第97話 宿の高級料理
「うん、この肉はうまい! レッドワイバーンの肉って言っていたけれど、前に食べたクラウドワイバーンと同じかそれ以上だ! それに他の魚料理も豪勢でおいしいよ!」
「キュウ、キュキュウ~♪」
宿の部屋まで運んできてくれた晩ご飯はとても豪華な料理だった。色とりどりの野菜につみれのようなすり身のスープに煮込んだ魚。そういえばこの街は海から近いと言っていたから、新鮮な魚なんかも運ばれてくるのだろう。
そしてメインの料理はレッドワイバーン肉のステーキだ。ほんのりレアめで味付けは塩とコショウのシンプルな味付けだったが、口の中でとろけるような柔らかさと、あふれ出す肉汁は俺の世界の一流のステーキと同等かそれ以上だった。
前に襲われたクラウドワイバーンもそうだったけれど、なんであんなに凶暴な魔物の肉がこんなにおいしいのか不思議でならない。
「そこそこいけるな。だけど、昨日の外で食ったケンタの世界の肉の味付けの方がうまかったぜ」
「私もそう思う。厚く切るのもおいしいけれど、薄く切っていろんな味付けを楽しめる方がいい」
「まあ、あのタレは長い間たくさんの人が研究してできたものだからね。でも肉自体は間違いなくこっちの方がおいしいよ。良い肉は塩コショウでシンプルに楽しむのもいいな」
ヴィオラとリリスは昨日食べたバーベキューの方がおいしかったというけれど、焼き肉のタレは長年の企業努力の賜物だ。とはいえ肉自体のおいしさはこちらの方が間違いなく上である。
それに新鮮な魚には香辛料や魚醤のようなものが使われていて、日本にはない味付けだ。こっちの世界で食べた料理の中で間違いなく一番の味である。
「言われてみればそうか。でもこれだったらアースドラゴンの肉の方がうまいぜ」
「報酬に肉もたくさんもらうから、またあのカツを作ってほしい!」
「ああ、ワイバーンカツもおいしかったからね。了解、家に戻ったらまた作るよ」
「キュウ! キュキュウ~」
「へえ~ケンタの世界の料理はどれもうまいから楽しみだぜ」
どうやらアースドラゴンも食べることが可能らしい。
リリスとハリーはワイバーンカツをとても気に入っていたからな。言われてみると俺もカツが食べたくなってきた。揚げ物系はたまに食べたくなるんだよなあ。
「あとこのブドウ酒はおいしいね。これなら俺の世界のものと同じくらいだよ」
以前に街の酒場で飲んだブドウ酒は雑味がすごかった。俺の世界のワインは不純物がしっかりと取り除かれていることがよくわかる。
だけどこの宿で頼んだブドウ酒はそういった雑味もなくすっきりとしていた。
「ビールもいいが、こっちのハイボールとレモンサワーってやつもいいな! 酒精はそこそこあってガツンとくる感じだ」
「明日もあるからほどほどにね」
ヴィオラは収納魔法にしまっていたハイボールとレモンサワーを飲んでいる。俺もレモンサワーの方はたまに飲むが、最近のは酸味と甘みが丁度いいくらいなのだ。
俺の世界の酒にはもっと酒精の強い酒も数多くあるが、ウイスキーとか焼酎はかなりのものなので、少しずつアルコール度数の高いものを出していくつもりだ。案の定、ハイボールやサワーでもこちらの世界の住人にとっては十分酒精が強いらしい。
ちなみにリリスはリンゴジュースでハリーはコーラを飲んでいる。ハリーは炭酸に驚いたみたいだけれど、意外と癖になっているみたいだ。炭酸を好きな人は結構いるけれど、異世界のハリネズミにも受け入れられるらしい。
そんな感じで宿のおいしい料理と俺の世界の飲み物を楽しんだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ふあ~あ……」
朝目が覚めると、天井がとても高く感じた。
そうか、昨日はロールルの街の高級宿に泊まったんだっけ。
「おはよう、ケンタ」
「おはよう、リリス」
すでにリリスは起きているようだ。一昨日の夜にタブレットで動画を見過ぎて寝不足になっていたことをしっかりと反省しているらしい。
ちなみにこの部屋のベッドはそれぞれ結構な間隔が空いているので、昨日の狭いテントのようにヴィオラとリリスが近くてドキドキするようなことはなかった。……少しだけ残念な気がしなくもない。
宿で朝食を食べ、冒険者ギルドによって偵察を引き受ける旨をレンダーさんに報告をしてから、街を出てアースドラゴンの巣がある近くまで飛行魔法で移動してきた。広い街を歩いてみたかったが、まずはアースドラゴンの方を何とかすることが先決だ。
「へえ~こいつがドローンってやつか」
「遠隔操作で空を飛ばす機械だよ。下にはカメラが付いているから、偵察にはもってこいなんだ」
リリスの収納魔法からドローンを取り出してもらう。家電量販店で売っているものではなく、業務用のちゃんとしたものなので50万円もした。その分充電も長く持ち、操縦できる範囲もかなり広いのである。
アースドラゴンに壊されてしまったら、機体の分だけでも弁償してもらうとしよう。
「それじゃあ早速偵察といこう」
「キュウ!」




