬間、大久野と鈴鹿を中心に空間が拡張される。半径50メートル程度のドーム状の空間。ドームの外には灰ヶ峰が見えるが、先ほどまでの距離の何倍も離れている。
隔離された空間。そんな不可思議な空間に、大久野と一緒に取り込まれた。
「灰ヶ峰。入れそうか?」
「いや、無理だな」
灰ヶ峰はドームを少し触った程度で早々に中へ入れないと見切りをつける。まぁ入れたところで入ってこなくていいんだが。
【なんだこれ!?】
【奥の手のアイテム???】
【どうなってんだこの空間。閉じ込められた?】
スマカメからも事態が飲み込めず静かだったコメントが一気に流れ出す。
大久野を見れば、奇妙な毒マスクがうねうね口元のホースを動かしながら鈴鹿を見ている。なんともキモイ奴である。
鈴鹿の想像が正しければ、強制的に一対一のフィールドに閉じ込めるスキルか何かだろう。外部からの手助けもできず、試してはいないが外へ逃げることもできない特殊な空間。灰ヶ峰と会話できる点もスマカメが繋がっているという点からも、電波や声は通る様だ。配信が途切れなくてよかった。
【やべぇ、なんだあの面の能力。全くわからん】
【特級があの程度で終わるわけがないんだよな。これがあるから探索者は探索者と戦うの避けるんだよ】
コメントにある通り、探索者は探索者と戦うことを避ける傾向にある。理由は今回のような奥の手が出てくる可能性が高いからだ。それがアイテムなのかスキルなのかはわからないが、一発で状況が最悪になる可能性も十分ある。これが閉じ込められたのが鈴鹿だからいいが、後衛のヒーラーなんかが初手で閉じ込められたらあのガスマスク大久野に一方的にやられてしまうところだっただろう。ある意味戦況をひっくり返せる強さがあるアイテムだ。
「ん、がはッ」
込み上げた吐き気を押さえつけることも無く吐き出せば、口から血だまりが吐き出される。鼻からも血が垂れてきた。
【へ、狂鬼さん大丈夫!?】
【いつの間に攻撃してきたんだ?】
【毒だッ!! ポーション飲め狂鬼さん!!】
コメントの通り、あのガスマスク。見た目通り毒攻撃を仕掛けてきた。そして当然と言うべきか、鈴鹿はそれを認識していた。鈴鹿の高レベルの魔力感知が、薄く広げられた毒が撒かれているのを理解し、そのうえで受けたのだ。
だが、毒のダメージが通るのは想定外。状態異常耐性レベル8もある鈴鹿が今更毒魔法のダメージを喰らうとは思わなかった。あの仮面は周囲にのしかかる圧力に見合った力が得られるようだ。仮面をつけたことで大久野の存在感が一段階上昇している。最弱の特級だった大久野が、今ではまるでレベル200オーバーのエリアボスかのように感じられた。
初手で隔離により周囲から切り離し、たった一人でエリアボス級に挑まなければならない。さらに即座に襲い掛かるのではなく毒ガスによる搦め手をしてくるあたり何とも厭らしい。殺意マシマシ。相手を殺すならこの上ないコンビであるのは認めよう。
状態異常耐性8すらも貫通する毒。相手が鈴鹿でなければ、これで終わっていたかもしれないな。
相手が鈴鹿でなければ。
『ブォッフォッフォッブォッブォ!!』
「それ笑ってんのか? んで、笑ってる場合か?」
突如鈴鹿の姿が掻き消え、大久野の眼前に現れる。先ほどと同じようにタンク職らしく鈴鹿に反応を見せるが、先ほどのようにわざわざ盾を殴りつけてはあげない。まるで盾を透過したかのような動きをみせ、夜天の毒手が毒マスクにめり込んだ。
ただ吹き飛ばすことを目的とした攻撃ではない。仮面ごと顔面を粉砕する気持ちを込め、衝撃が十全に内部に広がるように殴りつけた。
きりもみ状に回転しながら、バウンドしてドームの壁面へと衝突する。まぁまぁの勢いでぶつかったはずだが、ドームは健在だ。おそらく大久野が解除するか死ぬかしないと解放されないだろう。
【狂鬼さん! 早くポーション飲んで!!】
【まさかポーションないのか?】
【自己再生って毒にも効果あるの?】
「さぁ、どうだろうね」
鼻から流れ落ちる血を無視しながら、身体のコリをほぐすように腕のストレッチをする。追撃はしない。必要性を感じない。
この隔離は鈴鹿にとって朗報であった。大久野の屋敷は広いが、探索者が戦うには狭い。屋敷の庭が拡張されたような不可思議なこの空間を覆う壁は、どうやらそこそこ硬いみたいだ。滅却の力があればいつでも壁を破壊して出ていけそうではあるが、せっかく用意してくれたのだから有効活用させてもらおう。
奇声を上げながら大久野は起き上がり鈴鹿を睨む。翁の面のように弧を描いた目の部分も、心なしか睨み付けているようだ。仮面の縁から生えた触手が大久野の頭部を侵していき、はたから見たら徐々に浸食されているように見える。すでに蜥蜴の頭部の大部分が触手に覆われていた。
「おいおい、悪の親玉がたかがお面に乗っ取られてんのか? 乗っ取られんなら早くしろ。蜥蜴にガスマスクは版権に引っかかりそうだからなぁああ!!」
鈴鹿が接近すると、今度は隠そうともせずにあたりに毒ガスをまき散らす大久野。煙幕代わりか、はたまた鈴鹿を遠ざけるためか。だが鈴鹿は気にしない。聖魔法による浄化をすることも、毒魔法で相殺することも、ましてやポーションを使いながら向かう訳でもない。気配察知で手に取るように居場所がわかる大久野に向かい、ひた走る。
ただ無策で突っ込み続ける鈴鹿。それはきっとガスマスクにとって想定外の動きであったことだろう。内臓を腐らし肺を侵し皮膚を爛れさせる猛毒は、生物ならば避けるべき攻撃だ。生き物が生まれながらに備える防衛反応によって、反射的に避けるべきだろう。
だが、鈴鹿はそんな毒に何度も何度も数えきれないほど侵されながら戦い続けた過去がある。狡妖猿猴という圧倒的格上のエリアボスの毒を一身に浴びながら、それでも笑みを浮かべて挑み続けた狂った過去が。
故に鈴鹿に毒は通用しない。足止めも、一瞬の隙すらも作れない。むしろ鈴鹿のギアが上がる。全身を駆け巡る激痛に、あの時の記憶が呼び覚まされるのだ。全身全霊で倒す事だけを考えて挑み続けた、あの狂気に彩られた日々を。
「……っは。ふはっ……はっはあっはははッハッハハハァァッァァァアア!!!」
視界がバチバチとはじけ飛ぶ。1秒が何倍にも引き延ばされる感覚。接戦でも危機に瀕している訳でもないというのに、鈴鹿の集中は極限まで高まる。まるで脳みそを強化したときのように、疑似的に鈴鹿は全力の状態を再現して見せた。
上がり続けるギア。狂ったように高速回転する思考を御し、テンションが上がりすぎてうっかり白夜の毒手や滅却の力を使わないように注意しながら、鈴鹿はこの懐かしい感覚を味わい尽くす。
哀れな標的はガスマスク。ステータスを含む能力が激増し、奇妙なスキルを使い、毒まで行使するようになったというのに、鈴鹿にとってはただただ丈夫なサンドバッグでしかなかった。ステータスが増えたことでより丈夫になったサンドバッグに、鈴鹿はこの昂りを余すことなくぶつけてゆく。
「アッハひャハハッはッハアァアアぁアア!!!!」
もはや笑い声か悲鳴なのかもわからない。パーになった脳みその指示に従って、ただ勝手に口が動いている。
毒の霧に紛れる様に逃げようとするガスマスクを気配察知で捕捉し、殴りつける。依り代である大久野の能力は引き継いでいるのか盾さばきは様になっているが、鈴鹿の拳は防ぎきれない。たかが特級最弱程度が鈴鹿の攻撃を防げてなるものか。分を教え込むように、圧倒的にステータスで勝るはずのガスマスクが視認できない連撃をその身に喰らわせる。
「逃がすかよぉぉおおおおお!!!」
自分自身が殴りつけたせいで吹き飛んだというのに、鈴鹿はどこにも行かせないと蠢くガスマスクに繋がるホースを握りしめ力任せに手繰り寄せる。握ったホースからメキャメキャと音がするが、そんなことは鈴鹿にとってはどうでもいい。引っ張られる反動を利用し何とか片手剣で攻撃を仕掛けようとするガスマスクだが、鈴鹿にはかすりもせずすり抜け、代わりに腹部に強烈な一撃を浴びせられる。
恐らく遺物クラスの防具だろう大久野が纏う一式防具は、鈴鹿に殴りつけられ衝撃を吸収しきれずに内部へとダメージを通してしまう。
引き寄せられた反動すらも乗った一撃は重く、まるで流星のような速度でガスマスクは自分が展開した隔離結界の壁に衝突し、轟音を結界内に響かせる。
「休む暇ねぇぞガスマスクッ!! 離れたら雷撃だぁああ!!」
ガスマスクが響かせた轟音に負けず劣らずの雷鳴をひびかせ、鈴鹿の雷撃がガスマスクに直撃する。雷鳥戦以降、通常モンスター相手には使用していたがエリアボス相手には使用を控えていた雷魔法。だが、ここに至って解禁される。理由は雷撃を浴びせても死ななそうだから。だから存分に雷撃を浴びせてあげる。
「安心しろよカストカゲッ!! こんがり黒焦げにならねぇように威力は調整してやるからさぁああ! 全く、雑魚の相手は手加減しなきゃいけねぇからだりぃなオイッ!! それもこれもテメェがクソ雑魚なのにヤクザの真似ごとして悦に浸ってっからだぞイキリ老害ッッッ!!!」
隔離結界の中は外部に被害が出ないのをいいことに、幾重にも重なった雷撃がのたうち回る。ゼロ距離落雷による雷鳴が重なりすぎて、スマカメのマイクが壊れないか心配になるほどだ。
久々に使う雷撃は気持ちがいい。やはり轟音が派手さを演出していて使ってて満足度が高い魔法だ。毒魔法だとこうはいかない。何されたかもわからず無音で死んでしまうからな。その点雷魔法はド派手。鈴鹿の性にあった魔法である。
ガスマスクは雷撃を避けようと奮闘しているが、全ての動きが裏目に出る様に雷撃が被弾する。当たり前だ。雷撃を放っているのは鈴鹿なのだ。ガスマスク程度が動きの予測をできるわけがないだろう。
だが、やはり魔法だけで終わらすのはもったいない。このまま晴天雷鳥に使用した魔力を練り上げた一撃を使ってしまえば致命傷になりかねないので、ほどほどに嬲りつつ鈴鹿は拳を握りガスマスクの下へと踏み出した。
だが、ガスマスクはどうやら鈴鹿に近づいてほしくないようだ。自分が閉じ込めたというのに、鈴鹿を近づかせないように全力で毒魔法を展開する。毒ガスをどれだけ展開しても止まらない鈴鹿。効いていないわけではない。口や鼻だけでなく耳や目からも血が流れているし、口からは呼吸の度に血反吐が吐き出される。
ただ止まらないだけ。その程度の毒では、鈴鹿の歩みを止められない。効いているのに、毒のダメージを受けているはずなのに、鈴鹿は歩き続ける。まるでその痛みを懐かしむように、痛みが走るごとに口角が吊り上がり、鈴鹿の攻撃の苛烈さが増す。その異様な顔は、彫刻の様に整った顔と合わさってうすら寒い気味悪さを感じさせるものだった。
鈴鹿に毒は逆効果。ようやくその事実を理解したガスマスクは、鈴鹿の足止めをするだけの毒を出現させる。麻痺毒が鈴鹿を含む広範囲を覆いつくした。
まったくそんな無駄なことはしなくていいというのに。避けるという言葉が辞書から消失してしまった鈴鹿は、ガスマスクが生み出す毒を全身で受け止めた。途端に痺れ身体が満足に動かせなくなる。鈴鹿の筋肉も肺も心臓も臓器たちも痙攣し、鈴鹿をその場に縫い付けようと必死に動きを阻害する。
戦闘における状態異常は即座に死に繋がりかねない最悪の事態。特にたった一人で隔離されたこの状況での状態異常は絶望と言って差し支えないだろう。しかし、鈴鹿の顔には笑みが張り付いたまま。黄金に染まる瞳には、底なしの狂気が渦巻いている。
「えなべひゃねぇかハスマスクぅ」
喉が痙攣し、上手く言葉すら紡ぎだせていない。鈴鹿はこう言いたかったのだ。『けなげじゃねぇかガスマスクぅ。俺の状態異常耐性のスキル上げに付き合ってくれるなんてなぁ』と。
その言葉通り、鈴鹿は麻痺ガスを喰らいながらも一歩前へと踏み出した。ビキビキと筋肉が硬直し、機能不全に陥った臓器たちが内側から鈴鹿を食い止めようと必死に反抗する。鈴鹿の意思とは別に身体が動いてしまい、そう簡単には抜け出せない。
だが、鈴鹿にはそんなことどうでもよかった。本当に、心の底から、身体程度が鈴鹿に反抗するなんて可愛らしくて愛おしさすら抱くほどに、鈴鹿にとっては些事であった。
そう、ガスマスクは間違っているのだ。鈴鹿を止めるために毒ガスをばらまこうとか、麻痺毒で動きを封じようとか、本当に思考がしょうもない。素体が裏社会のボスとしてふんぞり返っていたくだらない人間だからだろうか。せっかく人外のような強さを持っているというのに、発想があまりにも凡人すぎる。
鈴鹿を止めたければ思考を止めなければいけない。脳みそを止めるとか、心臓を止めるとか、そういう話ではない概念の話。鈴鹿の思考を停止させる。そんな意味不明な毒を創り出せれば、鈴鹿の歩みを止められたかもしれない。
だが、ガスマスクにはそれができなかった。ならば鈴鹿の歩みが再開されるのは必然とも言えた。
「ほあ、もっとふおいほふひゃへぇとひはねぇほ!!」
鈴鹿が一歩を踏み出す。鈴鹿自身の身体が動きを阻害しようと止めにかかるが、鈴鹿の思考が一切合切をねじ伏せ歩くように厳命する。動けと命令しているのだ。動かぬ身体なぞ消し去るぞと。自分自身を脅迫するかのように無理やり身体の操作権を奪取する。
普通スキルレベルを上げるのならば、上げねば切り抜けられない状況に追い込まれ、打開しようともがき続けることでスキルが応えてくれる。
だが鈴鹿は違う。自ら死地に飛び込み、上げねば死ぬぞ、どうすんだと、自分自身を追い込み脅迫して強制的にスキルを上げる。まだ早い。この程度じゃ上げられない。そういくら状態異常耐性のスキルが反抗しようとも、鈴鹿はならば死ねとさらに深く踏み込んでいってしまう。
その恫喝に、状態異常耐性のスキルが屈する。
「ほあ。ほら! ほらッ!!! もうこんな毒じゃ足らなくなっちまったぞガスマスクッ!! お前のありったけ絞り出さねぇと!! 一枚一枚鱗剥がして素揚げにすんぞッッ!!!」
麻痺毒に猛毒が溢れんばかりの空間を、鈴鹿が疾走する。もはやそれらは鈴鹿には通用せず、ガスマスクは唯一の鈴鹿への攻撃手段を取り上げられてしまった。
雷撃がガスマスクの背を押す様に弾け爆発する。向かう先は爛々と黄金の瞳を輝かせる鈴鹿。もがくように逃げ出そうとするガスマスクだが、先ほどの麻痺毒のお返しとばかりに鈴鹿の雷撃によって身体が痙攣しており、思うように逃げ出せない。
ガスマスクの必死の抵抗も空しく、雷光が爆ぜ夜を遠ざけた白夜の毒手が、遺物の装備を打ち砕きガスマスクを隔離障壁へと叩きつけるのだった。




