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狂鬼の鈴鹿~タイムリープしたらダンジョンがある世界だった~  作者: とらざぶろー
第七章 天をも狂わす鬼

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10話 相談配信

 巨大な化け猫と化した夢遊猫むゆうびょうが、鈴鹿の一撃を受けて巨大な煙となって鈴鹿へ吸い込まれていった。


「あっ、宝箱だ」


【ほんとだ! 鉄の宝箱!!】


【エリアボスからの宝箱は熱い!!】


 とりあえず宝箱は置いておいて、先ほどの戦いを振り返る。


 夢遊猫むゆうびょうの強さはそこまで強くはなかった。恐らく初見殺しと言われていた技が強いがために、他の能力はそこまで高くは無いのだろう。結局初見殺しの技は一切鈴鹿に影響を与えなかったため、どんなものか分からずじまいで終わってしまった。


 兎鬼鉄皮ときてっぴのような無敵モードではなかったので、狡妖猿猴こうようえんこうの様な毒とかその辺りの技なのだろう。鈴鹿は状態異常のスキルがレベル8のため、レジストされたに違いない。


 そんな中途半端な状態の夢遊猫むゆうびょうを倒した鈴鹿だが、確かな手ごたえを感じていた。初見の敵であり分身したことで手数も増えているにもかかわらず、鈴鹿は攻撃を受けずに全てを受け流すことができた。今までよりも敵の動きを細部まで捉えることができ、終始余裕を持って2層5区のエリアボスである夢遊猫むゆうびょうを圧倒することができたのだ。


 特訓の成果が確実に出ていることを実感でき、夢遊猫むゆうびょうを倒したことでレベルも上がったため体術のスキルレベルが上がっているのではと期待は高まる。


【なんか呆気なかったなエリアボス】


雷鳥らいちょう戦を見た後だとどうしてもね】


【今回はスキルレベル上げたりしなかったの?】


「今日は体術のスキルレベルを上げたくていつも通り戦ったんだよね。雷鳥と比べると正直微妙なエリアボスだったかな。最初に出してた仮面から魔力を感じたから何か攻撃してたみたいなんだけど、なんか俺には効果なかったし」


 初見殺しの技であれば、それを何度も受ければその技に耐性ができ新たなスキルが発現する可能性があった。しかし、ふたを開ければ鈴鹿には一切の影響のない攻撃。ちょっと期待していただけに、そこは残念な結果であった。


「あれが一級ギルドの人が言ってたエリアボス?」


【そうだ。俺が言ってた初見殺しのエリアボスってのが、あの夢遊猫むゆうびょうなんだよ】


「ちなみにどんな攻撃するの?」


【あ~、すまん。そこまではギルドから開示を許されてないから回答できない】


「そっか。それなのに初見殺しのエリアボスがいるって教えてくれてありがと」


 残念。その感じ的に、初見殺しのエリアボスがいると教えてくれたこともグレーなところだったに違いない。わざわざ教えてくれた一級ギルドニキには感謝だな。


【あの仮面とか絶対呪いの仮面だし、呪いの攻撃とかじゃない?】


【モヤモヤとか出てたし、俺は毒だと思った】


【狂鬼さんは効かなかったってことは耐性スキルがあるってこと?】


「うん。状態異常耐性のスキルレベルそこそこあるから、それが原因じゃないかな?」


【状態異常耐性って状態異常にならないとスキルレベル上がらないのに、そこそこスキルレベルある?】


【ソロだと状態異常とか即死コースに思えるんですが……】


【自己再生って状態異常も治すのか? どっちにしたってよく狂鬼さん今まで生きてるよね】


 コメントが好き勝手言っているのを無視して、夢遊猫むゆうびょうの宝珠を取り出す。


「雷鳥戦の時はすぐ使っちゃって後で文句来てたから、今日はちゃんと見せるよ。宝珠はこんな感じ」


 そう言って、スマカメを動かし宝珠を全周囲から撮影する。手のひらサイズの水晶に、中には紫色の煙が渦巻いている。魔力を込めれば水晶が割れて中の煙が吸収される仕組みだ。


【すげぇ、これまじで貴重な映像だよ】


【スキルオーブだろ? 都市伝説のレベルでしょ】


【俺も使ってみたいけど、5区のエリアボス倒さなきゃいけないとか無理ゲーすぎる】


「じゃあ使うねぇ」


 特に待ったの声もなかったので、鈴鹿は宝珠を使用する。早速ステータスを確認してみた。


名前:定禅寺じょうぜんじ鈴鹿

存在進化:鬼種きしゅ(幼)

レベル:116⇒128

体力:843⇒903

魔力:990⇒1079

攻撃:1102⇒1214

防御:944⇒1023

敏捷:1094⇒1208

器用:894⇒965

知力:784⇒832

収納:461⇒509

能力:剣術(5)、体術(9)、身体操作(8)、身体強化(10)、魔力操作(9)、見切り(8)、金剛、怪力、強奪、聖神の信条、雷魔法(8)、毒魔法(8)、見えざる手(8)、雷装、思考加速(7)、魔力感知(9)、気配察知(7)、気配遮断(9)、誘いの甘言(new)、魔法耐性(7)、状態異常耐性(8)、精神耐性(7)、自己再生(8)、痛覚鈍化、暗視、マップ


【どんなスキル発現した!?】


【ユニークスキル??】


【めっちゃスキルの中身気になる!!】


 コメントが溢れる中、鈴鹿は落胆していた。『いざないの甘言かんげん』というスキルが発現しているが、それ以外一切スキルが成長していない。期待していた体術も10には至らず、ただレベルが上がっただけであった。


【あれ、狂鬼さんどうしたの?】


【なんか滅茶苦茶やばいスキルでも発現した??】


 コメントが動かない鈴鹿を心配してくれた。


「いや、体術のスキルレベル上がったかなって思ってたのに、上がってなかったからショック受けてた」


【さっき体術のスキルレベル上げたかったって言ってたもんね】


【普通はそんなポンポンとスキルレベルは上がりません】


【それで、宝珠は何のスキルゲットしたの!?】


「宝珠からは魔力操作(・・・・)のスキルが得られたみたい。新しいスキルは無くて、魔力操作だけスキルレベル上がってたし」


 鈴鹿は『誘いの甘言』を秘匿することにした。先ほどちらっとスキルの詳細を見たら、どうやら精神攻撃や洗脳系に補正がかかるスキルのようであった。鈴鹿はそう言ったスキルを持ち合わせていないが、洗脳を強化するスキルなんて持ってるだけでやくネタになりそうなのであえて配信で告げる必要はない。


 まさかのユニークスキルっぽいのに死にスキルになりそうな厄ネタスキルが出るとは。いっそのこと本当に魔力操作だった方が嬉しかったかもしれない。


 仮面を被っているため、秘匿したことが顔から読み取られないで済むので助かった。


【魔力操作は渋い。コモンスキルか】


【せっかく5区のエリアボス倒してもこれはつらい】


【こりゃあ5区が流行らないわけだ】


「いやいや、みんなわかってないって。5区に挑む奴なんて魔力操作も含めて結構なスキルレベルだと思うんだよね。それが無条件でレベル1上がるんだよ? それだけで滅茶苦茶行く価値あると思うんだけど」


【それはそうかも。私なんてスキルレベル3の壁すら超えるの厳しいもん】


【たしかに。コモンスキルが出るなら、ある意味レベル10に宝珠で届く可能性もないわけじゃないのか】


「そうそう。まぁ、ユニークスキルとかレアスキルの方がインパクトあるけど、案外コモンスキルだって重宝するのよ」


 鈴鹿が今あげたいのは体術のスキルだ。夢遊猫むゆうびょうを倒しても体術のスキルが宝珠から出ることは無かっただろうが、どうせなら体術は自分の力でスキルレベルを上げたいと思ってはいる。


「じゃ、宝箱開けるね」


 放置してた宝箱を開封する。外観は変わっているが、仕様は変わらない。煙が鈴鹿へ吸い込まれると、宝箱は空中に溶けるように消えていった。


【何だった?】


【レアアイテム!?】


「あ~、何か杖出た。変な杖」


 どうやら宝箱の中身は夢遊猫むゆうびょう由来の武器だったようだ。武器が持てない鈴鹿にとってはいらないアイテムである。興味がそそられない杖を収納にさっさとしまうと、やることがなくなった。


「さて、なんか思ったよりもあっさり終わったから時間余っちゃったね。もう今日は帰る予定だから、ここでお昼まで配信して帰ることにするよ」


 体術のスキルレベルを上げたかったため雷鳥戦のようなことにはならないかなぁとは思っていたが、あまりにも呆気なく終わってしまったので最後にお昼ご飯を食べて雑談することにした。その前に夢遊猫がいたこのエリアをしっかりとカメラで撮影し、記録として残しておく。


【なんか神秘的な場所だな】


「そうなんだよね。綺麗な場所。それに直射日光当たらないし崖に囲まれてるからか暑くもなくて快適だよ」


 まるで地下のように空気がひんやりしており、灼熱の日差しが照り付ける2層では珍しく昼間も涼しいエリアだ。お昼を食べるのにも持ってこいのエリアである。


 一通り撮影を終えた鈴鹿は、昼食の準備に取り掛かる。ファイヤーデスクに炭を入れ、着火させる。もう薪は使い切ったので、調理は炭で行う。宝箱からドロップした肉と野菜を串に刺し、炙った物が本日の昼食だ。大体炭で焼けば美味い。それが鈴鹿の考えである。


「なんかさぁ、あのエリアボス弱かったよね」


【初見殺しなんでしょ?】


【特殊系は対策されたら狩られる運命】


【まぁ、普通は初見で殺されるのよ? 最初っから運よく対策スキル所持してる狂鬼さんが異常なのよ?】


 それはわかる。魔法職の人間から魔法を奪ったようなものなのだろう。それは大いなる弱体化であり、あっさり倒せてしまうのも当然と言えば当然だ。だが、やはりスキルが成長しなかったことが鈴鹿の中でもやもやと大きくなっている。


「相談があるんだけどさ。みんな聞いてくれよ」


【珍しい】


【いつも狂鬼さんが答えてるからな。何でも聞いてくれ】


【ニートの俺の力で良いなら喜んで貸そう】


 温かいコメントが流れてくる。雷鳥戦以降アンチが息をしておらず、視聴者の選別が行われた結果優しい人間だけ残ったようだ。


「体術のスキルをどうしてもレベル上げしたいんだよね。そのためにここ数日特訓してたんだけど、とんと上がらない」


【数日でそんな簡単に上がるわけないでしょ】


【おい、相談者の意見を真っ向から否定するなんて悪手中の悪手だろ】


【このお方をどなたと心得る。たった1日で雷魔法をレベル8にされたお方だぞ】


「そうなんだよねぇ。そんなポンポン上がらないのはわかるんだけどさ。上げたいんだよねぇ」


 スキルレベル10に到達するなんて、何年何十年もその道を突き詰めてようやく至れるレベルだ。それはわかっている。だが、鈴鹿にはそれらを一気に短縮する方法があった。


 それが、格上のエリアボスとの戦闘である。レベル差があるエリアボス相手に何度も死にながら挑み続けることで、強制的にスキルレベルを上げる方法だ。このおかげで雷魔法はレベル8まで押し上げられ、体術だってスキルレベル9まで上げることができたのだ。


 しかし、今日夢遊猫(むゆうびょう)と戦って、このままでは体術スキルは上がらないのではとなかば確信めいた実感を受けた。


 夢遊猫と戦った時は確かな手ごたえがあったが、それでもスキルが成長しなかった。それなのに、レベルは上がってしまった。次に戦うエリアボスもレベルは変わらず156。だと言うのに、鈴鹿のレベルは128まで成長してしまった。雷鳥と戦った時よりも半分くらいしかレベル差が存在していない。


 スキルレベルが低いものを上げるのは今の格上対決が有効なことは確認できている。しかし、レベル8や9のスキルを成長させるには、それだけでは足りないように感じた。


「もうレベルが上がって今は128。けど、これじゃ残りの3体のエリアボスを倒してもスキルレベルが上がらないんじゃないかって思うんだよね」


【もうレベル128とか成長しすぎだろ】


【ちょっと前までレベル103とか言ってたよね? 1ヶ月足らずで25もレベル上がったの?】


【そりゃレベル156のエリアボスと戦えば上がるだろうけど、無茶苦茶だよ】


「そうなのよ。結局格上に挑むと、倒せばがっつりレベルが上がっちゃう。そうなると、4番目5番目くらいに戦うエリアボスはもう同格クラスだから、絶対体術のスキル上がんないんじゃないかって思っちゃうんだよね」


 格上エリアボス戦は、戦う順番が重要だ。そういう意味では雷鳥が一発目だったのは当たりと言える。逆に夢遊猫のような耐性があれば強くないエリアボスは最後に戦いたい。でなければ、どんどんレベルが上がって格上でなくなってしまうからだ。


「で、相談なんだけど、このまま2層5区の残り3体のエリアボスと戦うか、いっそ3層5区まですすんじゃうか。悩んでおります」


【ちなみに3層5区のエリアボスはレベル192です】


【レベル差64www】


 そこまでいけば体術のスキルが上がるんじゃないかと思う一方で、今行っている全力の練習の状態でも勝てないようなエリアボスが出てきて、ようやく成長できるかどうかじゃないかとも思えていた。


【さすがにまだ3層は早い気がする】


【宝珠から体術のスキルが得られる可能性もあるし、宝珠は全部回収した方がいいんじゃない?】


【一回くらいなら3層5区のエリアボス倒しても、2層5区のエリアボスの適正外までレベル上がらないんじゃない? だから、一回だけ3層5区行って、そのあと残りの3体と戦えば?】


【適正外にならない保証もないし、その辺は取り返し付かないからなぁ】


【そもそも3層5区のエリアボスに勝てるかどうかよ。レベル差60以上あって、5区のエリアボスに勝てるていで話すのも違うと思う】


 まぁ、死なないからなぁ。そう思う鈴鹿だが、死なないというのは絶対ではないということもいましめなければならない。例えば、1層5区に生息する奇猿きざるの攻撃を一度喰らったことがあるが、溢れ出る多幸感が凄まじくて何もする気が起きなかった。あの時は別のモンスターに攻撃されたから復帰できたが、あの毒を延々と喰らっていたらあの場に今も取り残されていたかもしれない。


 それに、今日戦った夢遊猫むゆうびょうだってそうだ。どんな攻撃かはわからなかったが、『誘いの甘言』というスキル的にも、洗脳系の攻撃だったかもしれない。洗脳されて動けないうちに殺されるとかなら復帰できるが、洗脳されたまま次に夢遊猫に挑戦する探索者の相手をさせるためにずっと放置とかされていたかもしれない。


 最近死なないことをいいことに不用意になりすぎている。死なないからどんな攻撃を受けてもいいではなく、死ぬと思って戦い続けて致命傷を喰らった時、不死だったラッキーくらいに思えるようにしなければならない。行動が大胆なのはいいが、雑になってはいけないのだ。


 もしかしたら、体術が進化しないのはこういうところかもしれない。死んだら終わりという緊張感の欠如が、スキルの成長を阻害しているのだろうか。


 わからない。それによってスキルが成長してきた実績があり、ここにきてそれが枷となっている可能性も出てきた。何が正解なのか。それを手探りで探し見つけ出すからこそ、確固たる己の力になるのだろう。


 今も鈴鹿にどうすべきかコメントが色々アドバイスをくれている。一部コメント同士で揉めてたりもするが、真剣に考えてくれていい視聴者を持ったなとしみじみ思う。


「ありがと。一度だけ3層5区のエリアボスと戦う案が滅茶苦茶魅力的だけど、当初の予定通り2層5区の残りの3体を倒すことにするわ」


【それがいい】


【宝珠で馬鹿強いスキルゲットできるかもしれないしな!】


【普通に2層5区のエリアボスをレベル差ある中でソロで戦ってる時点でやばいことは自覚した方がいいぞ】


「うん。コメントのとおり、一度落ち着いて地に足付けて頑張るわ」


【多分何もわかってないだろ】


 強くなりたいのはそうだが、エリアボスからドロップする宝珠で確実にスキルを得られるのだからそれで強くはなれる。体術のスキルレベルは上げたいが、もう少し体術と向き合って特訓してからでも遅くは無いかもしれない。


 鈴鹿の中で意見が二転三転しつつも、強くなりたいという芯は変わらない。次のエリアボス相手には、いっそ毒手止めて倒せないかとかしてみようかな。そんなことを思いながら、いい感じに焼けた野菜と肉を喰らうのであった。

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― 新着の感想 ―
倒しちゃいそうになったら撤退したらいいじゃない
二層五区で体術のスキルオーブ出るかもしれんしな
一昨日から読み始めて追いついてしまった… 早く続きが読みたい! ても溜めて一気に読みたい! 葛藤するこの気持ち作者さんわかります? こんな面白い話をありがとうございますm(_ _)m
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