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狂鬼の鈴鹿~タイムリープしたらダンジョンがある世界だった~  作者: とらざぶろー
第六章 映し出される狂人

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17話 エリアボス紹介

「うん、飯でも行こ。じゃ、切るぞ」


『あいよー』


 ヤスとの通話が切れる。カメラからは絶え間なくコメントが読み上げられていた。


 さっきまでは配信してても誰も見てないと思って気楽にやっていたが、いざ視聴者がいるとなると緊張する。


「あ、ど、どうも~。狂鬼きょうきって言いま~す。スマカメが消音になってたみたいでコメント何も聞こえてませんでした。すみません」


 とりあえず、コメントしてくれた人たちに対して頭を下げる。『見てる人いたらコメントしてね~』なんて言っておいてコメントしても無視するという、クソムーブをかましていたみたいだ。


「え~と、今日の予定はこれから1層5区のエリアボスを周っていくんだけど、その合間合間に質問とかあれば答えるので、コメントよろしくです。今度はちゃんと答えます」


 そうすると、スマカメから質問が流れてくる。ヤスの言う通り視聴者はそこそこいるのかコメントがとどまることなく読み上げられている。その中から鈴鹿は適当にピックアップして回答してゆく。


【どこのギルド所属してるんですか?】


「どこにも所属してないよ。友人がそのうちギルド新設するみたいで、そこに入る予定。だから今は束の間のフリーを楽しんでるよ」


【なんで一人で探索してるの?】


「一緒に探索する友達がいなかったからだよ。言わせんな馬鹿」


【どうしてモンスターに近づいても気づかれないんだ?】


「気配遮断のスキルだよ。これ便利だから覚えた方がいいよみんな。スキルレベル上がるとこれだけ近づいても大丈夫」


 鈴鹿は近くにいた鉄面猪てつめんじしにカメラを向ける。巨大な猪は鼻をフゴフゴ引くつかせているが、鈴鹿を見つけることは出来ていない。


【ユニークスキルじゃなくて? 気配遮断のスキルレベル教えて】


「ユニークスキルじゃないよ。あ、この装飾品の効果で、『隠匿の心得』っていう気配遮断の効果上げるスキル発現するからそれもあるかも。スキルレベルは秘密」


 鈴鹿は耳に着けているカフスを揺らし、視聴者に見せてあげる。


【友達がいなくてソロなのに、友達のギルドに誘われている? 妙だな】


「ほぅ、勘のいいガキは嫌いだよ。まぁ、答えると単純に順番の問題かな。ソロ活動してた時に知り合ったパーティが仲良くしてくれて、ギルドに誘ってくれた感じ。感謝感謝」


【5区のモンスターって強い?】


「強い強い。3区と比べると4区5区は全然違う。その代わり自分も強くなれるから、強くなりたかったら4区探索してみてもいいと思うよ」


 探索者高校やギルドでは非推奨とされている4区だが、強くなるなら絶対に4区の方がいいと鈴鹿は考えている。1~3区のエリアボスラッシュも楽しそうだけど、効率厨という言葉がどうしても出てきてしまう。鈴鹿は効率重視は本物の極めた変態には絶対に勝てないと信じているため、上を目指すなら4区5区探索をお勧めしている。


【なんで狂鬼きょうきは上の階層行かないで4区探索したの?】


「逆になんでみんな4区探索しないで2層行くかわからん。1層には4区5区がまだあるんだよ? それスルーして先進むのむず痒くない?」


【狂鬼って強いの? 5区のモンスターも簡単に倒してない?】


「そりゃあそうだよ。俺存在進化してるからね。レベル100越えて存在進化してれば、さすがに5区のモンスターでもレベル90とかなら簡単に倒せるよ」


【無理です】


【騙されないでください】


【言ってることやばい】


 なんかかなり否定されているが、コメントしてるのは探索者じゃないんだろう。


 存在進化すると基礎能力が凄まじく向上する。それこそ、存在進化の状態にならない素の状態でもだ。その状態であれば、レベル100以下の存在進化前のモンスターたちなど取るに足らなくなる。それでもまだ適正レベルとして扱ってくれるのか、アイテムをドロップしてくれるので大変助かっているが。


狂鬼きょうきの存在進化先って何だったんですか? 教えてください】


「俺は鬼だったよ。鬼種きしゅだって」


【だから狂鬼なのか】


【厨二拗らせすぎでは】


「あ~、存在進化が鬼だったからってのもあるけど、狂鬼ってやつがいて~、う~ん。説明難しいな。ま、いっか。存在進化先が鬼だからってことで頼む」


 狂鬼の存在をどういう風に伝えていいかわからないので、適当に濁す。


【教えてくれ。狂鬼は4区5区の探索も一人でしたのか? まさかとは思うが、エリアボスとも一人で戦ったのか?】


「うん、そうだよ。5区のエリアボスとか強いから、何度も死にかけたので挑むならみんな気合入れた方がいいよ」


【狂ってる】


【さすがに嘘。調子乗りすぎ】


【化け物かよ】


 みなさん好き勝手言っているが、本当のことである。まぁ、どう思われていようとどうでもいい。視聴者全員同じ気持ちになってほしいなんて微塵も思ってないし。


 それに今からエリアボス紹介していくから、それを見て判断してもらえればよい。


「あ、ちょっと待ってね。そろそろエリアボスだ。自分で探索してエリアボスを見てみたいって人は今のうちに動画閉じてね。ネタバレになっちゃう」


 一応ネタバレの注意喚起をしながら、エリアボスがいる空間へと侵入する。


「まず最初に紹介するのは、迅夜虎豹じんやこひょうだね」


 戦った時はエリアのどこにも見当たらず不意打ちを受けたが、気配遮断が上昇している今、逆に迅夜虎豹じんやこひょうに気づかれないため無防備な姿を見つけることができた。


 木陰で横になっている迅夜虎豹じんやこひょうは気品があった。視聴者も見とれているのか、コメントが途切れる。


「1層5区のエリアボスのレベルは120で、迅夜虎豹じんやこひょうは黒い毛並みの猫科っぽいエリアボスだね。尻尾とかたてがみがもっふもふなので触りたいけど、さすがに触ると気づかれそうなので撮影だけで止めときましょう」


 カメラで迅夜虎豹じんやこひょうの全身を撮影してゆく。黒く濡れたような毛並みは美しく、気配察知のスキルレベルが低ければ見つけることすらできないようなエリアボスだ。


迅夜虎豹じんやこひょうは気配遮断に特化したエリアボスで、隠れては死角から現れて強力な爪攻撃をしてくる。この爪がかなり鋭利で、生半可な防具だと輪切りにされるから注意してね」


 すやすやと眠る迅夜虎豹じんやこひょうは、なんとも微笑ましい。それを見ながら、みんなに解説してゆく。


迅夜虎豹じんやこひょうはもう一つ、魔法も良く使ってくる。影を利用した魔法で、俺の影とか樹の幹の影とか、濃い影から刃とか迅夜虎豹じんやこひょうの分身とかが飛び出してくるよ。周りが樹海だから影はいっぱいあるし、影攻撃に集中すると死角から本体が襲ってくるから厄介だね」


 木陰の様な揺らめく影は大丈夫だよと補足する。


「で、こいつは夜になるとめっちゃ強くなる。夜だから全ての地面から魔法が出現するし、気配遮断のレベルも格段に上がる。昼間の状態が可愛く見えるくらい、夜は超強い」


【え、君夜の状態の迅夜虎豹じんやこひょうと戦ったの?】


 コメントからそんな質問が飛んできた。口ぶり的に迅夜虎豹じんやこひょうを知っている人だろうか。


「もちろん。ただめっちゃ苦労した。初日は迅夜虎豹じんやこひょうの気配遮断見破れなくて夜通し戦っても倒せなくて、次の日の夜にようやく倒せたよ」


【どういうこと? 一日中戦ったってこと?】


【いったん引いて再戦したってことだろ】


 コメントが流れるが、それをスルーして先に進める。


「さて、少し戦ってみるね。あと4体も残ってるから、サクサク行くよ」


 そう言うと、鈴鹿は迅夜虎豹じんやこひょうの目の前に立って気配遮断を解いた。


 突如現れた鈴鹿に迅夜虎豹じんやこひょうは跳びあがると、即座に気配遮断を使って姿を消した。鈴鹿は気配察知と体術のスキルを使って位置が補足できているため、問題ない。


「アッハッハッハ!! 見た!? めっちゃ跳んだ! 可愛い!! あ! せっかくならモフモフして起こせばよかった!」


【おい! さすがに一人は無理だろ!!】


【早く逃げろ馬鹿!!】


 迅夜虎豹じんやこひょうの猫っぽい動きに興奮する鈴鹿だが、コメントは鈴鹿が気配遮断を解いたことに衝撃を受け、逃げろとコメントが荒れている。


 迅夜虎豹じんやこひょうは即座に鈴鹿の背後に回ると攻撃を仕掛けてきた。すでに両手に毒手をまとった鈴鹿は、なんてことないように迅夜虎豹じんやこひょうの攻撃を受け止める。


 むしろ、カメラの画角を意識して配信する方が気を使う。


「これ。こうやって消えたら爪で攻撃したり噛みついたりが基本攻撃ね」


 迅夜虎豹じんやこひょうは攻撃を受け止められるとすぐに溶けて消えるように姿を消す。


 何度か攻撃を受け止めると、鈴鹿の影から影の刃が飛び出してくる。それを拳で粉砕し、視聴者に説明する。


「こやって影から刃とか、おらっ、こんな感じで分身が出てきて、こっちに集中すると……こんな感じで本体が襲ってきます」


 噛み付こうと大口を開けて迫る迅夜虎豹じんやこひょうの鼻っ柱を横殴りし、鈴鹿は気配遮断を再び使用する。


 迅夜虎豹じんやこひょうは鈴鹿を見つけられずに荒れながら影の刃を四方八方に飛ばすが、鈴鹿は離れた位置からその様子をカメラに映していた。


迅夜虎豹じんやこひょうはこんな感じかな。5区のエリア広いから、お昼食べるときにでも質問答えるね」


 そう言うと、鈴鹿はダッシュして次なるエリアボスの地まで駆け抜ける。小一時間も走れば、大岩がゴロゴロ転がるエリアに辿り着いた。


 岩に絡みつくように根が覆い樹々に組み込まれている様は、神秘的でありどこか恐ろしくもあった。


「走ってるとコメント聞き取れなくてごめんね。次のエリアボスはあの大猿、狡妖猿猴こうよう えんこうだよ」


 ひと際大きな岩の上に、猿猴えんこう胡坐あぐらをかいていた。


 三つの顔に六つの腕。まるで三面六臂さんめんろっぴの仏像の様な巨大な猿は、高みから挑戦者を待ち受けるようだ。


「こいつは6本の腕を振り回す格闘タイプなんだけど、毒を多用するから気を付けてね。かなり猛毒だから、状態異常耐性のスキルあっても貫通してくると思うから油断しないように」


 気が狂った様な顔、殴りつけたくなるような煽る顔、何ともつまらなそうな飽いた顔。それらをカメラに納めてゆく。


「相変わらずイラっとする顔してるな。猿猴えんこうは一番因縁があるエリアボスなんだよね」


【ちょっと待ってくれ! 展開早すぎる!!】


【さっきの黒い虎からどうやって逃げたんですか?】


【エリアボスが出現するってことは適正レベルだろ? 明らかに強さが噛み合って無くないか?】


 コメントからは迅夜虎豹じんやこひょうについての質問やコメントが多く流れてくる。


迅夜虎豹じんやこひょうの質問はお昼食べながらでも答えるよ。さて、じゃあ猿猴えんこうとも少し戦ってみるか」


 以前戦った時はレベル52だった。今はレベル103。あれから怪力や金剛など多くのスキルを得た。今なら正面から猿猴えんこうとも殴り合えるだろう。


「さぁ、猿猴えんこう。少し遊ぼうか」


 血がたぎりだした鈴鹿は視聴者のコメントそっちのけで、気配遮断を解除する。こちらは迅夜虎豹じんやこひょうのように飛び跳ねず、突然現れた不届き者に怒りを表していた。


「ヴォヴァァア゙アア゙ア゙!!」


 大岩から飛び跳ねると同時に猿猴えんこうは鈴鹿を殴りつける。昔は受け流すことしかできなかったその拳を、鈴鹿の毒手が正面からね返す。


 鈴鹿の腕は2本。片や猿猴えんこうの腕は6本。手数の差は覆しようがないが、高レベルの体術スキルがその差をひっくり返す。暴雨のように降り注ぐ猿猴えんこうの拳をことごとく殴り返した。


 テンションが上がってきた鈴鹿は、徐々に拳に込める魔力が上がってゆく。それは黒々と染まった毒手の内から光る星々のきらめきとなり、夜天を照らし出す。


 猿猴えんこうたまらず後方に跳び退すさり、置き土産に毒をまき散らす。状態異常耐性が高い鈴鹿は効かないが、わざわざ手札を公開する必要もないため毒の霧を避けるように鈴鹿も後方へ下がった。


 毒煙を吐き出す猿猴えんこうを見てみれば腕二本があらぬ方向を向いており、鈴鹿の手によって破壊されたことがわかる。


「ちょっとテンション上がってやり過ぎちゃった。猿猴えんこうは毒を使用するとき顔から毒煙を吐くから、顔を注視してれば毒のタイミングがわかるよ。毒は厄介だから、パーティメンバーの誰かは顔を見ておくといいかも」


 毒手を解除し気配遮断を使用した鈴鹿は、怒り狂っている猿猴えんこうをしり目に次のエリアボスに向かった。

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― 新着の感想 ―
魔法しかり、気配遮断も「そういうもの」と見なすことで自分の声やスマカメの読み上げ音声やらも遮断してるんだろな。もはや認識阻害の領域に入ってる気がするけど。 この世界のスキルや魔法ってとことん頭が固い人…
倒していかないのか
本人が気配遮断で見つからないのは分かるけど、本人の声、カメラ、読み上げ音声で気づかれないのが分からん。 気配遮断と言いつつ相手に気づけなくするデバフでもかけてるのか?
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