5話 絶品から揚げ
鈴鹿の特訓は魔力切れを起こした後も続いた。小休止を挟んだ後は青天雷鳥と戦ったのだ。
雷鳥は本当に素晴らしいエリアボスである。雷鳥の攻撃は基本的に雷撃による遠距離攻撃が主体だ。手数も多く360度全方位から降り注ぐ雷撃は、躱すだけでかなりの集中力がいる。一撃一撃の重さも速さも、さすがエリアボスと思える技のオンパレードだ。
鈴鹿は毒手を発動し、身体強化は抑えながら雷鳥の猛攻を受け続けた。先ほどまで全力で動いていた鈴鹿にとって、強化を打ち切った後は酷く身体が重くなんともじれったい動きであった。
そのせいで何度も何度も雷撃が鈴鹿を貫き痛みを与えてくるが、これを捌ききれる頃にはもっと強くなれるんだと思えば何も苦ではなかった。むしろ自然と笑みがひろがり、抑えきれない笑い声が響き渡る恐怖映像を周囲に垂れ流していたほどだ。
雷鳥を相手にひたすら自分をイジメ抜いた後、気配遮断を使用して雷鳥から離脱する。2層5区のエリアボスでは鈴鹿の気配遮断を突破できないようで、見失った雷鳥は辺り一帯を雷撃で吹き飛ばした後、定位置であるオアシスの中心から生える枯れ木の枝に止まった。
その様子を近くで見ながら、鈴鹿はオアシスのほとりで野営の準備を進める。これから配信するのだが、どうせならお面を付けている鈴鹿ばかりを映すよりも、綺麗なエリアボスである雷鳥も映した方が動画映えすると思ったのだ。
「カメラ良し、お面良し、エリアボス良し、野営セット良し」
配信前に指さし確認して問題ないことを確認する。ここでやらかして仮面着け忘れていたら、とんでもないことになる。以前永田に各ギルドが声をかけようと動いているとも聞いていたし、当たり前のように猛虎伏草の西成は鈴鹿にコンタクトを取ってきた。
兎の鬼面という仮面を被っているというのに、中身が鈴鹿だとすぐに紐づけられたのだ。永田はその前から接触があったためまだわかるが、西成は鈴鹿の配信を見てから接触してきたはずだ。それはつまり、大手ギルドにかかれば匿名配信のダンチューバーなど簡単に素性が明らかになるということ。
だからこそ、鈴鹿は仮面を徹底して着ける。そんな例外ばかりではないはずなので、有象無象のギルドが湧いてこないようにするために。
「はい。こんばんわ~。今日も狂鬼チャンネルを始めたいと思います!」
【お久しぶりです狂鬼さん!】
【わこつです~!】
【狂鬼さんお加減いかがですか!?】
予約配信にしていたため、配信を始めてすぐでもコメントが流れ出す。今日は『雑談配信!唐揚げ食べます』というタイトルであり、配信も夜なので戦うことは無いというのに、それでも見に来てくれるのは嬉しい。西成に言わせればそれは探索者が一般人に媚びていると捉えられるのだろうが、よく考えれば探索者も別に一般人だろと思い至った。ただ強いだけで偉くはないだろ、と。
警察や消防士、医者や自衛隊。そこにこの世界では探索者が入るのだろうが、緊急時や国のために命を張って頑張ってくれる人たちに感謝をすることは当然だと思う。しかし、だからといって敬うことを強制するのは違うと思うし、彼らが何をしてもいいという訳ではない。
大阪も面白そうだと思ったが過激なグループは一度入ると抜け出すのに苦労しそうなので、当初の予定通り希凛たちがギルドを立ち上げるまでフラフラすることにした。
「なんかコメント丁寧になったね。どうしたの?」
【いやいや、初めからこうでしたよ自分ら】
【前回の配信を見ても狂鬼さんに舐めた口きける奴はいないってことで】
【アンチ共は狂鬼さんにビビッてブヒブヒ逃げましたわ。腰抜けどもです】
なんか視聴者が若干教育されている感があるのだが、気にしたら負けだと思いスルーすることにする。
前回の配信では、たしか雷鳥を倒した後に時間も時間だったためすぐ配信を止めてしまった。なんだかんだ1日以上戦い続けていたし、終わったのも深夜だったためあれで2層の探索を終了したのだ。4区に泊まることもせず、深夜であったが早くお風呂に入りたかったため探索者協会内のお風呂に直行したのだ。
視聴者置き去りで1日以上戦っていたにもかかわらず、配信を止めるタイミングでお疲れさまのコメントが溢れていたのには驚いたものだ。あんなダラダラとエリアボスと延々と戦っている動画を見る物好きが割といるんだなと自信につながった。
「そう言えば、前回はみんなごめんね。なんかテンション上がっちゃって配信そっちのけで戦ってたよ」
【いえ、大丈夫です】
【おかげで視聴者の選別が出来ました】
【素晴らしい戦いでした】
なんかイエスマンしか残ってない気もするが、まぁ別にいいか。コメント内でアンチとレスバ始めることもなくなるだろうし、平和でいいだろ。囲われた配信者感があってちょっと嫌だが、あんな1日以上の配信に付き合ってくれる視聴者は稀な存在だろうし。
「あ、あとそうだ忘れないうちに。最近ギルドから勧誘受けたりするんだけど、前も話した通り友達がギルド作ったらそこに所属するつもりだから、勧誘してこないでください。お願いします」
【勧誘したらギルド潰されるぞ】
【気を付けろ】
【最近各ギルドきな臭い動きしてるから、狂鬼さんも気を付けてください】
永田からは動画で言えば大丈夫と言われたので、とりあえず釘をさしておく。ギルドがきな臭い動きをしたところで、ギルドに所属していない鈴鹿にとっては関係ない話だ。
「さて、今日は雑談なんで質問とかも受けるつもりだけど、まずはご飯にしちゃうね。あとでのんびり話しましょう」
【ってことは唐揚げか!?】
【唐揚げって前回の雷鳥の肉ですか???】
「そうそう。あれから肉ドロップしたから、今日は雷鳥のから揚げにします」
そう言って鈴鹿は枯れ木に止まる雷鳥にカメラを向ける。宵闇にうっすらと光る雷鳥は神々しい鳥だった。あれを動物園で展示できれば、さぞ来場者が増えることだろう。
【ひえっ】
【雷鳥の目の前で雷鳥の肉を食す狂鬼先輩】
【いつもどおりエンジン全開で安心します】
【2層5区のエリアボスも狂鬼の気配遮断突破できないのやばすぎだろ】
鈴鹿の気配遮断はスキルレベル9だ。それに今は『闇夜の雫』も装備している。これにより、『隠匿の心得』が発動しているのでより見つかることは無いだろう。
どこまでエリアボス相手に気配遮断が通じるかはわからない。次の3層5区のエリアボスでは通じないかもしれないし、4層5層でも通じるかもしれない。
どちらにしろ、これくらい離れていたら平気かもしれないが、魔力を練ったり攻撃範囲に踏み込めばある程度は感知されてしまうだろう。だが、感知されるというだけで完全に看破される訳ではないだろうから、戦闘するには十分使えるはずだ。こうやってのんびりエリアボスの近くで野営することが難しいかどうか程度の違いでしかない。
その辺に転がっている大きな石を手刃で平らにカットし、その面にシングルバーナーを設置する。クッカーに数センチ分油を入れ、火にかけてゆく。いつもはファイヤーデスクで一緒に調理しちゃうのだが、唐揚げは火の管理が大変そうだったのでシングルバーナーを使うことにした。
源〇レに漬けた雷鳥の肉に片栗粉と小麦粉をまぶし、揚げてゆく。
【美味そう】
【漬けダレ何にしてる?】
「源タ〇。楽で美味いよ」
【めっちゃ美味そう】
【エリアボスの肉だろ? 一度でいいから食ってみてぇよ……】
確かにエリアボスの肉は大変貴重だ。鈴鹿もレベルさえ上がらなければ1層5区の鹿肉や猪肉、それに目の前の鶏肉を乱獲したいところだが、断腸の思いで我慢する。
「うし、出来た。かんぱ~い」
お酒は飲めないので缶コーラで我慢する。出来立ての唐揚げとコーラは抜群に美味かった。
【飯テロすぎる。俺も唐揚げ買ってこよ】
【私はすでに狂鬼様と一緒に唐揚げを揚げ食している】
【俺も配信で唐揚げって書いてあったからから〇げ君買ってきた】
準備のいいことに、唐揚げを用意して配信に臨んでいる者もいたようだ。こういうのって見てると滅茶苦茶食いたくなるんだよな。
「さて、料理も落ち着いたし、今から質問コーナーでもするか。何か聞きたい事とかある?」
一度に大量に唐揚げができないため、のんびり唐揚げを作りながら視聴者の質問に答えることにした。さっきからちょいちょい質問が飛んできていたが、料理に集中してたためあまり答えられていなかった。
【明日もエリアボス配信?】
「いや、今日もそうなんだけど、ちょっと特訓中。明後日までは日中特訓して、三日後にエリアボスと戦う予定かな」
結局今日は雷鳥にいいようにやられてしまった。3日で攻略できるかはわからないが、あと二日は全力で動く練習と、魔力がほとんどない状態で雷鳥と戦って攻撃をさばく練習をする予定だ。
今日は午後だけだったので1セットしかできなかったが、明日は3セットくらいしたい。早く体術のスキルレベルを10まで上げたいのだ。レベル9でも十分強いが、鈴鹿はその先を見てみたい。
【あの狂鬼さんが……特訓?】
【想像するだけで怖いんですが】
【5区のモンスターと戦ってるんですか?】
「いや、全然。モンスターと戦ってないよ。ほら、この前雷魔法のスキルレベル上げたじゃん? それで覚えた雷魔法のバフの動きに身体を慣らしてるって感じ」
パチパチと指先から白雷を出現させる。
【狂鬼さんでも訓練する必要があるのか……】
【スキルレベルの上げ方が常軌を逸していた件については触れた方がいい?】
【あれでスキルレベルどれだけ上がったんですか?】
「レベル1から8まで上がったよ。こっからはまじでスキル上がんないけど」
配信でかなりの部分を見せているので、雷魔法のスキルレベルについては今更秘匿することもない。どうせ脅威となる大手ギルドにかかれば動画を見ればスキルレベルのあたりもつくだろうし、それならみんなに開示しても同じだろう。
雷魔法のスキルレベルが上昇したことで、鈴鹿は遠距離攻撃を手に入れた。毒魔法でもやれないことはないが、毒魔法は搦め手が多く単独の攻撃魔法という使い方は適さない。遠くまで速く展開するのは難しいのだ。それに毒魔法は秘匿する魔法でもあるため、おいそれと使うこともできない。
その点、雷魔法は配信でガンガン使ったし、遠距離も範囲攻撃もできるザ・魔法だ。近距離は殴ればいいし、遠距離は雷魔法を使えばよい。これでどんなエリアボスが現れても配信できるというものだ。
【レベル8……】
【たった1.5日で?】
【狂鬼さん15歳だぞ? 15歳でスキルレベル8の雷魔法所持???】
【スキルレベル8って一生かけてもたどり着けるの上澄みだけだろ?】
【そんなちょっとレベル上げました見たいな感じで……】
【あのとち狂った戦い方だからこそそこまでレベルが上げられるのであって、逆にあそこまでイカれた方法をしなければそこまでスキルレベルが上がらないのであって……】
コメントが引いている。鈴鹿もそれは理解できる。今でこそポンポンスキルレベルが上がっているが、本来であれば1つでもレベルを上げるのに滅茶苦茶苦労するのがスキルレベルだ。
鈴鹿も1層4区を探索していた時は、ソロであれだけ頑張っていても剣術のスキルレベルが5しか上がっていなかった。例えレベル6まで成長できても、次は6の壁を超える必要がある。レベル7になるころにはどれだけの月日が必要だったことか。
それが今ではレベル7、8程度なら割と簡単に辿り着く。客観的に見れば狂気の沙汰であるレベル上げだが、効果は劇的だ。聖神の信条様様である。
【この前最後に話してた宝珠について教えて!!】
【そうだ! あれって本物だよな!? あんなサラッと使わないでもっとよく見せてほしい!!】
「ああ、宝珠ね。俺も最初びっくりしたんだけどさ、5区のエリアボスを倒すと宝珠っていうスキルを覚えられるアイテムをドロップするんだよね」
そう言って、宝珠について説明する。1層でしかまだ確認してないが、全てのエリアボスからドロップしたこと、使えばエリアボスに由来する能力が手に入ること、すでに覚えているスキルだったらスキルレベルが1つ上がることなどだ。
「まぁ、雷鳥からもドロップしたし、多分どの層も5区のエリアボスからはドロップするんじゃないかな?」
【すげぇ】
【超有力情報じゃん】
【スキル覚えるの滅茶苦茶大変だから、ランダムとはいえ確定でスキル発現するのでかすぎる】
【絶対5区探索した方がいいじゃん。トップギルドなら宝珠の存在も知ってそうなのに、なんで5区行かないんだ?】
「それね。5区の方がモンスターも強くて鍛えられるし、エリアボスからは宝珠ゲットできるし絶対いいよね。それにアイテムもバカ高く売れる。おかげでウハウハだけど」
4区5区はトップギルドの探索者も避けるため、素材系のアイテムであろうとも高額で買い取ってくれる。一応企業がトップギルドに依頼して4区5区のアイテムを回収してもらうこともあるそうだが、依頼金もべらぼうに高く滅多に行われない。需要と供給のバランスが偏っているため、売却金が依然として高いのだ。
4区5区のアイテムが高いのは希少性もさることながら、1~3区のアイテムとは成分が異なるためだ。例えば1~3区で得られる骨などの素材は、企業が粉末などに加工して使われている。ダンジョン産の素材アイテムは魔力と相性が良く、魔力を動力にした製品にはこの加工品が欠かせないのだ。電気で例えれば、電気のエネルギーを伝えるためには電線が必要だ。同じように、魔力のエネルギーを伝えるためにはダンジョン産の素材を加工した物が必要になるのだ。
このように、魔石で走る車や家電などが溢れるこの世界では、ダンジョン産の素材が様々なものに加工されて使われている。そこで重要になってくるのが、素材の特性だ。スマホ一つとっても、電気エネルギーを伝達するために銅が使われることもあれば、金を使っている部分もある。それぞれ必要に応じた素材を使い分け、価格と性能を両立させた製品が出来上がるのだ。
1~3区で得られるアイテムが銅の特性を持っており、4区5区の素材は金の特性を持っているようなものだ。同じレベル帯のモンスターを倒したとしても、1~3区と4区5区では落とす素材の特性が異なる。そのため、4区5区のアイテムはモンスターの素材であっても常に需要があり、その探索難易度から市場は枯渇し続けているのだ。
【一級探索者ギルドに所属してるけど、狂鬼さんみたいに4区5区は簡単じゃないんだよ】
「そうなの? なんでなんで?」
なんと視聴者にトップギルドに所属している者がいた。これ幸いと、なんで4区5区を探索しないのか理由を聞いてみる。
【まずモンスターが強い。4区5区でレベル上げするよりも、1~3区のエリアボスを何体も倒した方がレベル上げが早い。それにエリアボスなら強いから倒せばステータスもきちんと盛れる】
「まぁ、そうだよね。俺も1層3区の時はエリアボス何周もしたけど、ちゃんとステータス盛れてたしレベルもすぐ上がった」
鈴鹿は1層3区を探索時、最初の10日間は通常モンスターを倒して回ってレベル上げを行った。それで上がったレベルは6。大体二日に1レベル上がった程度だ。一方、後半の10日間はエリアボスを周回したのだが、その10日間でレベルは15も上がった。高レベルかつ強力なエリアボスを倒すことで、ぐんぐんとレベルが上がっていった。
4区探索ではどうだったかというと、通常モンスターと10日間戦って上昇したレベルはたったの3だ。通常モンスターが普通に強いので一日に何体も倒すことができないし、モンスターの構成や数によっては避ける必要があったからだ。
4区5区ではエリアボスも強いため3区のように周回することも難しかっただろうし、そうなればレベル上げは遅々としたものだっただろう。
「レベルはそうだけど、お金はどうよ? 4区5区の方が稼げない?」
【お金だけど、1~3区でもエリアボスのアイテムは高額だからわざわざ4区5区で稼ぎに行く必要は無い。エリアボスならアイテムのドロップ率もいいし、一体倒してドカンと稼げる】
トップ探索者たちはエリアボスを周回するが、一日に何度も戦うことは無いし、そもそもそのレベルの探索者は稀だ。故に、4区5区の素材同様エリアボスの素材も需要に対して供給が追いついておらず、高額な取引額となる。
「でも5区はなんてったって宝珠があるだろ? この一点だけでも探索する価値があると思うんだけど」
【有益なスキルが得られればって但し書きが付くな。宝珠で得られるスキルの基本はコモンスキルなんだって。例えば魔力操作とか身体強化とかなら汎用的だしレベルが上がれば嬉しいけど、下手したら剣士なのに槍術とか発現することもあるみたい。そんなコモンスキルのレベル1個上げるために、効率激悪で危険な4区5区に行くかって考えたら、ギルドとしては1~3区を周回するべきってなるのよ】
鈴鹿は宝珠で得られるスキルはどれも優良なものであった。雷装や見えざる手なんてユニークスキルだろうし、雷魔法や金剛もレアスキルだ。運がいいのか、はたまたステータスみたいに得られるスキルもリスクを負う分良いものに変わるのかは定かではないが、どれも素晴らしいスキルだ。
それにコモンスキルだって宝珠のおかげで身体強化はスキルレベルが10になっている。正直どんなスキルでも鈴鹿にとってはありがたいと思うのだが、それは鈴鹿だけのようだ。まぁ確かに、武器を持てない鈴鹿にとって今更剣術スキルや槍術スキルが発現するみたいなもんか。……うん、割に合わないな。
さらに、5区のエリアボスと戦えるレベルの探索者ならば、スキルもそこそこ発現しているはずだ。博打要素のある5区を探索するよりも、1~3区のエリアボスを周回した方がスキルの成長にも繋がるかもしれない。
【それに装備の問題もある。普通はエリアボスと戦う時は対策装備を一式揃えるし、どんなエリアボスなのか入念に調査する。1~3区であればギルドにもエリアボスについては映像含めて資料が蓄積されているだろうし、対策装備やアイテムも揃ってる。それに1~3区は多くの探索者が活動してるから、欠けてる装備やアイテムは簡単に手に入ることも魅力だな】
「ん? エリアボスに合わせて装備変えるってこと?」
【当然。例えばこの前の雷鳥と戦うなら、雷耐性の防具や装飾品は必須だよ。誰も狂鬼さんみたいに対策も何もせずに突っ込めるわけじゃない】
それでは成長の余地が狭まるのでは、そう言葉が出かけて引っ込める。鈴鹿はあくまで聖神の信条があるから無茶ができるのだ。1層3区ではきちんと双毒大蛇の対策として擬態の血清を持っていたし、普通はそうするだろう。皆リスクはとっても死にたくはないのだ。最近死なないからといってその辺りの認識が歪んでいたと反省する鈴鹿。
【この流れで質問させてほしいんだけど、いつもあんな感じでエリアボスと戦ってるんですか?】
「ん? そうだね。自己再生のスキルが発現してからは無茶できるようになったから、あんな感じかな。1層5区のエリアボスからだけど」
【雷鳥も初見?】
「うん。たまたま出てきたのが雷鳥だった。運命的だよね。ちょうど雷魔法のスキルレベル上げようと思ってたら、雷鳥が出たんだもん」
あれには感動したと伝えたら、雷属性のエリアボスに雷で挑むなんておかしいよ、間違ってるよと諭すコメントで溢れる。雷耐性持ちを雷魔法で倒すからこそスキルが成長するというのに、まだこいつらは何もわかってないなと聞く耳を持たない鈴鹿。
【あのあの! 私たちとコラボしませんか!!??】
「ん? コラボ? 誰?」
流れてくるコメントにそんな提案があった。唐揚げを食べ終えた鈴鹿は後片付けをしながら食後のコーヒーの準備をしつつ、反応する。
【私たちもダンチューバーで、茶々子っていうパーティ名で活動してます!!】
【茶々子降臨キターーーー!!!!】
【あまっちゃじゃん!!!】
【え、あまっちゃ本物??】
何やらコメントがお祭り騒ぎだ。有名人なのかもしれない。ダンチューバーに詳しくない鈴鹿は、お湯を沸かしつつ質問する。
「コラボって何やるの?」
【それは、えっと、これから考えます!!】
どうやら無計画らしい。
「ダンチューバーのコラボって何やるの普通? 詳しい人いる?」
【大体一緒に戦ったり、戦い方をレクチャーしたりする】
【コラボ配信は合同パーティで戦うのが多いね】
【あとはダンジョン外でゲームしたりお買い物したり】
何も魅力に感じない。戦い方のレクチャーならヤスたちとコラボすればいいのでは? どうせレクチャーするならヤスたちにしたい。ダンジョン飯対決とかなら興味はあるけど。
コラボとはお互いの視聴者を楽しませたり、マンネリ化する配信を打開する目的があるのだろう。だが、鈴鹿はまだ配信を始めたばかりだし、あくまで配信は自身の探索の記録とせっかくだから4区5区をみんなに見せてあげようという気持ちで成り立っている。みんなが楽しむならやるのもやぶさかではないが、身バレのリスクや諸々の調整など手間そうなので今すぐじゃないな。
「ありがたいけど、今は遠慮しとくよ。探索忙しいし」
【わかりました! 気が向いたらぜひ声をかけてください!!!】
【断るの!?】
【もったいない!!】
【リアルで茶々子と会える機会だぞ狂鬼さん!!】
コメントからは嘆きの声と、茶々子に続こうと他のダンチューバーがコラボの申し立てを行いカオスになったため、今日の配信は終えることにした。




