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狂鬼の鈴鹿~タイムリープしたらダンジョンがある世界だった~  作者: とらざぶろー
第八章 悪意には底無しの悪意を

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1話 サンライズ

 東京駅のホーム。既に辺りは暗く、周囲にいるのはくたびれたサラリーマンや飲み会帰りの若者たち、あとはどこかに遠出するのか楽し気に大荷物を持って友人と話す者たちがいた。夜になるとまだ少し肌寒いが、一枚羽織ればちょうどよいくらいの過ごしやすい気候だ。


 鈴鹿は夜ご飯もお風呂も済ませ、大きな荷物を背負ってそこにいた。


 お風呂は東京ダンジョンを利用した。探索者の疲れを癒すために設置されている大浴場は、探索者ならば誰でも利用できるためかなり便利だ。今日は東京ダンジョンで探索はしていないが、鈴鹿は四級探索者なので利用しても何も問題ないだろう。


 さっぱりした後は東京駅近辺で夜ご飯だ。東京駅と言えば不撓不屈ふとうふくつのお膝元。となれば、頼るのは不撓不屈のスカウトである永田ながただ。


 夜ご飯を食べようと誘えば、今日もケイカと一緒に美味しいご飯に連れて行ってもらった。お店の名前は伊〇廣。高級な焼き鳥屋さんだった。


 店構えから高級な感じだったが、焼き鳥がめちゃくちゃ美味かった。美味すぎて、思わず青天雷鳥せいてんらいちょうの肉を提供すれば焼いてもらえないか頼んだほどだ。結果、こころよく引き受けてくれ、三人で美味しく調理された雷鳥の肉に舌鼓をうった。


 もちろんご飯を食べるためだけに永田に声をかけたわけではない。それが8割、いや9割は目的だったとしても、別の目的もあった。


 それが拠点の移動である。


 2層のエリアボスをすべて倒したら拠点を変えようと考えていた。もともと高校に行かずにふらふら八王子以外のダンジョンに行こうと思っていたので、当初の予定通りである。


 さらに、最近では狂鬼チャンネルが有名になったようで、各ギルドが鈴鹿にアプローチしようと動いているらしい。希凛からも川崎掃討戦の影響を受けた横浜のギルドが接触するかもなんて忠告もあったし、いいタイミングである。


 そのことについて永田には伝えておこうと思ったのだ。やはり不撓不屈というギルドは探索者事情にも精通しているため、得られる情報も多いだろう。


 実際、鈴鹿がこれから行こうとしているダンジョンの情報を貰うことができた。永田いわくあまりおススメしないダンジョンとのことで、おススメしない理由も納得できるものだった。


 しかし、鈴鹿はそこに行く気満々だったので、今更変更する気はない。十分注意しますと伝えて、永田たちとは別れた。


『プルルルル。列車が参りますので黄色い線までお下がりください』


 アナウンスと共に、鈴鹿が待っていた列車がホームへと入ってくる。


 サンライズ出雲いずも。東京と島根県の出雲市を繋ぐ寝台列車だ。


 スマカメを取り出し、記念に撮影する。夜風に当たりながら、人の少ない夜の東京駅で寝台列車に乗り込むのは、これから旅をするんだと意識出来てワクワク感が溢れてとても良い。やはり非日常感こそ旅の醍醐味だろう。


 鈴鹿は2階のシングル個室を予約した。ベッドと簡易的だがテーブルまである個室は、まるで秘密基地の様である。壁いっぱいに広がる窓からホームの様子が窺え、人がまばらなホームをのんびり見ることができる。


 荷物を置き持参したジャージに着替え、本を取り出す。のんびりと電車に揺られながら、睡魔が襲うまで鈴鹿はリラックスした電車の旅を満喫するのであった。




 ◇




 窓から差し込む朝日で目が覚める。外を見てみれば、まるで映画のワンシーンのような光景が広がっていた。


 軽くのびをし、昨夜のうちに買っておいた冷めたコーヒーを飲みながら、鈴鹿はこれからのことを考えた。


 鈴鹿が目指しているのは島根県出雲市。なんで出雲かというと、3年前に出雲大社に低層ダンジョンが出現したからだ。


 ダンジョンは基本的に人口が多い場所に出現すると言われていた。だからこそ、関東や関西などに多く出現するのだ。しかし、最近はその限りではなくなってきた。中心地というだけで言えばもっと他にもあるはずだが、出雲大社や伊勢神宮、桜島などにもダンジョンが出現している。


 ダンジョンについてはわかっていることの方が少なく、どうすれば新しいダンジョンが出現するのか、どんな場所にダンジョンが出現するのかは神のみぞ知ると言われているレベルだ。幸い今のところ富士の樹海の様に人が立ち入らない場所に出現し、気づいたらダンジョンブレイクが発生してしまいましたといったことにはなっていない。そうならない保証もないため、探索者協会をはじめ、世界各国でダンジョンの出現条件などは日々研究されている。


 日本には関東以外にもダンジョンが点々と存在しているため、どのダンジョンに行くか悩んだ。北海道もいいし九州もいいし、四国にも行ったことないので行ってみたい。そんな中、出雲ダンジョンを見つけた時に思い出したのだ。サンライズ出雲っていう寝台列車があったなと。


 元の世界で社会人時代に乗ってみたいなぁと思っていたが、機会とやる気が無くてついぞ乗れてはいなかった。ちょうど出雲にダンジョンがあるならば乗るしかない。そういうことで、次なる拠点に出雲ダンジョンを選んだのだ。


 ただ、永田からはおススメされなかった。出雲ダンジョンは中国地方であるが、西のギルドの影響も色濃いため、気を付ける様にと心配された。出来たばかりのダンジョンで、かつ低層ダンジョンなので心配し過ぎではとも思ったが、日本屈指のギルドである不撓不屈の忠告ならば聞いておくのが吉だろう。


 といっても、どうせ猛虎伏草もうこふくそう西成にしなりあたりが接触してくる程度ではないだろうか。来てもギルドに加入するつもりは無いし、西成のお店チョイスはセンスが無かったため門前払いして終わりそうではあるが。


「ま、2週間程度したら離れる予定だし、気に留めておくだけでいいだろ」


 出雲の観光とダンジョン探索が目的なので、そこまで長期間いるつもりはない。エリアボスの1体2体倒したら、一度八王子に戻って次の探索先を探すつもりだ。そこで数週間過ごしたら、また別の拠点を探す。こうやって全国津々浦々ふらふらしようかと思っている。


 ぼーっと朝焼けと流れゆく景色を見ながら、鈴鹿はステータスを表示する。


名前:定禅寺じょうぜんじ鈴鹿

存在進化:鬼神種きじんしゅ(幼)

レベル:151

体力:1018

魔力:1256

攻撃:1432

防御:1175

敏捷:1428

器用:1101

知力:924

収納:601

能力:武神、剣術(5)、体術(10)、身体操作(9)、身体強化(10)、魔力操作(10)、見切り(10)、金剛、怪力、強奪、聖神の信条、水魔法(new)(1)、雷魔法(9)、毒魔法(9)、鬼神纏い、滅却の魔眼、見えざる手(9)、雷装、思考加速(9)、魔力感知(9)、気配察知(7⇒8)、気配遮断(10)、誘いの甘言、魔法耐性(7)、状態異常耐性(8)、精神耐性(7)、自己再生(8)、痛覚鈍化、暗視、マップ


「随分強くなったなぁ」


 寝起きでまだスッキリしない頭で、改めてステータスが充実していることを確認する。別の地のダンジョンに行くからか、つい一年前のレベル1の時と比較してしまう。


 1層3区まではステータスが高いだけで普通のスキル構成だったが、『聖神の信条』を得てからはそれががらりと変わった。


「あれが転換点だったよな。あれがあったから一人でもやってけてるし、この前の狂鬼とだって戦えたし」


 不死という圧倒的な権能が無ければ、狂鬼に腕を破壊された時点で詰んでいたことだろう。絶界や聖光衣せいこうきが無ければもっと苦戦を強いられていただろうし、身体が壊れるほどの身体強化を行えたのも回復することがわかっているからできたことだ。


 鈴鹿をここまで押し上げてくれたのは、『聖神の信条』に他ならない。


「それに、気づけばスキルレベル10がこんなにあるし。いやぁ、いつまでも見てられるわ」


 コモンスキルであろうとも、高レベルになれば下手なユニークスキルよりも断然強いとされている。レベル7に至るだけでそう言われる中、レベル9の壁を突破しレベル10へと至ったこれら5個のスキルは、鈴鹿にとっての虎の子のスキルとなった。


『聖神の信条』にレベル10のスキル。それだけで圧倒的に強いのに、さらに今回狂鬼の宝珠から凄まじい強さを秘めたスキルを3つも得ることができた。


名前:武神

詳細:武術の神髄を会得し、その力を行使することができる。武にまつわるあらゆる権能を得る。


名前:鬼神纏い

詳細:一つの世界を統べた鬼神の力を纏うことができる。彼の者が築き上げた修練の果てと、彼の者が持ち合わせていた天賦の才が受け継がれる。


名前:滅却の魔眼

詳細:万物を破壊する権能。魔眼を発動すれば滅却の力が宿り、根源を破壊することが可能となる。


 一つとっても破格の性能。それが三つ。もはや特級探索者は超えているのではと思えるほどのスキルの強さだ。むしろ、これらを兼ね備えていた狂鬼を倒せたことの方が奇跡かもしれない。聖神の信条の恩恵をフル活用しながら全ての力を出し尽くして、ようやく勝てた相手だ。少しでも何かが欠けていたら今ここに鈴鹿はいなかっただろう。


「けど、スキルが充実したからこそ中身も鍛えないとな。出雲ダンジョンではできるだけ素の実力を鍛える様にがんばろ」


 狂鬼戦で浮き彫りになった鈴鹿の弱点。スキルによる補正がなければ素の実力は大きく劣る点だ。ただ強い力を行使しているだけの、中身スカスカマンにはなりたくない。お前が強いんじゃなくて、お前のスキルが強いだけだろ!なんて正論言われたら思わず滅却しちゃうかもしれないし。


 スキルも実力のうちであり虎の威を借る訳ではないが、あそこまでスキルが整っていたのに狂鬼に追い詰められたのは単純に実力不足が露呈した結果だ。そこに向き合わねば、鈴鹿は強くなれない。


「それに、狂鬼に見栄張って強くなるみたいなこと言っちゃったしな。頑張るか」


 男に二言はない。吐いた唾は吞めぬのだ。ならば精進するしかない。


「他には水魔法なんて便利そうな魔法覚えたしな。あとは火魔法さえ覚えればダンジョン内でお風呂入れそうだよなぁ。あ、浴槽必要だから土魔法もか? なかなか大変だな」


 この前の戦いでは、たかぶったままぶっ続けでエリアボスを倒していった。そのおかげで、鈴鹿は二つの宝珠を手に入れていた。二叉尾棘蠍にさびとげさそりの宝珠からは気配察知、泥濘戦機乙型でいねいせんきおつがたの宝珠からは水魔法をゲットすることができた。


 どちらも有能なスキルだ。気配察知はスキルレベルがなかなか上がっていなかったので、宝珠で上げられたのは大きい。それに、水魔法は鈴鹿にとって4つ目の魔法だ。聖魔法や毒魔法などのレア魔法が多い中、水魔法は魔法の中ではメジャーなものである。しかし飲料水を生成することもできるため、かなり有能なスキルだ。ぜひ水魔法も相応にレベルを上げたいところである。


 他にもアイテムのドロップ品も当然ある。狂鬼からはマスク型の『狂鬼の面』の他にも、武器と一式防具、素材とアイテムがドロップした。武器は何故か斧。まぁ武器の形状はランダムなのかもしれないし、どうせ使えないからいいのだが。嬉しかったのは一式防具だ。黒い大き目のダボっとしたズボンに装飾が付いた白い腰布。狂鬼は上裸であったが、一式防具では黒いブルゾンのような羽織が装備された。猿猴の防具のような動きやすい防具で、滅茶苦茶使いやすそうな防具だ。


 せっかくなので狂鬼の防具は中層に行ってから使おうと思う。アイテムはなんか封印する系のアイテムで、使うことは無さそうなので収納の肥やしにすることにした。


 残る二体のエリアボスからは、棘蠍から武器1個と一式防具、装飾品2つ、素材と収納袋。泥蛸からは武器2種類と一式防具、装飾品2つに素材だ。宝箱からは棘蠍からは収納袋、泥蛸からは魔導源なるものが得られた。テンションが上がったのは泥蛸の一式装備。パワードスーツみたいな外骨格系の装備で、メカメカしくて滅茶苦茶カッコいい。


 収納袋は飽和しつつある。あって困る物じゃないのでいいのだが。他にも装飾品なんかは3層のエリアボスを討伐し終えたあたりに整理して、一軍装備を決めたいところである。普段は成長の阻害になりそうで着けることがないため、中層に行くときにでも見繕えばいいだろう。どうせ3層でもエリアボスから装飾品は得られるのだし。


「それにしても、俺に魔法の才能はないと思ってたけど、宝珠のおかげでバンバン魔法覚えられるな。まじ便利だわ」


 死闘の末に手にすることができる宝珠。やはりスキルを無条件で覚えられるというのは、メリットがとても大きい。


 だが、それは鈴鹿だからこそ成り立っている部分もある。本来であれば、近接職が水魔法を覚えてもあまりメリットはない。もちろん探索の補助には役立つが、即戦力とはなりづらいからだ。


 魔法に適性が無い者は使い続けていてもスキルレベルはなかなか上がらない。鈴鹿も例にもれず、毒魔法の付与を武器にし続けていてもレベル1から全然上がらなかった。


 鈴鹿が魔法レベルを上げられるようになったのは、聖神の信条によるところが大きい。聖神ルノアの経験を引き継ぐことができるスキルのため、聖魔法を極めたルノアの技術も受け継いだのだ。魔法という共通部分があるからこそ、鈴鹿は他の魔法であってもある程度使いこなすことができるのだ。それに魔力操作のスキルレベルも高く、魔法の素質はなくとも他でカバーできるからスキルレベルが上がる。


 もちろん、雷鳥戦のように『格上エリアボスに縛りを入れて強制的にスキルレベルを上げよう!』なんて無茶なことができるのも、要因の一つではある。だが、やはり聖神の信条による魔法への理解が進まなければ、レベル上げはより困難なものだっただろう。


 そのため、せっかく手に入れた宝珠であっても、魔法適性が無い者が水魔法や雷魔法を手に入れてしまえば宝の持ち腐れ。せいぜいレベル3程度で頭打ちとなることが多いだろう。


 スキルを覚えられることは優秀だが、鈴鹿のように使えるレベルまで一気に育てられる者でなければ、死にスキルを量産することにもつながりかねない。


 しかし、それでも宝珠は優秀だ。鈴鹿が狂鬼から多くの強力なスキルを得られたように、最上級のスキルを得られる可能性も、また宝珠には宿っている。豪運が必要ではあるが、誰しもが頂に立てる可能性を秘めている。それが宝珠なのだ。


「あとは、なんてったって種族だよな。気づけば神になりそうだよ俺」


 そう、鈴鹿の存在進化が、気づけば鬼種きしゅから鬼神種きじんしゅに変わっていた。存在進化先のデータベースも見てみたが、ネットに落ちてるレベルでは神が付く存在進化先は見られなかった。これが何を意味しているのかは分からないが、きっと強くなったということなので鈴鹿はあまり気にしていない。考えたってわからないことは深く考えない。それが鈴鹿である。


「やっぱ狂鬼の力取り込んだからかなぁ。スキルが『鬼神纏い』なんて言うくらいだし、鬼神って種族だったのかもな」


 レベルも150を超えているため種としての強化がされ、鈴鹿はより一層強くなっている。もはや他のスキルの強化はここまで来てしまうと高望みは難しく、ここからは手に入れたスキルに見合う実力をつけるべく精進していくのみだ。


「出雲ダンジョンじゃ無理だけど、次は目指せ200だな」


 出雲ダンジョンは低層ダンジョンなので、例え3層5区のエリアボスであってもレベルは196だ。そのため、レベル200へ至るには中層ダンジョンに入る必要がある。


 そういう意味でも、出雲ダンジョンでは自分の実力を鍛え上げる期間に位置付けるのがいいだろう。


「うし。まだかかりそうだし、本の続きでも読むか」


 そう言って、鈴鹿は朝焼けを横目に、のんびりと本の続きを読むのであった。

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― 新着の感想 ―
・封印する系のアイテム コレ、これからなんとなく役に立ちそうw
カスの西はさっさとぐちゃみそに爆散してくれないかなー さっさと人生終了してほしい
ついに西からちょっかいをかけられるか?位置バレしてるし
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