13話 ダンチューブ準備
希凛たちと別れを告げた鈴鹿は、ヨド〇シに向かった。ダンチューブを始めるための機材を買うためだ。
すでに日も傾いており、思ったよりもzooのメンバーと話し込んでしまっていたみたいだ。
zooが立ち上げるギルドに加入することを決めた後も、鈴鹿の普段の探索の様子などいろいろと話した。特に、将来的に同じギルドメンバーになるからと鈴鹿がかなりオープンに情報を開示したことで、終わるのに時間がかかってしまった。
話した内容は最近存在進化したこと、5区のエリアボスはスキルを得られる宝珠を落とすこと、鈴鹿の最近の探索方法や得たアイテムなどだ。
エリアボスのアイテムとか素材の使い道が無くて余ってる話をしたら、オークションを勧められた。お金に困ってないから値段を吊り上げるオークションもなぁと思っているが、ギルドの実績にもなると言うのでギルドが立ち上がったら売りに出そうということになった。
その他にも、武器等あるから欲しければ貸すとも提案した。5区のエリアボスの武器は強力なため、今貸してしまうとステータスに影響がありそうで渡せないが、1層攻略後に足りてない武器があればzooがドロップした他のアイテムと交換することになった。
それと、同じギルドメンバーになったよしみとして、焔熊羆の宝箱からドロップした収納袋を貸してあげることにした。鈴鹿は大型の収納袋を4つも持っているため、1つくらい問題ない。
今までは『関取の明荷』一つだけでやりくりしていたが、この前のエリアボス3連戦の際に一気に3つもゲットできたのだ。ここは彼女たちの支援として一つくらい渡しておくべきだろう。
そう思いダブってしまった焔熊羆の収納袋を渡したのだが、さすがに遠慮された。他にもあるからと説明したら、じゃあお金払うとなってしまった。それもなぁと思った鈴鹿は、毒魔法について教えてもらった貸しの分だと説明し、収納袋も貸してるだけだから、自分たちでゲットしたら返すことで無理やり話を終わらせた。
収納袋は探索者以外にも需要があるため、恐ろしいほど高額だ。だが、その分有能で、4区探索のように泊まり込みで探索する者からすれば喉から手が出るほど欲しいアイテムである。結果、物凄く遠慮しながらも希凛は収納袋を受け取った。
それと、鈴鹿の能力についても少し話した。聖神の信条については伏せたが、自己再生というユニークスキルが発現したことで無茶な探索してスキルレベルを上げれるようになったことを共有したのだ。
ゾンビ戦法のようなやり方ができるんだ!なんて鼻高々に話したら、一同漏れなくドン引きしていた。『強くなるにはそこまでしなきゃダメなの?』と真剣に考えこむ猫屋敷に、『あれは人間じゃない。真似しちゃダメだよにゃあちゃん』と諭す小鳥。鈴鹿は小鳥がどもらずに話しているのを初めて目にした。
そうはいっても小鳥も含めて強い探索者には憧れがあるため、教えて教えてと鈴鹿を質問攻めした。今までは情報の秘匿もあってzooのメンバーも遠慮していたのだろうが、同じギルドメンバーならと遠慮なく聞くことができたようだ。
最後に、絶対ダンチューブのチャンネルを共有することを約束し、みんなと別れた。
「さて、夕飯までもう時間もないし、サクッと機材揃えちゃいますか」
鈴鹿は元の世界の記憶よりも巨大な店舗に変貌を遂げている八王子のヨ〇バシに、意気揚々と入店した。
◇
夕飯を済ませた後、鈴鹿は早速ヨド〇シで買ってきた機材の開梱を行った。
「ダンジョンがあるからか、ダンジョン関係のことは技術が進んでるように感じるよな」
この前の四級探索者試験で使われていた自動追尾のドローンのように、元の世界では2010年にはなかったはずのガジェットが開発されている。魔石で動く様な車があるのだから、元の世界の技術と照らし合わせるのはナンセンスと言えるのだが。
「これとかマジ便利だよな。おすすめされるがままにいい奴買ったけど、絶対買うならこれだよな」
鈴鹿の手元には、スマホを5倍くらい分厚くしたような電子デバイスがあった。大きめのデジカメにも見える。それはまさにスマホの原型の様な物だった。
スマートカメラ、略してスマカメと呼ばれるそれは、ダンチューブ撮影用のカメラである。オートフォーカスや自動露光はもちろん、高画質な動画撮影に対象者の声を拾ってクリアにする機能も内蔵されている。さらに、ダンチューブに特化したスマカメはボタン一つで配信することが可能であり、コメントの自動読み上げなども行ってくれる優れモノだ。
ダンジョン内でも使用できる特殊な電波を使用することで、ダンジョン探索中でもリアルタイムで配信することができる。これを機に、鈴鹿は携帯の機種もダンジョン内で使用できるものに変更した。ダンジョン内で通信できるデバイスは高額なため今まで見向きもしていなかったが、せっかくだからと合わせて購入したのだ。
なんとこのスマカメだけで100万円はする。滅茶苦茶お高い買い物をしてしまった。ヤスたちの防具含め、最近鈴鹿の散財が凄まじい。ものすごい勢いで貯金が無くなっているため、そろそろダンジョンでモンスターを倒さないと不安になってくる。
ダンチューブを始めるのにそんな高いカメラが必要かと言われれば、そうではない。10万円も出せば十分いいビデオカメラが買えるだろう。動画の画質にもこだわったとしても、20~30万程度じゃないだろうか。
このカメラが高い理由は、ダンジョンで通信できる装置を搭載しているからだ。上の階層でしか取れないレアな素材が必要らしく、ダンジョン内で通信する装置はどれも高価である。ダンジョンで配信する機能がなければ、スマカメの価格ももっと安かっただろう。
動画を撮影して後で自分で編集したものをアップする人であれば、100万円もするカメラは必要ない。鈴鹿はそんな動画編集なんてやりたくないし、絶対途中で飽きるのが目に見えていた。だからこそ、最初からただ配信を垂れ流す方法を採用することにしたのだ。
ダンチューバーの中でも探索の様子を配信する人はそこそこいるため、配信垂れ流し系でも何とかなるだろう。
「それに、綺麗な景色を撮りたいのが目的の一つなんだから、画質にはこだわらないとな」
さすがに100万円もするカメラは画質もかなりいい。店員さん曰くトップ配信者と変わらないカメラらしいので、間違いないだろう。
「登録しておけばスマカメ一つで撮影と生配信ができるのもありがたいよな。ダンジョンでパソコンでいちいち配信とかしたくないし、これ一個で済むのはめっちゃ助かるわ」
この時代からしたらまさに高機能スマホのようなスマカメ。さすがガラパゴス進化を遂げる日本。この発明は鈴鹿のニーズを満たしていた。
「あとはダンチューブに登録するだけか」
一緒に購入したノートPCで、ダンチューブの登録を行ってゆく。
「名前、か。チャンネル名ねぇ」
鈴鹿のアカウント名を求められた。本名の探索者も多いが、配信者名として『ミリマニ』など自分でつけたり、『蠱毒の翁』のように周りから呼ばれているあだ名を使う者もいる。
「本名は無いなぁ。なんか怖いし」
SNSなどに本名や素顔を晒すことに抵抗がある鈴鹿は、チャンネル名をどうするか悩む。
「鈴鹿ちゃん。これは本名だし却下。定禅寺だからジョー……キモいな。鈴ちゃん。訳わからん。鈴ぴっぴ。いやいやいや。鈴々。俺は何になりたいんだ」
適当に名前を言ってゆくが、しっくりこない。鈴鹿はあだ名で呼ばれることが無かったため、これだと言うのが出てこないのだ。
ちなみに鈴鹿がよくゲームなどのアカウントで使っていた名前は『タラコ茄子』。小学生の時に使っていた適当につけた名前を、ずっと使い続けていた。zooのみんなにもチャンネル名を教える約束をしてしまっている手前、さすがにタラコ茄子は少し恥ずかしい。意味わからないし。
「鹿島君。なんで? 鹿の子のこ……これ以上はダメだ。う~ん。せっかくなら由来があった方がいいよなぁ。スキルだと体術とか毒とか、存在進化だと鬼……鬼か。蠱毒の翁みたいに存在進化からもじってもいいかも」
蠱毒の翁は存在進化が蟲だったから、蠱毒の翁という名前で呼ばれていた。鈴鹿の存在進化は鬼種なので、鬼に絡めた名前がいいかもしれない。
「鬼人。直球すぎだな。鬼畜。だからどこに向かってるんだ俺は。眼が黄金だし、黄鬼。う~んおしい。あ、狂鬼は?」
狂鬼。それは鈴鹿が存在進化した際に見た鬼の名前。あの鬼の記憶を見た後に存在進化先が鬼種だったので、鈴鹿は自身のモデルとなった鬼があの狂鬼だと予想していた。
「狂鬼か。いいかも。被んなそうな名前だし、鬼が付いてるし」
名前を借りることになるが、鈴鹿自身が狂鬼の存在進化と同じなら別に問題ないだろう。
「よしよし。名前は狂鬼、と。あとは動画の説明欄か」
他のダンチューバーを参考に見てみると、どんな動画をメインで投稿するのかとか、各種SNSや連絡先、それから所属ギルドや探索者ランクなどが書いてあったりした。
「まぁ、動画の説明だけでいいだろ。希凛のギルドもまだないし」
鈴鹿は希凛たちが新しくつくるギルドに所属する予定のため、今は渋々フリーの状態なのだ。今どこのギルドにも所属していないのは、仕方のないことなのである。
「え~と、『4区や5区の綺麗な景色やモンスターの生態を配信します。エリアボスとも戦います』。こんなもんかな」
4区5区をメインに配信する際、景色やモンスターの様子だけではもったいない。せっかくならエリアボスとの戦闘も配信した方が盛り上がるだろう。
ただ、ここで問題が出てくる。エリアボスと戦うということは、鈴鹿の能力の多くを配信して世界に晒してしまうということだ。探索者にとって最も恐ろしいのは他の探索者と言われることがあるが、鈴鹿が他の探索者で怖いと思うのは未知のスキルとアイテムだ。
例えば、鈴鹿が毒魔法を使えることがわかっていれば毒に対する対策をしておくことで、鈴鹿の攻撃の一つを封じることができる。しかし、毒魔法が使えることを知らなければ、カウンターとして絶大な効果を発揮することだろう。
これから2層を探索する鈴鹿にとって、他の探索者の対策は必須となる。1層は育成所や探索者高校の生徒が活動していることもあり、犯罪が発生しにくいエリアである。探索も日帰りで泊まることもなく、周りは探索者高校の生徒ばかりという環境だからだ。
1層4区や5区も同様で、そもそも人が寄り付かない4区5区かつ、1層ということもあって他の探索者と遭遇することはなかった。
だが、これからは2層や3層を攻略していくことになる。プロの探索者がひしめき、泊まり込んでの探索が当たり前のエリア。カモを待ち受ける犯罪集団もいるかもしれない。
狂鬼チャンネルを開設して鈴鹿の能力が知られてしまったら、強力なアイテムも持っているはずだと襲われる可能性もある。特に人が寄り付かないエリアを一人でうろうろしているのだ。襲ってくれと言っているようなものではないだろうか。
だからこそ、能力の多くを開示しなければならないエリアボス戦を配信するかどうかは悩んだが、悩んだ結果配信することにした。
なんで俺が襲い掛かろうとする犯罪者共に配慮して撮りたい内容を自粛せにゃならんのだ? と至極真っ当な結論に至り、襲い掛かってきたら全力で粉砕して身の程を教えてやればよいと、パワーですべてを解決する方向に決めたのだ。
「それに不撓不屈の件もあるし、厄介なのにはどうせばれるから隠す必要もなさそうだしね」
鈴鹿がダンチューブを始めようと思ったきっかけは多くの人が見ることができない美しい景色やモンスターたちをみんなに見せてあげたいという思いからだが、背中を押したのは不撓不屈の来訪である。
もともとダンチューブの配信自体は興味があり考えたこともあった。顔を隠しながら配信すれば身バレもしないだろうし、視聴者と話しながら探索するのは楽しそうだなと。どこに行くにもスマホを向けられ写真を撮られ、愛想を振りまく必要がある有名人にはなりたくないという思いがあるが、Vtuberの中の人が観光地を歩いていようとも気づく人はいないだろう。ならば別に人気が出ようとも関係ない。ただ、今まではレベル100までは大人しくするという目標を決めていたので実行には移してこなかった。
そんな中、レベル100を超えたキリの良いこのタイミングで、不撓不屈にスカウトされた。不撓不屈とは、四級探索者昇格試験が終了したタイミングで出会った。鈴鹿の名前を知っていたことからも、あれは偶然ではないだろう。
不撓不屈の邂逅で二つのことがわかる。一つは、鈴鹿の情報を調べられていたということ。探索者高校にも通わず不撓不屈に履歴書を送ったわけでもない鈴鹿を、日本屈指の探索者ギルドが直接スカウトしに来るなどおかしな話だ。
鈴鹿は八王子ダンジョンで『魔鉄パイプの姫』なるあだ名で呼ばれていたが、それも1層での話。噂レベルの話を聞いて、わざわざ不撓不屈のスカウトが来るだろうか。鈴鹿の強さの真偽を確認するまでもなく採用の方針で話していたので、恐らく鈴鹿の強さに確信を持っていたはずだ。
ということは、ある程度の情報が抜かれていると考えた方がいいだろう。存在進化したことを確信したような口ぶりでもあったので、どこまで把握されているのか。レベルなのかスキル構成なのかステータスなのか。それらを開示したことはないが、戦闘シーンを見られればある程度は予想できるだろう。
拳で戦っているから体術のスキルがあるな、武器は使ってないけど腕が黒いから何らかの硬化するスキルかな、消えたように感じたから気配遮断もあるな、エリアボスと正面から殴り合えるからレベルは100はあるだろう、などなど歴史あるギルドであれば膨大なスキルデータやステータスの集計値から、多くのことが読み取ることができるはずだ。
「気配察知は常に使ってるから戦闘シーンを見られたとも思えないんだけど、気配察知はまだレベル7だからな。掻い潜られる可能性は全然あるか」
知らぬうちに後を付けられているかもしれない。特級探索者を有する不撓不屈の様なギルドにかかれば、存在進化を迎えたばかりの鈴鹿程度調べるのも訳ないのだろう。
そして、鈴鹿の情報は不撓不屈が調べた分だけではないだろう。二つ目にわかったことは、探索者協会が情報を流しているということだ。どこまでの情報を流しているかはわからないが、あのタイミングで来たということは鈴鹿が四級探索者昇格試験を受けることと受験日は、少なくとも探索者協会から情報を得ているはずだ。
鈴鹿はその情報をヤスにしか話しておらず、四級探索者昇格試験受験者名簿など公開されているわけでもないので、探索者協会側からもたらされた情報に違いない。
「2010年ってこんなに個人情報の扱い緩かったっけ? まぁギリギリ連絡網とかある時代だしな。そんなもんか?」
2025年であれば個人情報の流出として不祥事扱いになるだろうが、この時代はそこまで厳しくなかったかもしれない。
流された情報が、『定禅寺が今日いるよ』だけなのか、『四級探索者昇格試験受けているよ』だけなのか、『定禅寺の試験の様子はドローンの映像のとおりで、こんなふうにモンスターと戦っていました』なのか、『定禅寺は普段5区の探索を行っており、このようなアイテムを売却している』まで全て開示されているのか。
この辺りになるとどこまで開示されているのか気になってしまう。探索者協会と探索者ギルドは深い繋がりがあるため、そんな情報も見れている可能性も十分ありそうだ。それに不撓不屈は最古参のギルド。あの不屈の藤原が創設したギルドだ。探索者協会とのつながりも深いとみていいだろう。
「となると、結局ギルドの関係者とかには俺の情報ってそこそこ流されてるって思うべきだよな。それに何もしなくてもこのままだと目立っていきそうだし。不撓不屈からスカウトなんて、目立ちまくりだろ。希凛たちがもう知ってたくらいだし。なら、下手に隠すよりは俺こんなに強いけど絡んでくるのか?ってスタイルの方が良さそうだよな」
不撓不屈に接触されたからより身を潜めようではなく、どうせギルドにばれるなら『え、自分らこれをスカウトしに行くんですか?』と二の足を踏ませるべきだと考えた。顔を隠しても鈴鹿の正体に辿り着ける者なんてギルド関係者とかだろう。なら、配信してようが配信しまいが結局遅かれ早かれというやつである。
それに実力もわからないソロで探索してるから弱そうに見えて絡まれるのだ。ソロでも手を出したら殺されるとわかっていれば手を出してこない。配信でエリアボスと戦えば、十把一絡の探索者は勝てないと踏んで絡んでこなくなるだろう。もうレベル100を超えたのだ。いつまでも他の探索者に怯えていても仕方がない。逆にこちら側が怯えさせるくらいの気概を持つべきだ。
であれば、開示するスキルと隠すべきスキルを決めておく必要がある。
「『聖神の信条』は配信では出せないでしょ。奥の手だし。傷の再生は自己再生を開示すればいいか」
zooのメンバーにも自己再生については説明した。これであれば、大怪我しても戦える便利なスキルと捉えてもらえるだろう。聖魔法についてはもちろん使わないし、鈴鹿が死ぬような敵が現れたら配信を止めればいい。
不死は最強の切り札であり、まだレベル100程度では開示することはできない能力だ。
「あとは毒魔法もダメだな。これ初見殺しえぐいし、心のゆとりになるだろ。毒手も最近じゃ毒の効果ないし、毒手については身体を硬化させるユニークスキルで通せばいいかな」
そんなスキルがあるかは知らないが、ユニークスキルと言われれば納得するしかない。毒手については見た目も黒で毒には見えないし、毒魔法と紐づけられることは無いだろう。
「あとは『見えざる手』かな。まぁ、これは優先度低いか。場合によっては全然出してもいいかな」
それ以外のスキルはエリアボスと戦う上で隠しようが無いため、秘匿するのは困難だろう。
「うし。あとはやってみてだな。また宝珠ゲットすれば新しいスキルも増えるし、そのうち隠す必要もないくらい強くなればいいだろ」
いつも通り軽く考え、ダンチューブの設定に戻る。
「動画の説明はこれで良し。あとは連絡先とかか。SNSはやってないのでスルー。連絡先は新しく作ったアドレスでオッケーと。最後は写真か」
チャンネルのアイコンと、動画のサムネ用の写真が必要だ。動画の方はダンジョンで撮ればいいけど、チャンネルのアイコンは事前に登録しておきたい。ダンジョンでやることをなるべく減らしたいためだ。
「イラストは描けないし、ロゴもないからなぁ。装備でも写真撮るか」
そう言って、鈴鹿は収納から二つのアイテムを取り出した。1層2区のエリアボスである兎鬼鉄皮からドロップした『兎の鬼面』と、1層3区のエリアボスである双毒大蛇からドロップした『大蛇のマスク』だ。
顔写真をSNSに上げたこともない鈴鹿は、配信で素顔を晒すのなんてもっての外だ。そもそも中の人はばれたくないのだ。だからこそ、身バレ防止のために顔を隠せるアイテムを使うことにしたのだ。
「う~ん。マスクは効果も強いしカッコいいんだけど、全部覆われるお面の方が身バレ防止にはいいよなぁ。鬼ってついてるし、コンセプト的にも」
そう言って鈴鹿は大蛇のマスクをしまうと、兎の鬼面を壁に立てかけスマカメで写真を撮る。
「うん。チャンネルのアイコンはこれでいいだろ」
兎鬼の顔をかたどったような、兎が憤怒した面が狂鬼チャンネルのアイコンに決まった。
「うし。早速明日からダンジョンで配信開始するか! となれば、後は仕込みだな!」
そう言って、鈴鹿は明日からのダンジョンに向けてご飯の仕込みをしに行くのであった。




