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第98話 偵察部隊


「おおっ、空を飛んでいるぞ! こいつはどういう仕組みだよ!?」


「プロペラという羽根状態の装置をモーターで回転させることによって上方向に揚力を生み出して機体を上昇させる。そしてそのプロペラの向きを変えたり回転数を上下させることによって上下左右に動かすことができるケンタの世界の機械」


 ヴィオラの質問にリリスが答える。ドローンを見せた時にタブレットで細かい部品についてまで調べていたから、もはや俺よりも詳しい。


 揚力なんて言葉を聞いたのは学生以来な気がする……。俺は文系だったからその辺りはよくわからん。


「おもしれえ! ケンタ、あとで分解させてくれよ!」


「……これはかなり高いやつだから勘弁してくれ。小さいやつだったら、今度買ってくるからさ」


「おう、頼むぜ!」


 車もそうだったが、なんでもかんでも分解しようとするのは止めてほしい。まあ、中の構造を知るためには分解をするのが一番早いのかも。俺も小さい頃はそこらへんにある物を何でも分解しようとしていて、親にドライバーを取り上げられたこともあったっけ。


 家電量販店で売っている小さなドローンなら、今では1万円もしない物が出ているからそれで我慢してもらうとしよう。


「ほお~やっぱし、スマホにもついているこのカメラってやつは相当便利だな」


「レンズ部分によって光を収束させて、イメージセンサーで光を電気信号に変換する仕組み」


「こいつならうまくいけば魔道具で再現できるような気もするぜ。光を映像として記録できそうな媒体にはアテがある。あとはそれを長時間残しておく装置が必要だな」


「数秒程度ならともかく、長時間保存をしておくのは難しい。それに魔石から魔力を使っても媒介自体を長時間そのままに保つのは難しそう」


「………………」


 2人が何を言っているのかさっぱりである。そもそもスマホやドローンのカメラの仕組みについて深く考えたことはなかったな。便利で理解の及ばないレベルになると考えるのを放棄してしまうから、便利すぎるのも考えものかもしれない。


 それにしても、2人とも冒険者でありつつもちゃんと研究者なんだな。……俺の世界で大学に入って研究したいとか言い出さないことを祈るとしよう。




「レンダーさんから聞いた情報によると、この辺りがアースドラゴンの巣らしい」


 現在は2人の飛行魔法によって、街から離れた草原へとやってきている。リリスが結界の魔道具を張ってくれて、安全な状態で座りながらドローンを操作している。


 ドローンを飛ばして10分ほどすると、森の切れ目から岩場が見え始めてきた。冒険者ギルドマスターのレンダーさんから聞いた話だと、アースドラゴンはもう少し先の岩場に巣を作っているらしい。


「……いた! あれがアースドラゴンか。思ったよりも大きいな」


 ドローンを前進させていると、真下を映しているカメラが灰色の岩場の中で動く茶色い物体を捉えた。慌ててドローンを止め、少し戻るとかなり上空から撮影しているにも関わらず、かなり大きな影だ。あれくらいの高さから撮ってこれくらいの大きさなら、全長は楽に5メートルを越えてるかもしれない。


 茶色い鱗が全身を覆っており、ワニやトカゲのように四足歩行で歩いている。口は大きく、ガブリと噛まれたら俺なんて丸呑みできるだろう。小さい翼はあるようだが、ドラゴンなのに飛べないらしい。ニワトリに羽根があっても飛べないのと同じようなものかもしれない。いや、ニワトリと比べるのもおかしな話か。


「キュキュウ!」


「ああ、間違いなくアースドラゴンだぜ」


「あれくらいのサイズが普通くらい。もっと大きな個体もいる」


「………………」


 みんなが俺の操作するドローンのモニターをのぞき込んでいる。


 俺が胡坐をかいて座っている上にはハリーがいて、俺の両隣にはリリスとヴィオラがいるのだが、モニターがそこまで大きくないので、2人と距離が近い。偵察という大事な役割を全うしている最中なのだが、煩悩が出てきてしまうのは健全な男としては仕方のないことだよな、うん。


「とりあえずドローンを気にしている様子はなさそうだな。数を数えながら、この辺りの地形やどのあたりに集まっているかを確認しよう」


 煩悩を振り払い、モニターの方をしっかりと見つめる。


 偵察によって討伐作戦の成功にも影響が出るし、被害を減らせることを考えればふざけている場合ではない。




「……これでだいたい30体。思ったよりも大きな群れみたい」


「そうだな。だが、巣の正確な位置もわかったし、そこを目掛けて大規模な魔法を使えば一気に数を減らせるはずだ。問題ねえだろ」


 ドローンで上から偵察をしていると、岩場の奥にあった大きな裂け目にアースドラゴンたちは巣を作っていた。敵の数や巣の場所もわかったことだし、これで偵察は十分そうだ。


「むっ、ちょっと待て! ケンタ、ドローンを右奥の方へ向けてくれ!」


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