第92話 ビールとタピオカ
「……面白れえ容器だな。それにケンタの世界じゃ酒は冷やして飲むのか?」
「お酒の種類によりけりかな。このビールはエールと似ている味だけれど、飲みやすさを優先していて冷やした方がうまいんだ」
リリスに取り出してもらったのはキンキンに冷やした缶ビールだ。エールビールは少しぬるいくらいがおいしいけれど、ラガービールは冷やして飲んだ方がおいしい。味や香りというよりものどごしやキレを楽しんでもらう感じだ。
「うおっ、こいつはいいな! 冷たくて飲みやすいぜ。いくらでも飲めちまう!」
「飲みやすいけれど、酒精はそこそこあるから気を付けてね。あとこうやってグラスに移すとまた違った味わいが楽しめるよ」
缶で飲むビールもいいが、コップに注ぐと少し炭酸が抜けてよりホップの爽やかな香りと、麦の芳醇な旨みを味わえる。白い重厚な泡の層ができ、苦味は少なく感じ、むしろほんのりとした甘みが舌に残る。この宿の肉の料理ともよく合う。
ビール以外のお酒もいろいろとあるのだが、ヴィオラはすでに缶ビールを1本飲み干して次の缶へと手を伸ばしていた。今日はビールだけにしておいた方がよさそうだ。
「やっぱり私はいい……」
「キュウ……」
リリスとハリーも改めてビールを少し飲んでみたが、前と同じでやっぱりお酒は駄目みたいだな。俺も昔はあまり好きじゃなかったし、お酒は無理に飲むものでもない。
「リリスとハリーはこっちのほうがいいかな」
リリスに頼んで昨日俺の世界で購入してきたとある飲み物を出してもらった。
「っ!? 甘くていい香りの飲み物の中にモチモチとした食感のおいしい粒がいっぱい入っている!」
「キュウ、キュキュウ~♪」
「これはタピオカミルクティーといって、お茶にミルクを加えた飲み物にキャッサバという植物から作られたでんぷん質の小さな球を混ぜた飲み物だよ。俺の世界では特に女性に人気があるんだ」
タピオカミルクティーとは読んで字のごとく、紅茶やジャスミンティーなどにミルクを入れたミルクティーにタピオカパールを入れた飲み物である。
今までは女性が飲むものとばかり思っていたし、飲み物なのに一杯500円以上することもあって俺はあまり飲んだことがなかった。しかしお金に余裕ができたこともあり、試しに飲んでみたら非常においしかったので、昨日テイクアウトで購入してきたものだ。
甘く濃厚な紅茶の香りが鼻を抜け、モチモチとした甘いタピオカがストローから飛び込み、食感まで楽しめる。そりゃ人気が出るわけである。
「おい、俺にもくれよ!」
「もちろん。タピオカミルクティーにもいろんな種類があっていろいろと買ってきたから、いろいろと試してみてよ」
缶ビールを楽しんでいたヴィオラもタピオカミルクティーに興味を持ったようだ。酒を飲み過ぎるのもよくないのでこっちに興味を持ってくれたのなら幸いだ。
どうやらこっちの飲み物は気に入ってもらえたみたいだ。異世界の料理にこちらの世界の飲み物とつまみと、なんだかカオスな食卓であるが、おいしく食べられればそれでよしなのである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「うう~ん……」
「キュウ!」
「おはよう、ハリー。そうか昨日は宿に泊まったんだっけ」
目が覚めるとベッドの隣にいつも見慣れた可愛いハリーの顔が見えたが、天井はいつものうちのものではなかった。昨日は異世界の宿に泊まったことを思い出す。
「おはよう、ケンタ、ハリー」
「おはよう、リリス」
「キュキュウ!」
どうやらリリスは先に起きていたようで、椅子に座りながらタブレットを操作している。
飛行魔法で飛んでいただけだけれど、身体は結構疲れていたようで、一度も夜に目が覚めることのないくらいぐっすりと眠れたらしい。我ながらだいぶ図太いものである。
「ぐ~か~」
「………………」
「師匠はいつもこんな感じ」
ヴィオラはまだ寝ていたのだが、寝相があまりよくないようで、なぜか頭と足が反対方向になって寝ていた。いったいどうやったら、こんな寝相になるのだろうな。
そしてかけ布団がめくれ上がって、健康的な褐色のお腹が見えている。リリスと一緒の部屋で寝た時はあまり意識していなかったが、ヴィオラがいると女性と一緒の部屋にいることを意識してしまうな。
「そんじゃあ今日も一気に飛んでいくぜ」
「了解。よろしく頼むよ」
宿で朝食をとり、サミアルの街を出る。
本当は街の市場なんかを見て回りたかったけれど、冒険者ギルドからの依頼を優先するため先を急ぐ。帰りもこの街へ寄ることはできるから、その時に寄ればいい。
今日も2人の飛行魔法で先を進んでいく。
いつも拙作をお読みいただき、誠にありがとうございます(*ᴗˬᴗ)⁾⁾
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