第82話 認識阻害
「うおおお、甘え! こんなうまい菓子は初めて食べたぞ!」
「上の茶色い粉はほろ苦くて、その下の白いクリームが甘くてとってもおいしい!」
「キュキュ~♪」
デザートのティラミスを至福の表情で口元へと運ぶ3人。
やはりイタリアン料理のデザートはこれだ。俺もよく某イタリアンのファミレスで頼んでいた。他にもあのドリアが安くてうまいんだよなあ。
「アイスクリームもうまかったが、このティラミスってやつも最高にうめえ。なんでケンタの世界の菓子はこんなにうまいんだ?」
「こっちでも昔は砂糖が高価だったけれど、今では普通の家庭でも手に入るから、お菓子作りの技術も普及していったんだろうね。それと他の料理にも言えるけれど、いろんな国の料理をお互いに伝えあったって技術が向上していったんだと思うよ」
異世界だと香辛料や砂糖はとても高価だった。その状態だと扱える者が少ないから、あまり技術が進んでいかないのだろう。
そう思うと今の食文化が進んでいろんな国の料理が食べられる日本で生まれ育ったのはとても恵まれている。
「これだけじゃ全然足りねえな……」
「絶対にあげない!」
「キュ!」
早々に食べ終わったヴィオラがリリスとハリーのお皿をロックオンするが、2人ともしっかりと自分の皿をガードする。
昨日の餃子とチャーハンは奪い合うように食べていたからな。
「ここで暴れたら本当にもう街を案内しないからね」
「わ、わかってるって!」
お店で暴れたら警察を呼ばれてしまうかもしれないので、間に割って入る。さすがにここで昨日の夜のようなことをしたら出禁ならまだマシな方で、器物損壊罪で逮捕されてしまうかもしれない。こちらの世界では暴力行為を起こしたらすぐに逮捕されてしまう。
ティラミスをもう一個頼んでもいいのだが、晩ご飯もあるし、それぞれのお店でみんながお腹いっぱいになるまで食べていたらきりがないからな。
「いやあ~うまかったぜ! 特に最後の菓子は最高だったな!」
「苦みと甘みのバランスがすばらしかった。ケンタの世界の菓子は砂糖をふんだんに使っているし、様々な工夫が施されていて本当にすごい」
「気に入ってくれてよかったよ。他にもいろんな国のお菓子が食べられるから楽しみにしていてくれ」
「キュキュウ~♪」
カフェで無事に会計を終えて車で移動をしている。
こちらの世界でみんながいても問題なくお店で食事をすることができたのは大きな一歩だ。多少変に思われていたかもしれないが、通報されるまではいかないらしい。これで多少はみんなにこちらの世界を案内する自信ができた。
「最近はペットオッケーのお店も増えているから、ハリーが一緒にいても大丈夫そうだ。それに持ち帰りできるお店も多いから、料理は買って家で食べてもいいな」
「キュ」
最近は持ち帰り可能な店が増えてきたから、買ってきて家で食べるのいいだろう。むしろ安全面を考えるのなら、家で食べた方がいいかもしれない。
「こっちだと魔物なんかはいねえのか?」
「ケンタの世界に魔物はいないけれど、牛や馬みたいな動物はいる。だけど街中でそういった生き物を放し飼いにしたらいけない」
ヴィオラの質問にリリスが答えてくれる。
「さっきみたいにキャリーバッグに入っていたら大丈夫だけれど、飲食店だと難しいんだよな」
「ふ~ん、こっちはこっちでいろいろと面倒なんだな。だったら、魔法で見えなくしてやろうか?」
「えっ、そんなこともできるんだ!?」
「師匠は私以上にいろんな魔法を使える」
しれっとヴィオラがそんなことを言う。いろいろと破天荒な行動をするヴィオラでつい忘れそうになるけれど、リリスの師匠でSランク冒険者の称号を持つ凄腕の魔法使いだったっけ。
「ハリーを透明化できるの?」
「キュウ?」
「いや、姿が消えるわけじゃねえよ。周囲の生物への認識を低下させる阻害魔法になる。本来は魔物や悪党から隠密行動をとるための魔法だ」
「なるほど」
どうやら透明化する魔法ではなかったらしいが、周囲の者に気付かれないのなら似たような魔法だ。そんな便利な魔法があるのか。
……ちなみに透明魔法が使えたとしたら、いろいろとやってみたいことが頭をよぎるのは男として仕方のないことだろう。決して俺だけではないはずである!
「あっちなら問題ないんだが、魔力の補給できないケンタの世界で3人いっぺんに長時間使うのは難しいだろうな。だけどこのちびすけだけなら数時間はもつはずだぜ」
「それでも十分すごいな。ただ、こっちの世界の人に対しても魔法が効くかは分からないから次の店で試してもらってもいい?」
「おう、構わねえぜ」




