第95話 ロールルの街
「おっ、ロールルの街が見えてきたぜ」
「うわっ、確かに他の街と比べてだいぶ大きいね」
目の前にはこれまでに訪れたレジメルやサミアルの街よりもはるかに大きな街が現れた。ここまでくると街というよりも城塞都市とか呼んだ方がいい規模だ。
ヴィオラの二日酔いとリリスの寝不足もあって、出発を1時間ほど遅らせたけれど、なんとか日が暮れる前に目的地のロールルの街へと到着できたようだ。とはいえ、もう空は赤く染まっており、本当にギリギリといったところだ。
「あんまし近くまで飛んでくと攻撃されっから、早めに降りるぞ」
「……了解。壁もかなり高いし、結構な迎撃態勢を整えているみたいだね」
他の街の倍近くある高くて幅のある壁の上には大型のバリスタのような兵器があり、人がいるようだ。なるほど、これなら空を飛ぶ魔物が攻めてきたところで問題なさそうである。
一度地上に降りてリリスたちと合流し、ロールルの街の門へと歩いていく。
行列となっていた門ではなく、その隣にあった貴族や特別な通行証を持った人しか通れない門から街の中へと入る。やはり2人は高ランク冒険者として優遇措置を受けられるようだ。冒険者もいくつかの制約があるとはいえ、こういったメリットがあるからこそ、みんな高みを目指していくのだろう。……俺は絶対に遠慮しておくが。
「おお~これは絶景だな!」
「キュウ、キュキュウ!」
ロールルの街の中へ入ると、まずは多くの馬車や人が行き交う大きな通りが目に入った。舗装された石畳がまっすぐと続き、建物は等間隔に並び立ち、色や建物の様式にも統一感があってものすごく整頓された街という印象だ。
ここと比べてしまうと他の街は雑多な街として見えてしまう。俺の世界の街もこの街に比べたら統一感がないのだろう。この街は初期の段階から詳細まで計画されて作り上げられたのかもしれない。
「相変わらずこの街はでけえなあ」
「間違いなくこの国の中でも上位に入る」
2人ともこの街には訪れたことがあるようだ。冒険者としていろんな街を旅するのは少しだけ憧れたりもする。
「とりあえずまずは冒険者ギルドに行くか。宿の方もあっちで用意してくれんだろ」
「うん、了解」
すでにこの街の冒険者ギルドにはヴィオラとリリスが訪れることを連絡済みだ。
さて、ロールルの街の冒険者ギルドマスターはどんな人なんだろうな?
街の入り口からは馬車を使って街の中心近くにある冒険者ギルドへと移動する。街があまりにも広いから、馬車などを使って移動できるらしい。基本的に飛行魔法は街中では禁止のようだ。
ロールルの街並みを楽しみつつ、街の中でも一際大きな建物へと到着する。表にはレジメルの街でも見た冒険者ギルドのマークらしき看板がかかっていた。
「お、おい、あれってSランク冒険者のヴィオラじゃねえか? だいぶ久しぶりに見たぜ」
「本当だ! おいおい、まさかまたここら一帯吹き飛ばすんじゃねえのか……?」
「多分例の依頼についてだろ。やべっ、今のうちに近くにいる仲間へ連絡しておかねえと!」
「………………」
レジメルの街よりも数が多く、そして高価そうな装備を身に着けた冒険者の間を通り、受付へと進んでいく。ヴィオラはこの街ではだいぶ有名らしく、屈強そうな冒険者たちが口々にヴィオラのことを噂している。……というか、以前この街へ来た時に一体何をしたのだろう。
受付へ行くと、すぐに上の階にある冒険者ギルドマスターの部屋へと通された。
「ったく、いつでも連絡は受け取れるようにしておけとあれほど言っておいただろう……」
「うるせーなあ。こちとら自由に冒険や研究がしたくて冒険者をやってんだよ。そっちの方こそ、あれくらいの依頼、誰でもこなせるようにちゃんと冒険者を育てておけや」
「……まあ、そいつはごもっともな話だ」
冒険者ギルドマスターの部屋で少し待つと、すぐに一人の大柄な男が部屋へ入って来た。スキンヘッドで強面の30代くらいの男性で、服の上からでもそのマッチョな体型がこれでもかと主張してくる。
Sランク冒険者であるヴィオラとも普通に話しているし、きっと彼も相当な実力者なのだろう。レジメルの街のギルマスであったセシルさんとはだいぶタイプが違うな。
「なんにせよ、ここまで来てくれたことに感謝する。リリスもヴィオラのやつを連れてきてくれて助かったぜ」
「いつものことだから大丈夫」
リリスも苦労しているようだ。ヴィオラは自由だから連絡を取るのも大変らしい。
「それでこっちの兄ちゃんは冒険者なのか? 魔物を連れてはいるが、とても戦えるようには見えねえが……」
「初めまして、ケンタと申します。こっちはハリーです。冒険者ではないのですが、2人の友人で、ここへは付き添いで来ているだけです」
「キュキュ!」
「ほう、この2人の友人とは興味深いな。レンダーだ、この街の冒険者ギルドマスターをしている」
「よろしくお願いします」
レンダーさんと握手を交わす。ゴツゴツとして手の皮が分厚く、これまでの人生でした握手の中で初めての経験だったが、握手自体はめちゃくちゃな馬鹿力というわけではなかった。
ハリーともちゃんと握手をしてくれたし、ちょっと見た目は怖いけれど、悪い人ではなさそうである。




