第86話 日本の服
「お世辞とかではなく、本当にリリスに似合っているよ」
「あ、ありがとう」
2人は家に戻ってきて購入してきた服に着替えている。リリスはシャツにチェック柄のスカートだ。俺が褒めると少し照れているらしい。
キッズサイズだが、最近の子供服はだいぶ可愛らしい服が多いようだ。いつものローブ姿も似合っているけれど、こちらの世界の服もよく似合っている。それにしても、金髪美少女でエルフのリリスが現代の服を着てうちにいるってなかなかすごい状況だよなあ。
「この服は着心地がよくて気に入ったぜ」
「そ、そうだね。ヴィオラもよく似合っているよ」
「くっくっく、もっとよく見てもいいんだぜ」
「……ケンタ?」
「ごほん、今度ちょうどいいサイズの服を注文しようね。ネットがあれば家で選んでここまで配達してもらうことも可能だから」
「へえ~そんなこともできるのかよ」
ヴィオラの方はシャツにショートパンツといったラフな服装をしていた。店員さんに勧められていた服だけれど、よく似合っている。
……とてもよく似合っているのだが、胸元がだいぶ開いていてその大きな胸部がとても目立つ。しかもシャツを指でつまんで胸の谷間を強調するようにすると、女性に免役のない俺にとってはどうしても視線が吸い寄せられてしまうのである。
店員さんが言っていたように大きすぎるサイズは店には置いていなかったので、少し服が小さいのかもしれない。一応店員さんからサイズの方を聞いているので、ネットで探して選んでもらうとしよう。
健康的な褐色肌が今まで以上に露出されていて目の保養に……ごほんっ、目のやり場に困ってしまう。当の本人はあっちの世界でも露出の多い服を着ていたし、あんまり男性の視線を気にしないのかな? ニヤニヤとしているし、むしろ俺の反応を見て楽しんでいたりするのだろうか。
「ハリーも服を買ってみるか?」
「キュウ!」
2人を羨ましそうにして見ていたハリーに聞いてみると、嬉しそうに頷く。
最近はペット用の服もいっぱい売っているだろうし、ネットで探せばハリネズミ用の服も売っているだろう。なければ犬や猫用の可愛い服で大丈夫なはずだ。ハリーの背中の針は戦闘態勢じゃなければそれほど鋭くないからな。
「こんな服もある。ハリーにもよく似合いそう」
「は~ん、こっちの世界には魔物や動物に着せる服まで売っているのかよ」
早速リリスがタブレットでハリネズミ用の服を検索してくれた。リリスもだいぶタブレットを使いこなしている。
うん、想像しただけでも可愛い。そしてうまくヴィオラの方も誤魔化せたみたいだ。
「明日もケンタの世界を周るのが楽しみだぜ。さて、こっちで寝る前にちょっとだけ向こうに戻って、魔力を回復してくっか」
「私も魔道具を取りにちょっとだけ戻ってくる」
「了解だよ。それじゃあ先にハリーとお風呂に入っているね」
「キュ~♪」
2人は少しあちらの世界へ戻るようだ。もっとも、この家にはお風呂があって、ベッドや冷暖房もあるため、夜はこの家で寝るらしい。
やはり2人からしても向こうの世界よりもこちらの世界の方が過ごしやすいのかもしれない。
「ふう~いいお湯だったな」
「キュキュウ!」
ハリーと一緒にお風呂へ入ってきた。
やはり水道代やガス代を気にせずに毎日お風呂へ入れるのはすばらしい。冷暖房もそうだが、ブラック企業で働いていたころはある程度の給料をもらっていても家の光熱費などはどうしても気にしてしまっていた。
あと単純に残業続きで風呂に入る時間すらももったいなかったからな。やはり人間時間に余裕があると日々のお風呂も楽しむことができるのである。
「2人とも、お風呂が空いたよ。あれ、まだあっちの世界にいるのかな?」
2人の部屋のドアにノックをするが、反応はない。例の世界を行き来する鏡は2人の部屋へ移動してある。こちらに置いておく方がセキュリティの面から見ても一番安心だ。
ノックをして声をかけても反応がないことを確認してからドアを開ける。やはり2人はまだ戻ってきていなかったので、俺とハリーも鏡を通って向こうの世界へ2人を呼びにいく。
「2人とも、お風呂が空いたよ」
「おう、サンキューな」
湖のほとりの小屋ではヴィオラがイスに座りながらスマホをいじっていた。以前と同じようにwi-fiは鏡のケーブルを通してこちらの世界でも使用できるようにしてある。
どうやら普通に過ごしているだけで魔力とやらは回復するらしい。
「あれ、リリスは?」
「ああ、あいつは外にいるぜ」
「了解。順番にお風呂へ入ってね」
「おう、もうちっとで全快すっから、そしたら入るぜ」
小屋の外に出るとリリスは湖の方で椅子に座って何かを読んでいる。ランタンの明かりがここからでも見えた。
それにしてもこちらの世界は満天の星空ですごく綺麗だ。空気が綺麗だから、星空がよく見えるのだろう。今度望遠鏡を購入して天体観測をしてもいいかもしれない。
「リリス、お風呂が空いたよ。って、何を読んでいるの?」
てっきりタブレットを見ているのかと思ったら、なにやらランタンの明かりで紙の手紙を読んでいるみたいだ。
「……冒険者ギルドへ送っていた手紙の返事が来た。師匠への依頼内容が書いてある」




