14話 宝箱探しゲーム
翌日、鈴鹿は八王子ダンジョン1層5区にいた。
「え~と、サムネは画像フォルダから選んで……これだな」
古びた木箱でできた宝箱に腰掛け、スマカメをいじる。サムネに設定したのは、先ほど撮影した腰かけている宝箱だ。
「あとはこのボタン押せば自動で配信が始まって、もう一度押せば終了してアーカイブに残ると。なるほどね。簡単だわ」
スマカメは高額だが、ダンジョン内で通信することができ、生配信を行うことができるデバイスだ。鈴鹿のアカウントを登録しているため、ボタン一つで生配信することができる。
「よし、準備できたな。カメラオッケー。『兎の鬼面』もオッケー。装備は……ジャージよりも猿猴の防具の方がいいか」
今日はモンスターと戦うつもりが無いためいつも通りのジャージ姿だったが、ジャージから身バレしたくないため猿猴の防具の方が無難だろう。ジャージはダンジョン外でも着ているが、猿猴の防具はダンジョン内でしか着ないので身バレ防止に適している。
「あれ? なんか防具のデザイン変わった?」
一式防具で即座に猿猴の防具に着替える。すると、前とは少しデザインが変わっているように感じた。防具は収納に入れることで本人にあったサイズやデザインに変化するため、その延長だろうか。
「まぁ、存在進化したしな。防具も影響受けたのかも」
防具としての性能が変わるわけではないため、気分転換にいいかとデザインが変わったことを受け入れる鈴鹿。
「いや~ドキドキするな。人生初配信だ。大丈夫だよな。始めるぞ!」
改めて自身を見直し、問題ないことを確認する。このボタンを押せば、狂鬼チャンネルの初動画が配信されるのだ。ドキドキしながら、鈴鹿は配信開始のボタンを押した。
「これで始まってるんだよね。赤いランプ付いてるし、大丈夫だな。んん゙。どうもみなさん初めまして。今日からダンチューバー始める、狂鬼と申します」
緊張しながらも、カメラに一礼する鈴鹿。
「このチャンネルでは基本的に4区や5区の景色の様子やモンスターについて配信していきます。たまにエリアボスと戦ったり、面白そうな企画思いついたらそういうのもやっていきます。まぁ、何やるにも4区とか5区で探索してるので、4区5区に興味がある人は見てみてくださ~い」
そこまで言うと、鈴鹿は少し移動してスマカメに宝箱を映した。
「さて、今日は記念すべき一発目の動画なので、実益を兼ねた企画に挑戦してみます!」
最初っから綺麗な景色を映していこうかと思ったが、せっかくなら人が集まる企画もしたい。なので、一本目は昨日の夜考えた企画を配信することにした。
「これ、宝箱ですね。中には、アイテムとなる煙が入っていて、開けると箱は消えちゃう宝箱。今日はこれを何個見つけられるか挑戦してみたいと思います!」
ダンジョンでは宝箱が設置されていたり、モンスターを倒すと稀に宝箱が出現する。普通の探索者は数回の探索に一回しか宝箱を見つけることができないと言われているが、4区5区は探索者がほとんどいないため宝箱は割と簡単に見つけることができた。
今日はダンジョンの中を走り回って、何個見つけられるか挑戦するつもりだ。
「場所は1層5区に広がる樹海のエリア。制限時間は3時間。その間に何個宝箱を見つけられるかの挑戦です!」
果たしてこれに需要があるのだろうか。言っていて不安に襲われるが、もう配信は始まってしまった。今更引き返すことはできない。
「コメントあれば答えるので、気軽に質問してね。じゃあ3時間にタイマーセットして……よし、あ、この宝箱はカウントしないよ」
とりあえず目の前の宝箱は開封して消しておく。
「では、今から、よーいはじめ!!」
合図とともに、鈴鹿はものすごい勢いで樹々の間を走り回る。岩の裏、木の裏、盛り上がった根っこに絡まっていないかなど、高速で移動しながら確認してゆく。
鈴鹿の動きに、ドローンが追従できるはずもない。自動追尾する高級ドローンであっても、鈴鹿が走り出した途端に追尾不能になり止まってしまうだろう。だが、スマカメは鈴鹿にぴったりと追従し、鈴鹿にはしっかりとピントが合い続けていた。
答えは簡単、スマカメを移動させているのはドローンではなく、見えざる手を使っているからだ。鈴鹿は配信用にドローンを購入していない。店員さんとも話したが、ドローンは開けた場所には強いが樹々が生い茂る場所は苦手だったり、追尾速度もいまいちだった。さらに、戦闘シーンでは巻き込まれないよう自動で離れてしまい、戦闘は俯瞰で撮影したりしてしまうらしい。
それだとせっかくの戦闘も味気ないし、迫力が無い。どうしたものかと考えた時、見えざる手をドローン代わりにすればよいのではと閃いたのだ。見えざる手は鈴鹿の意のままに操ることができるため、戦闘時も好きなように撮影できるし樹海だろうと何だろうと関係なく撮影出来る。これだと思った鈴鹿は、ドローンは購入せずに見えざる手を活用することにしたのだ。
ものすごい勢いで景色が流れてゆく中、鈴鹿は宝箱を見つけては見つけた数と共に即座に開き次の宝箱を探し回る。途中モンスターもいたが、全部スルー。
「気配遮断のスキルがあるからモンスターに見つかんないんだよねぇ」
一応視聴者がいるかもしれないから補足を入れながら、宝箱をひたすら探し続ける。途中から見始めた人は何をしているのか全く分からないだろう。動き続けるお面をした探索者と、流れるような景色、たまに止まっては宝箱のカウントと共に開けてゆく。
一応配信している動画のタイトルは『1層5区で宝箱探し!』なので、雰囲気は察してもらえると助かる。
ピーピッ、ピーピッ、ピーピッ
セットしたタイマーが腕時計から響く。
「あれ、もう終わりか」
結局、誰からもコメントは何もないまま3時間が終了してしまった。ただただ宝箱を探しては開け続けるという、よくわからない3時間であった。
こんなもんかと思いながらも、アーカイブに残すので一応最後までやりきる。
「ふぅ、3時間続けたので疲れたね。じゃ、結果を確認していこう~!」
ただ走っているだけではもはや鈴鹿は疲れもしない。息を整えることもせず、収納から戦利品を出してゆく。
「いっぱいあるな。え~と武器が8つ、防具が頭と腕と胴が1個、で脚が5個。めっちゃ偏ってる。靴ないし。あ、フルセット防具きた」
鈴鹿が三本の革紐が編まれたブレスレットを取り出した。早速猿猴の防具である金属の輪っかが付いた腕とは反対の腕に取り付け、装備を換装してみる。
「おお、おお。カッコいいね。ザ冒険者って感じ」
関節部以外は厚めの革や金属で覆われており、動きやすく多くの探索者が使えそうなスタンダードな防具だ。一式防具なので即座に換装できるため、需要は高いだろう。
「こんな感じ~。一式防具はラッキーだね」
最初は緊張していたが、誰からもコメントが無いので緊張もなくなり、zooのみんなや自分の記録用に撮影している気分になってくる。
「さ、次いこう! 装飾品が二つで、指輪と足輪か。等級も普通なので効果はしょぼいね」
普通の装飾品は、ステータスが合計50上昇するアイテムが多い。例えば今回ゲットした指輪は、体力と魔力がそれぞれ25ずつ上昇する。
こういった装飾系のアイテムを鈴鹿はいくつか持っているのだが、鈴鹿はあまりつけていない。今は『闇夜の雫』という耳飾りと、『五眼の指輪』だけだ。本当はこれも外したいのだが、特訓のタイミング以外は着けておくことにしている。
何故外したいかは、スキルの成長を阻害する恐れがあるからだ。例えば『闇夜の雫』は隠匿の心得という気配遮断に作用するスキルが発現するのだが、気配遮断レベル9に隠匿の心得がプラスされることで気配遮断レベル10に匹敵する恐れがある。そうなれば、レベル10に成長できる機会があっても、すでにレベル10相当だからとスキルが成長しない可能性があった。
考えすぎかもしれないが、可能性としてあるならば気にしなければならない。
ただ、だからと言って有能な装飾品を眠らせるのももったいないため、普段はこの二つだけ着けるようにしていた。
「あとはポーションだね。体力が2個、魔力が1個、状態異常が2個ね」
取り出してカメラに映るように見せる。間違って壊しても嫌なので、すぐに収納に仕舞った。
今となってはポーションは必要ないが、あるに越したことはない。ヤスにも分けてあげたので、在庫確保できるならありがたい。
「あとはアイテムが5個だね。お! 凄い!! 収納袋二個もある」
ここにきて収納袋がわんさか出てくる。だが、それも当然かもしれない。宝箱は今までこんなに集めたこともないし、他に収納袋をゲットしたのはエリアボスからのアイテムだ。収納袋は貴重なため、宝箱からポンポン出てくるわけでもないし、通常モンスターからも簡単にドロップしない。
今回ゲットした収納袋は小さいサイズだ。ポーチサイズの物と、セカンドバッグサイズの物。鈴鹿が持っている収納袋はどれもでかいため、手ごろなサイズの収納袋はとてもありがたかった。
「めっちゃいいサイズ! うわっこれは嬉しい。いいものゲットしました~! いぇ~い!」
スマカメに収納袋を見せながら戦利品を自慢する鈴鹿。
「他のアイテムはねぇ、『方位の針』出口を教えてくれるアイテムか。マップのスキルあるから要らないね。『臭気玉』モンスターに投げると確率で逃げる。へぇ。『癒しの香』使用すると自然治癒力が上がる。効果時間3時間。ふ~ん」
人によっては有用なアイテムかもしれないが、鈴鹿にはどれもピンとこないアイテムだった。世の探索者はこういうアイテムをギルドの倉庫にしまって、有効活用したりするのだろう。
カメラが回っているというのに、一切興味がなさそうなクソリアクションをする鈴鹿。大丈夫だろうか。これでこの先やっていけるのか鈴鹿。
「で、最後に食材が17個っと。ということで、1層5区で3時間宝箱探しした結果、合計で46個見つけることができました~! 多いね! やっぱり5区だと宝箱いっぱい見つかるなぁ」
といいつつ、鈴鹿は2層を全然探索したことが無いため、他のエリアがどれだけ宝箱が見つからないのか知らないのだが。
「さて、初配信はこれで終わりです! 今回は宝箱探し回っただけだけど、次は5区の様子とかモンスターの生態とか見ていこうと思います! チャンネル登録よろしくね~。それじゃ!」
そう言って、鈴鹿の初めてのダンチューブ配信が幕を閉じた。




